この記事では、”陽生植物”と”陰生植物”というキーワードを確認していこう。この用語は、高校の生物基礎、特に生態学や植生について学ぶところで現れる。言葉の意味を確認するとともに、具体的な植物の名前なども抑えておきたいところです。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

陽生植物、陰生植物とは

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陽生植物(ようせいしょくぶつ)とは、日光がよく当たるところを好む植物のことを言います。ある程度の日差しがないとうまく成長することができず、言い換えれば日陰では育ちにくい植物です。陽生植物の中でも木本性=樹木になるようなものを、特に陽樹(ようじゅ)ということがありますね。

一方、陰生植物(いんせいしょくぶつ)とは日光があまり当たらないところでも生育することのできる植物を指します。弱い光でも光合成が可能で、陽生植物が生きられないような環境でも育つことができる、耐陰性の強い植物です。陰生植物の中でも木本性の種は陰樹(いんじゅ)とよばれることがあります。

陽生植物の例

それでは、教科書などでよく取り上げられる陽生植物・陽樹をいくつかご紹介しましょう。

1.タンポポ

春の野を彩るタンポポ。民家の庭や路肩にもよく生えていますが、日陰の時間が長いようなところではあまりその姿を見ませんよね。日当たりのよい場所を好む陽生植物の性質がよくわかります。

2.ナズナ

教科書ではナズナなんかも陽生植物として挙げられることが多いです。”ナズナ”と聞いててピンとこない人でも、別名の”ぺんぺん草”と言われれば、その姿を思い出せるでしょう。やはり、ひらけた野原や河川敷など、日を遮るようなものの少ないところでよく見かける草本植物です。

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3.ススキ

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日本では古くからなじみのあるススキはどうでしょう?ススキの大群落で原っぱになったような光景が、”日本の原風景”などといって紹介されることがありますよね。

上記の写真のイメージをもっていれば、ススキが陽生植物であるとすぐに答えることができるはずです。背の高い木の生い茂る森の中にススキの原っぱはできません。日光がさえぎられることなく降り注ぐ場所であることが、ススキが育つ条件のひとつです。

4.アカマツ

樹皮の赤っぽい松であるアカマツは、山地などでよく見られます。自生しているもののほか、植林しているところも多いですね。山の尾根筋などでよく育つ、陽樹の代表的な存在です。

5.シラカンバ

シラカンバなどのカンバ類も、陽樹の例としてよく挙げられます。白樺(シラカバ)ともよばれるシラカンバは、山の日当たりのよいところに生育していることが多い樹木。目にもまぶしい白い樹皮が青空に映えます。

6.ヤシャブシ

高校の生物基礎ではヤシャブシという名前の植物も耳にすることでしょう。ヤシャブシは日当たりのよいところを好むだけではなく、乾燥し栄養の少ない土壌でも育つことのできる植物です。そのため、荒れた土地に早くから根付く先駆植物(パイオニア植物)となることがあります。

陰生植物の例

続いて、陰生植物・陰樹の代表的なものをご紹介します。

1.ドクダミ

建物の軒下や、うっそうとした森の中など、日の当たらないところを好む植物にドクダミがあります。ときには少し紫がかることもある葉っぱをもち、触ると独特のにおいがする多年草です。日陰かつ、ある程度湿り気の多い環境であれば街中にも生えることの多い陰生植物ですので、比較的身近な例といえるのではないでしょうか。

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2.コケ類・シダ類

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コケ類シダ類の多くは陰生植物的な性質をもちます。日陰でじめじめしている土壌を好む植物、といえばこれらを思い浮かべる人が多いかもしれませんね。

陰生植物が育つような日光の当たりにくい場所は、土壌もじめじめしっぱなしのところが多いです。そのため、生育にある程度の湿り気が必要となる植物も少なくありません。

3.アオキ

アオキは日本で古くから知られる常緑の低木です。森や林の中、日の当たりにくい場所でも自然に生えています。一年を通して緑色の葉がつき、実も赤く華やかなことから、庭木や公園の植え込みなどで使わることもしばしばです。

4.ヤブツバキ

ツバキのなかまであるヤブツバキは、名前からして陰生植物ですね。”やぶ(藪)”の中でも生きられる植物、ということですから。

ただし、ヤブツバキはある程度成長するとそれなりの高さの樹木になり、小さかった時よりも強い光で光合成ができるようになります。このように、成長するにつれて陽生植物のような性質になるものもあるんです。

5.ブナ

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ブナ科の落葉広葉樹であるブナは、日本で広く見られる、新緑の美しい樹木です。

ブナ林の中で新たなブナが芽吹くとき、その環境はすでに上空を他のブナに囲まれた、薄暗い状態であることが多くなります。そのような環境にあっても、陰生植物はであるブナの芽は成長し、大きくなることができるのです。

反対に、すでに長く存在した森林の中に陽樹の芽が出た場合は、周囲を木々が取り囲み、日光が足りずにうまく育たない可能性があります。初めは陽生植物ばかりが茂っていた環境も、時間が経過するにつれて陰生植物が数を増やしていくのです。

光飽和点と光補償点

陽生植物と陰生植物の特徴を、より明確に理解するために、以下のようなグラフを扱うことがあります。

\次のページで「植物の種類と生息環境をイメージする!」を解説!/

image by Study-Z編集部

これは、縦軸に二酸化炭素の吸収量・排出量、横軸に光の強さをとったグラフです。

縦軸の±0の部分は、植物が成長も消耗もしない状態。それより下は二酸化炭素吸収量(=光合成量)が二酸化炭素排出量(=呼吸量)を上回らずに、体の有機物が消耗してしまう状態です。

植物にある強さの光をあたえたとき、±0より上にグラフがあれば、光合成量が呼吸量を上回り、その植物は成長することができます。

二酸化炭素の吸収量・排出量が±0になるときの光の強さを光補償点、それ以上光を与えても二酸化炭素吸収が増えない(=光合成量が増えない)ときの光の強さを光飽和点といいます。

陽生植物と陰生植物でこのグラフを比較してみましょう。陰生植物は陽生植物よりも光補償点が小さいことがわかります。これは、陰生植物が弱い光でも成長できるということを意味しているのです。

また、光飽和点を比べると、陽生植物の方が大きいこともわかりますね。これは、強い光を光合成に使うことができるという陽生植物の特徴です。陰生植物では光飽和点が小さく、せっかく強い光が当たっても光合成量を上げることができません。ここから、一般的に陰生植物は陽生植物よりも生長速度が遅い、と言い換えることができます。

植物の種類と生息環境をイメージする!

陽生植物と陰生植物は、その定義を知っておくことに加え、具体的な植物の名前を問われることが多いです。知っている植物の種類と生息環境を関連付けてイメージしましょう。実際に植物の生えているところに足を運んでみると、記憶に強く残るようになりますよ。

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理科生物生物の分類・進化

簡単でわかりやすい!陽生植物と陰生植物の違いとは?具体例も現役講師が詳しく解説

この記事では、”陽生植物”と”陰生植物”というキーワードを確認していこう。この用語は、高校の生物基礎、特に生態学や植生について学ぶところで現れる。言葉の意味を確認するとともに、具体的な植物の名前なども抑えておきたいところです。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

陽生植物、陰生植物とは

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陽生植物(ようせいしょくぶつ)とは、日光がよく当たるところを好む植物のことを言います。ある程度の日差しがないとうまく成長することができず、言い換えれば日陰では育ちにくい植物です。陽生植物の中でも木本性=樹木になるようなものを、特に陽樹(ようじゅ)ということがありますね。

一方、陰生植物(いんせいしょくぶつ)とは日光があまり当たらないところでも生育することのできる植物を指します。弱い光でも光合成が可能で、陽生植物が生きられないような環境でも育つことができる、耐陰性の強い植物です。陰生植物の中でも木本性の種は陰樹(いんじゅ)とよばれることがあります。

陽生植物の例

それでは、教科書などでよく取り上げられる陽生植物・陽樹をいくつかご紹介しましょう。

1.タンポポ

春の野を彩るタンポポ。民家の庭や路肩にもよく生えていますが、日陰の時間が長いようなところではあまりその姿を見ませんよね。日当たりのよい場所を好む陽生植物の性質がよくわかります。

2.ナズナ

教科書ではナズナなんかも陽生植物として挙げられることが多いです。”ナズナ”と聞いててピンとこない人でも、別名の”ぺんぺん草”と言われれば、その姿を思い出せるでしょう。やはり、ひらけた野原や河川敷など、日を遮るようなものの少ないところでよく見かける草本植物です。

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