この記事では無性生殖をテーマに見ていこう。

生物の生殖方法は、中学校の理科でも学習する内容です。動物や植物で様々な無性生殖の方法がありますが、しっかりと覚えているでしょうか?無性生殖の例やメリット・デメリットなどをサクッとおさらいしてみよう。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

無性生殖とは

無性生殖(むせいせいしょく)とは、「配偶子(はいぐうし)が接合せずに新しい個体を生み出す生殖方法」のことです。もっと簡単に、「有性生殖以外の生殖方法」と説明されることもあります。

無性生殖について詳しく知る前に、まずは有性生殖についても理解しておきましょう。

有性生殖

有性生殖(ゆうせいせいしょく)は基本的に、「配偶子が接合することで新しい個体を生み出す生殖方法」と説明されます。

一番わかりやすいのは、私たちヒトもふくめた、雄雌のある生物の生殖でしょう。メスのつくる卵(卵細胞)とオスのつくる精子が融合して、子どもに成長する受精卵になります。

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配偶子とは生殖のための細胞、とくに、他の配偶子と接合して新しい個体になる細胞です。接合する2つの配偶子が、卵と精子のように異なる姿をしている場合、それを異形配偶子とよびます。

なお、生物によっては、接合する2つの配偶子が同じ大きさ・形のことがあります。そのような配偶子は同形配偶子というんです。

これらのような配偶子を使うことなく子どもを作りだす無性生殖には、具体的にどんなものがあるのでしょうか?

\次のページで「無性生殖の例」を解説!/

無性生殖の例

無性生殖の例をいくつか見てみましょう。代表的な生物の名前は覚えておくとよいですね。

分裂

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ある個体の体の一部が大きく分かれて、新しい個体になることを分裂といいます。分裂は代表的な無性生殖の方法です。

分裂によって数を増やす生物には、細菌類ゾウリムシアメーバミドリムシミカヅキモのような単細胞生物があります。多細胞生物ではプラナリア(ウズムシ)の分裂も有名ですね。プラナリアは再生力の強い生物として知られており、ナイフでプラナリアをばらばらに切ると、それぞれが1個体になるまで発生する、という実験もよく行われます。また、イソギンチャクなどでも分裂が起きるので覚えておきましょう。

出芽

出芽は、親となる個体の一部が膨らみ、生長して新たな個体をつくる方法です。カイメンヒドラサンゴホヤなどがよく例として挙げられます。

出芽と分裂はよく似ていて間違えやすいので、注意しておぼえましょう。出芽は体の一部が小さく突出して、それが大きくなる、という増え方。分裂の場合は、大きく2つに分かれることが多いです。

栄養生殖

植物が種子ではなく、根や茎、葉から新しい個体を生み出す生殖方法をまとめて栄養生殖といいます。

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ヤマイモオニユリむかごというものを葉の付け根につくります。むかごが地面に落ちると、そこから根や芽がでるのです。

茎や根から新しい個体をつくる、といえばジャガイモサツマイモを思い浮かべる人もいるでしょう。ジャガイモは茎の一部に栄養が蓄えられて大きくなったもので、たくさんついたジャガイモを別々に植えればそれぞれが新しい株になります。一方、サツマイモは根に栄養が蓄えられたもの。やはりこれも土に植えると新しい株になります。

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また、オランダイチゴをはじめとするイチゴのなかまや、ユキノシタのように、匍匐枝(ほふくし)と呼ばれる地下茎を地上部に伸ばし、その先であたらしい株をうみだすものもいますね。

\次のページで「胞子」を解説!/

胞子

シダ植物コケ植物などが作り出す胞子による繁殖は、一般的に無性生殖に分類されます。胞子は飛んでいった先で、それ単独で発芽。新しい個体になります。

無性生殖のメリット

無性生殖の最大のメリットは、1個体だけでも子孫を残すことができるという点です。生殖のための特別な細胞=配偶子を用意する必要もなく、条件さえよければどんどん数を増やすことができます。

分裂の例でご紹介したプラナリアだと、1個体を数十の断片に切ってもそれぞれが正常な1個体にまで発生することが可能です。配偶子をやり取りする相手を探すコストも不要ですので、大変手軽な生殖方法といえるでしょう。

それにもかかわらず、地球上には有性生殖のみをおこなう生物がたくさんいます。無性生殖にはデメリットもあるのです。

無性生殖のデメリット

無性生殖で増えた個体は基本的に、元となった個体と全く同じ遺伝情報をもった存在。いわゆるクローンです。無性生殖するときには体細胞分裂を行って新しい個体の細胞をつくりますが、これは私たちの体細胞がすべて同じゲノムをもっているのと同じといえます。

遺伝情報にバリエーションが少ないことは、実は危険と紙一重です。例えば、何かしらの伝染病が流行したとしましょう。色々な遺伝情報をもった個体がいれば、中にはその病気に抵抗性をもった個体がいる可能性があります。しかしすべてが同じ遺伝情報である場合、元となった個体に病気への抵抗性がなければそのクローンもすべて病気にかかって死んでしまうはずです。

\次のページで「無性生殖を理解する→有性生殖の重要性も理解できる」を解説!/

image by Study-Z編集部

そう。無性生殖ばかりでは、環境に適応できなくなってしまう可能性があるわけですね。それを解決するためか、無性生殖をする生物の中には、まれに有性生殖をおこない、新しい遺伝情報をもった個体を生み出すものもいるんです。

たとえば、クラミドモナスという単細胞の藻類は普段分裂によって数を増やします。しかし、生息している環境が悪くなると2個体が接合。有性生殖をおこなって新しい遺伝情報をもった個体を生み出します。

ほかにも、無性生殖と有性生殖の両方を使い分けている生物は少なくありません。どんな例があるか、探してみるのも面白いでしょう。

無性生殖を理解する→有性生殖の重要性も理解できる

生まれながらに人間として成長している私たちにとって、無性生殖という繁殖方法はなじみのないものです。しかしながら、目に見えないような細菌や様々な生物を知ると、決して人間の常識が通用しないような生き方・繁殖方法をしているものがたくさんいます。生物の生き方や増え方を知ること、多様性を知ることはとても重要です。

無性生殖の具体例だけでなく、そのメリットやデメリットもしっかりと説明できるようにしておきましょう。無性生殖の特徴を理解することで、我々の行う有性生殖の意味も分かるようになるのですから。

イラスト使用元:いらすとや

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理科生物細胞・生殖・遺伝

「無性生殖」とはなんなのか?現役講師がさくっとわかりやすく解説!

この記事では無性生殖をテーマに見ていこう。

生物の生殖方法は、中学校の理科でも学習する内容です。動物や植物で様々な無性生殖の方法がありますが、しっかりと覚えているでしょうか?無性生殖の例やメリット・デメリットなどをサクッとおさらいしてみよう。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

無性生殖とは

無性生殖(むせいせいしょく)とは、「配偶子(はいぐうし)が接合せずに新しい個体を生み出す生殖方法」のことです。もっと簡単に、「有性生殖以外の生殖方法」と説明されることもあります。

無性生殖について詳しく知る前に、まずは有性生殖についても理解しておきましょう。

有性生殖

有性生殖(ゆうせいせいしょく)は基本的に、「配偶子が接合することで新しい個体を生み出す生殖方法」と説明されます。

一番わかりやすいのは、私たちヒトもふくめた、雄雌のある生物の生殖でしょう。メスのつくる卵(卵細胞)とオスのつくる精子が融合して、子どもに成長する受精卵になります。

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配偶子とは生殖のための細胞、とくに、他の配偶子と接合して新しい個体になる細胞です。接合する2つの配偶子が、卵と精子のように異なる姿をしている場合、それを異形配偶子とよびます。

なお、生物によっては、接合する2つの配偶子が同じ大きさ・形のことがあります。そのような配偶子は同形配偶子というんです。

これらのような配偶子を使うことなく子どもを作りだす無性生殖には、具体的にどんなものがあるのでしょうか?

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