今回のテーマ「グロージャーの法則」をみていこう。

グロージャーの法則は、生物と生物の住む地理的環境を結びつける法則のひとつです。生態学…特に生態地理学という分野で紹介されるな。生息地と生物の色の関係を述べた興味深い内容です。この記事では、具体例も挙げながらグロージャーの法則を学習していこう。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

グロージャーの法則とは?

グロージャーの法則(Gloger's rule)とは、簡単にいうと「哺乳類・鳥類については、寒く乾燥した地域に住んでいる生き物の方が、温かく湿度の高い地域に住んでいる生き物よりも明るい色をしている傾向がある」という内容のものです。グロージャーの規則ともよばれます。

動物が生息している環境と、その見た目を関連付けた法則として、生態学の中では”ベルクマンの法則”や、”アレンの法則”と一緒に紹介されることが多いですね。

そうなんです。気候と生物の色に関係が見られるなんて、面白いと思いませんか?

グロージャーの法則がみられる理由を説明する前に、まずはグロージャーの法則に当てはまるとされる例をいくつかご紹介しましょう。

グロージャーの法則の例

\次のページで「その1.シジュウカラ」を解説!/

その1.シジュウカラ

image by iStockphoto

シジュウカラは日本国内に広く生息する小さな鳥です。このシジュウカラ、全国から標本を集めてみると、南の方に生息しているものほど顕著に黒っぽい羽根の色をしています。石垣島や西表島に生息するものは亜種のイシガキシジュウカラとして登録されていますが、本州のシジュウカラとはかなり色が違うんです。

その2.ジャガランディ

ジャガランディは中央アメリカから南アメリカ大陸にかけて分布しているヤマネコの一種。広い生息域内の個体を比較すると、温かく湿潤で、植物もたくさん生えているような場所の個体ほど黒っぽい色をしていることが確認されています。

その3.ヒト

ヒト…つまり私たち人間でも、グロージャーの法則が顕著にみられると考えられています。暖かい地方、東南アジアやアフリカ大陸にすむ人々は比較的肌の色が濃い一方、北欧やロシアでは色素の薄い人が多く見られますよね。中間的な位置にある日本に古くから住む日本人は黄色人種。肌の色も中間的といえるでしょう。

image by Study-Z編集部

どうして”グロージャーの法則”がみられるの?

グロージャーの法則が成り立つ理由としては、暖かく湿潤な地域と寒く乾燥した地域で、浴びる日光の量が異なるため、といわれています。

温暖な場所は基本的に低緯度地域、赤道付近のような国です。年間を通じてたくさんの日の光を浴びることができますが、強すぎる日光は細胞に悪影響を与えます。それを防ぐため、細胞内ではメラニンなどの色素をたくさんつくり、体の内部を保護するのです。

反対に、寒冷な地域では少ない日の光をできるだけ効率的に浴びなくてはいけません。

\次のページで「グロージャーの法則に当てはまらないもの」を解説!/

そのため、メラニンのような色素は少ないほうが良いのです。

また、鳥類の羽においては、濃い色素をもつ羽の方が丈夫だから、という説明もあります。温かく湿潤な環境は、細菌などの微生物が繁殖しやすいですよね。細菌の中には羽毛にダメージを与えるものがいるため、それから羽を守るために色が濃くし、羽を強くしているのだといわれているんです。

image by iStockphoto

さらに、暖かく降水量の多い地域は植生が豊かである、ということも理由の一つとして挙げられることがあります。さまざまな草木が生い茂るジャングルのような環境下では、体色が濃いほうが自分の身を隠すのに都合がよい、カモフラージュになるという説明です。

いくつかの理由が複雑に絡み合い、生物の色を決定しているのでしょう。

グロージャーの法則に当てはまらないもの

地球上に生息する生物は、実に千差万別。化学や物理と違い、生物学ではしばしば「基本的なルールに当てはまらない例外」という存在が現れます。グロージャーの法則においても、やはり例外がみられるのでご紹介しておきましょう。

image by iStockphoto

たとえば、『グロージャーの法則の例』でご紹介したヒトの場合。寒い地方に色素の薄い人が多い”傾向”はみられるのですが、チベット高原に住むチベット族や、北極圏近くに住むエスキモーの人々では、グロージャーの法則に反して皮膚の色が濃い人が少なくありません。

一体なぜでしょう?チベット族の例の場合、「住環境であるチベット高原が非常に紫外線の強い場所であり、低緯度地域同様に身体の細胞を守るためにメラニンが必要なのではないか」と説明されます。

また、エスキモーの場合は「普通ヒトが日光に当たって合成するビタミンDを補える食生活であり、メラニンを過剰に失う必要がなかったためではないか」と考えられているんです。

\次のページで「提唱者・グロージャーとは?」を解説!/

むしろ、それが生物学の面白いところなんです。

例外的な生物がいれば、なぜそうなったのか、どうしてそうなるのかを調べる…そこに合理的な理由が見いだせることもあれば、まったくの偶然でそのように進化したようだ、ということもあります。それぞれの生物を地道に調べることで、生物学は進展してきたんですよ。

提唱者・グロージャーとは?

グロージャーの法則を提唱したのは、19世紀のドイツの生物学者であるコンスタンティン・ヴィルヘルム・ランベルト・グロージャー(Constantin Wilhelm Lambert Gloger)。

鳥類の研究を専門とし、ツバメとアマツバメの違いを発見するなどの功績を残しています。また、コウモリの飼育箱を初めてつくった、ということでも知られている人物です。

Constantin Wilhelm Lambert Gloger.jpg
By Unknown photographer - http://przyrodnicy_slascy.republika.pl/zoolodzy.htm, Public Domain, Link

グロージャーは1833年にグロージャーの法則を提唱し、一躍有名になりました。しかしながら、一部には「グロージャーの前に、ペーター・ジーモン・パラスが提唱している(1811年)」という意見もあるようです。

”どちらが先に見つけたか”という論争は、サイエンスの世界でよく勃発するのですが、グロージャーの法則についてはすでにその名が有名になってしまっているので、今後変更はされないかもしれません。

”グロージャーの法則”から”生態学”へ足を踏み入れてみませんか?

自然界に生きる生物と環境との関りを研究する学問を生態学といいます。

今の時代、生物学というと細胞やゲノム研究といった複雑なイメージする人も少なくありませんが、「それぞれの生物がどんな場所でどうやって生きているのか」「環境や他の生物とどんな関係があるのか」などを追い求めるのは、もともと生態学の領域です。

細胞やDNAの研究は生物の根源を解き明かそうとしていますが、生態学もまた、「生物が複雑な環境下で生き残ってきた仕組み」を解明するための、生物学には欠かせない分野。私たちの住む地球には、まだまだ分かっていない生態学上の謎がたくさんあるんです。”グロージャーの法則”を知って「面白い!」と思ったそこのあなた、ぜひ生態学の研究に足を踏み入れてみませんか?

イラスト使用元:いらすとや

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理科生物生物の分類・進化

3分で簡単「グロージャーの法則」寒いところほど色白になる?現役講師がわかりやすく解説

今回のテーマ「グロージャーの法則」をみていこう。

グロージャーの法則は、生物と生物の住む地理的環境を結びつける法則のひとつです。生態学…特に生態地理学という分野で紹介されるな。生息地と生物の色の関係を述べた興味深い内容です。この記事では、具体例も挙げながらグロージャーの法則を学習していこう。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

グロージャーの法則とは?

グロージャーの法則(Gloger’s rule)とは、簡単にいうと「哺乳類・鳥類については、寒く乾燥した地域に住んでいる生き物の方が、温かく湿度の高い地域に住んでいる生き物よりも明るい色をしている傾向がある」という内容のものです。グロージャーの規則ともよばれます。

動物が生息している環境と、その見た目を関連付けた法則として、生態学の中では”ベルクマンの法則”や、”アレンの法則”と一緒に紹介されることが多いですね。

そうなんです。気候と生物の色に関係が見られるなんて、面白いと思いませんか?

グロージャーの法則がみられる理由を説明する前に、まずはグロージャーの法則に当てはまるとされる例をいくつかご紹介しましょう。

グロージャーの法則の例

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