熱力学恒等式について
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系が平衡上からそれにごく近い平衡状態へわずかに変化する間に外から受け取る熱dQと外にする仕事dwの差は内部エネルギーの変化dUに等ししく、状態変化によってきまった量になりますが、dQとdwのそれぞれは変化の起こり方によって違います。温度Teの環境と熱のやりとりをする場合、エントロピーの変化がdSであれば10式と11式になりますので、出てくるのが12式と13式です。
つまりdQとdwとは差が決まっているだけでなく、その値にはそれぞれ状態量の差によってきまる上限がありることになります。この上限の値になるのは準静的変化の極限です。準静的変化では系の温度Tが環境の温度Teに等しくなければならないので、このときの熱をdQr、仕事をdwrとすると、14式と15式になります。
この場合には、熱も仕事も終わりと初めの状態の内部エネルギーのdUとエントロピーの差dSとできまってしまうのです。つまり、微小変化を考える場合に、それが準静的変化であれば熱も仕事も状態変化によってきまった値になります。等方的で一様な物質であれば、準静的な仕事は系の圧力をp、体積をVとすると16式になりますので、dU、dS、dVの間には17式の関係が成り立つでしょう。これを熱力学恒等式と呼びます。
状態変数について
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あるきまった量の等方的で一様な物質の状態は2つの状態量の値を指定すれば決まってしまうので、それ以外の状態量はこの状態量の関数として表せることになります。このようにどの状態であるかを特定するために用いる状態量を、独立の状態変数と呼ぶことにしましょう。そこで、状態量SとVを独立の状態変数として用いることにすれば、上記18式のように他の状態量、たとえば内部エネルギーUはSとVの関数として表せます。
SとVがそれぞれdSとdVだけ違う状態を考えれば、内部エネルギーの違いdUは19式で与えられるはずです。これを前節の17式と見比べれば、20式と21式との関係が得られます。これら二つの式に出てきたSに関する微分や、Sを一定に保つ微分の意味を少しくわしく見てみましょう。Vが同じでSがdSだけ違う状態の間で、ある状態量Jがどれだけ違うかというとdJは22式で与えられます。
この状態の間を系が準静的変化で移ったとすると系の温度をTとして、TdSに等しい熱dQrが加わるので23式と24式になり、式のdQrの係数は系が体積を一定に保ちながら準静的に変化したときの熱量によるJの変化率を与えることがわかるでしょう。また、Sが同じでVが違う状態の間を準静的に変化したと考えれば25式になりますので、この変化は準静的断熱変化です。
よって式は準静断熱的に膨張または収縮したときの、体積変化に対する状態量Jの変化率を与えます。たとえばJとして圧力pを考えますと、26式は(準静)断熱体積率ksです。
熱力学関数
熱力学恒等式のところで少し紹介したように、熱力学はギブスの自由エネルギーやエンタルピーを含め、他の変数でそれぞれの量を表し(これを熱力学関数といいます)、さらに偏微分でそれぞれの量をつなぐという構造があります。ヘルツホルムの自由エネルギーは、内部エネルギーから温度とエントロピーの積を引くというのは、物理的な意味をイメージするのは大変でしょう。
最初にも言いしましたが、熱力学の数理的構造を綺麗にするために必要だと思ったほうがわかりやすいような気がします。ギブスの自由エネルギーやエンタルピーも同様です。