今回は温度と熱力学第零法則について解説していきます。

温度というのは日常的に使う概念ですが、科学的に厳密に定義しようとすると随分難しいものです。今回は温度の基本的な取り扱いと熱力学第零法則について紹介しよう。

今回は物理学科出身のライター・トオルさんと解説していきます。

ライター/トオル

物理学科出身のライター。広く科学一般に興味を持つ。初学者でも理解できる記事を目指している。

温度と熱力学第零法則について

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熱力学にとって一番重要な変数は何かと聞かれれば、初学者は大抵温度と答えるのではないでしょうか。しかし、温度言うものは高温、低温などといって日常語になっているにもかかわらず、科学的に厳密に定義しようと考えるとかなり難解な概念なのです。理由の一つは我々の温度に関する感覚が温度という現象の一部しか反映していないことが理由だと思われます。

熱力学は我々の日常スケールのマクロな世界で熱現象を説明していますが、熱現象をより詳細に取り扱うにはもっとミクロな粒子レベルの考え方を取り入れなければいけません。そのために、温度の定義も日常的な感覚から大きく外れてしまうのです。しかし、基本的な熱力学が考える温度というものは、我々の感覚的なイメージとそれほど大きくはズレていません。今回はこの基本的な熱力学にとっての温度というものについて、解説してみましょう。

温度を測定する方法・その1

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温かさや冷たさは皮膚で感じられますが、これには主観的要素が大きいためあまり実用的ではありません。そこで温かい冷たいを客観的に表すには温度計で計った温度が用いられます。液体温度計は、アルコールや水銀をガラス管に封じたもので、温冷によって液体の体積が変わるという性質を利用しているといのは知っている方も多いでしょう。

正確に言うと、ガラス管自体の容積も変わるのですが、液体とガラスでは体積の変化率が違いうので、ガラス管の中で液体が占めている体積の割合が変わります。これを目盛りで読み取っているのです。一般に、物体の巨視的な性質は温冷の違いによって変化します。液体温度計以外の温度計でも、用いられる物質の性質が温冷によって変化することを利用しているのです。

温度を測定する方法・その2

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ある物体の温度を液体温度計で計る時は、物体と温度計を接触させ温度計の目盛りが変化しなくなるのを待ってからその値を読みます。経験的によく知られているように、二つの物体を接触させると温かい物体は冷やされ、冷たい物体は温められるはずです。互いに接触している二つの物体が外から影響を受けないなら、この変化はやがて完全に止まってしまいます。

互いに接触している二つの物体に何の変化も起こらないようになったとき、二つの物体は熱的に釣り合った、あるいは熱平衡になったといい、二つの物体の温度は等しいはずです。もし接触させても何の変化も起こらなかった場合は、もともと二つの物体は熱的に釣り合っており温度が等しかったと考えます。

このように熱的に釣り合っている時に等しい量として温度を決めることは、ごく当たり前のように思われるかもしてませんが、この方法で矛盾がないためには次の熱力学第零とよばれものが必要です。

熱力学第零法則について

熱力学第零法則について

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上記が熱力学第零法則と呼ばれるものになります。前に述べた等温の決め方によれば、AとB、AとCとが熱平衡になっているとき、AとBの温度が等しく、AとCの温度が等しいことになり、したがってBとCの温度も等しくなければいけません。熱力学第零法則よれば、このときBとCとは熱平衡にあるから、この等温の決め方には矛盾がないことになります。

以下は論理学の話になりますが、対象とするものを、対象間に成り立つ関係によって分類しようとするとき、その関係が次の条件を満たしていないと矛盾が生じるのです。その条件は、AとBをその対象、~をその関係として、

(1)A~A(同一則)

(2)A~B ならば B~A (反射則)

(3)A~B かつ A~C ならば B~C (推移則)

になります。熱平衡にあるという関係によって対象を分類し、対象の違いを温度で表すことができるためには、熱平衡の関係がこれら三つの条件を満たさなければいけません。熱力学第零法則はこの(3)が成り立つことを示しているのです。

\次のページで「温度目盛りについて」を解説!/

温度目盛りについて

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温度を数値で表すには、温度に伴って変化する物質の性質を用います。物質の様態の変化、たとえば氷の融解や水の沸騰などはきまった温度で起こるので、これらの変化の起こる時ときの温度をきまった数値で表すことすればよいはずです。また、液体・気体の体積や固定の電気抵抗なども温度が変わるとその値が連続的に変わり、それぞれの温度に対して違う値となるから、これらの量を用いて温度の値を目盛ることができます。

日常に用いられる℃(セルシウス温度)は、1気圧のもとで、水と氷とが共存して熱平衡になる温度を0℃、水と水蒸気とが熱平衡になる温度を100℃とし、その間を100等分して1℃の温度差を定めたものです。しかし、100℃と0℃の間を100等分するといっても、温度計に用いる物質や物理量が違えば温度による変わり方が違ってきますので、温度計として何を使うかによって目盛りが違ってしまうことになります。

そこで、何か標準の温度計を決めておき、他の温度計はこの標準温度の目盛りに合わせることにすればよいでしょう。このように決めた温度の目盛りは、便宜的温度目盛りあるいは経験的温度目盛りとよばれます。

理想気体温度計について

理想気体温度計について

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一定量の気体では、温度が一定の場合は、その圧力pとその体積Vとの間にほとんど反比例の関係があること(ボイルの法則)が知られています。反比例の関係がどれくらい正確成り立つかは気体の種類によって違うのですが、一般に気体の密度が小さいほど正確です。そこで気体の密度を小さくした極限を考えるとpVが決まった温度になりますので、この値で温度を目盛ることにしてみましょう。

0℃と100℃それぞれのpVの値を考えると、pVの値と温度の数値t℃との間は上記1の式になります。これを変形したのが2の式です。実験値を用いるとtの係数は3になります。つまり、この温度目盛りでは、圧力を一定にすると温度が1℃上がるごとに0℃のときの体積の1/273.5ず増加することが分かるでしょう。よって4の式がでてきます。

この式をグラフにすると上記のようになり、t=-273.15でpVが0です。そこで、温度の原点をここに移すというのが自然な発想でしょう。この温度目盛りで表した温度(絶対温度)は℃のかわりにK(ケルビン温度)とします。Kと℃の関係は5の式です。ただし、理想気体とは厳密には純理論的な存在であることを注意しておきましょう。

温度の定義

最後に紹介した理想気体温度計の温度目盛りは、特定の物質の性質に頼らないでどのような物質に対しても成り立つ一般的な関係を使った熱力学的温度目盛りと一致します。今回は紹介しきれませんでしたが、熱力学的温度目盛りは可逆熱機関を考えることによって定義されたものです。

熱力学ではこのケルビン温度で問題ありませんが、熱現象をより精密に取り扱う統計力学においてはこの定義では不十分になります。そこでは分子の運動エネルギーや、エントロピーといった状態量による定義などとの対応が議論されるでしょう。その関係で、2019年よりケルビン温度の定義にはボルツマン定数が用いられるようになりました。

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熱力学物理理科

熱力学の基本としての温度と「熱力学第零法則」を理系ライターが丁寧にわかりやすく解説

今回は温度と熱力学第零法則について解説していきます。

温度というのは日常的に使う概念ですが、科学的に厳密に定義しようとすると随分難しいものです。今回は温度の基本的な取り扱いと熱力学第零法則について紹介しよう。

今回は物理学科出身のライター・トオルさんと解説していきます。

ライター/トオル

物理学科出身のライター。広く科学一般に興味を持つ。初学者でも理解できる記事を目指している。

温度と熱力学第零法則について

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熱力学にとって一番重要な変数は何かと聞かれれば、初学者は大抵温度と答えるのではないでしょうか。しかし、温度言うものは高温、低温などといって日常語になっているにもかかわらず、科学的に厳密に定義しようと考えるとかなり難解な概念なのです。理由の一つは我々の温度に関する感覚が温度という現象の一部しか反映していないことが理由だと思われます。

熱力学は我々の日常スケールのマクロな世界で熱現象を説明していますが、熱現象をより詳細に取り扱うにはもっとミクロな粒子レベルの考え方を取り入れなければいけません。そのために、温度の定義も日常的な感覚から大きく外れてしまうのです。しかし、基本的な熱力学が考える温度というものは、我々の感覚的なイメージとそれほど大きくはズレていません。今回はこの基本的な熱力学にとっての温度というものについて、解説してみましょう。

温度を測定する方法・その1

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温かさや冷たさは皮膚で感じられますが、これには主観的要素が大きいためあまり実用的ではありません。そこで温かい冷たいを客観的に表すには温度計で計った温度が用いられます。液体温度計は、アルコールや水銀をガラス管に封じたもので、温冷によって液体の体積が変わるという性質を利用しているといのは知っている方も多いでしょう。

正確に言うと、ガラス管自体の容積も変わるのですが、液体とガラスでは体積の変化率が違いうので、ガラス管の中で液体が占めている体積の割合が変わります。これを目盛りで読み取っているのです。一般に、物体の巨視的な性質は温冷の違いによって変化します。液体温度計以外の温度計でも、用いられる物質の性質が温冷によって変化することを利用しているのです。

温度を測定する方法・その2

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ある物体の温度を液体温度計で計る時は、物体と温度計を接触させ温度計の目盛りが変化しなくなるのを待ってからその値を読みます。経験的によく知られているように、二つの物体を接触させると温かい物体は冷やされ、冷たい物体は温められるはずです。互いに接触している二つの物体が外から影響を受けないなら、この変化はやがて完全に止まってしまいます。

互いに接触している二つの物体に何の変化も起こらないようになったとき、二つの物体は熱的に釣り合った、あるいは熱平衡になったといい、二つの物体の温度は等しいはずです。もし接触させても何の変化も起こらなかった場合は、もともと二つの物体は熱的に釣り合っており温度が等しかったと考えます。

このように熱的に釣り合っている時に等しい量として温度を決めることは、ごく当たり前のように思われるかもしてませんが、この方法で矛盾がないためには次の熱力学第零とよばれものが必要です。

熱力学第零法則について

熱力学第零法則について

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上記が熱力学第零法則と呼ばれるものになります。前に述べた等温の決め方によれば、AとB、AとCとが熱平衡になっているとき、AとBの温度が等しく、AとCの温度が等しいことになり、したがってBとCの温度も等しくなければいけません。熱力学第零法則よれば、このときBとCとは熱平衡にあるから、この等温の決め方には矛盾がないことになります。

以下は論理学の話になりますが、対象とするものを、対象間に成り立つ関係によって分類しようとするとき、その関係が次の条件を満たしていないと矛盾が生じるのです。その条件は、AとBをその対象、~をその関係として、

(1)A~A(同一則)

(2)A~B ならば B~A (反射則)

(3)A~B かつ A~C ならば B~C (推移則)

になります。熱平衡にあるという関係によって対象を分類し、対象の違いを温度で表すことができるためには、熱平衡の関係がこれら三つの条件を満たさなければいけません。熱力学第零法則はこの(3)が成り立つことを示しているのです。

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