「ゆとり世代」という言葉は、ある世代の若者や新入社員の特徴や傾向をあらわすときによく使われる。彼らは文部科学省の学習指導要領の改革のさなかにあった年齢層。日本企業など雇用者は、彼らの働き方や考え方にギャップを感じたり、抵抗感を抱いたりすることも少なくない。

自分が「ゆとり」と定義されることにストレスを感じることなく、新しい生き方を実現する若者も。その代表が人気ユーチューバーです。そんな「ゆとり世代」に関連することを、現代社会に詳しいライターひこすけと一緒に解説していきます。

ライター/ひこすけ

文化系の授業を担当していた元大学教員。専門はアメリカ史・文化史。現代社会を学ぶとき「ゆとり世代」を避けて通ることはできない。「ゆとり世代」は固定観念により作り出されたものという一面も。明確な理由もなくネガティブに定義されるが、本当にそうなのだろうか?キーワードとともにまとめてみた。

「ゆとり世代」が批判の対象となるのはなぜ?

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「ゆとり世代」という言葉は、基本的にいい意味では使われません。「勉強ができない」「やる気がない」「会社をすぐ辞める」など、ネガティブなイメージがあります。それはどうしてなのでしょうか。

学習量と授業時間が一気に減少した時代

日本の学校教育は、1980年代ごろから徐々に学習量を減らしてきました。そのため「ゆとり世代」の定義は諸説ありますが、厳密には2002年度に新しくなった小中学校の学習指導要領による授業を受けている世代のことを指します。

新しい学習指導要領は、学校で習う知識の量を厳選しながら減らしました。それに伴い、学校で授業を受ける時間も減少。ゆとり世代は、ほとんどの科目において「習っているもの」の数が圧倒的に少ないと言われています。

「ゆとり世代」はマスコミにより造られた概念

「ゆとり世代」という言葉は、文部科学省が正式に使っているわけではありません。また、学習指導要領が改訂されるとき、この概念が登場することもなし。ゆとりある教育を目指しているわけではないのです。

この言葉を使いだしたのがマスコミ。学習量が大幅に減ったことで、深刻な学力低下があることを指摘する記事などで「ゆとり教育」という言葉が登場。そこから「ゆとり世代」という概念が生まれました。

「ゆとり世代」が生まれた背景とは?

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どうして日本の学校では学習量を大幅に減らすことにしたのでしょうか。もともと以前から学校の現場では、ゆとりある教育の必要性を唱える声がありました。

詰め込み教育に対する反省

それまでの学習指導要領に従って授業を行うと、暗記だけになることが問題視。同時に、不登校、いじめ、自殺、非行、落ちこぼれの問題も指摘されました。

その原因として浮かび上がったのが詰め込み教育。ゆとりがない生活を送っているから、子どもの社会性がなくなる、自立できなくなる、自己中心的になるなどして、これらの問題が起こるのだと考えられました。

社会で生きぬくための「考える力」を重視

これらの問題を解決するために、新たなミッションとして示されたのが「生きる力」。知識を詰め込むだけでは「生きる力」が備わらないため、学習量を減少させました。

「生きる力」を備えるために授業の方法に変化が生じます。とくに重視されたのが「考える力」。正解とされる知識を暗記するのではなく、自分の力で考えて正解や考えに行きつくことが大切であるとされました。

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「ゆとり世代」の学校生活

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「ゆとり世代」の学校生活で大きく変わったのが休日。学校で過ごす時間が長く、自分や家族との時間が持てないことが問題視されました。そこで、ゆとりがある生活を実現させるためにスケジュールが変化します。

週2日の休日が保証された学校生活

もともと日本の学校は、月曜日から金曜日は夕方まで、土曜日は午前中が授業。学生たちは疲れ切ってしまい、宿題をする時間が確保できない、授業中に集中力がなくなると考えられました。

そこで学習指導要領の学習内容を削減し、土曜日は一般的な授業はなし。学生は週休2日制が保証されました。ただ、土曜日を完全に休みにする学校は少なかったようです。

「総合的な学習の時間」のグループワークが増加

授業は土曜日が休みとされるものの、実際は「生きる力」を育む時間として活用。それが「総合的な学習の時間」と呼ばれる形態の授業です。

「総合的な学習の時間」とは「調べ学習」とも言われるもので、グループワークやフィールドワークが重視されました。また、地域の人を講師として招き、地元のことや仕事のことを学ぶ授業もありました。

デジタルネイティブ第一世代である「ゆとり世代」

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学力の低下ばかりが注目されますが、この世代ならではの強みがあります。それがインターネットに関連すること。「ゆとり世代」は、デジタルネイティブの第一世代でもあるんです。

学生時代からインターネットで情報共有

「ゆとり世代」が生まれたのは1987年から2004年のあいだ。インターネットが一般家庭に普及し始めたのは2000年代に入ったころ。「ゆとり世代」は学生時代からその恩恵を受けている世代でした。

インターネットの普及により、ものごとを簡単に調べられるように。その半面、正しい情報なのかを見極める難しさにも直面します。学校で「調べ学習」が重視されたのは、インターネットの普及も背景にありました。

SNSが主要なコミュニケーションツールとなる

SNSの普及は「ゆとり世代」のコミュニケーションの方法を変化させます。フェイスブック、ツイッター、インスタグラム、ラインなど、次々とSNSが登場。それが必需品となりました。

SNSが中心となることで、人間関係の築き方が変わったという声も。オンラインでトラブルになる、依存症になる、友人がいるのに孤独感が増すなど、新たな問題が出てきました。

大学全入時代の「ゆとり世代」の進路

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「ゆとり世代」が大学に進学するころ、ちょうど大学は全入時代に突入。大学全入時代とは、受験生よりも大学の定員数のほうが多くなること。選ばなければ全員が大学に入れる時代に突入しつつありました。

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大学入学のハードルが下がった「ゆとり世代」

大学全入時代の背景は、規制緩和による大学創設ラッシュ。少子化の影響により定員割れを起こす大学が増えました。大学は、オープンキャンパス、高校訪問、イベントの実施により、学生の獲得に奔走します。

大学入学は「売り手市場」から「買い手市場」にシフト。大学は「ゆとり世代」の興味を引き付けるために、サービスを向上させていきました。「ゆとり世代」の入学ころから大学生のお客様化が進みます。

キャリア教育を通じて生き方を探る

ニートやフリーターの増加が問題となっていた日本。「ゆとり世代」のころは、就職率はよかったものの、すぐに会社を辞める人が増えました。そこで大学では「キャリア教育」を重視するようになります。

「キャリア教育」は、いわゆる進路指導とは異なり、社会に出たあとも学び続ける、仕事を変えても応用できる力を備えることが目的。その一環として、インターンシップや体験学習も行われました。

選択肢が増えた「ゆとり世代」の就職活動

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「ゆとり世代」が就職活動をする時期、IT産業が活発になったこともあり、小規模ベンチャー企業が一気に増えます。若手のうちから起業するなど、キャリアの選択肢も増えていきました。

終身雇用神話の崩壊とベンチャー企業の増加

日本では就職したら定年までいれる終身雇用が定番。海外の能力主義を取り入れる会社が増えたため、キャリアアップを目指して転職することも当たり前になります。

IT関連では学生起業家や若手起業家を多数輩出。「雇用される」ことがすべてではないという考え方が浸透します。「ゆとり世代」=すぐ辞めるは、こうした社会の変化のあらわれでもあるんです。

上の世代とギャップがある?「ゆとり世代」

かつては上司と部下の関係が徹底されていた日本ですが、それが壊れ始めたのも「ゆとり世代」ごろから。親子関係も含めて友人化がすすみます。そこで就職後、上司と衝突して会社を辞めるケースも目立ちました。

上の世代に対して物怖じしないことで、社会的に大きな成功をおさめる「ゆとり世代」も出現。SNSを通じてネットワークが作れることもあり、世代を超えたコラボレーションの機会も増えてきました。

「ゆとり世代」が進化されたユーチューバービジネス

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ネガティブなイメージが先行してきた「ゆとり世代」ですが、この世代によりユーチューバーがビジネスとして進化。遊んでいるだけのように見えますが、日本経済を支えるビジネスとして定着してきました。

ユーチューバー黄金時代を作った「ゆとり世代」

現在、活躍しているユーチューバーは、芸能人を除くとほとんどが「ゆとり世代」。ユーチューバーになるまえに会社員だったけれども退職し、転向して成功をおさめている人もいました。

「ゆとり世代」の一部がユーチューバーとして成功した要因として、大企業に勤めることにこだわらない、インターネットに強い、働くことに対する考え方が柔軟など、いろいろ考えられます。

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企業広告のあり方を一気に変える可能性も

最近は、動画にて広告を流す企業が増加。大企業がユーチューバーの影響力に興味を持ち、いわゆる「企業案件」というものを持ち込むケースも増えてきました。

これまでの企業広告は、テレビ、チラシ、ポスター、看板などがメインです。それをユーチューバーに置き換える方法が定着。ユーチューバーは広告産業のかたちのひとつとなってきています。

「ゆとり世代」はリモートワークの主力人材?

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現在の日本では、新しい働き方としてリモートワークに注目が集まっています。賛否両論があるものの、デジタルネイティブである「ゆとり世代」。リモートワークに対する高い適応能力を発揮しつつあります。

ITスキルが高い「ゆとり世代」

リモートワークをする場合、コミュニケーションやデータ管理のために、さまざまな機能を使いこなす必要があります。ITスキルが高い「ゆとり世代」は、それが苦にならない傾向がありました。

自宅のリモートワーク環境を整備することを支援する会社もあらわれつつある現在。リモートワークに適応でいるスキルが採用基準に加わったら、「ゆとり世代」は主要人材になる可能性があります。

会社との関係性の変化を歓迎する人も

デジタルネイティブの「ゆとり世代」の人間関係はSNSと密接に結びついています。そのため、直接対面しない、オンライン上の人間関係にも抵抗がない人が増えました。

リモート飲み会を歓迎したのは「ゆとり世代」。上の世代はテーブルを共有することを好みました。リモート前提の新たな雇用形態が生まれたら、あえてそこに流れる「ゆとり世代」が増えるかもしれません。

「ゆとり世代」の評価はこれから

「ゆとり、ゆとり」と何となく良くない言われ方をする「ゆとり世代」ですが、その時代の若者が30代、40代と社会の中心的な担い手となったとき、日本はどのように変わるのでしょうか。彼ら・彼女らは、取り巻く環境がいろいろと変わり始めた時期。ゆとりある教育により学習量が減ったことは確かですが、これまでも価値観に縛られない雰囲気も生まれました。「ゆとり世代」は社会の大きな変化の最初の世代にあたります。そのため「ゆとり世代」の評価はこれから進むことになるでしょう。

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平成現代社会

ユーチューバー黄金時代を作った「ゆとり世代」の特徴を元大学教員がわかりやすく解説

「ゆとり世代」という言葉は、ある世代の若者や新入社員の特徴や傾向をあらわすときによく使われる。彼らは文部科学省の学習指導要領の改革のさなかにあった年齢層。日本企業など雇用者は、彼らの働き方や考え方にギャップを感じたり、抵抗感を抱いたりすることも少なくない。

自分が「ゆとり」と定義されることにストレスを感じることなく、新しい生き方を実現する若者も。その代表が人気ユーチューバーです。そんな「ゆとり世代」に関連することを、現代社会に詳しいライターひこすけと一緒に解説していきます。

ライター/ひこすけ

文化系の授業を担当していた元大学教員。専門はアメリカ史・文化史。現代社会を学ぶとき「ゆとり世代」を避けて通ることはできない。「ゆとり世代」は固定観念により作り出されたものという一面も。明確な理由もなくネガティブに定義されるが、本当にそうなのだろうか?キーワードとともにまとめてみた。

「ゆとり世代」が批判の対象となるのはなぜ?

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「ゆとり世代」という言葉は、基本的にいい意味では使われません。「勉強ができない」「やる気がない」「会社をすぐ辞める」など、ネガティブなイメージがあります。それはどうしてなのでしょうか。

学習量と授業時間が一気に減少した時代

日本の学校教育は、1980年代ごろから徐々に学習量を減らしてきました。そのため「ゆとり世代」の定義は諸説ありますが、厳密には2002年度に新しくなった小中学校の学習指導要領による授業を受けている世代のことを指します。

新しい学習指導要領は、学校で習う知識の量を厳選しながら減らしました。それに伴い、学校で授業を受ける時間も減少。ゆとり世代は、ほとんどの科目において「習っているもの」の数が圧倒的に少ないと言われています。

「ゆとり世代」はマスコミにより造られた概念

「ゆとり世代」という言葉は、文部科学省が正式に使っているわけではありません。また、学習指導要領が改訂されるとき、この概念が登場することもなし。ゆとりある教育を目指しているわけではないのです。

この言葉を使いだしたのがマスコミ。学習量が大幅に減ったことで、深刻な学力低下があることを指摘する記事などで「ゆとり教育」という言葉が登場。そこから「ゆとり世代」という概念が生まれました。

「ゆとり世代」が生まれた背景とは?

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どうして日本の学校では学習量を大幅に減らすことにしたのでしょうか。もともと以前から学校の現場では、ゆとりある教育の必要性を唱える声がありました。

詰め込み教育に対する反省

それまでの学習指導要領に従って授業を行うと、暗記だけになることが問題視。同時に、不登校、いじめ、自殺、非行、落ちこぼれの問題も指摘されました。

その原因として浮かび上がったのが詰め込み教育。ゆとりがない生活を送っているから、子どもの社会性がなくなる、自立できなくなる、自己中心的になるなどして、これらの問題が起こるのだと考えられました。

社会で生きぬくための「考える力」を重視

これらの問題を解決するために、新たなミッションとして示されたのが「生きる力」。知識を詰め込むだけでは「生きる力」が備わらないため、学習量を減少させました。

「生きる力」を備えるために授業の方法に変化が生じます。とくに重視されたのが「考える力」。正解とされる知識を暗記するのではなく、自分の力で考えて正解や考えに行きつくことが大切であるとされました。

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