今回は、バイオームのタイプの一つである「ステップ」について学んでいこう。ステップでみられるバイオームにはどんなものがあるのでしょうか?世界で見られる代表的な草原を実例として、動植物を確認しながら学んでいこう。

今回も、大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

ステップとは?

ステップ(steppe)とは、目立った樹木がない広大な草原のことを言います。もともとはロシア語で「乾燥した平らな土地」を意味する言葉です。ステップが成立するのは、温帯域。ユーラシア大陸中央部や北米大陸、南米大陸の一部などで広大なステップを見ることができます。

高校生物において、このステップという言葉は生態系やバイオームを学習するときにでてきますよ。

バイオームとは

バイオーム(生物群系)とは、そのエリアに住んでいる「すべての生物」をひっくるめていう言葉です。世界のバイオームはおおよそ10のタイプに分けられます。

image by Study-Z編集部

バイオームは基本的に、年間降水量年間の気温によって左右されます。降水量と気温によってその土地に生育できる植物の種類が決まり、どんな植物が生えているかによって、どんな動物が生息できるかが決まってくるからです。

なお、気候学という学問には、年間の降水量と気温によって世界をいくつかの気候区に分類する「ケッペンの気候区分」というものがあります。

「ケッペンの気候区分」自体も、植生をもとにして考え出された分け方なんです。植生を左右しているのが気温と降水量なので、「ケッペンの気候区分でいうステップ気候」≒「基本的にステップが成立する場所」とお考えください。

なお、ステップが成立する土地と同じくらいの降水量があっても、熱帯や亜熱帯のように気温が高い場所では、サバンナという別のタイプのバイオームが成立します。

”ステップ”に当てはまる地域・特徴的な生物

では具体的に、ステップにはどんな動植物がいるのか、世界における代表的なステップの名称とともにご紹介しましょう。

世界には固有の名前で呼ばれるいくつものステップがありますが、いずれにも共通しているのは草本植物が草原の景観を作り出しているという点です。

日本のように森林が発達しないのは、年間降水量が少ないことと関係があります。樹木というのは、たくさんの細胞を養うために大量の水を必要とする植物です。

ステップが成立するようなステップ気候の土地は、植物が全く生育できないほどではありませんが、降水量が少ないため背の高い樹木が生えにくくなります。

1.カザフステップ

カザフステップは、カザフスタン北部からロシア南部にかけて広がる広大なステップです。カザフ草原やキルギスステップという名称でよばれることもあります。この地域の年間平均降水量は200~400㎜です。日本では、東京の年間平均降水量が1500mmくらいですので、それよりもずっと雨が少ないことがわかりますね。

\次のページで「2.プレーリー」を解説!/

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カザフステップに生息する特徴的な動物にサイガがいます。サイガはウシ科の偶蹄類で、大きな鼻が特徴的。オオハナレイヨウという別名もあります。カザフステップで群れをつくり生活し、ステップに広がるイネ科の草本類、もしくはまれに生えている木の葉などを食べている動物です。

非常に目立つサイガの大きな鼻には、複数の役割があると考えられています。大きな鼻腔をもった内部構造をしており、この空間で鼻から吸った空気を温めたり、ほこりっぽい空気を肺に入れないようにしているといわれているんです。

このサイガは、生息環境の悪化や薬用目的の乱獲によって個体数が非常に減っており、絶滅の危機に瀕しています。2015年には病気がはやり、全個体数の半数近いサイガが一気に死んでしまいました。限られた環境に生きる珍しい生き物なだけに、なんとか保護が進んでほしいところです。

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サイガ以外にも、ステップに生える草を食べるオオノロなどが生息しています。オオノロはすらりとした体によって草原に適応しているシカのなかまです。サイガやオオノロのように、ステップには草原の草を食べる草食動物がみられる、というのは覚えておくとよいでしょう。

2.プレーリー

北米大陸の中央部にみられる広大な草原は、プレーリーという名前でよばれています。年間降水量は300~1000㎜ほど。その面積は大変なもので、南北に約2000㎞、東西に約1000kmにもわたって広がっているんです。

\次のページで「3.パンパ」を解説!/

そうなんです。プレーリーでみられる植物は、やはり基本的にイネ科などの草本類ですが、降水量の比較的多いエリアでは、草丈の高い種類が多く見られます。

一口にプレーリーといっても気候や植生に若干の違い、地域差があるんですね。そのためプレーリーは地理的にさらに細分され、それぞれがカリフォルニアプレーリーやパラウズプレーリーなどの名称で呼ばれています。

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プレーリーに住む動物の種類も、草食のものがメイン。かつてはバイソンなどの大型草食動物が大群をなして生息していましたが、乱獲によって数を減らしてしまいました。小型の草食動物はまだ多く生息し、カンガルーネズミノウサギなどがみられます。

日本の動物園でも飼育されているプレーリードッグは、名前からもわかる通り、このプレーリーが本来の生息地です。群れで生活し、草原に穴を掘って巣をつくります。”ドッグ”とついていますが、ネズミ目リス科の草食動物です。

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プレーリードッグといえば、立ち上がって周囲を警戒する様子が有名ですよね。森の中に暮らす動物であれば、立ち上がった程度では視界が開けません。障害物の少ないプレーリーに住んでいるからこその生態といえるでしょう。

なお、このプレーリードッグやネズミ、ノウサギなどの草食動物を狙って、イタチコヨーテタカなどの猛禽類もやってきます。

3.パンパ

南米大陸、アルゼンチン中部に広がる草原はパンパとよばれています。日本の園芸店でパンパスグラスという植物が販売されているのを知っているでしょうか?パンパスグラス、和名シロガネヨシはイネ科の草本植物で、このパンパが原産です。高さが2m以上にもなり、公園などに植えられていることもあります。

ステップと農業

ステップやプレーリー、パンパなどの広大な草原の多くは、人間の暮らしに深くかかわっています。耕作地放牧地として利用されているんです。その理由としては、地球の長い歴史の中でステップのような草原が成立するまでに蓄積した肥沃な土壌が存在することや、平坦かつ広大な面積のため、農業に利用しやすいことなどがあげられます。

トラクターの発明など、農業の機械化が進んでからはその開発が加速。世界の人口を支えるための穀物庫としての役割を担っています。

その一方で、生息地を追われるサイガのように、ステップで本来みられるバイオームが失われようとしている側面も。人間も自然の一部ではありますが…急激な環境の変化をこのまま続けてよいものなのか、考えなくてはならない課題です。

ぜひ旅行で訪れたい、広大な草原・ステップ

私たち日本人が住むのは、山が多く、森林が発達している島国です。ステップのような景観はなかなかお目にかかれません。ぜひ一度旅行で訪れてみたいものです。

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理科生態系生物

ステップとはどんな環境?どんな動植物がいる?バイオームを現役講師が簡単にわかりやすく解説

今回は、バイオームのタイプの一つである「ステップ」について学んでいこう。ステップでみられるバイオームにはどんなものがあるのでしょうか?世界で見られる代表的な草原を実例として、動植物を確認しながら学んでいこう。

今回も、大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

ステップとは?

ステップ(steppe)とは、目立った樹木がない広大な草原のことを言います。もともとはロシア語で「乾燥した平らな土地」を意味する言葉です。ステップが成立するのは、温帯域。ユーラシア大陸中央部や北米大陸、南米大陸の一部などで広大なステップを見ることができます。

高校生物において、このステップという言葉は生態系やバイオームを学習するときにでてきますよ。

バイオームとは

バイオーム(生物群系)とは、そのエリアに住んでいる「すべての生物」をひっくるめていう言葉です。世界のバイオームはおおよそ10のタイプに分けられます。

image by Study-Z編集部

バイオームは基本的に、年間降水量年間の気温によって左右されます。降水量と気温によってその土地に生育できる植物の種類が決まり、どんな植物が生えているかによって、どんな動物が生息できるかが決まってくるからです。

なお、気候学という学問には、年間の降水量と気温によって世界をいくつかの気候区に分類する「ケッペンの気候区分」というものがあります。

「ケッペンの気候区分」自体も、植生をもとにして考え出された分け方なんです。植生を左右しているのが気温と降水量なので、「ケッペンの気候区分でいうステップ気候」≒「基本的にステップが成立する場所」とお考えください。

なお、ステップが成立する土地と同じくらいの降水量があっても、熱帯や亜熱帯のように気温が高い場所では、サバンナという別のタイプのバイオームが成立します。

”ステップ”に当てはまる地域・特徴的な生物

では具体的に、ステップにはどんな動植物がいるのか、世界における代表的なステップの名称とともにご紹介しましょう。

世界には固有の名前で呼ばれるいくつものステップがありますが、いずれにも共通しているのは草本植物が草原の景観を作り出しているという点です。

日本のように森林が発達しないのは、年間降水量が少ないことと関係があります。樹木というのは、たくさんの細胞を養うために大量の水を必要とする植物です。

ステップが成立するようなステップ気候の土地は、植物が全く生育できないほどではありませんが、降水量が少ないため背の高い樹木が生えにくくなります。

1.カザフステップ

カザフステップは、カザフスタン北部からロシア南部にかけて広がる広大なステップです。カザフ草原やキルギスステップという名称でよばれることもあります。この地域の年間平均降水量は200~400㎜です。日本では、東京の年間平均降水量が1500mmくらいですので、それよりもずっと雨が少ないことがわかりますね。

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