今日取り上げるのは「板につく」という言葉。意味を簡潔に述べると「立ち振る舞いが立場や職業などに似合ったものになる」といったところです。院卒日本語教師の筆者が解説していきます。

ライター/むかいひろき

ロシアの大学で2年間働き、日本で大学院修了の日本語教師。その経験を武器に「言葉」について分かりやすく解説していく。

「板につく」の意味や語源は?

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「お、やっと板についてきたじゃん」「すっかり板についたね」など、日常で耳にすることも多い「板につく」という言葉。どんな意味だったっけ…と思うこともあるのではないでしょうか。まずは、その「板につく」について、意味と語源を確認していきます。

「板につく」の意味は「立ち振る舞いが立場や職業などに似合ったものになる」

最初に、「板につく」の意味を辞書を参照し確認していきましょう。「板につく」は国語辞典には次のような意味が掲載されています。

1.役者が経験を積んで、芸が舞台にしっくりと調和する。
2.経験を積んで、動作・態度・服装などがいかにもそれに似合ったものになる。

出典:明鏡国語辞典 第二版(大修館書店)「◆板に付・く」

国語辞典には2つの意味が掲載されていますね。このうち、今回メインで解説していくのは2番目の意味です。1番目の意味は語源のコーナーでご紹介します。

「板につく」は「経験を積んだことによって、立ち振る舞いが立場や職業などに似合ったものになる」という意味の慣用表現です。どのような仕事でも、最初から上手にできる人はほとんどいません。ただ、経験や訓練を積むことで徐々に仕事に慣れていきます。そしていつの間にか、何の問題もなく仕事をこなせるように…。このような状態を「板につく」と言います。

また、学校の制服など、ある身分や役割を表す服装が、時間の経過とともににあってきた場合にも「板につく」を使用しますね。ちなみに、「板に付く」と書いても問題ありません。

「板につく」の語源は舞台と役者の関係?

では、「板につく」の語源は何でしょうか?意味のコーナーでご紹介した1番の意味が、ここで関連してきますよ。

「板につく」の「板」は、「舞台」を意味します。この「板(舞台)」の上で演技をするのは役者ですね。役者の芸や演技が「板(舞台)」とぴったり調和していることを、「板につく」と言い始めたのがこの慣用句の由来です。当初は役者についてだけだったものが、徐々に意味が広がっていき、現在の用法になったと考えられています。

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「板につく」の使い方を例文とともに解説!

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続いて、「板につく」の使い方を例文とともに確認していきましょう。「板につく」は「板についてきた」といったように、「~てくる」と合わせて使用することが多いです。

1.教育実習も終盤に差し掛かり、田中さんの授業もだいぶ板についてきた
2.息子が中学校に入学してもう2か月。最初は似合っていなかった制服も、だいぶ板についた
3.西田選手は最初は頼りなかったが、今ではすっかりキャプテンマークが板についている

例文1は、教育実習に来た実習生のお話です。教育実習の最初のころは、多くの実習生にとって授業が上手く進まないのは当然でしょう。しかし田中さんは、徐々に回数をこなすことで授業がしっかりとしたものになっていきました。例文1では「回数をこなすことで、業務に慣れ、しっかりと遂行できるようになる」という意味で「板につく」が使用されています

例文2では「中学校に通い続けることで、息子に制服が似合ってきたこと」について「板につく」が使用されていますね。このように、「服装がある場所に通い続けることや、ある仕事を続けることで似合うようになること」にも、「板につく」は使用されます

例文3は、例文1と同様の意味で「板につく」が使用されている例ですね。キャプテンの役割を回数をこなすことで果たせるようになったわけです。

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「板につく」の類義語は?

次に、「板につく」の類義語を確認していきましょう。「板につく」の類義語は「様になる」と「堂に入る」です。意味やニュアンスの説明、「板につく」との比較をここでは行っていきます。

「様になる」:立場や職業などに相応しい様子になる

「様になる(さまになる)」は「立場や職業などに相応しい様子になる」という意味の慣用表現です。基本的な使用場面は「板につく」と同じで、「回数をこなすことで、業務に慣れ、しっかりと遂行できるようになる」場合や、「服装がある場所に通い続けることや、ある仕事を続けることで似合うようになる」場合に使用します。「教育実習生の授業が様になってきた」「中学校の制服が様になってきた」といったようにですね。

意味やニュアンスは「板につく」と違いはありませんが、「服装がある場所に通い続けることや、ある仕事を続けることで似合うようになる」場合は、「板につく」よりも「様になる」の方が使用されれうことが多い印象があります。

「堂に入る」:物事に習熟している

「堂に入る」は「物事に習熟している」という意味の慣用表現です。読み方は「どうにはいる」ではなく「どうにいる」ですので注意しましょう。

「板につく」と比較すると、「回数をこなすことで、業務に慣れ、しっかりと遂行できるようになる」場合は、「板につく」と同じ意味で「堂に入る」を使用することができます。ただ、「服装がある場所に通い続けることや、ある仕事を続けることで似合うようになる」場合を表す際は「堂に入る」は使用できないので注意しましょう。

「板につく」の英語表現は?

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続いて、「板につく」の英語表現を見ていきましょう。「板につく」は慣用表現であるため、「板」を表す単語や「つく」を表す単語を使っても同じ意味を表現できません。「板につく」の意味からその他のどの単語を使っていくかを考え、決して同じ意味でなくても近い意味を表す表現を探すことが大切です。

「become accustomed to」:~に慣れている

become accustomed to」は「~に慣れている」「~に慣れる」という意味の英語表現です。「板につく」の使用場面である「回数をこなすことで、業務に慣れ、しっかりと遂行できるようになる」場合には、「慣れる」というニュアンスが含まれています。この場合には、「板につく」を「be/become accustomed to」と置き換えることができるでしょう。

1.Three months after joining the company, Mr. Yamada is becoming accustomed to his job.
入社から3か月経ち、山田さんの仕事ぶりは板についてきた

2.I have been in Japan for 10 years. I have become accustomed to life in Japan.
来日して10年が経った。日本での生活も板についた

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「quite at home」:すっかり慣れている

quite at home」は「すっかり慣れている」という意味の英語表現です。「at home」は、よく知られている「家で」という意味の他に、「~に慣れる」や「精通」という意味を持っています。そこに「すっかり」「十分」という意味を持つ「quite」を組み合わせると、「板につく」と近い意味を表現できるのです。

1.I've quite at home in the translation business.
翻訳業が板についた

2.I am now quite at home in my study-abroad life.
留学生活が板についてきた

物事が「板につく」ために大切なのは、やはり訓練と経験!

今回は、「板につく」について解説しました。「板につく」は「経験を積んだことによって、立ち振る舞いが立場や職業などに似合ったものになる」という意味の慣用表現です。「回数をこなすことで、業務に慣れ、しっかりと遂行できるようになる」場合、「服装がある場所に通い続けることや、ある仕事を続けることで似合うようになる」場合の2つの使用場面があります。

物事が「板につく」ためには、何度も練習をしたり、何度も通って経験することが大切です。場数を踏んで物事を板につけていきましょう!

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国語言葉の意味

舞台と役者の関係が由来?「板につく」の意味や語源、類義語などを院卒日本語教師がわかりやすく解説

今日取り上げるのは「板につく」という言葉。意味を簡潔に述べると「立ち振る舞いが立場や職業などに似合ったものになる」といったところです。院卒日本語教師の筆者が解説していきます。

ライター/むかいひろき

ロシアの大学で2年間働き、日本で大学院修了の日本語教師。その経験を武器に「言葉」について分かりやすく解説していく。

「板につく」の意味や語源は?

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「お、やっと板についてきたじゃん」「すっかり板についたね」など、日常で耳にすることも多い「板につく」という言葉。どんな意味だったっけ…と思うこともあるのではないでしょうか。まずは、その「板につく」について、意味と語源を確認していきます。

「板につく」の意味は「立ち振る舞いが立場や職業などに似合ったものになる」

最初に、「板につく」の意味を辞書を参照し確認していきましょう。「板につく」は国語辞典には次のような意味が掲載されています。

1.役者が経験を積んで、芸が舞台にしっくりと調和する。
2.経験を積んで、動作・態度・服装などがいかにもそれに似合ったものになる。

出典:明鏡国語辞典 第二版(大修館書店)「◆板に付・く」

国語辞典には2つの意味が掲載されていますね。このうち、今回メインで解説していくのは2番目の意味です。1番目の意味は語源のコーナーでご紹介します。

「板につく」は「経験を積んだことによって、立ち振る舞いが立場や職業などに似合ったものになる」という意味の慣用表現です。どのような仕事でも、最初から上手にできる人はほとんどいません。ただ、経験や訓練を積むことで徐々に仕事に慣れていきます。そしていつの間にか、何の問題もなく仕事をこなせるように…。このような状態を「板につく」と言います。

また、学校の制服など、ある身分や役割を表す服装が、時間の経過とともににあってきた場合にも「板につく」を使用しますね。ちなみに、「板に付く」と書いても問題ありません。

「板につく」の語源は舞台と役者の関係?

では、「板につく」の語源は何でしょうか?意味のコーナーでご紹介した1番の意味が、ここで関連してきますよ。

「板につく」の「板」は、「舞台」を意味します。この「板(舞台)」の上で演技をするのは役者ですね。役者の芸や演技が「板(舞台)」とぴったり調和していることを、「板につく」と言い始めたのがこの慣用句の由来です。当初は役者についてだけだったものが、徐々に意味が広がっていき、現在の用法になったと考えられています。

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