1869年にメンデレーエフ(ロシア)が最初の元素周期表を考案した頃に分かっていた元素の数は63種類だった。それからどんどん新たな元素が発見され、現在では元素は見つけるものから作られるものとなり118個の元素が確認されている(2020年現在)。

2004年に日本の研究チームによって113番目の元素が合成され、2016年に正式に周期表に加えられた。この元素はNh、ニホニウムという。このように人工的に作られた元素のことを人工元素と言う。

今回は人工元素について科学館職員のたかはしふみかが紹介していきます。

ライター/たかはし ふみか

不思議な現象を解き明かす科学が好きで理系に進んだリケジョ。高校、大学で化学漬けの日々を送っていた科学館職員。

元素とは?

元素とは?

image by Study-Z編集部

そもそも元素とはなんでしょうか?

元素とは物質を構成する基本的な要素のことです。そして元素はアルファベット1文字か2文字の元素記号によって表されています。これはラテン語が由来のものが多く、例えば水素はHydrogenium(水を作る)のH酸素はOxygebium(酸を作る)のOが元素記号となっているのです。

化学を学ぶときに元素記号は必須。少なくとも原子番号1番から20番までの元素は覚えるようにしましょう。

元素周期表についてはこちらの記事を参考にして下さいね。

人工元素とは

人工元素人工放射性元素)は自然界にはほとんどなく、人の手で作り出された元素のことです。これらの元素にはごく微量ですが天然にあるものや、すぐに崩壊してしまい見つけることができなかった元素もあります。人工元素は原子炉や加速器を使って原子核に陽子や中性子を当てて作られているのです。

人工元素にはテクネチウム(Tc、原子番号43)、プロメチウム(Pm、原子番号61)、アスタチン(At、原子本号85)、フランシウム(Fr、原子本号87)、そして超ウラン元素、人工放射性同位体があります。

超ウラン元素は原子番号92番のウランよりも原子量が大きい元素のことです。天然に存在する元素で最も大きいのがウランで、それよりも大きな原子番号の元素という意味で超ウラン元素と呼ばれるようになりました。超ウラン元素にはアメリシウム(Am、原子番号95)、キュリウム(Cm、原子番号96)などがあります。

同位体とは中性子の数が異なり、同じ原子番号の元素なのに質量数が異なる原子のことです。人工放射性同位体として最初に合成されたのが放射性リン(30P)で、キュリー夫妻の娘夫婦(フレデリック・ジョリオ=キュリー、イレーヌ・ジョリオ=キュリー)が1934年に合成に成功しました。

人工元素の種類

それでは重要な人工元素を紹介していきます。

基本の人工元素 テクネチウム

世界初の人工元素は原子番号43番テクネチウム(Tc)です。1936年に合成され当初は天然に存在しないと考えられていたテクネチウムですが、1968年にウラン鉱石に微量に含まれていることが確認されました。20種類以上の同位体があり、すべて放射性があります。

実はこの元素、日本の科学者小川正孝博士が発見したとして1908年に報告されました。この元素はニッポニウム(Np)と名付けられましたが、その実験結果を確認できなかったため新元素として認められるのが見送られてしまったのです。

\次のページで「基本の人工元素 プロメチウム」を解説!/

基本の人工元素 プロメチウム

image by PIXTA / 64474768

ギリシャ神話に登場する人類に火を伝えた火の神の名前(プロメテウス)から付けられた61番目の元素、プロメチウム(Pm)。ランタノイド系(原子番号57~71)の元素で、1947年に発見されました。

銀白色の金属で、同位体がすべて放射性の放射性元素です。ウランが自核分裂することで天然のウラン鉱石中にもわずかに存在します。核分裂とは不安定な元素が分裂して原子量の軽いふたつ以上の元素になることです。プロメチウムは原子力電池として用いられています。

基本の人工元素 アスタチン

アスタチン(At)は原子番号85番の元素で、ハロゲン元素の一種です。アスタチンの語源はギリシア語で不安定を意味しています。メンデレーエフはエカヨウ素と名付けて存在を予想していました。

アスタチンはその名の通り崩壊しやすく、あまり性質はわかっていません。昇華しやすく、水に溶ける性質であることが分かっています。今のところ研究用にしか使われていません。しかし、癌の治療への利用が期待されています。

基本の人工元素 フランシウム

image by PIXTA / 61335775

原子番号87番のフランシウム(Fr)は発見者であるペレーの出身国、フランスにちなんで名付けられました。ペレーはキュリー夫人の助手だった人物です。

アルカリ金属元素で最も原子番号が大きいが大きく、その存在は1870年代から予想されていました。そのためエカセシウムと名づけられた87番の元素は1939年に発見されるまでに、何度か誤った発見の報告があったそうです。

放射性の強い元素で、固体として存在しています。自然界にある元素の中で最も不安定。そのため研究目的以上の活用方法は今のところなく、詳しい性質も不明です。

超ウラン元素 ネプツニウム

image by PIXTA / 61933166

原子番号93番のネプツニウム(Np)の名前の由来は海王星(Neptune)。アクチノイド元素の一種で、超ウラン元素の中で最も軽い元素です。見た目は銀白色の金属で、展性・延性に富んでいます。

ネプツニウムはプルトニウムの製造に使われている元素です。また、理論上では原子力燃料として使えるとされています。

\次のページで「超ウラン元素 プルトニウム」を解説!/

超ウラン元素 プルトニウム

image by PIXTA / 36379177

冥王星、Plutoにちなんで名付けられた原子番号94番のプルトニウム(Pu)。アクチノイド(原子番号89~103)の元素です。放射性元素の一種で天然にもわずかに存在し、ウラン鉱石に含まれています。プルトニウムは毒性、発がん性がある物質です。そのため日本では保管、取り扱いが規制されています。

1941年にアメリカの化学者が合成、分離に成功しました。プルトニウムは原子力電池として宇宙探査機に使われています。そしてプルトニウムは原子爆弾にも使われ、発見から4年後の1945年に長崎に落とされました。

冥王星の名前の由来についてはこちらで確認してください。

超ウラン元素 アメリシウム

image by PIXTA / 53760793

原子番号95番のアメリシウム(Am)。周期表を見るとアメリシウムの上にヨーロッパ大陸にちなんだ63番ユウロピウム(Eu)があり、その下の元素と言う事でアメリカ大陸にちなんだ名前が付けられました。

1944年にアメリシウムの合成・単利に成功したのはカルフォルニア大学の研究チームです。プルトニウム239に中性子2つをぶつけてプルトニウム241とし、これが崩壊することでアメリシウム241を得ることに成功しました。

アメリシウムは銀白色の放射性の金属元素です。蛍光X線装置などに用いられています。

超ウラン元素 キュリウム

もっとも有名な科学者夫婦、キュリー夫妻の名前が付けられた原子番号96番の元素キュリウム(Cm)。プルトニウム同様にシーボーグが合成に携わっています。

原子力電池や惑星探査機に使われている元素です。銀白色の金属で、すべての同位体に放射性があります。

超ウラン元素 ニホニウム

image by PIXTA / 30817446

原子番号113番のニホニウム(Nh)。その名の通り日本で発見され名付けられた、アジア初の新元素です。2016年に正式に名前が決定し、それまでは仮称としてウンウントリウムと呼ばれていました。

2003年にロシアとアメリカのグループが115番の元素、モスコビウムの合成に成功した際に113番の元素を観測したものの、命名権を得ることはできませんでした。そして2004年に日本の理化学研究所のグループが亜鉛とビスマスを衝突させ、113番目の元素の合成に成功します。

2015年に世界の化学者が集まったIUPAC評議会によって理化学研究所の研究グループに命名権が与えられました。そしてニホニウム(Nh)という名前に決まったのです。なおこの時名前の候補にはジャポニウム(ジャパニウム)、研究所の場所からワコニウムというのが上がっていました。

名前も興味深い人工元素

天然の元素はその性質にちなんだ名前が付けられたものが多いですが、人口元素は科学者や地名由来のものが多くあります。惑星由来の元素もあり、名前の由来を調べるのも楽しいですね。

日本の名前がついた元素がつくまでには最初の発見から100年以上の時間がかかっています。最初に日本で合成された元素はニッポニウムという名前で報告されるも、命名権は得られませんでした。これから日本の地名や科学者にちなんだ元素が生まれるかもしれませんね。

" /> 「人工元素」はどんな元素?科学館職員がわかりやすく解説 – Study-Z
化学

「人工元素」はどんな元素?科学館職員がわかりやすく解説

1869年にメンデレーエフ(ロシア)が最初の元素周期表を考案した頃に分かっていた元素の数は63種類だった。それからどんどん新たな元素が発見され、現在では元素は見つけるものから作られるものとなり118個の元素が確認されている(2020年現在)。

2004年に日本の研究チームによって113番目の元素が合成され、2016年に正式に周期表に加えられた。この元素はNh、ニホニウムという。このように人工的に作られた元素のことを人工元素と言う。

今回は人工元素について科学館職員のたかはしふみかが紹介していきます。

ライター/たかはし ふみか

不思議な現象を解き明かす科学が好きで理系に進んだリケジョ。高校、大学で化学漬けの日々を送っていた科学館職員。

元素とは?

元素とは?

image by Study-Z編集部

そもそも元素とはなんでしょうか?

元素とは物質を構成する基本的な要素のことです。そして元素はアルファベット1文字か2文字の元素記号によって表されています。これはラテン語が由来のものが多く、例えば水素はHydrogenium(水を作る)のH酸素はOxygebium(酸を作る)のOが元素記号となっているのです。

化学を学ぶときに元素記号は必須。少なくとも原子番号1番から20番までの元素は覚えるようにしましょう。

元素周期表についてはこちらの記事を参考にして下さいね。

人工元素とは

人工元素人工放射性元素)は自然界にはほとんどなく、人の手で作り出された元素のことです。これらの元素にはごく微量ですが天然にあるものや、すぐに崩壊してしまい見つけることができなかった元素もあります。人工元素は原子炉や加速器を使って原子核に陽子や中性子を当てて作られているのです。

人工元素にはテクネチウム(Tc、原子番号43)、プロメチウム(Pm、原子番号61)、アスタチン(At、原子本号85)、フランシウム(Fr、原子本号87)、そして超ウラン元素、人工放射性同位体があります。

超ウラン元素は原子番号92番のウランよりも原子量が大きい元素のことです。天然に存在する元素で最も大きいのがウランで、それよりも大きな原子番号の元素という意味で超ウラン元素と呼ばれるようになりました。超ウラン元素にはアメリシウム(Am、原子番号95)、キュリウム(Cm、原子番号96)などがあります。

同位体とは中性子の数が異なり、同じ原子番号の元素なのに質量数が異なる原子のことです。人工放射性同位体として最初に合成されたのが放射性リン(30P)で、キュリー夫妻の娘夫婦(フレデリック・ジョリオ=キュリー、イレーヌ・ジョリオ=キュリー)が1934年に合成に成功しました。

人工元素の種類

それでは重要な人工元素を紹介していきます。

基本の人工元素 テクネチウム

世界初の人工元素は原子番号43番テクネチウム(Tc)です。1936年に合成され当初は天然に存在しないと考えられていたテクネチウムですが、1968年にウラン鉱石に微量に含まれていることが確認されました。20種類以上の同位体があり、すべて放射性があります。

実はこの元素、日本の科学者小川正孝博士が発見したとして1908年に報告されました。この元素はニッポニウム(Np)と名付けられましたが、その実験結果を確認できなかったため新元素として認められるのが見送られてしまったのです。

\次のページで「基本の人工元素 プロメチウム」を解説!/

次のページを読む
1 2 3
Share: