突如眩しさに視界を奪われる場面は日常生活でもよくある。夜道を自転車で走っている時、前からハイビームの車が来たら「すごく眩しい」。池からの太陽の反射光が眩しいとか。眩しいと、本来なら見える物が見えなくなってしまい、場合によっては危険である。

そんな眩しい状態を解消出来るメガネ、サングラスがある。「ただ暗くすればいい」というものではない、一体どういう仕組みなのか?理系ライターのR175と見ていこう。

ライター/R175

関西のとある国立大の理系出身。学生時代は物理が得意で理科の高校理科の教員免許も持っている。エンジニアの経験があり、教科書の内容に終わらず実際の現象と関連付けて説明するのが得意。

1.眩しさについて

image by iStockphoto

昼間の太陽は眩し過ぎて見ることが出来ない(というか見てはいけない)ですが、朝方の昇りかけの太陽or夕方沈みかけの太陽はあまり眩しくない。同じ太陽からの光なのにその差はなんでしょうか?

2.眩しく感じる原因とその対策は?

昼間の太陽が眩しい理由は、光の種類が多過ぎるからで、朝夕がさほど眩しくないのは光の種類が少ないからです。どういうことでしょうか?

朝夕および昼の太陽光の届き方

朝夕および昼の太陽光の届き方

image by Study-Z編集部

太陽光の届き方はイラストのように考えることが出来ます。太陽から届く光には色々な波長のものが混じっていて、その中でヒトの目で観測ができるのは400-800nm程度の波長の光(いわゆる可視光)。地球の周りには厚さ約100km程度の大気の層があり、太陽光はそこを通過してから地球に届くもの。この大気層を通過する時大気に含まれる水分などにより太陽光は進路を妨害され色々な方向に散乱。波長の小さい青系の光は特に散乱しやすく空の色は散乱した青系の光の色。波長の長い赤色の光は散乱しにくく、多少妨害されても地球に届きやすい


昼間は太陽光が入ってくる角度からして大気を通過する距離が短い。よって様々な波長の光が地球に届くので眩しい。一方朝と夕方は、波長の長い光(赤系の光)しか届かないため光の種類が少なく眩しくない。

眩しい原因は光の種類や量が多いことであり、それを防ぐためには光の種類を減らしてやればOK。

偏光による眩しさ防止

ここから本題、偏光について述べていきましょう。眩しいのを防ぐためには光の種類や量を減らせばいいのですが、偏光の原理を使っても通過してくる光を減らせるため眩しさ防止に役立ちます。

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3.偏光とは

偏光は特定の方向に振動する光のみで構成されている光のこと。特定の方向意外に振動している光はシャットアウトされている状態。したがって自然光を偏光した後、光の量は減ります。関係ない方向に振動している光がなくなるのでその分減少しますね。上で述べた朝夕眩しくなくなる現象では、大気によって波長の短い光がシャットアウトされてまぶしくなくなるわけですが、偏光はある方向以外に振動する光をシャットアウトすることでまぶしくなくなるのです。

光の振動?

光の振動?

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幾度となく出てきている「光の振動」とは何のことでしょうか?そもそも、光は電磁波=です。まっすぐ直線をなして進んでいるのではなく振動しながら進んでいるもの。レーザー光線は真っすぐな直線に見えますが拡大すると実は波打っているもの。その波の振幅が目に見えないくらい小さいため真っすぐに見えているだけです。光波が振動する方向は進行方向に対して垂直な方向(いわゆる横波)。波は縦波と横波の2種類ありますが、光は横波の方であり、違いは振動する方向。横波は進行方向に対して垂直に振動、縦波は進行方向に対して平行に振動します(イラスト参照)。

どれも横波

2次元で横波を描くと、正弦波のような形になり振動する方向は1方向に決まってしまいますね。しかし、横波の考えを3次元に拡張してみましょう。進行方向x軸として、その垂直な方向となる平面は無数にありますね。y軸に平行でもz軸に平行でも斜めでも全て進行方向に垂直という条件は満たしています。

4.自然光とは

自然光は当然3次元空間を進むわけですから、進行方向に対し垂直な向きは無数に存在します。A地点からB地点に向かう光で進行方向は同じでも振動方向は様々。ある光は上下方向に振動、ある光は奥行き方向に振動、ある光は斜めにといった具合です。

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5.スリットで直線偏光を作る

5.スリットで直線偏光を作る

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AからBに向かう光が多すぎるので減らしたい。光を減らすために、奥行き方向(z方向)に振動する光だけを通し、その他の方向に振動する光はオミットしてやりましょう。そこでイラストのように微小なスリットを設けます。スリットの間隔を十分小さくしておけば奥行き方向に振動する光(波)以外は通れません。かくして、スリット通過後の光の振動方向は奥行き方向のみとなりました。これが「直線偏光」、振動方向が1方向のみの光です。

斜め方向の光は?

斜め方向の光は?

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スリットと垂直な上下方向の光は問答無用に通れなさそうですが、斜め方向はどうなるか?一部だけ通れます。斜め方向のうち、奥行き方向の成分だけ通れるのです(詳しくは後述)。

この原理で何%カット出来る?

直線偏光してやれば、振動方向が1方向のみとなりそれ以外の方向の光はなくなります。では一体どれくらい光が減少するのか?、せっかくなので物理(というか数学)っぽい計算をしておきましょう。この計算をすることで光が波であることや偏光の原理に関してより印象付くことが気体されます。

光LはAからBに移動。振動する方向は360°ランダムであり、無数に波があるとします。仮に通過前の光の量を2πNとした時、スリット通過後の光はいくらになっているでしょうか。Nではなく敢えて2πをつけているのは後述の計算をスムーズにするため。1周に渡って積分計算をするので2πがついていた方が扱いやすいです。

スリットを通過できる光の量

奥行き方向に振動する光は100%スリットを通過出来ます。イラストのように角度θを取ってやると、この光はθ=0の光。θ=90°上下方向の光は全く通ることが出来ません。振動の方向がθの光はスリット通過後の光量がcosθ倍となります。

スリットなしの時の光量合計

スリットなしの時の光量合計

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スリットなしの場合、1本の光は100%(数字でいうと1)通過します。もともとの光量が2πNなのでそれがそのまま通過するから2πNとしてOKですが、スリットありの時にどの道積分が必要なのでここでも敢えて積分する方法に触れておきましょう。

光量は全振動方向合計(360°)で2πNであり、1radあたりNです。グラフに描くとイラストのようなイメージ。NdΘをθ=0〜2πまで積分してやれば全方位の光の合計で、2πNともとまります。因みに積分値はグラフとX軸に囲まれた長方形の面積でもあり縦がNで横が2πだから2πNという解答も正解。

\次のページで「スリットありの場合」を解説!/

スリットありの場合

スリットありの場合

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スリットありの場合はどうしても積分を避けて通れません。上述のように振動する方向が角度θの光は、そのcosθ倍の量だけ通過よってNcosθを0~2πに渡って積分すればいいのですが、注意点があります。θ=0〜90°(π/2)と、270°(3π/2)〜360°(2π)までは通過後の本数が正の値ですが、90°(π/2)〜270°(3π/2)までは負の値。

ここで実行したい計算はNcosΘとX軸で囲まれた部分の面積を求めることなのですが、負の値の区間をそのままスルーして積分するとその区間の分の面積は引き算されてしまい意に反する計算に。よってこの区間だけ-Ncosθとする必要があり、イラストのように0~90°と90〜270°と270〜360°で分けて行うことになり、結果は4Nと求まります。
cosθの積分

三角関数は正と負を行ったり来たりする関数で、油断していると上記のような意に反する計算となります。今回のNcosθのように、正の値しか取らないことが分かっている場合は、常に正の値となるようあらかじめ符号を変えておく必要があるのです。スマートな表し方をするとイラストに示すような絶対値で表して積分してやるとよいでしょう。絶対値表示であれば、「正の値しか取りません、もし負の値になるなら-を付けなさいよ」というメッセージを伝えられます。

スリット有無での比較

以上結果をまとめると、スリットなしではスリット通過後の光の量が2πN、スリット有りなら4Nまで減少することが分かります。スリットを通すことで光量はスリット通過前の4/(2π)倍→約64%に

偏光によって眩しさをおさえる原理

光は横波であり、色々な方向に振動しています。偏光とは振動する方向を1方向に絞った光です。他の方向に振動する光がオミットされているので、眩しさが軽減されます。

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物理理科電磁気学・光学・天文学

眩しさ防ぐサングラスの仕組み「偏光」を理系ライターがわかりやすく解説

突如眩しさに視界を奪われる場面は日常生活でもよくある。夜道を自転車で走っている時、前からハイビームの車が来たら「すごく眩しい」。池からの太陽の反射光が眩しいとか。眩しいと、本来なら見える物が見えなくなってしまい、場合によっては危険である。

そんな眩しい状態を解消出来るメガネ、サングラスがある。「ただ暗くすればいい」というものではない、一体どういう仕組みなのか?理系ライターのR175と見ていこう。

ライター/R175

関西のとある国立大の理系出身。学生時代は物理が得意で理科の高校理科の教員免許も持っている。エンジニアの経験があり、教科書の内容に終わらず実際の現象と関連付けて説明するのが得意。

1.眩しさについて

image by iStockphoto

昼間の太陽は眩し過ぎて見ることが出来ない(というか見てはいけない)ですが、朝方の昇りかけの太陽or夕方沈みかけの太陽はあまり眩しくない。同じ太陽からの光なのにその差はなんでしょうか?

2.眩しく感じる原因とその対策は?

昼間の太陽が眩しい理由は、光の種類が多過ぎるからで、朝夕がさほど眩しくないのは光の種類が少ないからです。どういうことでしょうか?

朝夕および昼の太陽光の届き方

朝夕および昼の太陽光の届き方

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太陽光の届き方はイラストのように考えることが出来ます。太陽から届く光には色々な波長のものが混じっていて、その中でヒトの目で観測ができるのは400-800nm程度の波長の光(いわゆる可視光)。地球の周りには厚さ約100km程度の大気の層があり、太陽光はそこを通過してから地球に届くもの。この大気層を通過する時大気に含まれる水分などにより太陽光は進路を妨害され色々な方向に散乱。波長の小さい青系の光は特に散乱しやすく空の色は散乱した青系の光の色。波長の長い赤色の光は散乱しにくく、多少妨害されても地球に届きやすい


昼間は太陽光が入ってくる角度からして大気を通過する距離が短い。よって様々な波長の光が地球に届くので眩しい。一方朝と夕方は、波長の長い光(赤系の光)しか届かないため光の種類が少なく眩しくない。

眩しい原因は光の種類や量が多いことであり、それを防ぐためには光の種類を減らしてやればOK。

偏光による眩しさ防止

ここから本題、偏光について述べていきましょう。眩しいのを防ぐためには光の種類や量を減らせばいいのですが、偏光の原理を使っても通過してくる光を減らせるため眩しさ防止に役立ちます。

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