列島を台風が通過した時、台風の西側の地域より東側の地域の方が被害がかなり深刻。なぜでしょうか?台風が左回りの渦で、台風の東側が渦の向きと通過する向きが同じ。そのため風がより強まると言った説明をよく見かける。でも疑問なのは、そもそもなぜ台風が左向きの渦になるのか?という点。

この記事ではその理由について理系ライターのR175と解説していく。

ライター/R175

関西のとある国立大の理系出身。学生時代は物理が得意で理科の高校理科の教員免許も持っている。エンジニアの経験があり、教科書の内容に終わらず実際の現象と関連付けて説明するの得意。

1.台風の通過

image by iStockphoto

台風は低気圧の一種。風は気圧が高い方から低い方に吹くため、台風の中心に向かって風が吹くことに。台風が通過した時の被害は西側と東側で被害状況が大きく異なります。

東側で風が強まる理由の説明

東側で風が強まる理由の説明

image by Study-Z編集部

よく見かける説明は、台風は(なぜか)左向きに渦を巻いていて、南→北に台風が向かうと東側は渦による風向きと通過による風向きが同じなので、合算されてより強い風が吹くというもの。分かったような分からないような。そもそもなぜ台風は左向きに渦を巻いてるか?という疑問が生じますね。

台風が左向きに渦を巻くのはなぜ?

台風が左向きに渦を巻くのは実は北半球限定の現象。なぜ左向きなのか?はコリオリの力が関係しています。

2.コリオリの力

コリオリの力は例から入るのが分かりやすいです。列車AからBにボールを投げるというあまりないシチュエーションですが、コリオリの力を整理するには分かりやすいので見て行きましょう。

列車AとBが並んでいるとしましょう。列車Aの一番前からBに向かって線路に垂直な向きにボールを投げます。ボールがAからBに到達するまで1秒とかかるとしましょう。

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列車AとBがどちらも静止している場合

どちらも停車しているのであれば、列車Aの一番前から投げたボールは列車Bの一番前に到達します。

列車BがAより速い場合

列車BがAより速い場合

image by Study-Z編集部

列車Aが毎秒10メートル(時速36km)、列車Bが毎秒11メートル(時速40km)でそれぞれ等速直線運動しているとしましょう。列車Aの一番前とBの一番前が真横に並んだ瞬間にA→Bにボールを線路に垂直な向きに投げました。1秒後ボールは列車Bに到達。列車Bの方が速いためボールが到達する頃にはBはAより1m進んだ状態。よって列車Bの一番前より1m後ろの位置にボールが到達。ボールは線路に垂直な向きではなく少し右にずらして投げているのうようになりますね。
 

逆にB→Aにボールを投げるとしましょう。便宜上今度は列車Bの一番後ろから投げます。線路に垂直な向きに投げてはいますが、Aに到達する時には一番後ろから1m進んだところに到達。線路に垂直な向きではなく少し右にずらして投げたかのようになっていますね。

AとBに速度差がある場合、A→B、B→Aどちら向きに投げるとしても右にズレる動きが発生つまり右にズラす力を考える必要があり、そのズラす力がコリオリの力です。列車AもしくはBから観測した時に見られる見かけの力(慣性力)。列車内からは垂直に投げているつもりでも、外から見たらそもそも動いている列車から投げている時点で斜めに投げていることになります。線路に垂直な力+ズラす力(コリオリの力)ではなく、そもそも斜めに角度をつけて初速度を与えているだけ。したがってズレ方向の加速度、力は考える必要がなくコリオリの力は観測されません。

3.緯度と自転速度

3.緯度と自転速度

image by Study-Z編集部

さて、話はガラッと変わって地球の自転速度を見ていきましょう。地球は地軸を中心に約24時間で1周するように回転しています。角速度としてはどの地点でも同じで360°/day。しかし、自転速度は緯度によって変わってきますね。赤道直下が最も速く、緯度90°なら0。

地球を地軸で切った断面により、各緯度での地軸からを見ましょう。赤道直下なら緯度0°なら地軸からの距離は地球半径と同じ約6400km。緯度θでの地軸からの距離は6400cosθ(m)であることが作図より確認でますね。緯度が高くなるほど地軸からの距離は小さくなり、したがって自転の速度も小さくなる計算(イラストの表より)。ここで大事なのは緯度によって速度差があるということです。

4.地球上で吹く風とコリオリの力

緯度が異なると自転の速度差がある。速度差がある状態で風が吹く、つまり空気をやり取りする。前述の何かと似ていませんか?そう、速度差がある列車間でのボールのやり取り。一見突飛な例でしたが、地球上で風が吹くのと似ていますね。

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北半球の場合

北半球の場合

image by Study-Z編集部

北半球では北に行くほど緯度が高い、つまり自転速度が遅いわけです。南から北に吹く風は、速い方から遅い方に投げるのと同じ。イラストより風は右向きにそれていきます北から南に吹く風は遅い方から速い方に投げるのと同じ。イラストよりこちらも右向きにズレます

南半球の場合

こちらは南に行くほど緯度が高い、自転が遅くなるわけです。北から南に吹く風は速い方から遅い方に投げるのと同じ。イラストより、左にズレることに。南から北だ、遅い方から速い方に投げるのと同じで、こちらも左にズレる。どちらも北半球と反対で「左向き」にズレることが分かりますね。

5.台風の渦

5.台風の渦

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前述の風の方向のズレこそ、台風の渦の向きを決めています。台風は低気圧であり、周りから風が向かってくるもの。前述のように、北半球では風は真っ直ぐ向かってこずに右にズレながら向かってきます。その結果イラストのように左向きに渦を巻く状態に。台風は通常南から北に移動しますから、台風の右側つまり東側は台風の移動する向きも渦による向きも南→北。両者が強め合うので風が強くなります。一方台風の左側つまり西側は、台風の移動が南→北に対し、渦による風向きは北→南。両者は逆方向なので弱め合って風がマシになるわけです。

コリオリの力と台風の渦の向き

台風の西側と東側で風の強さが変わるのは台風の渦の向きの影響渦の向きは、コリオリの力から導けます。緯度によって自転速度が異なることから風は常に左右どちらかにズレて、それが台風の渦の向きを決めるのです。

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台風の東側が被害が出やすい理由は?「コリオリの力」を使って理系ライターがわかりやすく解説

列島を台風が通過した時、台風の西側の地域より東側の地域の方が被害がかなり深刻。なぜでしょうか?台風が左回りの渦で、台風の東側が渦の向きと通過する向きが同じ。そのため風がより強まると言った説明をよく見かける。でも疑問なのは、そもそもなぜ台風が左向きの渦になるのか?という点。

この記事ではその理由について理系ライターのR175と解説していく。

ライター/R175

関西のとある国立大の理系出身。学生時代は物理が得意で理科の高校理科の教員免許も持っている。エンジニアの経験があり、教科書の内容に終わらず実際の現象と関連付けて説明するの得意。

1.台風の通過

image by iStockphoto

台風は低気圧の一種。風は気圧が高い方から低い方に吹くため、台風の中心に向かって風が吹くことに。台風が通過した時の被害は西側と東側で被害状況が大きく異なります。

東側で風が強まる理由の説明

東側で風が強まる理由の説明

image by Study-Z編集部

よく見かける説明は、台風は(なぜか)左向きに渦を巻いていて、南→北に台風が向かうと東側は渦による風向きと通過による風向きが同じなので、合算されてより強い風が吹くというもの。分かったような分からないような。そもそもなぜ台風は左向きに渦を巻いてるか?という疑問が生じますね。

台風が左向きに渦を巻くのはなぜ?

台風が左向きに渦を巻くのは実は北半球限定の現象。なぜ左向きなのか?はコリオリの力が関係しています。

2.コリオリの力

コリオリの力は例から入るのが分かりやすいです。列車AからBにボールを投げるというあまりないシチュエーションですが、コリオリの力を整理するには分かりやすいので見て行きましょう。

列車AとBが並んでいるとしましょう。列車Aの一番前からBに向かって線路に垂直な向きにボールを投げます。ボールがAからBに到達するまで1秒とかかるとしましょう。

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