この記事では「不惜身命(ふしゃくしんみょう)」について解説する。
端的に言えば、不惜身命の意味は「自分の身も命も惜しまないこと」です。あまりなじみのない言葉ですが、一定以上の年齢の人なら、大相撲力士だった貴乃花が横綱昇進の際に口上で述べた言葉として記憶しているかもしれませんね。ですがその由来が『法華経』だというのは知っているか。
日本放送作家協会会員でWebライターのユーリを呼んです。「不惜身命」の意味や語源をチェックし、例文や類義語などを見ていきます。

ライター/ユーリ

日本放送作家協会会員。シナリオ、エッセイをたしなむWebライター。時代によって変化する言葉の面白さ、奥深さをやさしく解説する。

「不惜身命」の意味・語源・使い方

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「不惜身命」は、ふだんあまり目にすることがない言葉かもしれませんね。さっそく意味と語源をチェックし、例文で使い方を見ていきましょう。

「不惜身命」の意味

まず、国語辞典で「不惜身命」の意味をチェックしましょう。

仏語。仏道を修めるためには、あえてみずからの身命をもかえりみないこと。また、その心構えや態度。一般に、仏道以外の物事についてもいう。

出典:日本国語大辞典精選版「不惜身命」

「不惜」とは「惜しまないこと」、「身命」とは「身体と生命」という意味です。「不惜身命」は「自分の体や命をささげて惜しまないこと」。元は仏教用語で「仏道を収めるために、みずからの体や命をかえりみないこと」という意味です。転じて仏道以外についても「自分の身をかえりみないで物事にあたること」という意味になりました。

「不惜身命」の語源は『法華経』!

「不惜身命」の語源は『法華経(ほけきょう)』「譬喩品(ひゆぼん)」です。『法華経』は、聖徳太子の時代に伝来した、大乗仏教の代表的な経典で、天台宗や日蓮宗の中心的な経典ですよ。仏教は厳しい修行をしている出家修行者だけのものではなく、人はみな平等に成仏できるという思想が説かれています。

若人精進、常修慈心、不身命、乃可為説

出典:『法華経』「譬喩品」

\次のページで「「不惜身命」の使い方」を解説!/

「もし、ある人が精進し、いつも慈悲の心を整え、身命を惜しまず努力しているなら、その人に法華経を説くべきである」という意味です。

「不惜身命」の使い方

例文で「不惜身命」の使い方を見ていきましょう。

1.彼は不惜身命が自分のモットーだと言っていたが、会社に刃物を持った不審者が乱入した際、誰よりも早く一人で逃げた。
2.就職の面接で座右の銘を聞かれ、「不惜身命」と答えたら「言葉の意味を教えてほしい」と言われ、緊張のあまりしどろもどろになってしまった。

最初の例文は、自分の命を惜しまず行動することを人生訓としているはずの彼が、危険なことが起こったときに、同僚を守ったり不審者に立ち向かったりしようともせず、逃げ足が一番はやかったという意味です。

2番目の例文は、面接で座右の銘「不惜身命」と答えたところ、言葉の意味を尋ねられ、うまく答えられなかったという意味ですよ。座右の銘を選ぶなら、背伸びせずに緊張しても忘れないくらいわかりやすい言葉を選んだほうがいいですね。

「不惜身命」の類義語

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「不惜身命」と同じような意味あいの言葉には、どのような言葉があるのでしょうか。

「一所懸命」「一生懸命」:命をかけて物事に当たる

「一所」は「ひとつの場所」という意味です。「懸命」は「ある限りの力を出して頑張る」「全力を尽くす」という意味ですよ。「一所懸命」とは「昔、武士が賜った一か所の領地を、命をかけて守り生活の頼みにしたこと」に由来しており、転じて「命がけで物事に当たる」という意味になりました。「一所懸命」も「一生懸命」も意味は同じですが、最近は「一生懸命」と表記されることが多いようですね。

「捨身(すてみ)」:身を捨てて事に当たる

「捨身」「身を捨てて事に当たること」「身を投げうつ覚悟を持ち全力で事に当たること」という意味です。「捨身で強敵に立ち向かう」といった使い方をします。同じ「捨身」でも「しゃしん」と読むと「俗世の身を捨てて仏門に入ること」「自らの身を衆生に施すこと」という意味になりますよ。

「死力を尽くす」:死んでもいいという覚悟で力をふりしぼる

「死力」は「死んでもいいという覚悟で出す力」「ありったけの力」「必死の力」と言う意味です。「尽くす」は「そのことのために全部使ってしまう」「その事柄の極にまで達する」「他の者のために精一杯働いたり、努力したりする」などの意味があります。「死力を尽くす」「死んでもいいという覚悟で力をふりしぼる」「ありったけの力を全部出し切る」という意味ですよ。

\次のページで「「不惜身命」の対義語」を解説!/

「不惜身命」の対義語

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「不惜身命」と反対の意味あいの言葉には、どのような言葉があるのでしょうか。

「可惜身命(あたらしんみょう)」:身体や生命を大切にする

「可惜(あたら)」は「惜しむべき」「このまま終わってしまうのは惜しい」という意味で、「優れたものが、それ相応に扱われていないのが惜しい」という意味もあります。「可惜身命」「身体や命を大切にする」という意味です。ちなみに副詞の「あたら」は「惜しくも」「残念なことに」という意味があり「あたら好機を逃した」といった使い方をしますよ。

「不惜身命」の英訳

次は英語で「不惜身命」をどのように表現するか見ていきましょう。

「not sparing one’s life for a worthy cause」:大義のため命を惜しまない

「sparing」は「倹約する」「控える」「使用するのを惜しむ」、「one’s life」は「命」、「worthy」は「値する」「価値がある」、causeは「原因」「理由」という意味です。「be sparing of oneself」で「骨を惜しむ」という意味になります。not sparing one’s life for a worthy cause「大義のため命を惜しまない」という意味です。

「不惜身命」を使いこなそう!

この記事では、「不惜身命」の意味や語源を調べ、使い方や類義語などを解説しました。

「不惜身命」の語源は『法華経(ほけきょう)』「譬喩品(ひゆぼん)」です。「不惜身命」は「仏道を収めるために、みずからの体や命をかえりみないこと」という意味で、転じて仏道以外についても「自分の身をかえりみないで物事にあたること」という意味になりました。

並々ならぬ決意を表す言葉ですが、日常ではあまり使うシーンがなさそうですし、使いこなすのはかなりハードルが高そうです。しかし字をよく見れば「体と命を惜しまず」で意味はちゃんとわかるはず。どこかで「不惜身命」に遭遇しても、あわてずに対応してくださいね。

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国語言葉の意味

語源は『法華経』!「不惜身命」の意味・語源・類義語などを日本放送作家協会会員が簡単にわかりやすく解説

この記事では「不惜身命(ふしゃくしんみょう)」について解説する。
端的に言えば、不惜身命の意味は「自分の身も命も惜しまないこと」です。あまりなじみのない言葉ですが、一定以上の年齢の人なら、大相撲力士だった貴乃花が横綱昇進の際に口上で述べた言葉として記憶しているかもしれませんね。ですがその由来が『法華経』だというのは知っているか。
日本放送作家協会会員でWebライターのユーリを呼んです。「不惜身命」の意味や語源をチェックし、例文や類義語などを見ていきます。

ライター/ユーリ

日本放送作家協会会員。シナリオ、エッセイをたしなむWebライター。時代によって変化する言葉の面白さ、奥深さをやさしく解説する。

「不惜身命」の意味・語源・使い方

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「不惜身命」は、ふだんあまり目にすることがない言葉かもしれませんね。さっそく意味と語源をチェックし、例文で使い方を見ていきましょう。

「不惜身命」の意味

まず、国語辞典で「不惜身命」の意味をチェックしましょう。

仏語。仏道を修めるためには、あえてみずからの身命をもかえりみないこと。また、その心構えや態度。一般に、仏道以外の物事についてもいう。

出典:日本国語大辞典精選版「不惜身命」

「不惜」とは「惜しまないこと」、「身命」とは「身体と生命」という意味です。「不惜身命」は「自分の体や命をささげて惜しまないこと」。元は仏教用語で「仏道を収めるために、みずからの体や命をかえりみないこと」という意味です。転じて仏道以外についても「自分の身をかえりみないで物事にあたること」という意味になりました。

「不惜身命」の語源は『法華経』!

「不惜身命」の語源は『法華経(ほけきょう)』「譬喩品(ひゆぼん)」です。『法華経』は、聖徳太子の時代に伝来した、大乗仏教の代表的な経典で、天台宗や日蓮宗の中心的な経典ですよ。仏教は厳しい修行をしている出家修行者だけのものではなく、人はみな平等に成仏できるという思想が説かれています。

若人精進、常修慈心、不身命、乃可為説

出典:『法華経』「譬喩品」

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