この記事では「悪事千里」について解説する。
端的に言えば「悪事千里」の意味は「悪行はすぐに世間に知れわたること」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。
教師や講師としても教えることに関わってきた「やぎしち」を呼んです。一緒に「悪事千里」の意味や例文、類語などを見ていきます。
ライター/やぎしち
雑学からビジネス文章まで手掛ける現役ライター。
国語の中学・高校教諭の資格も持ち、予備校講師の経験も。言葉を大切にした文章を心掛けている。
「悪事千里」には、次のような意味があります。
悪いうわさはすぐに千里も遠く離れたところまで伝わるということ。
出典:四字熟語辞典(学研)「悪事千里」
これは言葉のまま「悪い事があったことが、千里(くらいのすごい距離)に広まる」ということです。「悪事千里を走る」や「悪事千里を行く」という慣用表現を聞いたことがある人も多いでしょう。
「千里」はもちろん実際の距離ではなく、それほど広い、遠いという意味。しかもニュアンスからして「その距離をもすぐに」という速さまで含まれています。
強調されているのは、「そんなにも悪い」ではなく「それくらいすぐに広まる」という部分です。悪事の大きさを表現しているわけではありません。
ポイントは、「すぐ人々の間でうわさになる」点であることを押さえましょう。
次に「悪事千里」の語源を確認しておきましょう。
この言葉は、孫光憲による『北夢瑣言(ほくぼうさげん)』に見ることが出来ます。
孫光憲は中国の唐の時代末から北宋の始めに活躍した人で、同著で著名人の逸話を集めるということをしました。
その中にあるのが、「好事不出門,悪事行千里(こうじもんをいでず、あくじせんりをゆく)」という一節。
「良いことをしたということは人に伝わらないが、悪いことをしたということはすぐ世間に広まってしまうものだ」という意味です。
実は前半にあたる部分もあったことがわかりますね。ぜひセットで覚えておきましょう。
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「悪事千里」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。
・別部署から異動してくる前から、彼はひどいなまけ者で会社にも遅刻してくるという評判が、悪事千里で広まっていた。
・あの出版社の百科事典は誤字脱字が多いだけではなく、専門情報や分類項目まで間違っていると悪事千里で、どこの書店も入荷しなかった。
・大人気の月間売上ランキングだったけれど、結果が操作されていることがわかると、悪事千里でアクセスが無くなり、すぐに廃れてしまった。
「悪いことをしたという事実や、評判がすぐに伝わってくる」というイメージがつきますでしょうか。
例文からもわかるように、時には本人や実際の悪いことよりも、うわさの方が先にやってきてしまっています。
そのうわさを聞いた人たちは当たり前ですが、警戒してしまうはず。それによって、居心地が悪くなったり売り上げが落ちてしまうという心配まで考えられますね。
「うわさ」というと根拠がないことも多いものですが、「悪事千里」の場合は、実際にあった悪いことを指すことが多いでしょう。
だからこそ「(すぐうわさになるのだから)悪いことはしてはいけない」という戒めの意味も込められているとも考えることが出来ます。
読解問題などでこの言葉が使われていた場合は、どのような意図で言われているのかに注目したいところです。
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「悪事千里」の類義語には、四字熟語ではありませんが、「人の口に戸は立てられぬ」や「囁き千里」があります。少し意味の違いもありますので、合わせて確認してください。
「人の口に戸は立てられぬ」は「人々がうわさ話をすることは防げず、広まってしまうこと」。
「囁き(ささやき)千里」は「うわさがすぐに広まってしまうこと」。
どちらも「悪事千里」とは違い、悪い評判に限定はしていないことに注意してください。
「悪事千里」には、「悪いことをしないように」という戒めの意味が感じられましたが、これらの言葉は「人間というものは、とにかくうわさが好きだ」という性質を表すことに注目しているといえるでしょう。
\次のページで「「悪事千里」の対義語は?」を解説!/
人の口に戸は立てられず、彼がトラブルを起こして懲戒免職になったという話は、会社全体に知れわたっていた。
僕が彼女に告白したことは親友以外知らなかったはずなのに、囁き千里で、みんなからからかわれた。
「悪事千里」の対義語は、語源のところで紹介した「好事門を出でず」がいいでしょう。
先の説明の通り、この言葉は「いいことは世間に知られない」ということ。
ただ、もともとワンセットの言葉であったためか、「好事門を出でず」はそれ単体で使うことはあまりないようです。
「いいことはなかなか知られないのに、悪いことは~」と、悪いことにばかり注目してしまう人間の性質を、少し残念に思って述べられた言葉だったのかもしれませんね。
彼は毎日、祖父の世話があって遅刻しているのに、好事門を出でずで、先生たちは不良扱いしている。
「Ill」は文頭のため大文字になっていますが、「ill(悪い)」です。
どちらも「悪いニュースはすぐに広がる」ということで、「悪事千里」と対応した慣用表現になります。
「apace」は「すみやかに、たちまち」という副詞で、やや古い単語です。「fast」と置き換えても構いません。
また、「travel」や「run」は別の動詞にしても意味が通じるでしょう。
同じ内容ながら、別表現があることは面白いですね。どの国でも「悪いことがすぐに広まる」ということには、色々と思うところがあるのかもしれません。
\次のページで「「悪事千里」を使いこなそう」を解説!/
この記事では「悪事千里」の意味・使い方・類語などを説明しました。
調べてみると、「悪いことはすぐ知られてしまう」だけではなく「うわさはすぐ広まる(人はすぐうわさをする)」という意味の慣用表現は、日本語だけではなく英語にも、とても多く存在していました。
ここで全てはご紹介できませんでしたが、興味があればぜひ調べてみてください。その多さにきっと驚きますよ。
いつの時代も、人はうわさをしてしまうのが、基本的な性質なのかもしれませんね。