今回は予防接種についてまなんでいこう。

感染症の流行があるとニュースでもワクチンなどの話が出る。よく聞く言葉ではありますが、「ワクチン」と「治療薬」を混同しているやつもいるな。ワクチンとは何なのか、予防接種とはどんな仕組みなのかを理解しよう。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

予防接種とは

予防接種とは、特定の病気にかかる前にそのワクチンを接種し、免疫をつけることをいいます。予防接種を行うことで、その病気にかかりにくくなったり、り患したとしても症状が軽く済むようになるのです。

仕組み

後ほど詳しく説明しますが、ワクチンとは病気を引き起こす病原体の一部や、それを弱らせたものです。わざわざ病気の原因を接種することが、なぜその病気の予防につながるのでしょうか?

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予防接種は、わたしたちの体に備わる免疫の仕組みを利用しています。免疫反応は大きく自然免疫獲得免疫に分けられますが、予防接種で重要になってくるのは獲得免疫の方です。

病原体などの異物が体内に侵入すると、真っ先に自然免疫のシステムがはたらきます。白血球の一種である好中球やマクロファージが異物を食べたり(食作用)、NK細胞が病原体に感染した細胞を殺してしまうことで侵入を防ぐのです。

自然免疫がはたらく傍らで、樹状細胞というちょっと変わった細胞も異物を食べます。樹状細胞の役割は、異物を食べて減らすことではなく、ほかの免疫細胞のところへ異物の情報をもちかえること。侵入者を取り込んだ樹状細胞がリンパ節へ移動し、異物(抗原)の情報をほかの免疫細胞に提示するところからが、獲得免疫の始まりです。

樹状細胞が異物の断片を提示すると、それに応答できるヘルパーT細胞キラーT細胞が活性化されます。

キラーT細胞は、名前の通り「殺し屋」の細胞。活性化されたキラーT細胞は、病原体が侵入してしまった細胞を攻撃し、殺してしまいます。

一方、ヘルパーT細胞はそれ自身に攻撃力はないものの、自然免疫で活躍したマクロファージなどを活性化し、より活発に異物を食べるようはたらきかけるのです。

もう一つの獲得免疫のシステムが「体液性免疫」です。

活性化されたヘルパーT細胞がB細胞という細胞にはたらきかけると、B細胞は活性化されて抗体(免疫グロブリン)をつくるようになります。抗体は、特定の抗原に結合(抗原抗体反応)する物質。それぞれの病原体に抗体が結合すると、病原体が弱体化されたり、好中球やマクロファージが食べやすくなるなどの効果を及ぼすのです。この、抗体を使った免疫反応を体液性免疫といいます。

さて、以上の獲得免疫のシステムですが、自然免疫と比べると非常に強力で、病原体から体を守る仕組みの中でもとくにハイレベルなものです。その反面、獲得免疫が機能し始めるまでは、たくさんの細胞が情報伝達をしたり、細胞分裂して数を増やしたりしなくてはならないため、1週間ほどの時間がかかってしまいます

この”時間がかかる”という弱点を補うのが、獲得免疫のもつ二次応答というシステムです。

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ある病原体が初めて体内に侵入すると、上記のような獲得免疫のシステムがはたらき、ヘルパーT細胞やキラーT細胞、B細胞らが活性化されます。体内から病原体がいなくなれば、役割を終えたそれらの細胞は姿を消すのですが…ごく一部が体内に残存するのです。これを記憶細胞といいます。

免疫細胞は一度感染した病原体の情報を受けて活性化した経験があるため、同じ病原体が2度目に感染したときに真っ先にめざめ、1度目よりも素早く獲得免疫の反応を始めることができるのです。

しかも、1回目よりも多くの抗体をつくるなど、その対応力もレベルアップします。この2回目の「より強く、より早い」免疫反応が二次応答です。そして、1回目の免疫反応の方は一次応答といいます。

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さて、本題に戻りましょう。

予防接種でワクチンを接種することは、獲得免疫の一次応答を引き起こさせることにほかなりません。記憶細胞をつくらせることで、その後の本格的な感染に備えるのです。

ワクチンの種類

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それでは、予防接種のためにからだに接種するワクチンにはどんなものがあるのでしょうか?現在使用されている主なワクチンは、大きく3つに分けることができます。

\次のページで「生ワクチン」を解説!/

生ワクチン

生ワクチンとは、細菌やウイルスなどの病原体を弱毒化し、病原性をなくしたものです。弱毒化しているとはいえ、病気を引き起こす可能性のある生きた微生物そのものを体内に入れるので、接種した人の体調などによっては軽い発熱や発疹などの反応が生じることもあります。

私たちに身近なところでは、水ぼうそうや風しんの予防接種に生ワクチンがつかわれています。

不活性ワクチン

不活性ワクチンは病原体を殺菌したり、破壊するなどしてつくります。死んだ病原体や、その断片などをワクチンとして使用するのです。生きた病原体ではありませんが、免疫をつけることができます。

ただし、生ワクチンよりも引き起こされる免疫反応が弱いため、期間をあけて数回接種しなくてはいけない、などの条件があるのです。

日本脳炎やインフルエンザなどのワクチンとして不活性ワクチンがつくられ、使用されています。

トキソイド

トキソイドは、細菌が感染したときに作り出す毒素を抽出し、加工して毒性を取り除き、ワクチンとしたものです。ジフテリアや破傷風といった感染症の予防に使用されます。

日本の予防接種

日本には予防接種法という法律があります。伝染病の蔓延を防止するため、国民が受けるべき予防接種の種類や回数が定められているのです。

\次のページで「A類疾病・B類疾病とは?」を解説!/

A類疾病・B類疾病とは?

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予防接種の対象となっている疾病は、A類疾病B類疾病に分けられます。どんな分け方かというと、A類疾病は「予防接種を必ず受けるべき病気」、B類疾病は「高齢者や免疫力の弱い人は予防接種を受けるべき病気」というイメージです。

A類疾病
ジフテリア/百日せき/破傷風/破傷風/急性灰白髄炎(ポリオ)/B型肝炎/Hib感染症/小児の肺炎球菌感染症/結核(BCG)/麻しん/風しん/水痘/日本脳炎/ヒトパピローマウイルス感染症

B類疾病
季節性インフルエンザ/高齢者の肺炎球菌感染症

予防接種はいつ受ける?

予防接種はいつ受けてもよいわけではなく、受けるべき時期が決まっているものが多いです。A類疾病に分類される病気の予防接種の多くは、子どものころに受ける時期があります。生後数か月から小学生くらいの間にスケジュールが組まれているはずです。興味のある方は調べてみるとよいでしょう。

予防接種が社会を守っている

子どものころ、予防接種の注射が嫌で仕方なかった人もいるでしょう。予防接種が定められている感染症の名前を見ても、聞いたこともないようなものばかりかもしれません。しかしながら、これらの病気がみられなくなったのは、国民が決められた予防接種を受け、蔓延を防いできたおかげなのです。

感染症の流行を防ぐことは、一人一人の健康を守るだけではなく、社会の機能をマヒさせないためにも欠かせないこと。幼いころに受けた予防接種の重要性を、今一度考えてみましょう。

そうそう、特に受験生の皆さんは季節性インフルエンザの予防接種を忘れずに!

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理科環境と生物の反応生物

ワクチンって何?予防接種の仕組みを現役講師がサクッとわかりやすく解説!

今回は予防接種についてまなんでいこう。

感染症の流行があるとニュースでもワクチンなどの話が出る。よく聞く言葉ではありますが、「ワクチン」と「治療薬」を混同しているやつもいるな。ワクチンとは何なのか、予防接種とはどんな仕組みなのかを理解しよう。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

予防接種とは

予防接種とは、特定の病気にかかる前にそのワクチンを接種し、免疫をつけることをいいます。予防接種を行うことで、その病気にかかりにくくなったり、り患したとしても症状が軽く済むようになるのです。

仕組み

後ほど詳しく説明しますが、ワクチンとは病気を引き起こす病原体の一部や、それを弱らせたものです。わざわざ病気の原因を接種することが、なぜその病気の予防につながるのでしょうか?

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予防接種は、わたしたちの体に備わる免疫の仕組みを利用しています。免疫反応は大きく自然免疫獲得免疫に分けられますが、予防接種で重要になってくるのは獲得免疫の方です。

病原体などの異物が体内に侵入すると、真っ先に自然免疫のシステムがはたらきます。白血球の一種である好中球やマクロファージが異物を食べたり(食作用)、NK細胞が病原体に感染した細胞を殺してしまうことで侵入を防ぐのです。

自然免疫がはたらく傍らで、樹状細胞というちょっと変わった細胞も異物を食べます。樹状細胞の役割は、異物を食べて減らすことではなく、ほかの免疫細胞のところへ異物の情報をもちかえること。侵入者を取り込んだ樹状細胞がリンパ節へ移動し、異物(抗原)の情報をほかの免疫細胞に提示するところからが、獲得免疫の始まりです。

樹状細胞が異物の断片を提示すると、それに応答できるヘルパーT細胞キラーT細胞が活性化されます。

キラーT細胞は、名前の通り「殺し屋」の細胞。活性化されたキラーT細胞は、病原体が侵入してしまった細胞を攻撃し、殺してしまいます。

一方、ヘルパーT細胞はそれ自身に攻撃力はないものの、自然免疫で活躍したマクロファージなどを活性化し、より活発に異物を食べるようはたらきかけるのです。

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