

実のところ熱エネルギーという言い方は、科学的に言えばあまり正確ではない。なぜ正確とは言えないか、熱力学第一法則について学ぶ過程で理解していこう。
今回は物理学科出身のライター・トオルさんと解説していくぞ。

解説/桜木建二
「ドラゴン桜」主人公の桜木建二。物語内では落ちこぼれ高校・龍山高校を進学校に立て直した手腕を持つ。学生から社会人まで幅広く、学びのナビゲート役を務める。

ライター/トオル
物理学科出身のライター。広く科学一般に興味を持つ。初学者でも理解できる記事を目指している。
熱エネルギーと熱力学第一法則

image by iStockphoto
熱エネルギーとはたまに見かける用語です。環境技術や政策の分野などで使われることがあります。たとば太陽熱の熱エネルギーを効率的に電力に変換できるとかでしょうか。しかしながら、科学的に厳密に考えると、熱エネルギーというのはどうにも意味がはっきりしない用語です。その理由は熱という現象を正確に理解する難しさがあると思います。
今回は熱エネルギーという用語がなぜあまり適切であるとは言えないのか、熱力学的に説明してみましょう。ついでに、熱力学でのエネルギー保存則である熱力学第一法則についても説明します。
温度と熱について

image by iStockphoto
温冷の違いは温度計の目盛りなどの温度で表現できますが、それでは物体の温度の違いということは物体について何が違うことなのでしょうか。物体の温度を変えるには、温度の違う別の物体と接触されるのが普通です。これによって物体がより高温になった時には熱を加えたといい、より低温になった時には熱を奪ったといいますが、このとき一体何が起こっているようでしょうか。
温度とは何か、また、熱とは何かという問いは熱力学の中心的な課題です。熱力学の歴史を振り返ってみると、熱が極めて軽い物質のように考えられていた時代もありましたが、熱を加える(奪う)とはエネルギーを与える(取る)ことにほかならないということが次第に明らかになってきました。このことが分かってきたのは、力学的な仕事や電気的な仕事によって物体の温度が上がるという事実に基づいています。
温度と仕事について

image by Study-Z編集部
二個の物体を互いにこすり合わせると温度があがりますし、物体が電気の導体であれば電流を流して温度を上げることもできます。こすり合わせるには摩擦力に逆らって物体を動かすので力学的な仕事がされますし、電流を流すためには電池が電位差によって仕事をしているのです。力学において摩擦力がある場合に特徴的なのは力学的なエネルギーが保存しないということになります。
もし物体に働く力が保存力であれば、外からされた仕事量だけ物体の力学的エネルギーが増加するはずです。このとき外の系では、した仕事の量だけエネルギーが減りますので、全体では力学的エネルギーは変化しません。この場合、仕事量に等しい力学的エネルギーが外の系から物体に移ったとみることができます。
ところが、摩擦によって温度が上がる場合を考えると、外の系では仕事をした分だけエネルギーが減っているのに、物体の力学的エネルギーは変化せず、その代わりに物体の温度が上がっていると考えられるのです。このような場合、同じ物体に同じ温度変化を起こさせるために必要な仕事量は、仕事の種類や仕事の仕方によらず決まった値になることが実験によって確認されています。
パブリック・ドメイン, リンク
ジュールの羽根車について
19世紀の科学者であるジュールは、おもりが下がるのにともなって水の中の羽車が回り、水の運動を引き起こす上記画像のような装置を用いて実験を行いました。おもりが下がりきると、水の運動は容器の壁との摩擦と水の粘性によって次第に収まります。水が静止したときの温度を測り、おもりがした仕事と温度変化の関係を調べることにより、この二つの量は常に比例することが発見されました。
また、1カロリーの熱によって生じる温度変化が約4Jの仕事によって引き起こされることが見いだされ、おもりを変えたり、水の代わりに水銀を使ったりしても同じ値になることが確かめられています。また導体の場合に、電流を流すために必要な仕事と温度変化との関係からもこのことは確かめられているのです。
現在の研究では、1カロリー(1気圧のもとで純粋1gの温度を14.5℃から15.5℃に上げるのに必要な熱量)に相当するのは4.1855Jの仕事であることが分かっています。

力学的な仕事によって温度を上げることが可能ということだ。力学的な仕事で行方不明の分が温度を上げることに使われたとも言えるだろう。
\次のページで「熱とエネルギー保存について」を解説!/