輪ゴムを引っ張ったら、引っ張った伸びると同時に細くなる。ゴムは長さ方向に伸びたら、それを埋め合わせるかのごとく太さ方向には縮む性質があるからです。伸びた分他の方向に縮むのは当たり前じゃないのか?と思われるがそうでもない。
例えば、コルクは瓶の口から引っ張ても簡単には抜けてくれいない。長さ方向に伸びても太さ方向にはあまり縮んでくれないから。上記の太さ方向への縮み具合にはポアソン比の概念が関係している。理系ライターのR175が初心者目線で解説していく。

ライター/R175

関西のとある国立大の理系出身。学生時代は物理が得意で理科の高校理科の教員免許も持っている。エンジニアの経験があり、教科書の内容に終わらず実際の現象と関連付けて説明するのが得意。

1.ポアソン比を簡単に言うと

image by iStockphoto

上述の通り、ある方向に引っ張った時他方向への圧縮される比率を表すのがポアソン比です。ゴムのように引っ張ると細くなる物質はポアソン比が大きく、コルクのようにあまり細くならない物質はポアソン比が小さい。端的に言うと上記の理解でよいでしょう。

2.本記事でのポアソン比解説スタンス

ポアソン比は現象としてはかなり身近なのに、実際使用するのは機械設計の技術者の方たち。「縦弾性ひずみをε1として、横弾性ひずみをε2として、ε2/ε1は、」といった難解な解説。玄人の方が、ポアソン比の定義を確認するには便利でしょうが。

また、ポアソン比の値が取る範囲は決まってますが、それを厳密に説明しようとすると、ひずみエネルギーの話を持ってくる必要があり、難解になりがち。一般的なポアソン比解説では、世の中に滅多に存在しない「負のポアソン比の物質」も考慮しているから。「負のポアソン比」の物質は、長さ方向に引っ張った時に太さ方向にも伸びる、つまり太くなることを意味します。非常に特殊なケースです。本記事では、説明を簡単にするためこのような特殊なケースは一旦置いておきます。ポアソン比が正(引っぱったら細くなる)の場合に限って解説としましょう。

ポアソン比はだいたい似たような値

ポアソン比はだいたい似たような値

image by Study-Z編集部

ポアソン比解説記事でこう書いてしまうと身も蓋もないですが、ポアソン比は知らなくても意外と何とかなります。各物質のポアソン比を見てみましょう。ゴムが0.5と高くて、コルクがほぼ0であることを除けばだいたい0.3~0.4程度に集中していることが分かります。どんな物質も引っ張ればある程度細くなるということで、その性質にはあまり差が見られません。材質が変わってもあまり値が変わらない。だいたい0.3~0.4としておけば大きくは外さないということで金属やプラスチックやら一般的な材料で設計している限り、あまり深く考える機会がないのです。

力をかけていない方向への変形

ポアソン比が絡むのは、荷重や応力がかかっている方向と垂直な方向。通常、強度計算で考えるのは力と同じ方向であることが多く、この場合ポアソン比が登場しない。したがって、見過ごされがちな存在なのです。

単純化して解説

以上、ポアソン比はほとんどの物質で0~0.5になることからこの範囲のみに焦点を当てます。

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3.引張時の長さと太さの変化

引っ張る前と後でどう変わるか考えましょう。体積は断面積×引っぱり方向の長さとし、引っぱった後、長さが1+ε倍になるとします。

1+ε倍。なぜこんな表し方?

材料力学ではよく使われる表し方。εはひずみと呼ばれるパラメータ。普通にn倍とかでいいのではないでしょうか?いいえ、それだと少し不便です。引っぱると言っても、伸びるのは極わずか。比率としては元の1.004倍とかそのレベル。

したがってn倍の考えでいくと、n=1.004といった表し方になります。これだとどう見てもn≒1。nの有効数字を4以上取らないとひずみの値が消えてしまいます。そこで、1+εのように別々の項にするわけです。そうすれば、εの有効数字が適用され小さな値でも存在感を残せますね。

4.横方向の伸びとポアソン比

引っぱり方向には元の長さ1に対しεだけ伸びる。この時太さ方向にはεのさらにν倍した分だけ縮むと考えます。太さ方向の寸法は1-νε倍になるわけです。このνの値がポアソン比。伸びに対しどれだけ細くなるかを表す指標。縮み量は伸び方向のひずみεに比例する、「伸びれば伸びるだけ細くなる」という考え方。

ポアソン比の大小と変形

ポアソン比が大きいと、伸びた時1-νεで表される太さ方向の長さも小さくなりやすい→細くなりやすい

逆にポアソン比が小さいと、εを大きくしても1-νεがさほど小さくならず→太いまま。仮にポアソン比が0なら伸びるけれと、太さは変わらないという状態。仮にポアソン比が負の値なら、長さ方向に伸びるに従って太くなるという通常は考えにくい状態。

5.伸びた後の体積

5.伸びた後の体積

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伸びる前と後で、体積はどう変わるか?伸びるんだから大きくなる?いやいや、結局ほそくなるんだから変わらない?引っぱる前の体積を1とした時、引っ張った後は何倍になるか考えていきます。

\次のページで「長さ方向の変化」を解説!/

長さ方向の変化

引張ったことで、長さは1+ε倍。

断面積の変化

ポアソン比で表すと、太さ方向は高さ、奥行きとお1-νε倍になっていますね。すると、断面積はこれらの掛け算で(1-νε)^2倍になります。

引張り後の体積計算

長さが1+ε倍で、断面積が(1-νε)^2倍なので、体積は(1+ε)(1-νε)^2。式の形からして、νを大きくすれば引っ張り後の体積は小さくなることが分かりますね。

体積が変わらない場合

体積が変わらない場合

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引っぱり後、形状は変わるけれど体積が変わらない物体もあります。体積が変わらない場合、(1+ε)(1-νε)^2=1となり、これを満たすνがポアソン比の最大値。引っぱって体積が減るということはあり得ないため、νはこれより大きくなりません。さて、上式を解いていきましょう。上述の通りεはすごく小さな値であり、それが掛かった項は≒0とみなせます。途中式はイラスト内を参照ください。このとき体積が一定に保たれるということになり、νの最大値は0.5となり、ポアソン比がこれより小さい0.2とか0.3だと引っ張ることで体積が増加することを意味します。ここでは引っ張って体積が減ることはないという仮定に基づいていますが、本当にそうなのかと気になる方はひずみエネルギーベースで考える導出方法を参照ください。

体積一定でεが大きい場合は?

体積一定でεが大きい場合は?

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上式でεが小さいのでそれが掛かった項は無視して計算しています。ではεが大きく無視できない場合はどうしましょうか?ε=1(元の長さの2倍に伸びる場合)を仮定しましょう。上式を解いていくとν=0.29であり0.5より小さくなりますね。ν=0.5は伸びが非常に小さい場合の近似値で、伸びが大きくなると小さくなる方向に行きます。

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引張時の細くなる比率

ポアソン比は、物体を引っ張った時「どれだけ細くなるか」の指標。全く細くならない場合のポアソン比が0で体積を一定に保つように細くなる場合はポアソン比が約0.5で、多くの物体のポアソン比が0~0.5の間にあります。

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物理

引っ張った物は細くなる?「ポアソン比」を理系ライターがわかりやすく解説

輪ゴムを引っ張ったら、引っ張った伸びると同時に細くなる。ゴムは長さ方向に伸びたら、それを埋め合わせるかのごとく太さ方向には縮む性質があるからです。伸びた分他の方向に縮むのは当たり前じゃないのか?と思われるがそうでもない。
例えば、コルクは瓶の口から引っ張ても簡単には抜けてくれいない。長さ方向に伸びても太さ方向にはあまり縮んでくれないから。上記の太さ方向への縮み具合にはポアソン比の概念が関係している。理系ライターのR175が初心者目線で解説していく。

ライター/R175

関西のとある国立大の理系出身。学生時代は物理が得意で理科の高校理科の教員免許も持っている。エンジニアの経験があり、教科書の内容に終わらず実際の現象と関連付けて説明するのが得意。

1.ポアソン比を簡単に言うと

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上述の通り、ある方向に引っ張った時他方向への圧縮される比率を表すのがポアソン比です。ゴムのように引っ張ると細くなる物質はポアソン比が大きく、コルクのようにあまり細くならない物質はポアソン比が小さい。端的に言うと上記の理解でよいでしょう。

2.本記事でのポアソン比解説スタンス

ポアソン比は現象としてはかなり身近なのに、実際使用するのは機械設計の技術者の方たち。「縦弾性ひずみをε1として、横弾性ひずみをε2として、ε2/ε1は、」といった難解な解説。玄人の方が、ポアソン比の定義を確認するには便利でしょうが。

また、ポアソン比の値が取る範囲は決まってますが、それを厳密に説明しようとすると、ひずみエネルギーの話を持ってくる必要があり、難解になりがち。一般的なポアソン比解説では、世の中に滅多に存在しない「負のポアソン比の物質」も考慮しているから。「負のポアソン比」の物質は、長さ方向に引っ張った時に太さ方向にも伸びる、つまり太くなることを意味します。非常に特殊なケースです。本記事では、説明を簡単にするためこのような特殊なケースは一旦置いておきます。ポアソン比が正(引っぱったら細くなる)の場合に限って解説としましょう。

ポアソン比はだいたい似たような値

ポアソン比はだいたい似たような値

image by Study-Z編集部

ポアソン比解説記事でこう書いてしまうと身も蓋もないですが、ポアソン比は知らなくても意外と何とかなります。各物質のポアソン比を見てみましょう。ゴムが0.5と高くて、コルクがほぼ0であることを除けばだいたい0.3~0.4程度に集中していることが分かります。どんな物質も引っ張ればある程度細くなるということで、その性質にはあまり差が見られません。材質が変わってもあまり値が変わらない。だいたい0.3~0.4としておけば大きくは外さないということで金属やプラスチックやら一般的な材料で設計している限り、あまり深く考える機会がないのです。

力をかけていない方向への変形

ポアソン比が絡むのは、荷重や応力がかかっている方向と垂直な方向。通常、強度計算で考えるのは力と同じ方向であることが多く、この場合ポアソン比が登場しない。したがって、見過ごされがちな存在なのです。

単純化して解説

以上、ポアソン比はほとんどの物質で0~0.5になることからこの範囲のみに焦点を当てます。

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