放射線ホルミシス効果の理論は、少量かつ適量の放射線を浴びることで、人間に良い影響がもたらされるのではないかというものです。放射線は危険なものだという認識が一般的であるから、驚いたはずです。今回は、放射線についての基礎知識を説明し、その後に放射線ホルミシス効果について詳しく述べる。ぜひ、この機会に放射線ホルミシス効果についての理解を深めてくれ。
化学に詳しいライター通りすがりのペンギン船長と一緒に解説していきます。
ライター/通りすがりのペンギン船長
現役理系大学生。エネルギー工学、環境工学を専攻している。これらの学問への興味は人一倍強い。放射化学、放射線物理学、原子力工学などを勉強していたこともある。
1.放射線ホルミシス効果について学ぶ前に
放射線という言葉を聞くと、おどろおどろしいイメージを抱く方も少なくないかもしれません。ですが、放射線は人体にとって有害であるという一般的な認識は本当に正しいのでしょうか?実は、近年の研究で少量の放射線は生物に良い影響を与えるのではないかという学説や仮説が報告されています。この理論が、放射線ホルミシス効果なのです。
放射線ホルミシス効果について理解を深めるためには、放射線についての知識が必要となります。ここでは、放射線の基礎知識を確認しておきましょう。放射線の正体、多量の放射線が人体に与える影響、自然放射線についての説明をします。
1-1放射線の正体
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まずは、放射線の正体について解説していきます。放射線とは、非常に大きな運動エネルギーをもった物質粒子と波長が短い高エネルギーの電磁波の総称です。非常に大きな運動エネルギーをもった物質粒子には、アルファ線やベータ線、中性子線などが含まれています。一方、波長が短い高エネルギーの電磁波には、ガンマ線やX線が含まれていますよ。
そして、放射線は電離作用という特殊な性質をもっています。電離作用とは、放射線が物質内部を通過する際に、強いエネルギーによって物質を構成する原子や分子に含まれる電子を取り去り、イオンを発生させる作用のことですよ。電離作用という現象は、放射線が周囲にどのような影響をもたらすのかを考察する際に、非常に重要になる概念です。
1-2大量の放射線が人体に与える影響
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人間が大量の放射線を短時間であびると、人体には深刻な障害が残り、場合によっては死亡してしまいます。具体的には、脱毛、白内障や白血病、がんの発症などが挙げられますよ。
これらの疾患等の影響は、確定的影響と確率的影響に分けることができます。脱毛や白内障は、放射線によって多くの細胞が同時に傷つけられた場合に生じますよ。そして、これらの影響は一定量以上の放射線を浴びた結果としてあらわれます。このような影響のことを確定的影響といいますよ。
一方で、白血病やがんなどの病気は確率的影響に分類されます。これらの病気は、放射線をたくさん受けるほど、発症確率が高くなるのです。そして、しきい値は存在しません。ですから、微量の放射線であっても発症する確率はわずかにあるのです。
1-3自然放射線とは?
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ここまでの説明だけでは、放射線というのは特殊な環境下でしか存在しないように思われる方もおられるかもしれません。ですが、生きている限り、私たちは常に放射線を浴び続けているのです。宇宙からやってくる放射線、地殻および大気に含まれるラドンからの放射線、食べ物からの放射線をあわせて自然放射線といいます。また、放射性物質であるラジウムがわずかに含まれる温泉もあるのです。
自然放射線量は、世界平均で年間2.4ミリシーベルトとされています。日本国内の平均値は、年間2.1ミリシーベルトです。シベールトは、放射線量の単位ですよ。これらの放射線量の条件下では、健康への影響はほとんどないと考えられています。
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