この記事では「武陵桃源」について解説する。

端的に言えば武陵桃源の意味は「俗世間からかけはなれた平和な別天地であり、理想郷のこと」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

10数年間、中高生に学習指導をしているライターヤマトススムを呼んです。一緒に「武陵桃源」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/ヤマトススム

10数年の学習指導の経験があり、とくに英語と国語を得意とする。これまで生徒たちを難関高校や難関大学に導いてきた。

「武陵桃源」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「武陵桃源」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。読み方は「ぶりょうとうげん」です。意味ばかりではなく、語源や使い方まで全体的にチェックしていくことで理解が深まりますよ。

「武陵桃源」の意味は?

「武陵桃源」には、次のような意味があります。四字熟語としての意味合いをチェックしたあとに、漢字それぞれの意味合いもあわせてみていきましょう。

1.俗世間からかけ離れた平和な別天地、理想郷のこと。

出典:新明解四字熟語辞典(三省堂)「武陵桃源」

四字熟語の前半の「武陵」とは長江(ちょうこう)中流付近に位置する中国湖南(こなん)省にある地名のこと、「桃源」は世俗を離れた平和な別天地のことを表しています。理想郷のことで「桃源」や「桃源郷」と言われることもありますよ

この理想郷とは、どちらかというと逃避の発想から生まれたものとされています。一方、「ユートピア思想」はイギリスの思想家トマス・モアの著作『ユートピア』がもとになっており、理想社会を実現するための考え方です。「桃源郷」と「ユートピア思想」は似ているようですが、考えの根本は違っています。

「武陵桃源」の語源は?

次に「武陵桃源」の語源を確認しておきましょう。

「武陵桃源」は中国の東晋の時代に陶潜(とうせん)によって書かれた『桃花源記(とうかげんのき)』に由来します。そこには、次のように書かれていますよ。

武陵(ぶりょう)の漁師が、桃の木の林で迷った末に洞穴を抜けると不思議な村に出ます。そこにいた村人たちは、秦の始皇帝の圧政を逃れた先祖をもつ者ばかりであり、外の世界と隔絶して生活しているということでした。そこでもてなしを受けたあとに一旦戻り、もう一度そこへ向かおうとするも見つけることができなかったという話です。

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「武陵桃源」の使い方・例文

「武陵桃源」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

1.以前宴会で使った居酒屋は、予約したコース料理のほかに好みのメニューもあり店内の雰囲気も最高だった。仕事終わりに行くと、武陵桃源にいるかのような心地になる。
2.勝田にあるブックカフェは、収容人数が少なく落ち着いており抜群の空間なのでやみつきになる。読書好きにとってはまさに武陵桃源と言える。

例文1.は、メニューも雰囲気も最高なお店であり、とくに仕事直後に行くとギャップから武陵桃源のように思えるということですね。例文2.のほうは、お気に入りの落ち着くブックカフェに行くと日常を忘れて本に没頭できるという意味合いです。実際に、身近なエリアにこのような店舗があると重宝しますね。

例文では、それぞれ「武陵桃源に…」「武陵桃源と…」と名詞のカタマリとして使用しています。「武陵桃源な」「武陵桃源する」という言い方はしませんよ。

「武陵桃源」の類義語は?違いは?

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それでは、「武陵桃源」の類義語についての説明です。関連する類義語を二種類見ていくので、「武陵桃源」の意味と比べながら丁寧に見ていきましょう。

「天下泰平」

「武陵桃源」の類義語には、「天下泰平(てんかたいへい)」があります。意味は、世の中が平和で、何事もなく治まっていることです。また、穏やかなようすやのんびりしたようすを表すニュアンスも含まれています。

逃避した意味合いもある「武陵桃源」に比べると、天下泰平のほうがやや現実感のある表現です。「天下泰平」は、理想というよりも現実的に平和になったときなどに使われます。

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「王道楽土」

もう一つの類義語には、「王道楽土(おうどうらくど)」があります。公平で思いやりのある政治が行われている平和で楽しいところという意味です。「王道」は公明正大で公平な政治を行うこと、「楽土」は安楽な土地や国のことを表していますよ。

「王道」については、武力や威力によることなく徳によって政治を行うという意味もあります。また、1932年の満州国建国の際の理念として使われた表現にもなりました。

「武陵桃源」の対義語は?

次に、「武陵桃源」の対義語についての説明です。理想郷という意味の反対ですから、大変な状況であることが分かる表現となりますね。二種類の対義語を見ていきましょう。

「寸善尺魔」

「武陵桃源」の対義語には、「寸善尺魔(すんぜんしゃくま)」があります。世の中はよいことは少なく悪いことが多く、よいことがあっても妨げられることが多いという意味です

「寸善」は少しだけのよいこと、「尺魔」でたくさんの悪いことを表します。一寸に対して一尺は十倍の長さなので、尺のほうの悪いことが圧倒的に多いことがわかりますね。たとえとして使われている単位は、寸は約3cm、尺は約30cmです。

「八大地獄」

もう一つの対義語には、「八大地獄(はちだいじごく)」があります。意味は、熱気で苦しめられる地獄の八つの形相のことです。等活(とうかつ)・黒縄(こくじょう)・衆合(しゅうごう)・叫喚(きょうかん)・大叫喚・焦熱または炎熱・大焦熱または大炎熱・阿鼻(あび)または無間(むげん)の八つのことを指します。

理想の場所を表す「武陵桃源」に対して、最悪の場所を表すのが「八大地獄」です。ちょっと極端ではありますが、「武陵桃源」は逃避の場所であることから想像上の場所である「地獄」は対義語と言えますね。

「武陵桃源」の英訳は?

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最後に、「武陵桃源」の英訳についての説明です。言語の違いから意味がピッタリ一致というわけにはいきませんが、最大限に近い意味の英語表現やおすすめの表現を紹介していきますよ。

「utopia」

「武陵桃源」の英訳には、「utopia」があります。一般的には空想的な社会という意味ですが、とらえ方はさまざまです。トマス・モアが書いたユートピアは自由よりも平等に主眼をおいた社会であり、当時の社会を批判したものでした。

その他には、「fairyland」があり「妖精の国」や「桃源郷」といった意味です。「fairy」は「妖精」なので、より幻想的なイメージになりますね。

\次のページで「「武陵桃源」を使いこなそう」を解説!/

「武陵桃源」を使いこなそう

今回の記事では「武陵桃源」の意味・使い方・類語などを説明しました。

「武陵桃源」は理想郷のことですが、人それぞれ、各国の事情によっては国によっても受け取るイメージに違いは出てくるかもしれませんねそのあたりには注意しながら使うといいですね。

また、現在の武陵源は霧の中に天をつくような奇岩が集まる世界遺産ということですから、この由来となった話に独特の雰囲気が加わります。

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【四字熟語】「武陵桃源」の意味や使い方は?例文や類語などを現役塾講師がわかりやすく解説!

この記事では「武陵桃源」について解説する。

端的に言えば武陵桃源の意味は「俗世間からかけはなれた平和な別天地であり、理想郷のこと」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

10数年間、中高生に学習指導をしているライターヤマトススムを呼んです。一緒に「武陵桃源」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/ヤマトススム

10数年の学習指導の経験があり、とくに英語と国語を得意とする。これまで生徒たちを難関高校や難関大学に導いてきた。

「武陵桃源」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「武陵桃源」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。読み方は「ぶりょうとうげん」です。意味ばかりではなく、語源や使い方まで全体的にチェックしていくことで理解が深まりますよ。

「武陵桃源」の意味は?

「武陵桃源」には、次のような意味があります。四字熟語としての意味合いをチェックしたあとに、漢字それぞれの意味合いもあわせてみていきましょう。

1.俗世間からかけ離れた平和な別天地、理想郷のこと。

出典:新明解四字熟語辞典(三省堂)「武陵桃源」

四字熟語の前半の「武陵」とは長江(ちょうこう)中流付近に位置する中国湖南(こなん)省にある地名のこと、「桃源」は世俗を離れた平和な別天地のことを表しています。理想郷のことで「桃源」や「桃源郷」と言われることもありますよ

この理想郷とは、どちらかというと逃避の発想から生まれたものとされています。一方、「ユートピア思想」はイギリスの思想家トマス・モアの著作『ユートピア』がもとになっており、理想社会を実現するための考え方です。「桃源郷」と「ユートピア思想」は似ているようですが、考えの根本は違っています。

「武陵桃源」の語源は?

次に「武陵桃源」の語源を確認しておきましょう。

「武陵桃源」は中国の東晋の時代に陶潜(とうせん)によって書かれた『桃花源記(とうかげんのき)』に由来します。そこには、次のように書かれていますよ。

武陵(ぶりょう)の漁師が、桃の木の林で迷った末に洞穴を抜けると不思議な村に出ます。そこにいた村人たちは、秦の始皇帝の圧政を逃れた先祖をもつ者ばかりであり、外の世界と隔絶して生活しているということでした。そこでもてなしを受けたあとに一旦戻り、もう一度そこへ向かおうとするも見つけることができなかったという話です。

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