
現代ではエントロピーは一般的な用語になったが、もともとは熱力学で発見されたものです。今回は熱力学的にみたエントロピーについて学んでみよう。
今回は物理学科出身のライター・トオルさんと解説していきます。

ライター/トオル
物理学科出身のライター。広く科学一般に興味を持つ。初学者でも理解できる記事を目指している。
熱力学から見たエントロピーと「エントロピー増大の法則」について

image by iStockphoto
現在はエントロピーというと色々な分野で使われる非常に有名な概念ですが、もともとは熱力学において発見された概念です。今回はエントロピーが最初に発見された熱力学でのエントロピーと、ついでにエントロピー増大の法則についても解説してみましょう。上記の画像はある蒸気機関の画像です。
準静的過程と可逆過程について
熱力学において重要な準静的過程と可逆過程という用語について簡単に説明しておきます。ある系の状態を変化させるには、系に圧力を加えて圧縮したり、熱を加えて温度を上げたりしなければなりません。ちなみに、ある系といはいま考えている範囲のことです。変化をさせる際、系の一部を急激に加熱したりすると熱を加えた部分だけ温度が上がり、系の一部だけが高温の状態になります。すると、熱の移動がおこり複雑な変化が系の内部におこるはずです。
この変化は巨視的には制御できないものであるので、理論的に扱うのが難しくなります。そこで、扱いやすくするために、圧縮、膨張、加熱、冷却などを行うときは無限にゆっくり行い、常に系が同じ温度に保たれるような変化を考えることにしましょう。このような変化のことを準静的変化もしくは、準静的過程と呼びます。この過程は純粋に理論的なものですが、現実的には非常にゆっくり変化を行う場合を準静的過程と近似して問題ありません。
あと、準静的過程で生じた変化はその道筋をまた準静的に逆にたどる過程によって、系もまわりの環境も最初と同じ状態に戻ることができるという重要な性質があります。これが可逆的過程です。完全な準静的過程、可逆的過程は純理論的なものであり、現実的には存在しないことに注意しておきましょう。
トムソンの原理とクラウジウスの原理について

image by Study-Z編集部
まずはエントロピー増大の法則と同等なトムソンの原理とクラジウスの原理から見ていきましょう。まずトムソンの原理とは
「一様な温度の、1つの熱源から熱を取りそれと等量の仕事をするだけで、それ以外何の変化も残さないような過程は実現できない」
というものです。ここでの仕事は力×距離で表される力学的な仕事をイメージしてください。もう一つのクラジウスの原理とは
「低温の物体から高温の物体に熱を移すだけで、それ以外には何の変化も残さないような過程は実現できない」
というものです。これらの二つは実験によって導かれた経験的な法則になります。この二つは蒸気機関のような熱機関を考えるとわかりやすいでしょう。トムソンの原理は、要するに100%熱を仕事に変え、かつ最初の状態に完全にもどるような熱機関は作れないということを意味しています。
クラジウスの原理は低温の熱源から高温の熱源に熱を移動させるだけで、最初の状態に完全にもどる熱機関も作れないという意味です。両方とも永久機関を作ることが不可能であることを意味しています。
クラウジウスの不等式について

image by Study-Z編集部
エントロピーの説明に入りましょう。ある系が、サイクルCの間にn個の熱源と熱の授受をするとします。温度Tiの熱源Riから吸収する熱をQiとしましょう。ここでiは1からnまでです。系はサイクルCの間に外からQの熱量を受け取りますから、これと等量の仕事W=Qを外に対してします。このときクラウジウスの不等式とよばれる上記の1式の関係式が成り立のです。ちなみに、サイクルとは系がある状態から一続きの変化をした後、また元の状態にもどるような変化を意味しています。
この式を証明してみましょう。このサイクルCは上記右上の図に示したものです。このサイクルによって生じた変化は温度Tiの熱源RiがそれぞれQiを失い、外に仕事W(=すべてのQiの和)をしたというものになります。そこで、下図のように温度Tの熱源Rを用い、適当な装置Ciによって熱源Riへ熱Qiを与えて戻すとしましょう。このとき熱源Rから吸収する熱をqiとすると2の式がでてきます。
この結果、残った変化は熱源Rが熱q(=すべてのqiの和)を失い、外にこれと等量の仕事がされたことです。トムソンの原理によれば、この熱量と仕事は決して正になることはないので、3式の関係が導けます。よって2式と3式により最後のクラジウスの不等式が導けました。
\次のページで「エントロピーについて」を解説!/