自由エネルギーは数理的に理解するほうがすっきりすると思う。熱力学関数の導入として熱力学恒等式にもふれておこう。
今回は物理学科出身のライター・トオルさんと解説していきます。
ライター/トオル
物理学科出身のライター。広く科学一般に興味を持つ。初学者でも理解できる記事を目指している。
ヘルムホルツの自由エネルギーと熱力学恒等式
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ヘルツホルムの自由エネルギーはなかなかややこしい概念です。ギブスの自由エネルギーやエンタルピーなどと、どれがどれかがすぐにわからなくなります。物理的なイメージより熱力学を数理的に綺麗な形にするために便利な概念と割り切ったほうがよいのではないでしょうか。そのこともあり今回はやや数学的な記事になっています。数式は多いですが、一つ一つの式は簡単なものばかりですのでそれほど難しくはないはずです。
熱力学第一法則について
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熱力学の第一法則によれば、状態が変化する間に系が外にする仕事をwとし、外から受け取る熱をQとすると内部エネルギーの変化ΔUは上記の1式です。式からわかるように、もし断熱的に起こればQ=0であるので、系が外に対していする仕事は系の内部エネルギーの減少量に等しいので、2式になります。
もともとエネルギーは仕事をする能力のことであり、断熱的変化であれば内部エネルギーは確かに仕事をする能力を表すといってよいでしょう。しかし、熱の出入りがあるときは内部エネルギーの変化は仕事と熱の両方に関係するので、内部エネルギーをそのまま仕事をする能力と考えるわけにはいきません。
そこで熱の出入りがある場合に仕事をする能力は何で表されるか考えてみましょう。
一定の温度環境の場合について
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系が一定の温度の環境と熱のやりとりをしながら変化する場合を考えてみましょう。環境の温度をTeとし、系は初めと終わりには環境と等温になるが変化の途中では等温でなくてもよいとします。系の内部エネルギーが初めU1で終わりにU2になったとすると、1式によりでてくるのが上記の3式がです。
また、系のエントロピーが初めにS1で終わりにS2になったとすれば、系と環境のエントロピーの合計は時間とともに増加するので4式になります。3式と4式によりでてくるのが5式で、変形したものが6式です。6式の右辺は7式という量の初めと終わりでの値をF1とF2とすると8式になります。8式からわかるように、外への仕事wの上限はFの減少量に等しいということです。
ヘルツホルムの自由エネルギーについて
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仕事が最大になるのは変化が可逆的な場合であって、不可逆的であるとこれより減ってしまいます。このことから、一定の温度の環境の下で変化が起こる場合には、Fが仕事をする能力を表すのにふさわしい量であることがわかるでしょう。Fは内部エネルギーUからTSを差し引いたもので、一定温度の環境で変化が起こる場合に、Uのうち仕事として自由に使える部分と考えられる量です。この量をヘルツホルムの自由エネルギーと呼びます。
不可逆変化であると外への仕事が減ってしまうのはなぜなのでしょう。系のエントロピーがS1からS2に変わるため、系は環境と熱のやりとりをしなけらばなりません。ところで、不可逆な変化があるとエントロピーの生成が起こるので、環境から受け取るエントロピーは少なくてよいことになります。
したがって、環境から受け取る熱が減る分だけ仕事も減ってしまうのです。実際、4式から上記の9式が導けます。この9式より、環境から受け取る熱Qも可逆的変化の場合に最大になることがわかるでしょう。
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