今回は「遺伝によって引き継がれる形質」について勉強していこう。

遺伝と聞くと顔が似ていたり血液型の関係であったりを思い浮かべるやつが多いでしょう。ですがそれは遺伝の一部に過ぎなのです。

まずは人間の遺伝を例にとって生化学に詳しいライターAyumiと一緒に解説していきます。

ライター/Ayumi

理系出身の元塾講師。わかるから面白い、面白いからもっと知りたくなるのが化学!まずは身近な例を使って楽しみながら考えさせることで、多くの生徒を志望校合格に導いた。

1.形質とは

image by iStockphoto

形質とは、動物や植物など、生物のもつ性質や特徴のことです。そのうち、遺伝によって親世代から子世代へ継承される外見や生態系のパターンなどを遺伝形質といいます。これは肌や髪の色、顔のパーツなどが当てはまりますね。また、髪の毛が何色か、直毛かくせ毛か、といった状態のことを形質状態といいます。メンデルがエンドウマメで見つけた丸い豆としわの豆、緑の豆と黄色い豆という遺伝情報も、この形質の1つです。

それでは、形質について細かく見ていきましょう。形質には4つの大きな分類があり、それは動植物それぞれに存在するものです。まずはそれらの区別をわかりやすいように動物で例を出し、植物についても考えてみましょう。

1-1.見た目に関わる形状性質

1-1.見た目に関わる形状性質

image by Study-Z編集部

最もわかりやすい遺伝情報は外見に現れるでしょう。体格や髪の毛、顔といった部分は親子関係を判別するときの大きな手掛かりとなりますね。よく見てみると目は父親、鼻は母親といったようにパーツごとに異なる人もいるでしょう。兄弟で顔が似ていないというケースも多々ありますが、それは父親似と母親似で異なるからからもしれませんね。

上の表はどんな遺伝状態が受け継がれやすいかという法則を示したものです。たとえば黒髪の母親と金髪の父親をもつこの場合、ほとんどが黒または茶色の髪をもつようになるでしょう。それは黒い髪になる遺伝子の方が子に伝わりやすいという性質をもっているからです。(ただし隔世遺伝といって祖父母世代のもつ形質が孫世代で発現する場合もありますよ。)このように、より子に受け継がれやすい形質状態を優性、その反対を劣性といいます。ただし、近年では遺伝に優劣があるという悪い印象につながるとして顕性(けんせい)・潜性(せんせい)と呼び名が変わり、表記が混在している場合もあるようです。

植物に関しても同様で、花や種子の大きさ、色、形といった見た目に関する遺伝形質がこれにあたります。より美しい花を咲かせるため、大きな実をつけるための品種改良がさかんに行われていますよね。

1-2.行動に関わる生態形質

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動物においては、ある特定の条件下における行動に傾向がみられるでしょう。行動遺伝学という分野では、遺伝が行動にどのような影響を与えるかを研究しています。例えば、同じ遺伝子をもつ一卵性双生児は行動遺伝子において長く研究対象となっているのをご存知でしょうか。行動や性格に影響を与えているのは遺伝子なのか、環境なのかというテーマで研究が行われています。

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1-3.耐性に関わる生理形質

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日本には四季があるため、一年の寒暖差は比較的大きい国です。そのために日本の家は寒さにも暑さにも対応できる構造をしていますよね。日本だけでなく、建物はその土地の気候に合わせ、より快適に生活するための工夫がたくさんあります。しかし、そもそも高地や寒冷地など、もともと特殊な環境で生まれ育った人はそうでない人に比べてその環境に強くなるでしょう。例えば、私たちは富士山に登ると息苦しさを感じ、高山病のリスクが高まります。しかし富士山よりも高い場所にある村に住む人たちは、そんな土地で普通に生活し、運動することもできるでしょう。生理形質である環境への適応や病気へのかかりにくさなど、耐性は種の存続に関わる問題なのです。

人は耐性の問題だけでなく、住居や衣類、その他の方法によって身を守ることができます。しかし植物は環境の変化があっても耐えることしかできません。耐えられなくなったとき、植物は枯れるしかないでしょう。だからこそ、環境への耐性・適応力を身に着けることが重要です。降雨量が少なくてもよく育つように、寒冷地でも霜にやられてしまわないように。今ある植物は進化の過程で耐性を獲得し、より種としての寿命を延ばすように進化してきたのです。

1-4.遺伝子に関わる分子形質

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血液型は両親の血液型によって決められるというのはきっとご存じでしょう。人の血液型はABO式血液型という形質であり、A型・B型・AB型・O型がそれを実現化させた表現型になります。形質:髪の毛/形質状態:直毛 と表されるように、形質:ABO式血液型/表現型:A型・B型・AB・O型 ということですね。

その他、染色体の中にあるDNAとよばれる塩基配列や特定の疾患などを引き起こすような遺伝子配置など、いわゆる分析によって明らかになるような遺伝子情報を分子形質といいます。

2.質的形質と量的形質

形質には上記のような4つの分類に加え、質的形質と量的形質という2つの分類も存在することを最後にまとめておきましょう。

質的形質とは、ある/ない、1つ/2つ/3つ、A型/B型/AB/O型といった連続しない質的な形質を表します。反対に量的形質とは、身長や花の大きさなどサイズとして連続した実数で示される形質のことです。これらのことから質的形質を離散形質、量的形質を連続形質とよぶこともあるので、併せて覚えておくと意味が理解しやすくなりそうですね。

遺伝する形質は目に見えるものだけじゃない

遺伝というものを考えたとき、多くの人が「自分は目が父親に似て背が高い」だとか「自分は母親似で弟は父親似である」とか、見た目に関する遺伝を思い浮かべるでしょう。これらは形状という見た目に関する遺伝の形質(形状形質)にあたります。また、身近なところでは血液型(分子形質)から親子関係を簡易的にですが分析することが可能ですね。このように目に見える形質もありますが、目に見えない形質にこそ、遺伝の面白さや不思議が隠されているのです。

例えば行動(生態形質)や環境への耐性(生理形質)、化学分析をして初めてわかるような詳細な遺伝情報などはあなたのルーツを探すための大きな手掛かりとなります。遺伝子は人間を含めた動物だけでなく、植物も同様に持つものです。近年では健康増進のためであったり、様々な品種改良のために日々研究が進歩しています。次回は今回解説した遺伝の形質がどのように子孫に伝わっていくのか、その規則性のメカニズムについて解説していきますね。

" /> 「遺伝」と「形質」って何?元塾講師がわかりやすく解説 – Study-Z
理科生物細胞・生殖・遺伝

「遺伝」と「形質」って何?元塾講師がわかりやすく解説

今回は「遺伝によって引き継がれる形質」について勉強していこう。

遺伝と聞くと顔が似ていたり血液型の関係であったりを思い浮かべるやつが多いでしょう。ですがそれは遺伝の一部に過ぎなのです。

まずは人間の遺伝を例にとって生化学に詳しいライターAyumiと一緒に解説していきます。

ライター/Ayumi

理系出身の元塾講師。わかるから面白い、面白いからもっと知りたくなるのが化学!まずは身近な例を使って楽しみながら考えさせることで、多くの生徒を志望校合格に導いた。

1.形質とは

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形質とは、動物や植物など、生物のもつ性質や特徴のことです。そのうち、遺伝によって親世代から子世代へ継承される外見や生態系のパターンなどを遺伝形質といいます。これは肌や髪の色、顔のパーツなどが当てはまりますね。また、髪の毛が何色か、直毛かくせ毛か、といった状態のことを形質状態といいます。メンデルがエンドウマメで見つけた丸い豆としわの豆、緑の豆と黄色い豆という遺伝情報も、この形質の1つです。

それでは、形質について細かく見ていきましょう。形質には4つの大きな分類があり、それは動植物それぞれに存在するものです。まずはそれらの区別をわかりやすいように動物で例を出し、植物についても考えてみましょう。

1-1.見た目に関わる形状性質

1-1.見た目に関わる形状性質

image by Study-Z編集部

最もわかりやすい遺伝情報は外見に現れるでしょう。体格や髪の毛、顔といった部分は親子関係を判別するときの大きな手掛かりとなりますね。よく見てみると目は父親、鼻は母親といったようにパーツごとに異なる人もいるでしょう。兄弟で顔が似ていないというケースも多々ありますが、それは父親似と母親似で異なるからからもしれませんね。

上の表はどんな遺伝状態が受け継がれやすいかという法則を示したものです。たとえば黒髪の母親と金髪の父親をもつこの場合、ほとんどが黒または茶色の髪をもつようになるでしょう。それは黒い髪になる遺伝子の方が子に伝わりやすいという性質をもっているからです。(ただし隔世遺伝といって祖父母世代のもつ形質が孫世代で発現する場合もありますよ。)このように、より子に受け継がれやすい形質状態を優性、その反対を劣性といいます。ただし、近年では遺伝に優劣があるという悪い印象につながるとして顕性(けんせい)・潜性(せんせい)と呼び名が変わり、表記が混在している場合もあるようです。

植物に関しても同様で、花や種子の大きさ、色、形といった見た目に関する遺伝形質がこれにあたります。より美しい花を咲かせるため、大きな実をつけるための品種改良がさかんに行われていますよね。

1-2.行動に関わる生態形質

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動物においては、ある特定の条件下における行動に傾向がみられるでしょう。行動遺伝学という分野では、遺伝が行動にどのような影響を与えるかを研究しています。例えば、同じ遺伝子をもつ一卵性双生児は行動遺伝子において長く研究対象となっているのをご存知でしょうか。行動や性格に影響を与えているのは遺伝子なのか、環境なのかというテーマで研究が行われています。

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