今回は熱エネルギーと熱力学第一法則について解説していきます。

実のところ熱エネルギーという言い方は、科学的に言えばあまり正確ではない。なぜ正確とは言えないか、熱力学第一法則について学ぶ過程で理解していこう。

今回は物理学科出身のライター・トオルさんと解説していきます。

ライター/トオル

物理学科出身のライター。広く科学一般に興味を持つ。初学者でも理解できる記事を目指している。

熱エネルギーと熱力学第一法則

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熱エネルギーとはたまに見かける用語です。環境技術や政策の分野などで使われることがあります。たとば太陽熱の熱エネルギーを効率的に電力に変換できるとかでしょうか。しかしながら、科学的に厳密に考えると、熱エネルギーというのはどうにも意味がはっきりしない用語です。その理由は熱という現象を正確に理解する難しさがあると思います。

今回は熱エネルギーという用語がなぜあまり適切であるとは言えないのか、熱力学的に説明してみましょう。ついでに、熱力学でのエネルギー保存則である熱力学第一法則についても説明します。

温度と熱について

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温冷の違いは温度計の目盛りなどの温度で表現できますが、それでは物体の温度の違いということは物体について何が違うことなのでしょうか。物体の温度を変えるには、温度の違う別の物体と接触されるのが普通です。これによって物体がより高温になった時には熱を加えたといい、より低温になった時には熱を奪ったといいますが、このとき一体何が起こっているようでしょうか。

温度とは何か、また、熱とは何かという問いは熱力学の中心的な課題です。熱力学の歴史を振り返ってみると、熱が極めて軽い物質のように考えられていた時代もありましたが、熱を加える(奪う)とはエネルギーを与える(取る)ことにほかならないということが次第に明らかになってきました。このことが分かってきたのは、力学的な仕事や電気的な仕事によって物体の温度が上がるという事実に基づいています。

温度と仕事について

温度と仕事について

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二個の物体を互いにこすり合わせると温度があがりますし、物体が電気の導体であれば電流を流して温度を上げることもできます。こすり合わせるには摩擦力に逆らって物体を動かすので力学的な仕事がされますし、電流を流すためには電池が電位差によって仕事をしているのです。力学において摩擦力がある場合に特徴的なのは力学的なエネルギーが保存しないということになります。

もし物体に働く力が保存力であれば、外からされた仕事量だけ物体の力学的エネルギーが増加するはずです。このとき外の系では、した仕事の量だけエネルギーが減りますので、全体では力学的エネルギーは変化しません。この場合、仕事量に等しい力学的エネルギーが外の系から物体に移ったとみることができます。

ところが、摩擦によって温度が上がる場合を考えると、外の系では仕事をした分だけエネルギーが減っているのに、物体の力学的エネルギーは変化せず、その代わりに物体の温度が上がっていると考えられるのです。このような場合、同じ物体に同じ温度変化を起こさせるために必要な仕事量は、仕事の種類や仕事の仕方によらず決まった値になることが実験によって確認されています。

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ジュールの羽根車について

19世紀の科学者であるジュールは、おもりが下がるのにともなって水の中の羽車が回り、水の運動を引き起こす上記画像のような装置を用いて実験を行いました。おもりが下がりきると、水の運動は容器の壁との摩擦と水の粘性によって次第に収まります。水が静止したときの温度を測り、おもりがした仕事と温度変化の関係を調べることにより、この二つの量は常に比例することが発見されました。

また、1カロリーの熱によって生じる温度変化が約4Jの仕事によって引き起こされることが見いだされ、おもりを変えたり、水の代わりに水銀を使ったりしても同じ値になることが確かめられています。また導体の場合に、電流を流すために必要な仕事と温度変化との関係からもこのことは確かめられているのです。

現在の研究では、1カロリー(1気圧のもとで純粋1gの温度を14.5℃から15.5℃に上げるのに必要な熱量)に相当するのは4.1855Jの仕事であることが分かっています。

\次のページで「熱とエネルギー保存について」を解説!/

熱とエネルギー保存について

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前節で述べたように、失われたように見える力学的エネルギーはこれに見合うだけ温度を上げる働きをしているのです。そのため、力学的エネルギーは失われたのではなく、温度が上がったのにともなって物体のエネルギーが力学的エネルギー以外の形で増加していると考えられます。これを同じ変化が熱によって起こるのですから、熱を加える(奪う)とは、力学的な仕事以外のやり方でエネルギーを与える(とる)ことであると考えられるでしょう。

注目する系のエネルギーを変化させるには、外から力を加えて圧縮したり摩擦したりして力学的な仕事をしてもよいし、温度の高い熱源と接触させて熱するというやり方でエネルギーを授受してもよいのです。このとき、仕事あるいは熱のどちらのやり方でエネルギーを加えるにしても、外部が失った分だけ系のエネルギーは増加します。

つまり、エネルギーの総量は保存されているのです。そこで起こったのは外部から系にエネルギーが移ったことであり、このエネルギーは物体に保有されていて、消えてなくなっり勝手に増えたりは絶対にしません。

熱と熱エネルギーについて

系のエネルギーが変わる時に、熱によって温度が変わるのと、圧縮のように仕事によって変形するのとでは、見た目に明らかな違いが認められますから、系がエネルギーを保有する形態として熱あるいは熱エネルギーというようなものを考えたくなるかもしれません。しかし、熱というのは仕事と同じように、エネルギーが出入りするときの起こり方の区別であって、それによって出入りしたエネルギーには区別がないのです。

熱を加える(奪う)という表現は、物体がもっている熱を移すような印象を与えるかもしれませんが、ここで熱をといっているのは熱するというやり方でエネルギーをという意味になります。簡単のために、物体の力学的以外の状態変化に注目することにし、物体は静止していて、その運動エネルギーは0であり、位置エネルギーも変化しない場合を考えましょう。

このとき系のエネルギーで変化するのは、普通の方法では見えない物質内部の分子の変位や運動に関係したエネルギーなのです。これを内部エネルギーとよび、通常はUで表されます。

熱力学第一法則について

熱力学第一法則について

image by Study-Z編集部

内部エネルギーUは、変化の初めの状態1での値をU1、終わりの状態2での値をU2とすると、変化分U2-U1は変化の起こり方にはよらず、2つの状態だけできまった値になります。この値は、先ほど述べたエネルギー保存の関係により外から与えたエネルギー、すなわち外から加えた仕事の総量Wと外から加えた熱の総計Qとの和に等しいのです。それを表したのが上記1式になります。

この関係は熱に関する基本法則の一つで、これが熱力学第一法則です。状態が1から2まで変化する時、内部エネルギーの変化分は状態1と2だけできまりますが、WとQのそれぞれは変化の起こり方や道筋によって違った値になります。したがって、仕事をW、熱をQだけ余分にもっているなどと言う事はできません。

仕事や熱はエネルギーが出入りする時の形式を区別するものであり、エネルギーとして熱とか仕事とかいう形態があるわけではないのです。よって1式は、外から加えられたエネルギーの和W+Qが変化の起こり方や道筋によらずに内部エネルギーの増加に等しく、エネルギーが保存されることを示しています。

熱エネルギー?

この記事のように、熱力学的にみると熱とはエネルギーの移動の仕方の一種であり、熱エネルギーというものがあるわけではありません。内部エネルギーは統計力学的にみると分子の運動エネルギーとポテンシャルエネルギーのことなので、この分子の運動エネルギーのことを熱エネルギーとよばれることもあるようですが、これも紛らわしい用途といえるでしょう。

理想気体の場合には内部エネルギーと運動エネルギーとしての熱エネルギーは一致しますが、理想気体は現実に存在する現象ではありません。よって熱エネルギーという用語は、科学的に厳密に定義しようしてもうまくいかないのです。今後、あなたが熱エネルギーという用語に出会ったときは、実際はどういう意味で使っているのか注意することをオススメします。

" /> 「熱エネルギー」とは?熱力学第一法則と併せて理系ライターが丁寧にわかりやすく解説 – Study-Z
熱力学物理理科

「熱エネルギー」とは?熱力学第一法則と併せて理系ライターが丁寧にわかりやすく解説

今回は熱エネルギーと熱力学第一法則について解説していきます。

実のところ熱エネルギーという言い方は、科学的に言えばあまり正確ではない。なぜ正確とは言えないか、熱力学第一法則について学ぶ過程で理解していこう。

今回は物理学科出身のライター・トオルさんと解説していきます。

ライター/トオル

物理学科出身のライター。広く科学一般に興味を持つ。初学者でも理解できる記事を目指している。

熱エネルギーと熱力学第一法則

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熱エネルギーとはたまに見かける用語です。環境技術や政策の分野などで使われることがあります。たとば太陽熱の熱エネルギーを効率的に電力に変換できるとかでしょうか。しかしながら、科学的に厳密に考えると、熱エネルギーというのはどうにも意味がはっきりしない用語です。その理由は熱という現象を正確に理解する難しさがあると思います。

今回は熱エネルギーという用語がなぜあまり適切であるとは言えないのか、熱力学的に説明してみましょう。ついでに、熱力学でのエネルギー保存則である熱力学第一法則についても説明します。

温度と熱について

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温冷の違いは温度計の目盛りなどの温度で表現できますが、それでは物体の温度の違いということは物体について何が違うことなのでしょうか。物体の温度を変えるには、温度の違う別の物体と接触されるのが普通です。これによって物体がより高温になった時には熱を加えたといい、より低温になった時には熱を奪ったといいますが、このとき一体何が起こっているようでしょうか。

温度とは何か、また、熱とは何かという問いは熱力学の中心的な課題です。熱力学の歴史を振り返ってみると、熱が極めて軽い物質のように考えられていた時代もありましたが、熱を加える(奪う)とはエネルギーを与える(取る)ことにほかならないということが次第に明らかになってきました。このことが分かってきたのは、力学的な仕事や電気的な仕事によって物体の温度が上がるという事実に基づいています。

温度と仕事について

温度と仕事について

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二個の物体を互いにこすり合わせると温度があがりますし、物体が電気の導体であれば電流を流して温度を上げることもできます。こすり合わせるには摩擦力に逆らって物体を動かすので力学的な仕事がされますし、電流を流すためには電池が電位差によって仕事をしているのです。力学において摩擦力がある場合に特徴的なのは力学的なエネルギーが保存しないということになります。

もし物体に働く力が保存力であれば、外からされた仕事量だけ物体の力学的エネルギーが増加するはずです。このとき外の系では、した仕事の量だけエネルギーが減りますので、全体では力学的エネルギーは変化しません。この場合、仕事量に等しい力学的エネルギーが外の系から物体に移ったとみることができます。

ところが、摩擦によって温度が上がる場合を考えると、外の系では仕事をした分だけエネルギーが減っているのに、物体の力学的エネルギーは変化せず、その代わりに物体の温度が上がっていると考えられるのです。このような場合、同じ物体に同じ温度変化を起こさせるために必要な仕事量は、仕事の種類や仕事の仕方によらず決まった値になることが実験によって確認されています。

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ジュールの羽根車について

19世紀の科学者であるジュールは、おもりが下がるのにともなって水の中の羽車が回り、水の運動を引き起こす上記画像のような装置を用いて実験を行いました。おもりが下がりきると、水の運動は容器の壁との摩擦と水の粘性によって次第に収まります。水が静止したときの温度を測り、おもりがした仕事と温度変化の関係を調べることにより、この二つの量は常に比例することが発見されました。

また、1カロリーの熱によって生じる温度変化が約4Jの仕事によって引き起こされることが見いだされ、おもりを変えたり、水の代わりに水銀を使ったりしても同じ値になることが確かめられています。また導体の場合に、電流を流すために必要な仕事と温度変化との関係からもこのことは確かめられているのです。

現在の研究では、1カロリー(1気圧のもとで純粋1gの温度を14.5℃から15.5℃に上げるのに必要な熱量)に相当するのは4.1855Jの仕事であることが分かっています。

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