最近はITの進化がめざましく、物理の授業でも是非活用したいところです。動画や3D表現を使いながら解説すれば、黒板や教科書の図解より伝わりやすい。今まで分からなかった内容が急にイメージ出来るかもしれんな。

例えば、日本の高校物理授業では生徒1人に1台端末を使用したいですと国に提案するとしよう。さて、端末は何台必要になるでしょうか?まさか、全国の高校に聞いて回って物理履修者数を調べるわけにはいかない。

そんな時、論理的な根拠に基づき概算する方法がフェルミ推定です。

ライター/R175

関西のとある国立大の理系出身。学生時代は物理が得意で理科の高校理科の教員免許も持っている。この記事ではサラリーマンの経験を活かして、「フェルミ推定」の実用的な使い方を解説。

1.物理学者「エンリコ・フェルミ」の推定

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フェルミ推定の由来になっている物理学者「エンリコ・フェルミ」さん。フェルミ粒子やフェルミ準位といった用語があるように彼は量子力学の分野で活躍しました。短時間で正確に「概算するのが得意でした。爆弾の実験中離れた場所で紙切れを落とし、飛ばされた距離から爆弾の威力を推定したという話は有名。

量子力学と概算は切っても切り離せない

量子力学と概算は切っても切り離せない

image by Study-Z編集部

量子力学は「概算」が重宝される分野です。量子力学は分子や原子、電子といった非常に微視的な系の力学を扱う分野。ところが、原子や分子だけの話に終わっては実用的ではないですね。量子力学では、微視的な系から概算していって生物や宇宙などの自然現象を説明ることができます。そんな分野から「概算」する上手い方法が出てきたわけです。

2.フェルミ推定の利用

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フェルミ推定は具体例を見るのが一番分かりやすいでしょう。例えば、「東京都に電柱は何本あるか」。といったそんな感じの問い。解答は「面積あたりの電柱が何本だから、東京都の面積からすると何本と考える」といったようなもの。具体的に何本という正解は求められていません。あくまで途中の考え方が重視されるもの。

企業が就活生の「思考力」を評価するために選考で用いる場合もあります。コンサルティングなど業界によってはかなり重要視される能力。限られた情報からある程度説得力のある数字を出してこれるかを問われます。ここでは、物理を学ぶ学生がなじみやすい例題でみていきましょう。

日本全国の物理授業で端末導入

冒頭で述べたように、日本全国の高校物理の授業で生徒1人に1台端末を準備しようとすれば何台の端末が必要になるだろうか?ただし、端末は各校1学年のみ使うものとしましょう。

よく考えれば、センター試験(共通試験)の受験者数を見ればある程度予想が付きそうですが、ここで敢えてフェルミ推定を使っていきましょう。そして、センター(共通)試験受験者と比較をすることで推定の妥当性も見ることにします。

\次のページで「高校生の人数推定」を解説!/

高校生の人数推定

人口統計から各年齢の人口がある程度分かりますね。現在の高校生世代の人口は1学年あたりおよそ115万人。高校進学率は99%程度であるため、全国の高校生は1学年辺りでおよそ114万人と推定されます。

物理の履修者数は何人?

物理は必修ではないため、全生徒が受けるわけではない。全国で物理の履修者割合は約2割と言われていて、これを元に計算すると履修者は約22万8000人となりますね。よって、物理の授業で全面的に端末を導入するには凡そこれだけの台数が必要なことが分かります。

センター試験受験者数との比較

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物理履修者の推定は22.8万人。そのうちセンター受験率を40%とすると、「センター物理を受けるのは凡そ9万人という推計。

実際は物理と物理基礎の受験者は合計17万人程度、そのうち現役生は80%程度であることから高3生のセンター物理受験者は13.6万人程度と推計されます。推計9万人に対し1.5倍遠からずとも言えますが少しズレていますね。

どの仮定がまずい?

フェルミ推定では、1つ1つの仮定をしっかりしておきましょう。そうすれば推定がズレた時に、どの仮定がマズかったか洗い出せます。今回の仮定はまとめると、A.高校生人口は1学年で114万人、B.物理履修率は20%、C.センター受験率は40%、D.現役率は8割。Aは大きくは間違ってなさそう。Bは少し怪しいけれど、誰かが統計を取って出てきた数値と考えられるためある程度信用できるでしょう。問題はC。センター受験率40%は高3生全体の話であって、物理履修者のセンター受験率ではないですね。色々な選択が出来る中敢えて物理を履修する。この記事を読んでくれてる方を含め、勉強熱心な生徒が多いかもしれません。そうであれば、センター受験率は40%ではなくもっと多いかもしれません

このうように、1つ1つの仮定にしっかり考えを持っておけばズレた時にどの考えがマズかったかが分かり、新たな発見にも繋がりますね。

ちなみにですが、今回のセンター物理受験者数の推定ですが、そこまで外していないのではないかというのが筆者の感想。なぜなら、元ネタのフェルミさんの爆弾の威力推定では、推定値が1としたら実際の値は1.86程度といった精度だったようです。フェルミ推定では桁違いなズレはないとしても倍半分くらいのズレは出てしまうかもしれません。

3.物理授業用の端末が足りない

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フェルミ推定の精度を見るため一旦センター物理受験者に落とし込みましたが、話を戻しましょう。物理履修者全員に端末を準備するという話です。フェルミ推定より物理の履修者数は22.8万人であり、端末は22.8万台必要。しかし、端末業者が来年作れるのは10万台それ以上の数はもっと先になるとしましょう。

そこでまずは関東地方限定で導入し、効果を検討して順次全国に広めるとします。10万台で関東地方の物理履修者全員に端末を準備することは出来るでしょうか?

\次のページで「関東地方の物理履修者数」を解説!/

関東地方の物理履修者数

物理の履修者は人口に比例すると考えましょう。もしかすると、関東地区は若年人口の割合が多いとか、物理の選択率が高いといった因子が隠れているかもしれませんがフェルミ推定で細かいところは置いておきます。

東京、神奈川、千葉、埼玉、茨城、栃木、群馬。この1都6件の人口は合計すると約4350万人。日本人口の36%程度です。全国で物理履修者数推計が22.8万人で履修者は単純に人口に比例するとして、関東地方での履修者は8.2万人と程度と推計され、10万台で賄うことは出来そうですね。

スピード勝負

フェルミ推定の大きなメリットは「素早く」計算できる点。正確な数字を出そうと思うと、調査に莫大な時間、コストがかかる。しかし、何の数字も出さないと見通しが立たず動けない。こういうときに活躍するのが「フェルミ推定」。

ニュースで「販売予想はこれくらい」とか「利用者概算はこれくらい」といった予測が見られますが、少なからずフェルミ推定が使われていることでしょう。

 

" /> 調査出来ない時に理論的に推定する手法「フェルミ推定」とは?理系ライターがわかりやすく解説 – Study-Z
物理物理学・力学理科

調査出来ない時に理論的に推定する手法「フェルミ推定」とは?理系ライターがわかりやすく解説

最近はITの進化がめざましく、物理の授業でも是非活用したいところです。動画や3D表現を使いながら解説すれば、黒板や教科書の図解より伝わりやすい。今まで分からなかった内容が急にイメージ出来るかもしれんな。

例えば、日本の高校物理授業では生徒1人に1台端末を使用したいですと国に提案するとしよう。さて、端末は何台必要になるでしょうか?まさか、全国の高校に聞いて回って物理履修者数を調べるわけにはいかない。

そんな時、論理的な根拠に基づき概算する方法がフェルミ推定です。

ライター/R175

関西のとある国立大の理系出身。学生時代は物理が得意で理科の高校理科の教員免許も持っている。この記事ではサラリーマンの経験を活かして、「フェルミ推定」の実用的な使い方を解説。

1.物理学者「エンリコ・フェルミ」の推定

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フェルミ推定の由来になっている物理学者「エンリコ・フェルミ」さん。フェルミ粒子やフェルミ準位といった用語があるように彼は量子力学の分野で活躍しました。短時間で正確に「概算するのが得意でした。爆弾の実験中離れた場所で紙切れを落とし、飛ばされた距離から爆弾の威力を推定したという話は有名。

量子力学と概算は切っても切り離せない

量子力学と概算は切っても切り離せない

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量子力学は「概算」が重宝される分野です。量子力学は分子や原子、電子といった非常に微視的な系の力学を扱う分野。ところが、原子や分子だけの話に終わっては実用的ではないですね。量子力学では、微視的な系から概算していって生物や宇宙などの自然現象を説明ることができます。そんな分野から「概算」する上手い方法が出てきたわけです。

2.フェルミ推定の利用

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フェルミ推定は具体例を見るのが一番分かりやすいでしょう。例えば、「東京都に電柱は何本あるか」。といったそんな感じの問い。解答は「面積あたりの電柱が何本だから、東京都の面積からすると何本と考える」といったようなもの。具体的に何本という正解は求められていません。あくまで途中の考え方が重視されるもの。

企業が就活生の「思考力」を評価するために選考で用いる場合もあります。コンサルティングなど業界によってはかなり重要視される能力。限られた情報からある程度説得力のある数字を出してこれるかを問われます。ここでは、物理を学ぶ学生がなじみやすい例題でみていきましょう。

日本全国の物理授業で端末導入

冒頭で述べたように、日本全国の高校物理の授業で生徒1人に1台端末を準備しようとすれば何台の端末が必要になるだろうか?ただし、端末は各校1学年のみ使うものとしましょう。

よく考えれば、センター試験(共通試験)の受験者数を見ればある程度予想が付きそうですが、ここで敢えてフェルミ推定を使っていきましょう。そして、センター(共通)試験受験者と比較をすることで推定の妥当性も見ることにします。

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