今回は「ミー散乱」について解説していきます。

突然ですが、雲はなぜ白いのか?ということを考えたことはあるでしょうか。この問に答えるのは、簡単なようで難しい。実は、この現象の説明に使われるのがミー散乱です。そして、ミー散乱はがん治療やアンテナの技術などに応用されており、実用性が高い理論でもあるぞ。ぜひ、この機会に、ミー散乱について学んでみてくれ。

塾講師として物理を高校生に教えていた経験もある通りすがりのぺんぎん船長と一緒に解説していきます。

ライター/通りすがりのペンギン船長

現役理系大学生。環境工学、エネルギー工学を専攻しており、物理学も幅広く勉強している。塾講師として物理を高校生に教えていた経験から、物理の学習において、つまずきやすい点や勘違いしやすい点も熟知している。

ミー散乱を学ぶ前に

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ミー散乱について学ぶ前に、物理学における散乱という言葉の意味について理解しておく必要があります散乱は、電子中性子のような粒子X線といった電磁波が、別の粒子に衝突または接近したときの相互作用によって進路を曲げられる現象のことをさしますよ。

光の散乱では、光がある粒子に入射し、その粒子から様々な方向に光が放たれます。このような現象が生じるのは、入射光の影響で粒子が振動し、振動している粒子から電磁波が放出されるからです。光は電磁波の一種ですよね。電磁波は電場と磁場が交互に変動する現象のことです。振動している粒子が電磁波を発する理由は、分子や原子などの粒子が電子や陽子を含んでいるからですよ。この理論は、電気双極子を用いた古典物理学的な説明と量子力学を用いた説明のどちらでもアプローチすることができます。

また、光の散乱と光の乱反射を混同してしまう方が多いようですが、これらの現象は異なるものです。光の散乱は、粒子の振動によって説明される現象で、比較的小さい対象物に光が入射した場合に生じます。一方、光の乱反射は、比較的大きい対象物に光が入射したときに生じますよ。光の乱反射は、物体表面の凹凸が原因となっています。

ミー散乱とは?

ミー散乱とは?

image by Study-Z編集部

ミー散乱は、光の散乱の一種です。ミー散乱は、対象となる粒子径が入射する光の波長と同じくらいであるときに生じます。この条件を数式で表すときに、粒子径パラメータαを用いると便利です。粒子径パラメータは、α=2πr/λですよ。今、πは円周率rは粒子の半径λは入射光の波長を表しています。αの値が1に近いとき、ミー散乱を観察することができますよαが大きすぎると、ミー散乱ではなく回折散乱になってしまうのです

また、ミー散乱では粒子から見て光が入射する側とその反対側では、散乱光の強度が異なります。この現象は、粒子径が大きいほど、顕著に現れますよ。つまり、ミー散乱による散乱光は方向によってむらがあるということになりますね。このような散乱を、異方散乱と呼ぶことがあります。異方散乱の場合、散乱光の強度パターンは、測定または計算で求めた分布関数で表現しますよ。

続いて、ミー散乱に影響を与える因子を考えてみましょう。ミー散乱の様子は、粒子径入射光の波長複素屈折率によって決定されます。ですが、粒子のサイズが比較的大きい場合、散乱光の強度は、波長の違いだけでは大きく変化しません。つまり、何色の光であっても、散乱の様子はあまり変化しないのです。このようなことから、粒子のサイズが比較的大きいとき、ミー散乱の波長依存性は小さいと言えます。

ミー散乱によっておこる身近な現象

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白い雲

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晴れた日、空に浮かぶ雲は白く見えますよね。ですが、雲を構成している水滴や小さな氷の主成分は水であり、本来は無色透明です。では、なぜ雲は白いのでしょうか?この現象はミー散乱によって説明できますよ雲に含まれる水滴や氷の粒径は10μm程度であり、可視光線の領域であれば、粒子径パラメータαの値はおよそ1となります。つまり、雲の中の水滴や氷に可視光線が入射すると、ミー散乱が生じるのです

太陽光には、可視光線のうち、赤、橙、黄、緑、青、紫のすべての成分が含まれています。また、雲粒の粒子は比較的大きく、ミー散乱の波長依存性が小さくなるので、入射した可視光線は、どの色も同じように散乱しますよね。そのため、雲が発する散乱光は、可視光線のすべての色の成分が含まれており白色に見えるのです

生クリームの色

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生クリームには、脂肪分が多く含まれています。この脂肪分の多くが、粒径1μmから100μmの脂肪球として存在していますよ。この値を用いて、可視光線の領域で粒子径パラメータαの値を計算するとおよそ1となります。このことから、生クリームに光が入射すると、ミー散乱が生じることがわかりますね。雲の場合と同様に、脂肪球は比較的大きいサイズの粒子ですから、ミー散乱の波長依存性は小さくなると考えられます。そのため、生クリームに入射した可視光線は、どの色の成分もほぼ均等に散乱するのです。これが、生クリームが白く見える理由ですよ。

ちなみに、無脂肪牛乳の場合、粒径100nm程度のタンパク質コロイドが多く含まれている状態です。このとき、ミー散乱よりもレイリー散乱のほうが優位になるので、青味がかった色に見えることがあります。乳製品の色は、脂肪球とタンパク質のコロイドのどちらが多く含まれているかを考えれば、見当がつくのですね。

ミー散乱の理論を応用した科学技術

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最後に、ミー散乱の理論を応用したことで発明された技術について説明します。1つ目はがんの検査です。人間の細胞に光を入射した際に生じる散乱光を調べて、健全な細胞であるか、がん細胞であるかを判断します

2つ目は写真に示した八木アンテナです。ミー散乱の理論の基に、小型で指向性の高いアンテナとして開発されました。八木アンテナは、地上デジタル放送受信に使用されており、テレビを設置している世帯の屋根に多く設置されていますよ

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ミー散乱について学ぼう!

雲が白く見える現象や生クリームが白く見える現象は、ミー散乱という物理現象によって説明されます。これらは、とても身近に感じる現象ですよね。このような身近な現象から物理学を知るというのは、良い経験になるでしょう。子どもたちに、物理学の面白さを伝えたい時にも、ぴったりの題材だと思います。

また、ミー散乱は身近な存在でありながら、がん治療やアンテナの技術にも応用されていますよ。興味のある方は、こちらの応用分野について調べてみるのも面白いかもしれません。

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物理物理学・力学理科量子力学・原子物理学

どうして雲は白いの?「ミー散乱」について理系学生ライターがわかりやすく解説!

今回は「ミー散乱」について解説していきます。

突然ですが、雲はなぜ白いのか?ということを考えたことはあるでしょうか。この問に答えるのは、簡単なようで難しい。実は、この現象の説明に使われるのがミー散乱です。そして、ミー散乱はがん治療やアンテナの技術などに応用されており、実用性が高い理論でもあるぞ。ぜひ、この機会に、ミー散乱について学んでみてくれ。

塾講師として物理を高校生に教えていた経験もある通りすがりのぺんぎん船長と一緒に解説していきます。

ライター/通りすがりのペンギン船長

現役理系大学生。環境工学、エネルギー工学を専攻しており、物理学も幅広く勉強している。塾講師として物理を高校生に教えていた経験から、物理の学習において、つまずきやすい点や勘違いしやすい点も熟知している。

ミー散乱を学ぶ前に

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ミー散乱について学ぶ前に、物理学における散乱という言葉の意味について理解しておく必要があります散乱は、電子中性子のような粒子X線といった電磁波が、別の粒子に衝突または接近したときの相互作用によって進路を曲げられる現象のことをさしますよ。

光の散乱では、光がある粒子に入射し、その粒子から様々な方向に光が放たれます。このような現象が生じるのは、入射光の影響で粒子が振動し、振動している粒子から電磁波が放出されるからです。光は電磁波の一種ですよね。電磁波は電場と磁場が交互に変動する現象のことです。振動している粒子が電磁波を発する理由は、分子や原子などの粒子が電子や陽子を含んでいるからですよ。この理論は、電気双極子を用いた古典物理学的な説明と量子力学を用いた説明のどちらでもアプローチすることができます。

また、光の散乱と光の乱反射を混同してしまう方が多いようですが、これらの現象は異なるものです。光の散乱は、粒子の振動によって説明される現象で、比較的小さい対象物に光が入射した場合に生じます。一方、光の乱反射は、比較的大きい対象物に光が入射したときに生じますよ。光の乱反射は、物体表面の凹凸が原因となっています。

ミー散乱とは?

ミー散乱とは?

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ミー散乱は、光の散乱の一種です。ミー散乱は、対象となる粒子径が入射する光の波長と同じくらいであるときに生じます。この条件を数式で表すときに、粒子径パラメータαを用いると便利です。粒子径パラメータは、α=2πr/λですよ。今、πは円周率rは粒子の半径λは入射光の波長を表しています。αの値が1に近いとき、ミー散乱を観察することができますよαが大きすぎると、ミー散乱ではなく回折散乱になってしまうのです

また、ミー散乱では粒子から見て光が入射する側とその反対側では、散乱光の強度が異なります。この現象は、粒子径が大きいほど、顕著に現れますよ。つまり、ミー散乱による散乱光は方向によってむらがあるということになりますね。このような散乱を、異方散乱と呼ぶことがあります。異方散乱の場合、散乱光の強度パターンは、測定または計算で求めた分布関数で表現しますよ。

続いて、ミー散乱に影響を与える因子を考えてみましょう。ミー散乱の様子は、粒子径入射光の波長複素屈折率によって決定されます。ですが、粒子のサイズが比較的大きい場合、散乱光の強度は、波長の違いだけでは大きく変化しません。つまり、何色の光であっても、散乱の様子はあまり変化しないのです。このようなことから、粒子のサイズが比較的大きいとき、ミー散乱の波長依存性は小さいと言えます。

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