ブラックホールに吸い込まれる?そんな恐ろしいことは想像したくないが、ブラックホールだって一種の天体。ブラックホールに吸い込まれる現象は地球上で重力に引っ張られているのと同じ原理(ただし、重力の大きさは桁違い)。地球レベルの重力だと、重力に引っ張られて伸びでしまうことはないが、超強力な重力で引っ張られると上下に伸びていってしまう。スパゲッティ化現象です。

理系ライターのR175とそのメカニズムを解説していきます。

ライター/R175

関西のとある国立大の理系出身。学生時代は物理が得意で理科の高校理科の教員免許も持っている。エンジニアの経験があり、教科書の内容に終わらず実際の現象と関連付けて説明するのが得意。

1.強力な重力

image by iStockphoto

ブラックホールとは、光でさえ脱出出来ない強力な重力を持つ天体。「光でさえ」と表現したのは、光が宇宙で最も速く移動するからです。天体から脱出出来るか否かは速度によって決まるもの。例えば地球上で自転車やクルマといった程度の低速で移動していても地球からでていくことはありません。宇宙に出て行くにはロケットのように超高速で移動する必要がありますね。

速ければ速いほど天体から脱出しやすいもの。アインシュタインの一般相対性理論によれば宇宙最高速を有するのは光で、地球の重力なら余裕で脱出可能。しかし、ブラックホールと呼ばれる天体は光の速さでさえ脱出出来ないくらいの強力な重力を持っています。

2.万有引力

2.万有引力

image by Study-Z編集部

重力の原因は万有引力。その名の通り、どんな物体同士にも働いている力(イラスト参照)。例として、地球と石、地球とAさんの、Aさんと石の間に働く万有引力を示します。表の通り、実はAさんと石の間の万有引力も働いていますが、非常に小さい値に。地球のような大質量の物体があれば意味をなしますね。

3.万有引力と重力のズレ

質量10kgの石と地球の万有引力が98.4N重力と若干ズレていますね?これがミソです。後述する「天体からの脱出」という概念にかかわってくるため。

Aさんは24時間で地球1周分の4万キロ、時速1660キロ、463m/sという速さにで移動しています。すごいスピードですが何の速さでしょうか?数字の並びから推測出来る通りこれは「自転」による移動の速さ。これだけの速度でAさんは地球上を回転していますから地球から離れる方向に遠心力が発生しますね。

自転による遠心力

自転による遠心力

image by Study-Z編集部

遠心力の大きさはイラストの式で求めることが出来、0.03Nと求まりました。地球への引力が98.4Nで離れていく力が0.03N。よって98.1Nで引っ張られていることになり、質量10kg x 重力加速度9.81(m/s2)の結果に一致しますね。

\次のページで「4.天体からの脱出」を解説!/

4.天体からの脱出

自転の遠心力で多少重力が弱まる。ならば、もっと速い速度で移動すれば重力ゼロになるんじゃないのか?実はその通りなんです。重力ゼロに出来る時の速度が第一宇宙速度。

第一宇宙速度

第一宇宙速度

image by Study-Z編集部

遠心力=万有引力として、速度について解いてやれば第一宇宙速度が算出されます。地球での第一宇宙速度は7.9[km/s]というとてつもない速さ。

しかし、残念ながらこの速度を超えても脱出出来ません。重力ゼロに出来ても地球からの引力を振り切ることは出来ないからです。つまり、地球から離れたは良いものの、地球の衛星軌道からは出られず周りをグルグル回転することになります。

第二宇宙速度

では天体から脱出するためにはどれくらい速くないといけないのか?第一宇宙速度で脱出できない理由はイラストのように、大きな遠心力を持つも引力引力を振り切るためには後述の第二宇宙速度を超える必要があります。そうなると楕円軌道でさえ曲がり切れずに無限遠に行ってしまうのです。

第二宇宙速度の求め方

第二宇宙速度の求め方

image by Study-Z編集部

無限遠での位置エネルギーをゼロ、天体に近いほど位置エネルギーざ小さいと考えます。距離が無限大ならゼロに、距離がゼロなら-無限大。半径rの天体表面にある質量mの物体のの位置エネルギーは-GMm/r。これに運動エネルギーを足してゼロを超えていれば、無限遠より高いエネルギーを持っていることになりますね。物体はエネルギーが高いところから低い所に落ちていくもの。物体は無限遠に落ちていく状態であり、天体を脱出出来ます。第二宇宙速度をv2としましょう。地球の場合はv2=11.2[km/s]。

宇宙で一番速いものは光で、その速度は3.0×10^8(m/s)。これでも、第二宇宙速度に達しなければ光はその天体から脱出出来ないことになります。第二宇宙速度=光速度と置きましょう。M/Rが6.75×10^(26)以上なら、第二宇宙速度が光速度以上に。ものすごくMが大きく(重い)、Rがものすごく小さい(圧縮されてる)とブラックホールになり得ますね。超高密度な天体というわけですね。

\次のページで「5.上と下の重力差」を解説!/

5.上と下の重力差

5.上と下の重力差

image by Study-Z編集部

長さhの物体を半径rの天体に置いたとしましょう。この物体の一番下の部分一番上の部分での重力を求めましょう。ただし、この天体での重力は万有引力のみと考えましょう。ここで想定する物体の「一番上の部分」と「一番下の部分」の質量はどちらもm、天体の質量をM、万有引力定数をGとします。

一番上と一番下の重力

一番下の部分では天体の中心からの距離はr万有引力はGMm/r^2。一番上では天体の中心からの距離はr+hなので万有引力はGMm/(r+h)^2。その差はイラスト内に示す式のようになります。

地球ならどれくらい?

地球ならどれくらい?

image by Study-Z編集部

物体の一番上と一番下の重力差、地球ならどれくらいになるのか?地球の半径と質量よりr=6360km、M=5.97x10^24[kg]。重さ100t、高さ30mの10階建てマンションがあるとしましょう1F部分ではh=0、10F部分でh=30mと、各フロアの重さがそれぞれ10tずつと考えた時1Fと10Fでどれくらい重力の差があるでしょうか。ただし自転による遠心力は無視します。

これらの値を代入すると、1F部分での万有引力は98443.25N、10F部分は98443.32Nでその差は0.93N。地球上でも重力差があるのはあるのですが、10F建てマンションというスケール感の物体でも上と下の重力差はわずか0.93N。これだけの力ではマンションが伸びていくことはないでしょう。

ブラックホール天体に建つマンション

地球も質量M=5.97x10^24[kg]を保ちつつ半径r=9mmまで圧縮するとブラックホール天体になります。このブラックホール天体に先ほどと同じ10F建てマンションがあったら、1Fと10Fで重力差はどれくらいになるか。

r=6360000m→r=0.009mに変えてやると、1F部分の重力は4.92x10^22N、10F部分は4.42x10^15Nその差は4.92x10^22N。10F部分と1F部分では重力が桁違い。10Fはあまり引っ張られず、1Fばかり引っ張られていることが伺えますね。これだけの力で上下に引っ張たら、スパゲッティのように細長く伸びていくことが想像されますね。これがスパゲッティ化現象です。

同じ物体内で重力差が大きすぎる

重力は天体中心からの距離が近いほど大きいため、物体の下側は上側に比べ強く引っ張られ重力差があります。地球レベルの重力だと、この差はあまり気になりませんが超強力な重力を持つブラックホール天体ではその差が大きく物体が上下に引っ張られ細長く伸びてしまう。この現象がスパゲッティ化現象というもの。

" /> ブラックホールに吸い込まれた時に起きる「スパゲティ化現象」とは?理系ライターがわかりやすく解説 – Study-Z
物理理科統計力学・相対性理論

ブラックホールに吸い込まれた時に起きる「スパゲティ化現象」とは?理系ライターがわかりやすく解説

ブラックホールに吸い込まれる?そんな恐ろしいことは想像したくないが、ブラックホールだって一種の天体。ブラックホールに吸い込まれる現象は地球上で重力に引っ張られているのと同じ原理(ただし、重力の大きさは桁違い)。地球レベルの重力だと、重力に引っ張られて伸びでしまうことはないが、超強力な重力で引っ張られると上下に伸びていってしまう。スパゲッティ化現象です。

理系ライターのR175とそのメカニズムを解説していきます。

ライター/R175

関西のとある国立大の理系出身。学生時代は物理が得意で理科の高校理科の教員免許も持っている。エンジニアの経験があり、教科書の内容に終わらず実際の現象と関連付けて説明するのが得意。

1.強力な重力

image by iStockphoto

ブラックホールとは、光でさえ脱出出来ない強力な重力を持つ天体。「光でさえ」と表現したのは、光が宇宙で最も速く移動するからです。天体から脱出出来るか否かは速度によって決まるもの。例えば地球上で自転車やクルマといった程度の低速で移動していても地球からでていくことはありません。宇宙に出て行くにはロケットのように超高速で移動する必要がありますね。

速ければ速いほど天体から脱出しやすいもの。アインシュタインの一般相対性理論によれば宇宙最高速を有するのは光で、地球の重力なら余裕で脱出可能。しかし、ブラックホールと呼ばれる天体は光の速さでさえ脱出出来ないくらいの強力な重力を持っています。

2.万有引力

2.万有引力

image by Study-Z編集部

重力の原因は万有引力。その名の通り、どんな物体同士にも働いている力(イラスト参照)。例として、地球と石、地球とAさんの、Aさんと石の間に働く万有引力を示します。表の通り、実はAさんと石の間の万有引力も働いていますが、非常に小さい値に。地球のような大質量の物体があれば意味をなしますね。

3.万有引力と重力のズレ

質量10kgの石と地球の万有引力が98.4N重力と若干ズレていますね?これがミソです。後述する「天体からの脱出」という概念にかかわってくるため。

Aさんは24時間で地球1周分の4万キロ、時速1660キロ、463m/sという速さにで移動しています。すごいスピードですが何の速さでしょうか?数字の並びから推測出来る通りこれは「自転」による移動の速さ。これだけの速度でAさんは地球上を回転していますから地球から離れる方向に遠心力が発生しますね。

自転による遠心力

自転による遠心力

image by Study-Z編集部

遠心力の大きさはイラストの式で求めることが出来、0.03Nと求まりました。地球への引力が98.4Nで離れていく力が0.03N。よって98.1Nで引っ張られていることになり、質量10kg x 重力加速度9.81(m/s2)の結果に一致しますね。

\次のページで「4.天体からの脱出」を解説!/

次のページを読む
1 2 3
Share: