この記事では「至れり尽くせり」について解説する。
端的に言えば、至れり尽くせりの意味は「配慮が行き届いて申し分ない」です。ホテルや旅館でのもてなしを表現するときに使っているな。その語源は『荘子』だと知っているか。原義は現在の意味とはかなり違うぞ。
日本放送作家協会会員でWebライターのユーリを呼んです。「至れり尽くせり」の意味や語源をチェックし、例文や類義語などを見ていきます。

ライター/ユーリ

日本放送作家協会会員。シナリオ、エッセイをたしなむWebライター。時代によって変化する言葉の面白さ、奥深さをやさしく解説する。

「至れり尽くせり」の意味・語源・使い方

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さっそく「至れり尽くせり」の意味と語源をチェックし、例文で使い方を見ていきましょう。

「至れり尽くせり」の意味

まず、国語辞典で「至れり尽くせり」の意味をチェックしましょう。

《「荘子」斉物論から》配慮が行き届いて、申し分がない。
[補説]「至り尽くせり」とするのは誤り。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「至れり尽くせり」

「至る」も「尽くす」もいくつかの意味を持つ言葉です。「至る」には「到達する」「ある段階や状態になる」「行きわたる」「細かいところまで行き届く」「極限に達する」などの意味があります。

「尽くす」には「ある限りを出し切る」「その事柄の極みにまで達する」「他の者のために精一杯働いたり努力したりする」などの意味がありますよ。「至れり尽くせり」「配慮が行き届いて、申し分がない」という意味です。

「至れり尽くせり」の語源は『荘子』!

荘子は中国戦国時代の思想家のひとりで、『荘子』はその著書です。「至れり尽くせり」は、『荘子』の33遍あるテキストのひとつ「斉物論(せいぶつろん)」に由来しています。道家の中心人物である荘子の思想を知る上でのキーワードは「無為自然」。「無為自然」とは、物が自然にあるべき姿で、人の手が加わっていない状態のことです。

古之人,其知有所至矣。惡乎至?有以為未始有物者,至矣,盡矣,不可以加矣。

古(いにしえ)の人は、其の知に至(いた)る所あり。悪(いずく)にか至(いた)る。以て未(いま)だ始めより物あらずと為(な)す者あり。至れり尽くせり、以て加(くわ)うべからず。

出典:『荘子』「斉物論」

\次のページで「「至れり尽くせり」の使い方」を解説!/

「昔の人は、最上の知恵が到達した境地があった。到達した境地とは何か。もともと物は存在しないと考える無の立場だ。至高であり完全であり、付け加えるものはない」という意味です。この世の物は、本当は存在していないという「無」の思想が最高の思想であり、その境地が「至れり尽くせり」であると表現しています。現在の「至れり尽くせり」の意味とはかなり違っていますね。

「至れり尽くせり」の使い方

例文で「至れり尽くせり」の使い方を見ていきましょう。

1.最高の素材をふんだんに使ったメニューは絶品で、接客も申し分なく、まさに至れり尽くせりのレストランだった。
2.サッカーの国際大会の予選がわが町で行われることになり、来日するドイツ代表チームのために至れり尽くせりのおもてなしをしようと、大会関係者は大いに張り切った。

最初の例文は、レストランの料理も接客も申し分がなかったという意味です。2番目の例文は、来日するサッカーチームのために、細かいところまで配慮が行き届いたおもてなしをしようと意気込んでいるという意味ですね。「至れり尽くせり」はホテルやレストランなど、接客業のサービス内容について言及するときに、よく使われていますよ。

「至れり尽くせり」の類義語

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「至れり尽くせり」と同じような意味あいの言葉には、どのような言葉があるのでしょうか。

「懇切丁寧」:細かいところまで行き届いて親切

「懇切」は「細かいところまで心が行き届いて親切」「非常に手厚く親切」という意味です。「丁寧」は「細かいところまで気を配る」「注意深く入念にする」「配慮が行き届いている」ことですね。「懇切丁寧」「細かいところまで配慮が行き届いて親切なこと」という意味です。

\次のページで「「気が利く」:細かいところまで注意が及ぶ」を解説!/

「気が利く」:細かいところまで注意が及ぶ

「気が利く」「物事をするのに細かいところまでよく気がつく」「心が行き届く」「機転がきく」という意味です。「彼は若いのによく気が利く」という使い方をします。「気が利く」には、ほかに「しゃれている」「粋である」という意味もありますよ。

「痒(かゆ)い所に手が届く」:細かいところまで配慮が行き届く

背中がかゆいのに手が届かなくてかけないのは、もどかしいことですね。「痒い所に手が届く」「細かいところまで配慮が行き届く」「気が利いている」という意味で、細かい要望にもきちんと応えていることのたとえです。

「至れり尽くせり」の英訳

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次は英語で「至れり尽くせり」をどのように表現するか見ていきましょう。

「a hearty reception」:心からの歓迎

「a hearty reception「心からの歓迎」という意味です。

They received a hearty reception.
彼らは心からの歓待を受けた。

「hearty」は「心からの」という意味です。「reception」は受け入れるという意味の動詞「receive」の派生語で、「もてなし」「歓迎」という意味ですよ。宴会のこともレセプションといいますし、ホテルのフロントは「reception desk」といいます。a warm receptionは「熱心な歓迎」ですね。

\次のページで「「leave nothing to be desired」:申し分ない」を解説!/

「leave nothing to be desired」:申し分ない

「leave nothing to be desired「(行動や仕事などが)申し分ない」という意味です。

Your nursing leaves nothing to be desired.
あなたの看護は申し分ない。

「leave」は「残す」、「nothing」は「何も」、「to be desired」は「望まれるべき」なので「leave nothing to be desired」は「望まれるべきことは何も残していない」、つまり「申し分ない」という意味です。leave little to be desiredは「ほとんど申し分ない」、leave a lot to be desiredは「遺憾な点がたくさんある」という意味ですよ。

「至れり尽くせり」を使いこなそう!

この記事では、「至れり尽くせり」の意味や語源を調べ、使い方や類義語などを解説しました。

「至れり尽くせり」「配慮が行き届いて、申し分がない」ことを表現しています。その語源は『荘子』「斉物論」です。この世の物は、本当は存在していないという「無」の思想が最高の思想であり、その境地が「至れり尽くせり」であるという元の意味と、現在の「至れり尽くせり」の意味とはかなり違っていますね。

難解と言われる道家の思想ですが、よく知られている故事成語もたくさんあります。たまには『荘子』や『老子』をひも解いてみてはいかがでしょうか。

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国語言葉の意味

語源は『荘子』!「至れり尽くせり」の意味・語源・類義語などを日本放送作家協会会員が簡単にわかりやすく解説

この記事では「至れり尽くせり」について解説する。
端的に言えば、至れり尽くせりの意味は「配慮が行き届いて申し分ない」です。ホテルや旅館でのもてなしを表現するときに使っているな。その語源は『荘子』だと知っているか。原義は現在の意味とはかなり違うぞ。
日本放送作家協会会員でWebライターのユーリを呼んです。「至れり尽くせり」の意味や語源をチェックし、例文や類義語などを見ていきます。

ライター/ユーリ

日本放送作家協会会員。シナリオ、エッセイをたしなむWebライター。時代によって変化する言葉の面白さ、奥深さをやさしく解説する。

「至れり尽くせり」の意味・語源・使い方

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さっそく「至れり尽くせり」の意味と語源をチェックし、例文で使い方を見ていきましょう。

「至れり尽くせり」の意味

まず、国語辞典で「至れり尽くせり」の意味をチェックしましょう。

《「荘子」斉物論から》配慮が行き届いて、申し分がない。
[補説]「至り尽くせり」とするのは誤り。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「至れり尽くせり」

「至る」も「尽くす」もいくつかの意味を持つ言葉です。「至る」には「到達する」「ある段階や状態になる」「行きわたる」「細かいところまで行き届く」「極限に達する」などの意味があります。

「尽くす」には「ある限りを出し切る」「その事柄の極みにまで達する」「他の者のために精一杯働いたり努力したりする」などの意味がありますよ。「至れり尽くせり」「配慮が行き届いて、申し分がない」という意味です。

「至れり尽くせり」の語源は『荘子』!

荘子は中国戦国時代の思想家のひとりで、『荘子』はその著書です。「至れり尽くせり」は、『荘子』の33遍あるテキストのひとつ「斉物論(せいぶつろん)」に由来しています。道家の中心人物である荘子の思想を知る上でのキーワードは「無為自然」。「無為自然」とは、物が自然にあるべき姿で、人の手が加わっていない状態のことです。

古之人,其知有所至矣。惡乎至?有以為未始有物者,至矣,盡矣,不可以加矣。

古(いにしえ)の人は、其の知に至(いた)る所あり。悪(いずく)にか至(いた)る。以て未(いま)だ始めより物あらずと為(な)す者あり。至れり尽くせり、以て加(くわ)うべからず。

出典:『荘子』「斉物論」

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