今回は「生活反応」について勉強していこう。

これは一言でいうと、生きている動物にのみ起こる身体組織の変化のことです。刑事ドラマや推理小説が好きなやつは聞いたことがあるでしょう。

殺人事件が起こったとき、この生活反応は捜査の手掛かりになる。生物化学に詳しいライターAyumiと一緒に解説していきます。

ライター/Ayumi

理系出身の元塾講師。わかるから面白い、面白いからもっと知りたくなるのが化学!まずは身近な例を使って楽しみながら考えさせることで、多くの生徒を志望校合格に導いた。

1.生活反応とは

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まずは用語の解説「生活反応(せいかつはんのう)」とはどんなものか、理解しておきましょう。聞きなれない人もすでによくご存じの人もいるかもしれませんね。これは生きているヒトや動物の身体組織に発生する変化をいいます。つまり、死んでいるヒトや動物には見られない反応ということですね。具体的にどんなものがあるのか、そしてそれがどのような場面で活かされるのかについて、解説していきます。

1-1.呼吸・心音

1-1.呼吸・心音

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あなたが道を歩いていたら、倒れている人を見つけたとしましょう。そんなとき、あなたはどうしますか?

もし近くにいる大人を呼んでくるのもいいし、救急車を呼んでもいいでしょう。近くに駆け寄って、声を変えてみることも必要になるかもしれません。そんなとき、その人が生きているかどうかを確認する1番の方法呼吸をしているか、心臓が動いているかを確認することですよね。ご存じのように、動物は呼吸することで生命を維持しています。呼吸や心臓の鼓動が止まってしまえば血液が全身に送れなくなって死んでしまうでしょう。だからこそ人工呼吸装置やペースメーカーといった生命維持のための装置がありますよね。

これは生きている動物にとっては当たり前の反応ですが、死んでしまえばどちらも止まってしまいます。このように生体か否かを検証する方法として、生活反応が重要になるのです。

1-2.脈拍

呼吸や心音同様、脈拍も生死を判断するための1つの方法です。(だたしこれらが一時的に止まってしまっただけなら息を吹き返す可能性があることは覚えておきましょう。そのための人工呼吸や心臓マッサージですよね。)

また、脈拍を調べるといえば手首が一般的でしょう。しかし脈拍を感じやすい部分はその他にもあって、喉・足の付け根・足の甲などがあります。ではなぜ手首を用いることが多いのでしょうか。それは手首の血管(動脈)は皮膚に近い部分にあるために脂肪がつきにくく脈を感じやすいだけでなく、部位に個人差が少ないところという特徴のためです。さらに手元は基本的に服に覆われることが少ないため、測定しやすいことも理由ですね。手のひらを上に向け、親指側の手首側面を反対の手の中指と人差し指を揃えて優しく触れてみましょう。簡単に脈拍を感じられるはずですよ。

\次のページで「1-3.瞳孔反射」を解説!/

1-3.瞳孔反射

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動物は暗い場所と明るい場所で瞳孔の大きさを無意識的に調節しています。眩しい所では瞳孔を閉じて光の量を少なくし、暗い場所では瞳孔を開いてより多くの光を取り込もうとしますよね。これを利用し、瞳孔の大きさと、瞳孔に光を当てたときの変化(対光反射)を確認することがあります。よくドラマなどで目に光を当て「だめだ、瞳孔が開いている」というセリフがあるのもこのためなのです。

1-4.皮下出血・死斑

身体を強く打った時など、青あざができることがありますね。最初は赤紫色をしていますが、時間が経つと徐々に青黒くなり、最後には消えてしまうでしょう。皮膚の下には皮下組織があり、ここに出血したものを皮下出血といいます。生きている動物は体内を血液が常に循環しているため、皮下でも出血した場合は血が凝固し、血腫とよばれる血の固まりができるのです。

皮下出血と似たものに死斑がありますが、これは主に一酸化炭素中毒などで死亡した人に見られます。鮮やかな紅色の痣ができますが、死後の時間経過により状態が変化するために死亡時刻の特定にもつながる生活反応です。

1-5.化膿・かさぶた

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化膿やかさぶたは傷を治そうとする自然な機能です。血液中に含まれる成分がどのようなはたらきをするかはすでに解説しましたね。動物にとって血液は非常に大切で、多量の血液を失うことで死に至ります。そのために傷を負った場合には身体の防衛機能として傷をふさごうと各組織が動きはじめるでしょう。

想像してみてください。あなたがカッターで手を切ったとしても数日もすれば傷は完全にふさがり、しばらくすれば元通りの状態になるでしょう。ではスーパーで買ってきた魚に包丁で切れ目を入れた場合はどうでしょう。一向に傷は治らず、しばらくすれば腐敗が始まるはずです。生存中にできた外傷かどうかによって見た目にも大きく違いがありますよ。

表皮的、局所的なものとしては炎症も生活反応に含まれます。

2.犯罪捜査への応用

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最後に、生活反応がどのような場面で利用されているのかについて解説していきます。

有名な刑事ドラマや探偵アニメでもよく聞く言葉なので、知っていたという人も多いでしょう。実際には法医学の観点から、犯罪捜査や事件を紐解く手がかりとして用いられているのです。

2-1.自殺?他殺?

事故なのか事件なのか、自殺なのか他殺なのかは捜査を進める上で非常に重要なポイントです。

ある池に死体が浮いているという通報があった場合について考えてみましょう。このケースでは自殺、事故による溺死、溺死に見せかけた殺人、殺害後に池に落とされたといった可能性が考えられますね。このときにまず調べるのは「溺死かそうでないか」です。溺死の場合、水が口や肺に入ることで窒息状態になります。呼吸しようともがくことで肺にまで水が入っていくでしょう。水を吸引し、口元には細かな泡沫が見られるのも判断のポイントです。また、池に存在するプランクトンなどが体内から検出されることもあります。一方で別の場所で殺害された後に池まで運ばれた場合は様子が異なるでしょう。

このように、さまざまな状況証拠から事件は解決へと進んでいきます。その1つとして生活反応は大きな証拠になるのです。

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2-2.死後時間の推定

「死亡推定時間」も捜査では重要視されます。死後身体が次第に硬くなっていく死後硬直は有名ですが、今回は違った観点から解説してみましょう。

交通事故を例に取り上げてみましょう。この事故でAさんは亡くなり、その相手(Bさん)は「相手が突っ込んできたんだ。自分は悪くない。」と主張しました。Aさんの遺族は「そんなのウソだ。責任をなすりつけようとしているに違いない!」と反論しています。最終的にこのケースでは「運転中にAさんは命を落とし、車が暴走するかたちでBさんにぶつかった」ことが明らかになりました。

別の例では、Aさんが車Bにひき逃げされるという事故が起こります。その後車Cの運転手もAさんをひいてしまい、ここでようやく救急車が呼ばれたものの、Aさんの死亡が確認されました。Cさんは「被害者は道路に寝ていた」と証言するものの、遺族は納得しません。その後の捜査で「AさんはCさんにひかれる前に別の車にひかれて亡くなっていた」ことが明らかになります。

もちろんこれらの捜査は生活反応のみによって明らかにされたものではありません。しかし「いつ亡くなったか」を判断するため、生活反応が事件解決へのヒントとなることがあるということを知っておきたいですね。

これがわかればドラマや小説の理解が深まる!

生活反応(せいかつはんのう)とは生きているヒトや動物の身体組織に発生する変化のことです。生きているからできること、起こる生理現象など、生死を判定するための方法・判断基準になっています。

ドラマなどの「事故か事件か、他殺か自殺か」といった場面でよく聞く言葉ですね。事故または自殺なのか、自殺に見せかけた殺人なのかも生活反応を見ることで捜査の手掛かりになることがあるでしょう。事件の内容によっては、被害者が即死だったか否かが判定に関わる場合も多々あります。普段の生活ではあまり意識することのない生活反応ですが、人体の不思議にふれられる現象でしょう。刑事もののストーリーが好きな人は、ぜひ次回から「生活反応」というワードに注目してみてくださいね。

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タンパク質と生物体の機能理科生物

3分で簡単人体の不思議「生活反応」元塾講師がわかりやすく解説

今回は「生活反応」について勉強していこう。

これは一言でいうと、生きている動物にのみ起こる身体組織の変化のことです。刑事ドラマや推理小説が好きなやつは聞いたことがあるでしょう。

殺人事件が起こったとき、この生活反応は捜査の手掛かりになる。生物化学に詳しいライターAyumiと一緒に解説していきます。

ライター/Ayumi

理系出身の元塾講師。わかるから面白い、面白いからもっと知りたくなるのが化学!まずは身近な例を使って楽しみながら考えさせることで、多くの生徒を志望校合格に導いた。

1.生活反応とは

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まずは用語の解説「生活反応(せいかつはんのう)」とはどんなものか、理解しておきましょう。聞きなれない人もすでによくご存じの人もいるかもしれませんね。これは生きているヒトや動物の身体組織に発生する変化をいいます。つまり、死んでいるヒトや動物には見られない反応ということですね。具体的にどんなものがあるのか、そしてそれがどのような場面で活かされるのかについて、解説していきます。

1-1.呼吸・心音

1-1.呼吸・心音

image by Study-Z編集部

あなたが道を歩いていたら、倒れている人を見つけたとしましょう。そんなとき、あなたはどうしますか?

もし近くにいる大人を呼んでくるのもいいし、救急車を呼んでもいいでしょう。近くに駆け寄って、声を変えてみることも必要になるかもしれません。そんなとき、その人が生きているかどうかを確認する1番の方法呼吸をしているか、心臓が動いているかを確認することですよね。ご存じのように、動物は呼吸することで生命を維持しています。呼吸や心臓の鼓動が止まってしまえば血液が全身に送れなくなって死んでしまうでしょう。だからこそ人工呼吸装置やペースメーカーといった生命維持のための装置がありますよね。

これは生きている動物にとっては当たり前の反応ですが、死んでしまえばどちらも止まってしまいます。このように生体か否かを検証する方法として、生活反応が重要になるのです。

1-2.脈拍

呼吸や心音同様、脈拍も生死を判断するための1つの方法です。(だたしこれらが一時的に止まってしまっただけなら息を吹き返す可能性があることは覚えておきましょう。そのための人工呼吸や心臓マッサージですよね。)

また、脈拍を調べるといえば手首が一般的でしょう。しかし脈拍を感じやすい部分はその他にもあって、喉・足の付け根・足の甲などがあります。ではなぜ手首を用いることが多いのでしょうか。それは手首の血管(動脈)は皮膚に近い部分にあるために脂肪がつきにくく脈を感じやすいだけでなく、部位に個人差が少ないところという特徴のためです。さらに手元は基本的に服に覆われることが少ないため、測定しやすいことも理由ですね。手のひらを上に向け、親指側の手首側面を反対の手の中指と人差し指を揃えて優しく触れてみましょう。簡単に脈拍を感じられるはずですよ。

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