今回はヘルムホルツの自由エネルギーと熱力学恒等式について解説していきます。

自由エネルギーは数理的に理解するほうがすっきりすると思う。熱力学関数の導入として熱力学恒等式にもふれておこう。

今回は物理学科出身のライター・トオルさんと解説していきます。

ライター/トオル

物理学科出身のライター。広く科学一般に興味を持つ。初学者でも理解できる記事を目指している。

ヘルムホルツの自由エネルギーと熱力学恒等式

image by iStockphoto

ヘルツホルムの自由エネルギーはなかなかややこしい概念です。ギブスの自由エネルギーやエンタルピーなどと、どれがどれかがすぐにわからなくなります。物理的なイメージより熱力学を数理的に綺麗な形にするために便利な概念と割り切ったほうがよいのではないでしょうか。そのこともあり今回はやや数学的な記事になっています。数式は多いですが、一つ一つの式は簡単なものばかりですのでそれほど難しくはないはずです。

熱力学第一法則について

熱力学第一法則について

image by Study-Z編集部

熱力学の第一法則によれば、状態が変化する間に系が外にする仕事をwとし、外から受け取る熱をQとすると内部エネルギーの変化ΔUは上記の1式です。式からわかるように、もし断熱的に起こればQ=0であるので、系が外に対していする仕事は系の内部エネルギーの減少量に等しいので、2式になります。

もともとエネルギーは仕事をする能力のことであり、断熱的変化であれば内部エネルギーは確かに仕事をする能力を表すといってよいでしょう。しかし、熱の出入りがあるときは内部エネルギーの変化は仕事と熱の両方に関係するので、内部エネルギーをそのまま仕事をする能力と考えるわけにはいきません。

そこで熱の出入りがある場合に仕事をする能力は何で表されるか考えてみましょう。

一定の温度環境の場合について

一定の温度環境の場合について

image by Study-Z編集部

系が一定の温度の環境と熱のやりとりをしながら変化する場合を考えてみましょう。環境の温度をTeとし、系は初めと終わりには環境と等温になるが変化の途中では等温でなくてもよいとします。系の内部エネルギーが初めU1で終わりにU2になったとすると、1式によりでてくるのが上記の3式がです。

また、系のエントロピーが初めにS1で終わりにS2になったとすれば、系と環境のエントロピーの合計は時間とともに増加するので4式になります。3式と4式によりでてくるのが5式で、変形したものが6式です。6式の右辺は7式という量の初めと終わりでの値をF1とF2とすると8式になります。8式からわかるように、外への仕事wの上限はFの減少量に等しいということです。

ヘルツホルムの自由エネルギーについて

ヘルツホルムの自由エネルギーについて

image by Study-Z編集部

仕事が最大になるのは変化が可逆的な場合であって、不可逆的であるとこれより減ってしまいます。このことから、一定の温度の環境の下で変化が起こる場合には、Fが仕事をする能力を表すのにふさわしい量であることがわかるでしょう。Fは内部エネルギーUからTSを差し引いたもので、一定温度の環境で変化が起こる場合に、Uのうち仕事として自由に使える部分と考えられる量です。この量をヘルツホルムの自由エネルギーと呼びます。

不可逆変化であると外への仕事が減ってしまうのはなぜなのでしょう。系のエントロピーがS1からS2に変わるため、系は環境と熱のやりとりをしなけらばなりません。ところで、不可逆な変化があるとエントロピーの生成が起こるので、環境から受け取るエントロピーは少なくてよいことになります。

したがって、環境から受け取る熱が減る分だけ仕事も減ってしまうのです。実際、4式から上記の9式が導けます。この9式より、環境から受け取る熱Qも可逆的変化の場合に最大になることがわかるでしょう。

\次のページで「熱力学恒等式について」を解説!/

熱力学恒等式について

熱力学恒等式について

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系が平衡上からそれにごく近い平衡状態へわずかに変化する間に外から受け取る熱dQと外にする仕事dwの差は内部エネルギーの変化dUに等ししく、状態変化によってきまった量になりますが、dQとdwのそれぞれは変化の起こり方によって違います。温度Teの環境と熱のやりとりをする場合、エントロピーの変化がdSであれば10式と11式になりますので、出てくるのが12式と13式です。

つまりdQとdwとは差が決まっているだけでなく、その値にはそれぞれ状態量の差によってきまる上限がありることになります。この上限の値になるのは準静的変化の極限です。準静的変化では系の温度Tが環境の温度Teに等しくなければならないので、このときの熱をdQr、仕事をdwrとすると、14式と15式になります。

この場合には、熱も仕事も終わりと初めの状態の内部エネルギーのdUとエントロピーの差dSとできまってしまうのです。つまり、微小変化を考える場合に、それが準静的変化であれば熱も仕事も状態変化によってきまった値になります。等方的で一様な物質であれば、準静的な仕事は系の圧力をp、体積をVとすると16式になりますので、dU、dS、dVの間には17式の関係が成り立つでしょう。これを熱力学恒等式と呼びます。

状態変数について

状態変数について

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あるきまった量の等方的で一様な物質の状態は2つの状態量の値を指定すれば決まってしまうので、それ以外の状態量はこの状態量の関数として表せることになります。このようにどの状態であるかを特定するために用いる状態量を、独立の状態変数と呼ぶことにしましょう。そこで、状態量SとVを独立の状態変数として用いることにすれば、上記18式のように他の状態量、たとえば内部エネルギーUはSとVの関数として表せます。

SとVがそれぞれdSとdVだけ違う状態を考えれば、内部エネルギーの違いdUは19式で与えられるはずです。これを前節の17式と見比べれば、20式と21式との関係が得られます。これら二つの式に出てきたSに関する微分や、Sを一定に保つ微分の意味を少しくわしく見てみましょう。Vが同じでSがdSだけ違う状態の間で、ある状態量Jがどれだけ違うかというとdJは22式で与えられます。

この状態の間を系が準静的変化で移ったとすると系の温度をTとして、TdSに等しい熱dQrが加わるので23式と24式になり、式のdQrの係数は系が体積を一定に保ちながら準静的に変化したときの熱量によるJの変化率を与えることがわかるでしょう。また、Sが同じでVが違う状態の間を準静的に変化したと考えれば25式になりますので、この変化は準静的断熱変化です。

よって式は準静断熱的に膨張または収縮したときの、体積変化に対する状態量Jの変化率を与えます。たとえばJとして圧力pを考えますと、26式は(準静)断熱体積率ksです。

熱力学関数

熱力学恒等式のところで少し紹介したように、熱力学はギブスの自由エネルギーやエンタルピーを含め、他の変数でそれぞれの量を表し(これを熱力学関数といいます)、さらに偏微分でそれぞれの量をつなぐという構造があります。ヘルツホルムの自由エネルギーは、内部エネルギーから温度とエントロピーの積を引くというのは、物理的な意味をイメージするのは大変でしょう。

最初にも言いしましたが、熱力学の数理的構造を綺麗にするために必要だと思ったほうがわかりやすいような気がします。ギブスの自由エネルギーやエンタルピーも同様です。

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熱力学物理理科

「ヘルムホルツ」の自由エネルギーと熱力学恒等式について理系ライターが丁寧にわかりやすく解説

今回はヘルムホルツの自由エネルギーと熱力学恒等式について解説していきます。

自由エネルギーは数理的に理解するほうがすっきりすると思う。熱力学関数の導入として熱力学恒等式にもふれておこう。

今回は物理学科出身のライター・トオルさんと解説していきます。

ライター/トオル

物理学科出身のライター。広く科学一般に興味を持つ。初学者でも理解できる記事を目指している。

ヘルムホルツの自由エネルギーと熱力学恒等式

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ヘルツホルムの自由エネルギーはなかなかややこしい概念です。ギブスの自由エネルギーやエンタルピーなどと、どれがどれかがすぐにわからなくなります。物理的なイメージより熱力学を数理的に綺麗な形にするために便利な概念と割り切ったほうがよいのではないでしょうか。そのこともあり今回はやや数学的な記事になっています。数式は多いですが、一つ一つの式は簡単なものばかりですのでそれほど難しくはないはずです。

熱力学第一法則について

熱力学第一法則について

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熱力学の第一法則によれば、状態が変化する間に系が外にする仕事をwとし、外から受け取る熱をQとすると内部エネルギーの変化ΔUは上記の1式です。式からわかるように、もし断熱的に起こればQ=0であるので、系が外に対していする仕事は系の内部エネルギーの減少量に等しいので、2式になります。

もともとエネルギーは仕事をする能力のことであり、断熱的変化であれば内部エネルギーは確かに仕事をする能力を表すといってよいでしょう。しかし、熱の出入りがあるときは内部エネルギーの変化は仕事と熱の両方に関係するので、内部エネルギーをそのまま仕事をする能力と考えるわけにはいきません。

そこで熱の出入りがある場合に仕事をする能力は何で表されるか考えてみましょう。

一定の温度環境の場合について

一定の温度環境の場合について

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系が一定の温度の環境と熱のやりとりをしながら変化する場合を考えてみましょう。環境の温度をTeとし、系は初めと終わりには環境と等温になるが変化の途中では等温でなくてもよいとします。系の内部エネルギーが初めU1で終わりにU2になったとすると、1式によりでてくるのが上記の3式がです。

また、系のエントロピーが初めにS1で終わりにS2になったとすれば、系と環境のエントロピーの合計は時間とともに増加するので4式になります。3式と4式によりでてくるのが5式で、変形したものが6式です。6式の右辺は7式という量の初めと終わりでの値をF1とF2とすると8式になります。8式からわかるように、外への仕事wの上限はFの減少量に等しいということです。

ヘルツホルムの自由エネルギーについて

ヘルツホルムの自由エネルギーについて

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仕事が最大になるのは変化が可逆的な場合であって、不可逆的であるとこれより減ってしまいます。このことから、一定の温度の環境の下で変化が起こる場合には、Fが仕事をする能力を表すのにふさわしい量であることがわかるでしょう。Fは内部エネルギーUからTSを差し引いたもので、一定温度の環境で変化が起こる場合に、Uのうち仕事として自由に使える部分と考えられる量です。この量をヘルツホルムの自由エネルギーと呼びます。

不可逆変化であると外への仕事が減ってしまうのはなぜなのでしょう。系のエントロピーがS1からS2に変わるため、系は環境と熱のやりとりをしなけらばなりません。ところで、不可逆な変化があるとエントロピーの生成が起こるので、環境から受け取るエントロピーは少なくてよいことになります。

したがって、環境から受け取る熱が減る分だけ仕事も減ってしまうのです。実際、4式から上記の9式が導けます。この9式より、環境から受け取る熱Qも可逆的変化の場合に最大になることがわかるでしょう。

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