この記事では「極相種」をテーマにみていきたいとおもう。

この極相種という言葉は、高校生物基礎の終盤、生態系について学ぶところで知るはずが、これを理解するには、極相や遷移といった他の用語も知っておく必要がある。関連知識も抑えながら、極相種の例を紹介してもらおう。

今回も、大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

極相種とは

まずは今回のテーマである極相種(きょくそうしゅ)の定義を確認しましょう。

極相種とは、”極相”の状態となっている環境に生息する生物のことをさします。そんなわけで、極相種について詳しく見る前に、極相とは何なのかを知っておかなくてはいけません。

極相とは

極相とは、生物の群集が遷移(せんい)を経てたどり着く、安定な状態のことを言います。とくに植物について使われることが多い言葉です。

ある土地に生えている植物の構成=植生は、時間の経過とともに移り変わっていきます。なにかしらの植物が生育すると、その土地の光環境や土壌の成分などに変化が生じ、それまで見られなかった植物が生えるようになったり、生えていた植物がその環境に合わなくなったりするのです。このような植生の変化を遷移といいます。

植生が極相の状態に達している場所では、局所的な(小さな)変化はあっても、全体の植生ががらりと変わってしまうような変化はなかなか起きません。何十年、何百年も植生が変わらず、長い期間維持されます。

image by iStockphoto

気温や降水量が十分にある環境では、極相は森林になることが多く、極相林と呼ばれます。私たちが住む日本も、植生は最終的に極相林に行き着くことが多い土地です。

植物の生えていない荒れ地から極相林が成立するまでは、どんな過程をたどるのでしょうか?

極相林ができるまでの植生遷移

火山の噴火によって溶岩に覆われた土地や、海中から出現した新しい土地など、陸上生物がほとんど生息していないような土地を裸地といいます。

裸地は栄養に乏しいのに加え、日光を遮るものがないため、貧栄養や高温に耐えられる植物しか生えることができません。そのため、厳しい環境でも生育できる地衣類やコケ類などが初めに侵入してくることが多く、そのような植物を先駆種(パイオニア種)といいます。

\次のページで「日本で見られる極相種」を解説!/

先駆種が増えて土壌が形成されると、少しずつ草本類が増え、草原ができていきます。さらに遷移が進むとヤシャブシやツツジなどの低木林が成立。背の低い樹が生え始めるとそれまで以上に土壌が豊かになり、水分も保持されるようになっていきます。

そして、低木林の間に少しずつ背の高くなる陽樹が生え始めると、次第に陽樹からなる陽樹林という環境が形成されていくのです。

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陽樹とは、樹木の中でも生育にたくさんの日光を必要とするものです。前述のヤシャブシやツツジのなかまも陽樹ですね。高木がそれほど多くない環境では、土壌まで十分に日光が届くため、陽樹がどんどん成長するのです。

しかしながら、時間がたって立派な陽樹林ができると、林床まで日光が届かなくなり、陽樹の幼木が成長しにくくなります。

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さらに時間が経過すると、陽樹と陰樹が混在する混交林になっていきます。

陰樹とは、弱い光でも成長できる樹種のこと。背の高い陽樹で埋め尽くされた林の薄暗い林床に芽生えても、幼木が枯れずに育つことができます。

image by Study-Z編集部

こうして、陽樹ばかりだった森林が少しずつ陰樹に置き換わり、混交林を経て、最終的には陰樹の林、陰樹林が成立。陰樹林の林床で陽樹は育ちにくいため、それ以上の遷移がほとんど起きなくなります。

つまり、日本のように森林が成立する環境では、陰樹林が極相になることが多い、と言い換えることができるのです。

日本で見られる極相種

少々長くなりましたが、「日本のような極相が森林になる(極相林がみられる)土地の場合、極相種は陰樹が多い」ということがお分かりいただけたかと思います。

それでは、実際にどんな種が極相種となるのかをご紹介しましょう。極相種はその土地の気候によっても大きく変わりますが、今回は日本の森林で見られる極相種をいくつかあげてみたいと思います。

\次のページで「ブナ」を解説!/

ブナ

ブナはブナ科の落葉広葉樹。白っぽさのある樹皮と緑の葉が美しく、多くの人々から愛されている樹木です。このブナは、幼木が日陰でも育ちやすい、陰樹らしい性質をもっています。

皆さんは、秋田県と青森県にまたがる白神山地をご存じでしょうか?人為的なかく乱を逃れた、世界最大級のブナ林が広がる自然豊かな環境で、世界自然遺産にも登録されている地域です。白神山地のブナ林は非常に古くからあり、なんと縄文時代のころから手が付けられていないといわれています。

image by iStockphoto

ブナ林が極相林でなかったら、自然に他の樹種に置き換わっていくはずですよね。ブナは北日本で、極相林を構成する極相種の代表的な存在なのです。

ミズナラ

ミズナラはブナと同じブナ科の落葉広葉樹です。細長い形のドングリをつけるので、「樹はわからなくてもドングリは見たことある」という人もいるかもしれませんね。

国内では北海道から九州まで広く分布していますが、寒冷な気候を好むため、標高のやや高いところで見られることが多い樹木です。

スダジイ

スダジイもブナ科の落葉広葉樹で、やはりドングリをつける種です。

ドングリとは、一般的にはブナ科の樹木が付ける果実のことを指します。ドングリには栄養がたっぷりと含まれており、芽が出てもすぐに光合成が必要なく、蓄えられた栄養を使って成長することができるんです。そのため、日陰でも育つことができる、ブナ科に極相種が多いということになるのでしょう。

タブノキ

タブノキはクスノキ科に属する常緑樹です。本州から四国、九州、沖縄まで広く見られます。海岸近くに生えていることが多く、ときに30メートルほどにもなる高木です。極相の照葉樹林を構成する主な樹木として知られています。

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極相種がわかると森を見るのが楽しい

今回は極相という考え方や、極相種の例をご紹介しました。

地域に古くから伝わっている森林や、長いこと植生が変わっていない場所を見れば、その土地の極相種が大体わかってきます。反対に、極相種ばかりで構成されている森林を見れば、その森が長い期間を経て成立してきたものだということがわかるのです。とくに極相林は、自然に成立するまでには大変な年月を必要とします。

適切な気温と降水量のある日本は、ほとんどの場所で森林が成立する、とても環境に恵まれた国です。ぜひ植物図鑑片手に、お住いの近くの森林を探検してみてくださいね。

イラスト使用元:いらすとや

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理科生態系生物

「極相種」って何のこと?日本で見られる例もあわせて現役講師がわかりやすく解説!

この記事では「極相種」をテーマにみていきたいとおもう。

この極相種という言葉は、高校生物基礎の終盤、生態系について学ぶところで知るはずが、これを理解するには、極相や遷移といった他の用語も知っておく必要がある。関連知識も抑えながら、極相種の例を紹介してもらおう。

今回も、大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

極相種とは

まずは今回のテーマである極相種(きょくそうしゅ)の定義を確認しましょう。

極相種とは、”極相”の状態となっている環境に生息する生物のことをさします。そんなわけで、極相種について詳しく見る前に、極相とは何なのかを知っておかなくてはいけません。

極相とは

極相とは、生物の群集が遷移(せんい)を経てたどり着く、安定な状態のことを言います。とくに植物について使われることが多い言葉です。

ある土地に生えている植物の構成=植生は、時間の経過とともに移り変わっていきます。なにかしらの植物が生育すると、その土地の光環境や土壌の成分などに変化が生じ、それまで見られなかった植物が生えるようになったり、生えていた植物がその環境に合わなくなったりするのです。このような植生の変化を遷移といいます。

植生が極相の状態に達している場所では、局所的な(小さな)変化はあっても、全体の植生ががらりと変わってしまうような変化はなかなか起きません。何十年、何百年も植生が変わらず、長い期間維持されます。

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気温や降水量が十分にある環境では、極相は森林になることが多く、極相林と呼ばれます。私たちが住む日本も、植生は最終的に極相林に行き着くことが多い土地です。

植物の生えていない荒れ地から極相林が成立するまでは、どんな過程をたどるのでしょうか?

極相林ができるまでの植生遷移

火山の噴火によって溶岩に覆われた土地や、海中から出現した新しい土地など、陸上生物がほとんど生息していないような土地を裸地といいます。

裸地は栄養に乏しいのに加え、日光を遮るものがないため、貧栄養や高温に耐えられる植物しか生えることができません。そのため、厳しい環境でも生育できる地衣類やコケ類などが初めに侵入してくることが多く、そのような植物を先駆種(パイオニア種)といいます。

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