この記事では「飛沫感染」をテーマに見ていきたいと思う。

感染症は人々の生活を脅かす、人類にとっての脅威である。科学の発展で対処法や治療法はかなりわかるようになってきたが、それ以上に暮らしている一人一人が感染症を理解し、その拡大防止に努めることが何よりも大切です。しっかり学んでほしい。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

感染症と感染経路

感染症とは、ウイルスや細菌といった病原体が体に侵入することで引き起こされる病気のことを指します。いわゆる”普通の風邪”や食中毒、インフルエンザ、麻疹、コレラなど、身近なものから命にかかわる病気まで様々です。

感染症の原因である病原体が、感染力の強いものだったり、伝播しやすいものだったりすると、その感染症が多くの人々の間で広まることもあります。伝染病などと呼ばれることもありますね。

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そして、「感染症がどのようにして伝染していくか」という過程を感染経路といいます。感染症が蔓延しないようコントロールするためには、それぞれの感染症の感染経路を把握することが重要です。

感染経路の種類

一般的な感染経路は、以下の4つに大きく分けることができます。

・経口感染

・接触感染

・飛沫感染

・空気感染

今回は、この4つのうちの一つである飛沫感染について詳しくみていきたいと思います。

\次のページで「飛沫感染」を解説!/

飛沫感染

飛沫感染(ひまつかんせん)は、既に病原体に感染している人の飛ばしたしぶき(つばや鼻水)=飛沫が飛び散ることで、感染が広がる経路のことをさします。

咳やくしゃみなどで病原体を含んだ飛沫が発生し、近くにいる人がその飛沫を吸い込んだり、目や鼻の粘膜部分に飛沫が付着することで伝染していくのです。

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飛沫は直径が5マイクロメートルより大きい粒子とされます。5マイクロメートルより大きい飛沫は1~2メートルほどの範囲で床に落下することがほとんどなので、飛沫の飛びうる距離以上に離れていれば、感染者から飛沫感染することは基本的にありません。

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ただし、激しくくしゃみをした場合などは、より遠くまで飛沫が飛ぶことがあります。ときには10メートルくらいまで飛沫が届くこともあるというので、注意が必要ですね。

また、換気の悪い部屋にたくさんの人がいて、それぞれがマスクをせず会話し続けている…というような環境だと、たくさんの飛沫が飛び交う状況となるため、通常よりも感染しやすくなるといわれています。

換気状況や他人との距離などをしっかり見極めないと、「絶対に感染しない」とは言えないのです。

飛沫感染する感染症

それでは、飛沫感染する病気にはどんなものがあるのでしょうか?

一般的な風邪

日常生活を送る中でかかることのある風邪。一般的に言われる風邪とは、ウイルスや細菌など様々な病原体が原因です。基本的には飛沫感染するといわれています。

\次のページで「インフルエンザ」を解説!/

インフルエンザ

毎年寒くなると流行するインフルエンザも、飛沫感染によって伝染する病気の代表的なものです。咳やくしゃみをしている人は、他の人に移さないよう十分注意しましょう。

インフルエンザウイルスは乾燥に強く、寒く乾燥した環境下では空気感染(後述)する可能性があるとも言います。インフルエンザらしい症状が出たら、会社や学校には行かないようにしなくてはいけません。

百日咳

百日咳は、百日咳菌という細菌が原因で起きる感染症です。短い咳や、「ヒューヒュー」と音のする呼吸になってしまう症状が特徴で、100日(約3か月)ほども続くことからこのような名前があります。

幼少時にワクチンを接種するので、昔よりはり患者が減っていますが、免疫を獲得する前の乳幼児や、ワクチンの効果が薄れてしまった大人が感染することが増えている感染症です。

マイコプラズマ肺炎

肺炎マイコプラズマが感染することで引き起こされるのがマイコプラズマ肺炎です。軽い風邪のような症状で終わることもあれば、肺炎の症状を呈することもあります。子供や小中学生くらいに多い感染症です。

飛沫感染と空気感染の違い

飛沫感染と空気感染は混同されがちです。どちらも、手で病原体に触れたり、病原体の混入した飲食物を接種するわけでもないのに、いつの間にか病原体が体内に侵入する経路だからでしょう。

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口や鼻からでた飛沫のうち小さなもの(おおむね5マイクロメートル以下)は、軽いためなかなか床に落ちず、空間を漂う時間が長くなります。また、空気中を漂ううちに水分が蒸発したものは、飛沫のなかに含まれていた病原体が残り、やはり空間を漂うのです。

空間を漂っていても感染力を失わないような強い病原体は、呼吸で吸い込まれる空気とともに新しい宿主の体に侵入し、感染します。これが空気感染です。

\次のページで「飛沫感染の予防方法」を解説!/

空気感染する病原体としては、麻疹ウイルス結核菌水痘ウイルスなどがあります。これらの病原体は空気中に漂っていても感染力を失いません。そのため、部屋を分けて治療したり、病院では陰圧室を使ったりする必要があるのです。

飛沫感染の予防方法

飛沫感染によって感染症を広げないためには、「患者が飛沫を飛ばさない」ことと、「周囲が飛沫に近づかない」ことが重要になります。

風邪をひいているなど、病原体をもっている人はマスクを着用しましょう。また、やたらとしゃべったりしない、換気の悪いところで他人と長く過ごさないなど、飛沫をなるべく他人にまき散らさないよう気を付けることが大切です。

また、感染症にかかっていない人は、感染症の人と距離をとることを意識しなくてはなりません。2020年は「ソーシャルディスタンス」という言葉が話題となっていますが、体調の悪い人はきちんとそれを周知し、周りもむやみに近づかないよう気を付ける、という配慮が必要ですね。

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さらに気を付けたいのが、くしゃみや咳をする際に素手で口を覆ってしまい、飛沫のついたてで他の物を触ってしまうことです。同じものを他の人が触り、そこから病原体が伝播していく接触感染が生じる可能性があります。

「咳エチケット」は、咳やくしゃみをするときに飛沫を飛ばさないようにするマナーですが、素手で手を覆うことなく、腕やハンカチなどを当てて、しぶきを飛ばさないよう工夫しましょう。

感染症を知ることはとても大切

その昔、感染症が細菌やウイルスによるものだとわかっていなかった時代には、間違った対策方法がとられ、数えきれないほどの人が犠牲になることもしばしばでした。

現代では、病原体の正体や感染経路がわかるようになり、私たちができる対策も具体的に考えられるようになっています。感染症の流行は、いついかなる時に生じるかわからないもの。感染経路や対策をしっかりと覚え、いざというときに使える知識にしておきましょう。

イラスト使用元:いらすとや

" /> 病原体の感染経路の一つ「飛沫感染」を知ろう!現役講師がわかりやすく解説! – Study-Z
理科環境と生物の反応生物

病原体の感染経路の一つ「飛沫感染」を知ろう!現役講師がわかりやすく解説!

この記事では「飛沫感染」をテーマに見ていきたいと思う。

感染症は人々の生活を脅かす、人類にとっての脅威である。科学の発展で対処法や治療法はかなりわかるようになってきたが、それ以上に暮らしている一人一人が感染症を理解し、その拡大防止に努めることが何よりも大切です。しっかり学んでほしい。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

感染症と感染経路

感染症とは、ウイルスや細菌といった病原体が体に侵入することで引き起こされる病気のことを指します。いわゆる”普通の風邪”や食中毒、インフルエンザ、麻疹、コレラなど、身近なものから命にかかわる病気まで様々です。

感染症の原因である病原体が、感染力の強いものだったり、伝播しやすいものだったりすると、その感染症が多くの人々の間で広まることもあります。伝染病などと呼ばれることもありますね。

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そして、「感染症がどのようにして伝染していくか」という過程を感染経路といいます。感染症が蔓延しないようコントロールするためには、それぞれの感染症の感染経路を把握することが重要です。

感染経路の種類

一般的な感染経路は、以下の4つに大きく分けることができます。

・経口感染

・接触感染

・飛沫感染

・空気感染

今回は、この4つのうちの一つである飛沫感染について詳しくみていきたいと思います。

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