今回は世界にみられるバイオームのタイプの一つ、「ツンドラ」について学んでいこう。

ツンドラという土地・バイオームがどんな場合に成立するのか、どんな動植物が生息しているのかなどを、具体的に学習していきます。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

ツンドラとは

ツンドラ(Tundra)とは、一年間を通じて気温が低く、地下には永久凍土が存在しているような寒い土地のことをいいます。降水量も少なく、短い夏の期間を除いては植物がほとんど生育できない地域です。

地理的には、カナダの北部やロシア北部など、北極圏、またはそれに近いところで見られます。

ツンドラは植物だけでなく、動物が生息するのにも厳しい環境。そのため大都市はほとんど発達していません。イヌイットやサーミ人などのごく限られた人々が生活しています。

さて、このツンドラという土地ですが、具体的にどんな気候条件のところにあるのでしょうか?

気温と降水量をもとに世界の気候を区分・分類する「ケッペンの気候区分」では、ツンドラの成立する気候(ツンドラ気候)の条件は『一年でもっとも暖かい月の平均気温が0℃以上10℃未満』と説明されています。

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バイオーム

バイオーム(生物群系)とは、そのエリアに住んでいる「すべての生物」をひっくるめていう言葉です。ツンドラにはその環境に適応した独特のバイオームがみられます。

そのため、ツンドラという言葉はバイオームの一タイプの名称としても使われているんです。

image by Study-Z編集部

世界のバイオームは気温と降水量に基づいて、おおよそ10のタイプに分けられています。ツンドラは、気温・降水量ともに最も少ない、生物にとって非常に厳しい環境に成立するバイオームです。

ツンドラにしても砂漠にしても、降水量が少ない場所では植物がほとんど生育できず、生えていたとしてもその種類は限られます。ツンドラと砂漠のように、植物の生育がむずかしい環境をまとめて荒原というので、覚えておきましょう。

”ツンドラ”に当てはまる地域・特徴的な生物

具体的な地域についてご紹介する前に、ツンドラ全般に共通するバイオームをおおざっぱに知っておきましょう。

基本的に、ツンドラで見られる植物といえばコケ類地衣類(ちいるい)です。

地衣類とは菌類の体の中に光合成をおこなう藻類が共生しているという、ちょっと不思議な生き物。厳密には植物とはいえないのですが…光合成する生物ということで、よく植物と同一視されます。

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image by iStockphoto

また、地下に永久凍土層が広がっているために水はけの悪いところが多く、湿地ができていることも少なくありません。そのような場所には、スゲの仲間などが生育しています。

加えて、種類は多くありませんが、まれにとても背の低い樹が生えていることもあるんです。コケモモハイマツといった木々ですが、名前を耳にしたことはありませんか?

意外にも、花を咲かせる植物が生えていることもあるため、夏場には思いがけずお花畑を眼にできることもあります。

そして、これらの植物を利用する草食動物や、それを狙ってやってくる雑食・肉食の動物がいる…これがツンドラのバイオームの概要です。

ロシア(シベリア)北部

シベリアとは、ロシアのウラル山脈より東側の地域を指します。モンゴルや中国の北部、アジアよりのロシアですね。

シベリアの大部分には大河と呼ばれる針葉樹林が成立しますが、緯度が高くなってくると次第に樹木が少なくなり、ツンドラのバイオームがみられるようになります。

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トナカイはシベリアに広く生息するシカの仲間です。ツンドラの植物を主な食糧とし、冬には角で雪をかき分け、雪の下の地衣類を食べたりします。人間とのかかわりは深く、古くから家畜化されている、シベリアの代表的な動物です。

カナダ北部

カナダの北部、北極圏に近いところでもツンドラが成立します。植物はやはり地衣類やコケ類が多いです。

カナダのツンドラには、ジャコウウシという大型の牛のなかまが生息しています。長い毛におおわれた体が特徴的です。夏場はツンドラにできる湿原を中心に生息し、冬になると雪の少ない場所へ移動します。

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image by iStockphoto

体長はオスで2メートル以上にもなる大きな動物ですが、トナカイなどと同じように草食性。ツンドラに生えるわずかな植物を頼りに生活しているんです。

なお、カナダ北部にもトナカイが生息しています。しかしながら、カナダ北部ではカリブーとよぶのが普通です。

また、コケやガンコウランの葉などを食べるホッキョクウサギや、それを狙ってやってくるホッキョクギツネホッキョクオオカミなどがみられます。

グリーンランド

グリーンランドは、カナダの北東部に位置し、北極海に面した大きな島です。もともとデンマーク領でしたが、現在は自治権があたえられ、独自の政府が国を取り仕切っています。

何と島全体の8割ほどの面積が万年雪、もしくは氷におおわれているグリーンランド。まさに、ツンドラの島、といえる環境でしょう。前述の、ジャコウウシやホッキョクウサギ、ホッキョクギツネなどがやはり生息しています。

沿岸部には、意外にも多くの海鳥が生息しているのも、島国グリーンランドらしい特徴です。

南極大陸

世界で特に寒いところといったら、南極大陸を忘れてはいけませんよね。実際のところ、南極大陸はその大部分が一年中氷に覆われているため、植物が全くといっていいほど見られません。

しかしながら、一部の地域や大陸周辺の島々には岩石が露出しているところがあり、そういった場所に限って地衣類やコケ類などが生育します。

日本でもツンドラがみられる?

普通ツンドラは緯度の高いところ(北極や南極近く)にしか成立しませんが、ある条件を満たせば緯度に関係なく、ツンドラに似た環境ができます。高山です。

山の高いところに行くほど気温が下がるのは、皆さんご存じの通り。ある程度高い山であれば、雨を降らせる雲も届かない高さになるので、気温だけでなく降水量も少ないという、ツンドラの気候的な条件を満たします。

image by iStockphoto

このような場所では、高緯度にみられるツンドラと似たような植生・バイオームがみられるんです。高山ツンドラとよばれます。

日本でも、富士山北海道の大雪山などの山頂近くが、高山ツンドラといえるでしょう。

ただし、高山ツンドラの成立する土地は高緯度のツンドラと違い、永久凍土が存在しないことがほとんどです。なので、”例外的なツンドラ”として考えておくのがよいでしょう。

意外とにぎやかなツンドラのバイオーム

「植物がほとんどはえない不毛な荒原」と紹介されがちなツンドラですが、調べてみると思ったより様々な動物が生息していることがわかります。また、グリーンランドのように、多くの海鳥が住んでいたりするのも事実です。寒く厳しい環境ながらも、その地に適応している生物たちがいる…そんな姿を見ると、生命の力強さを感じずにはいられませんね。

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理科生態系生物

ツンドラはどんなところ?動植物は?バイオームを現役講師がわかりやすく解説

今回は世界にみられるバイオームのタイプの一つ、「ツンドラ」について学んでいこう。

ツンドラという土地・バイオームがどんな場合に成立するのか、どんな動植物が生息しているのかなどを、具体的に学習していきます。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

ツンドラとは

ツンドラ(Tundra)とは、一年間を通じて気温が低く、地下には永久凍土が存在しているような寒い土地のことをいいます。降水量も少なく、短い夏の期間を除いては植物がほとんど生育できない地域です。

地理的には、カナダの北部やロシア北部など、北極圏、またはそれに近いところで見られます。

ツンドラは植物だけでなく、動物が生息するのにも厳しい環境。そのため大都市はほとんど発達していません。イヌイットやサーミ人などのごく限られた人々が生活しています。

さて、このツンドラという土地ですが、具体的にどんな気候条件のところにあるのでしょうか?

気温と降水量をもとに世界の気候を区分・分類する「ケッペンの気候区分」では、ツンドラの成立する気候(ツンドラ気候)の条件は『一年でもっとも暖かい月の平均気温が0℃以上10℃未満』と説明されています。

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