人前でのあいさつなどで「ご多分に漏れず」という言い回しを聞いたことがあるでしょう。

うまく使えると表現に幅が出るが、自信を持って言える人は多くないかもしれませんね。「ご多分」と「多分」は同じなのか違うのか。「多分」「他聞」「多聞」はどう違うのか。

活字系メディアで長年執筆してきたライター・吹雪猛を呼んです。一緒に「ご多分に漏れず」の意味や使われ方を見ていきます。

ライター/吹雪猛

長年、活字メディアで記事の執筆・編集に携わり、このたびフリーライターに。とことん調べないと気が済まない体質らしい。

「ご多分に漏れず」の意味と使い方

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「ご多分に漏れず」という表現を聞いたことがありますか。パッと耳にしたとき、「ご多分」「御多分」という文字が思い浮かぶでしょうか。使い方や間違いやすい漢字、類語などを詳しく紹介します。

意味は「世間一般と同じ」「例外ではなく」

「ご多分に漏れず」を解説している国語辞典をチェックしてみましょう。紙版の多くの辞書では「多分」「ご多分」という見出し語の、よく使われる例のひとつとして解説していますが、ネットの辞書では「御多分に漏れず」で一項目立てているものもありました。

他の大部分の人と同様に。例外ではなく。

 引用:精選版日本国語大辞典「御多分に漏れず」

世間と同じように。例外ではなく。

 引用:デジタル大辞泉「御多分に漏れず」

どちらの辞書にも「例外ではなく」がありますね。そもそも「多分」という言葉自体が「数が多いこと」「大多数」を意味しているので、「少数派」ではなく「多数派」に含まれている状態と考えるとわかりやすいでしょう。

「おそらく」の意味の「たぶん」も「多分」と同じ?

辞書で「多分」を引いてみましょう。名詞の場合は先に書いた「数が多いこと」「大多数」を意味しますが、ここでは副詞的な用法に着目します。

〔副〕①その可能性が強いことを判断していう。おおかた。多くは。十中八九。大抵。

②不確かな事例について、こうだろうと推測する場合にいう。おそらく。

 引用:日本国語大辞典「たぶん(多分)」

「おおかた」「おそらく」とあるように、厳密ではないけれども、そのように推測されるという場合に、ふだんからよく使いますね。「多分=たぶん」なのです。

「多分」と「ご多分(御多分)」違うの?

では「多分」と「ご多分(御多分)」は同じ言葉でしょうか。「ご(御)」を付けて丁寧にしただけ? 実は辞書によっては、別々の見出し語として解説されているものがあります。先ほどと同じ「日本国語大辞典」です。

\次のページで「「ご多分に漏れず」の使い方を例文でチェック」を解説!/

多数の人の意見、行動など。大部分の人が従う方向。世間並み。「御多分に漏れず」の形で用いられる。

 引用:日本国語大辞典「ごたぶん(御多分)」

なるほど。「多分」だと「数が多いこと」「大多数」の意味ですが、「ご多分(御多分)」になると、「意見、行動など」「方向」といった、大多数の人が選び取る「何か」を指していると読むことができますね。

「ご多分に漏れず」の使い方を例文でチェック

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ではいよいよ、「ご多分に漏れず」の使い方を例文で見ていきましょう。

ご多分に漏れず、私もコロナ禍でテレワークが多くなり、すっかり出不精になりました。

原油価格の高騰で、ご多分に漏れず輸入食品も値上がりして、家計に大打撃を与えています。

「あら、奥さんもタイムセール狙いですか」「ご多分に漏れずですよ」

何か特別なことをするわけではなく「みんなと一緒」と言いたいとき、前おきのように「ご多分に漏れず〜」と使うことが多いようです。会話の中では、相手が指摘したことを受け、「〜」を省略して「ご多分に漏れず」と止めることもありますね。

英語の方が直観的かも…

「ご多分に漏れず」は日本的な言い回しのように見えます。しかし、英語でも同じ意味を表す表現がありました。

as is usual with;in common with

 引用:weblio辞書「ご多分に漏れず」

「as is usual with…」は「…にはよくあること(普通のこと)だが」の意味です。「in common with…」は「…と共通して」「…と同じように」と訳されます。「usual」「common」も「普段の」「普通の」を意味しますから、「ご多分に漏れず」の意味をより直観的につかめるかもしれません。

「ご多分に漏れず」はあまり良い意味では使われない?

「ご多分に漏れず」の言い回しについて、使うときに注意すべきと思われる解説を、辞書に見つけました。

\次のページで「「世間なみ」「想定内」のニュアンス」を解説!/

「ごたぶん(御多分)に漏れず〔=同類の他のものがそうであるように、そのものも例外ではなく。いい意味で使うことはあまり無い〕」

 引用:新明解国語辞典 第11版「ごたぶん(御多分)」

いかがでしょう。「いい意味で使うことはあまり無い」が気になりますね。つまり「どちらかというと平々凡々で、とりたてて優れたところがあるわけではない」場合こそ「ご多分に漏れず」がぴたりとはまる、ということでしょう。

「世間なみ」「想定内」のニュアンス

先述の例文があまり「いい意味」で使われていないことを示すために、試しに心の声を補ってみましょう。

ご多分に漏れず、私もコロナ禍でテレワークが多くなり、すっかり出不精になりました。(○さんはアクティヴに活動しているようですが、私はとてもとても…)

原油価格の高騰で、ご多分に漏れず輸入食品も値上がりして、家計に大打撃を与えています。(ガソリンも高いし、困ったもんだ)

「あら、奥さんもタイムセール狙いですか(抜け目ないのね)」「ご多分に漏れずですよ(こんなときだからね、抜け目なくて上等よ)

「大多数」に属していれば必ずしも「悪い」というわけではないはずですが、どちらかというと謙遜しながら言う、あるいは自嘲気味に使うことが多いので、注意が必要です。

ビジネスで使われるときはどんなニュアンスになる?

「ご多分に漏れず」は、かしこまったあいさつやテーブルスピーチで聞くことが多いようです。「ご多分に漏れず、わが社も業績は右肩下がりで対応に苦労している」など、「世間並み」であることを強調する場面が想定されますね。

ちなみに国会の質疑応答でもちょくちょく登場する言葉です。
国会会議録検索システム(https://kokkai.ndl.go.jp/#/)で調べると、270件も使われていました。

御多分に漏れず、この地もマンションの建設などによって周辺人口は増加しておるんですが、地元商店街にお買物に来る方々にアンケート、それから地域住民の方へのアンケートによると、やはり商店街を余り利用していないという結果が出ております。

 引用:第196回国会 衆議院 地方創生に関する特別委員会 第4号 平成30年3月19日

御多分に漏れず、当県も被害県であったということでございます。

 引用:第186回国会 参議院 東日本大震災復興特別委員会 第4号 平成26年3月26日

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「周辺人口は増えているのに、商店街はあまり利用されていない」「他のいくつかの県と同じように、当県も被害を受けている」と、いずれもあまり良い意味ではない文脈で使われていますね。

「ご多分に漏れず」を言い換えできる例

「ご多分に漏れず」は、なんだか使いにくい、という方もいるでしょうか。日常会話で使うと、少々気取った表現に感じられるかもしれません。無理に使わなくても、同じ意味を表すことは可能です。試しに、国会質疑の例を言い換えてみましょう。

「例外ではなく」

この地も例外ではなく、マンションの建設などによって周辺人口は増加しておるんですが、地元商店街にお買物に来る方々にアンケート、それから地域住民の方へのアンケートによると、やはり商店街を余り利用していないという結果が出ております。

\次のページで「混同しやすい「多分」「他聞」「多聞」」を解説!/

「みなさん(の県)と同じように」

みなさんの県と同じように、当県も被害県であったということでございます。

まったく違和感ありませんね。裏を返せば、このような平易な表現を「ご多分に漏れず」と言い換えれば、少し「ごあいさつ」らしい言い回しに聞こえるというわけです。

混同しやすい「多分」「他聞」「多聞」

最後に、「ご多分」の漢字の使い方に注意を向けてみましょう。文章で書くときに、「ご他聞」「ご多聞」と迷ったことはありませんか。最初に挙げた「デジタル大辞泉」では

[補説]「御他聞」「御多聞」と書くのは誤り。

とわざわざ注意を喚起しています。

それぞれどういう意味なのでしょう。

「他聞」は「他人に聞こえる」の意味

「たぶん」と打って日本語変換すると「他聞」も上位に出てくるかもしれません。「他聞」は文字通り「他人に聞こえること。他人の耳に入ること」(精選版日本国語大辞典「他聞」)です。「他聞をはばかる」と言うと「他の人に聞かれては困る」という意味になります。

「多聞」は博識の意味―仏教用語にも

「多聞」はたぶん通常の変換で出てきません。しかし「ご多分」が「大多数の意見」を表すので、「多くの人から聞いた」という意味では「多聞」だったかな、と迷うことがあるかもしれません。

「多聞」は「多くの物事を聞いて知っていること。博識。物知り」(精選版日本国語大辞典「多聞」)の意味です。また、この場合は「たもん」と読みますが、仏教用語で「仏の教えを多く聞き、心にとどめておくこと」(同)という意味もあるんですね。

変換ミスには気をつけよう

「多分」「たぶん」「ご多分(御多分)」の意味や使い方を詳しく見てきました。意味はともかく、文章にしたときに変換ミスが起きやすい言葉です。メールやビジネスレターで「ご多分に漏れず」を使う場合は、「いい意味で使うことはあまり無い」ことと、「他聞」や「多聞」の変換ミスには気をつけましょう。

「ご多分に漏れず、あの人のメールも漢字を間違っている」と言われませんように。

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国語言葉の意味

〝多分〟って何のこと?「ご多分に漏れず」の意味と使い方・間違いやすい漢字・類語を活字系メディア出身ライターがわかりやすく解説

人前でのあいさつなどで「ご多分に漏れず」という言い回しを聞いたことがあるでしょう。

うまく使えると表現に幅が出るが、自信を持って言える人は多くないかもしれませんね。「ご多分」と「多分」は同じなのか違うのか。「多分」「他聞」「多聞」はどう違うのか。

活字系メディアで長年執筆してきたライター・吹雪猛を呼んです。一緒に「ご多分に漏れず」の意味や使われ方を見ていきます。

ライター/吹雪猛

長年、活字メディアで記事の執筆・編集に携わり、このたびフリーライターに。とことん調べないと気が済まない体質らしい。

「ご多分に漏れず」の意味と使い方

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「ご多分に漏れず」という表現を聞いたことがありますか。パッと耳にしたとき、「ご多分」「御多分」という文字が思い浮かぶでしょうか。使い方や間違いやすい漢字、類語などを詳しく紹介します。

意味は「世間一般と同じ」「例外ではなく」

「ご多分に漏れず」を解説している国語辞典をチェックしてみましょう。紙版の多くの辞書では「多分」「ご多分」という見出し語の、よく使われる例のひとつとして解説していますが、ネットの辞書では「御多分に漏れず」で一項目立てているものもありました。

他の大部分の人と同様に。例外ではなく。

 引用:精選版日本国語大辞典「御多分に漏れず」

世間と同じように。例外ではなく。

 引用:デジタル大辞泉「御多分に漏れず」

どちらの辞書にも「例外ではなく」がありますね。そもそも「多分」という言葉自体が「数が多いこと」「大多数」を意味しているので、「少数派」ではなく「多数派」に含まれている状態と考えるとわかりやすいでしょう。

「おそらく」の意味の「たぶん」も「多分」と同じ?

辞書で「多分」を引いてみましょう。名詞の場合は先に書いた「数が多いこと」「大多数」を意味しますが、ここでは副詞的な用法に着目します。

〔副〕①その可能性が強いことを判断していう。おおかた。多くは。十中八九。大抵。

②不確かな事例について、こうだろうと推測する場合にいう。おそらく。

 引用:日本国語大辞典「たぶん(多分)」

「おおかた」「おそらく」とあるように、厳密ではないけれども、そのように推測されるという場合に、ふだんからよく使いますね。「多分=たぶん」なのです。

「多分」と「ご多分(御多分)」違うの?

では「多分」と「ご多分(御多分)」は同じ言葉でしょうか。「ご(御)」を付けて丁寧にしただけ? 実は辞書によっては、別々の見出し語として解説されているものがあります。先ほどと同じ「日本国語大辞典」です。

\次のページで「「ご多分に漏れず」の使い方を例文でチェック」を解説!/

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