プロ野球のキャッチャーは時速150km超えの硬式ボールを何なくキャッチしている。もちろん、キャッチャーミットの性能のお陰でもあるでしょう。しかし、それだけで猛スピードで向かってくる硬いボールから手を守れるとは考えにくい。

この記事ではなるべく衝撃を和らげて上手にキャッチするコツを紹介する。理系ライターのR175と解説していきます。

ライター/R175

関西のとある理系国立大出身。エンジニアの経験があり、身近な現象と理科の教科書の内容をむずびつけるのが趣味。教科書の内容をかみ砕いて説明していく。

1.上手にキャッチするには

image by iStockphoto

野球で内野の守備をしているとしましょう。バッターが容赦なく飛ばしてくる打球。そしてベースカバーに入ったらば、アウトを取るべく勢いよく送球が来ます。外野なら高く上がったフライを難なくキャッチすることが求められますね。野球ではバッティングや、投げることと同じくらい「捕球」も大切。野球以外のスポーツでも上手く「捕球すること」が様々な場面で求められます。

うまくキャッチするにはどうしたらよいのか。1つはボールからの衝撃を和らげることです。そもそも速度を持ったボールを急に止めるのが衝撃の原因。なるべく衝撃を和らげるようにキャッチすれば捕球が上達するでしょう。

2.ボールの重さと衝撃

キャッチするボールが重ければ重いほど痛そうなのは想像付きますね。野球の硬式球は中身がぎっしり詰まっています。真ん中にコルク、その外側にゴムそして糸が巻かれ一番外側が皮。重さは最大で148g程度。一方の軟式球は中身が空洞で、重さはこちらの方が軽く最大で138g程度硬式球の方がキャッチした時の衝撃が大きい理由の1つは重さ(他にも理由はありますが)。同じ速度でキャッチしても、重いほど衝撃が大きいです。

他にも、重いバスケットボールは軽いドッチボールより衝撃が大きいですね

3.球速と衝撃

ボールの速さ。こちらはモロ衝撃に関係しそうですね。キャッチボールを始める時まずはグローブをつけず、ゆっくり投げて素手でキャッチすることがあります。時速20km程度のふんわりボールなら硬式球でも素手で取れますね。

しかし、打球や送球をキャッチするにはグローブが必要に。またピッチャーからの投球を受ける捕手はキャッチャーミットという更に頑丈なグローブが必要に。同じボールであっても速度が大きいほど衝撃も大きくなるということです。

4.運動エネルギー

4.運動エネルギー

image by Study-Z編集部

2項と3項より、衝撃は重さと速度に関係しそうだと予想されますね。実際に、衝撃を表す指標に運動量エネルギーいうものがあります。動いてる物体を静止させた時に発生するエネルギー、つまり衝撃の大きさを表すもの。単位は熱と同じJ(ジュール)。ボールをキャッチしたら手が熱くなりますね。ボールの持っていた運動エネルギーはほぼ熱に変わると考えましょう。

運動エネルギーの定義は1/2 x 質量 x 速度の2乗(イラスト参照)。重さが2倍になっても運動エネルギーは2倍。しかし速度が2倍になると運動エネルギーは4倍に。ボールの重さより速度の方が衝撃への影響が強いわけですね。

ここでいうvはキャッチする前後の速度差キャッチする直前の速度はグラブとボールの相対速度で、キャッチした後はボールが止まっているので0です。さて、相対速度とはどういうものか?実はこれこそがボールを上手くキャッチするコツに効いてきます。

\次のページで「5.相対速度」を解説!/

5.相対速度

5.相対速度

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相対速度は例から考える方が分かりやすいです。イラストのように時速15kmで右に向かう自転車A。止まっている人から見れば右向きに時速15km。しかし、同じく右に時速10kmでゆっくり自転車を漕ぐ人Bから見たら自転車Aは右向きに時速5km立ち止まっていると自転車に勢いよく抜かされ、ゆっくりでも進んでいるとゆっくり抜かされますね。

通常の速度(絶対速度)は静止している人から見た速度で、相対速度は動いてる人から見た速度。上記の例なら自転車Aの絶対速度は時速15kmで、自転車Bから見た相対速度は時速5km。

AとBの衝突事故

あまり考えたくないですが、自転車Aの前方不注意で自転車Bにぶつかったとしましょう。自転車Bが止まっている場合と、時速10kmの場合どちらが衝撃が大きいでしょうか。

衝突は相対速度が関係してきます。

止まっている場合、自転車Bから見た自転車Aの相対速度は15km自転車Bが時速10kmなら相対速度は時速5kmよって静止している場合の方が、自転車AからBへの衝突が大きくなります。自転車の場合動いた状態でぶつかられるとバランスを崩したりして更に危ないかもしれませんが。こと、ボールの捕球に関しては相対速度がモロ衝撃に関係します。

6.痛くない上手な捕球

6.痛くない上手な捕球

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ボールをキャッチする時の衝撃、つまり運動エネルギーを小さくしてやれば痛い思いをせず上手にキャッチできます。運動エネルギーに関係するのはボールの重さと手とボールの相対速度。

このうち、重さはどうにも出来ないのでキャッチする瞬間の手とボールの相対速度を小さくすればよいでしょう。ボールをキャッチする瞬間、グラブを引くようにして取りましょう。つまり、ボールと同じ方向に速度を持たせるわけです。そうすれば、グラブとボールの相対速度が小さくなりますね。

例えば、時速100キロのボールをキャッチする時、グラブが静止したままだと、相対速度(グラブから見たボールの速度)は時速100キロ。しかし、グラブをボールと同じ方向に時速30キロで動かせば、グラブから見たボールの速度は時速70キロに。ボールをキャッチする時の衝撃は小さくなりますね。

ボールの絶対的な運動エネルギーはそのまま

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当然と言えば当然ですが、グラブが静止したままでも、引きながらキャッチしてもボール自体は時速100キロで変わらず。したがって(絶対的な)運動エネルギーは変わりません。

しかし、今回重要なのはグラブから見たボールの運動。つまり相対速度に基づいてボールの運動を考える必要があり。グラブを時速30キロで引いていれば、ボールが時速70キロで向かっているのと同じ。それに対する運動エネルギーを考える必要があるのです。

グラブも動かしている以上、ボールの絶対速度100キロの方は関係なくなってきます。極端な話、グラブを時速110キロでボールと同じ方向に引いていやれば、ボールは永遠にグラブに追いつくことが出来ず、ぶつかることさえ出来ず衝撃はゼロに(そもそもキャッチできませんが)。

\次のページで「衝撃を和らげて上手くキャッチ」を解説!/

衝撃を和らげて上手くキャッチ

ボールを上手くキャッチするコツの1つが衝撃を和らげること。衝撃を和らげるためには、ボールと手の「相対速度」を小さくしてやればよいです。

相対速度は「手から見たボールの速度」。手をボールと同じ方向に引きながらキャッチすると「手から見たボール」はちょっと遅くなり、衝撃が小さくなります。

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物理物理学・力学理科

「捕球のコツ」を運動エネルギーから学ぶ。理系ライターがわかりやすく解説

プロ野球のキャッチャーは時速150km超えの硬式ボールを何なくキャッチしている。もちろん、キャッチャーミットの性能のお陰でもあるでしょう。しかし、それだけで猛スピードで向かってくる硬いボールから手を守れるとは考えにくい。

この記事ではなるべく衝撃を和らげて上手にキャッチするコツを紹介する。理系ライターのR175と解説していきます。

ライター/R175

関西のとある理系国立大出身。エンジニアの経験があり、身近な現象と理科の教科書の内容をむずびつけるのが趣味。教科書の内容をかみ砕いて説明していく。

1.上手にキャッチするには

image by iStockphoto

野球で内野の守備をしているとしましょう。バッターが容赦なく飛ばしてくる打球。そしてベースカバーに入ったらば、アウトを取るべく勢いよく送球が来ます。外野なら高く上がったフライを難なくキャッチすることが求められますね。野球ではバッティングや、投げることと同じくらい「捕球」も大切。野球以外のスポーツでも上手く「捕球すること」が様々な場面で求められます。

うまくキャッチするにはどうしたらよいのか。1つはボールからの衝撃を和らげることです。そもそも速度を持ったボールを急に止めるのが衝撃の原因。なるべく衝撃を和らげるようにキャッチすれば捕球が上達するでしょう。

2.ボールの重さと衝撃

キャッチするボールが重ければ重いほど痛そうなのは想像付きますね。野球の硬式球は中身がぎっしり詰まっています。真ん中にコルク、その外側にゴムそして糸が巻かれ一番外側が皮。重さは最大で148g程度。一方の軟式球は中身が空洞で、重さはこちらの方が軽く最大で138g程度硬式球の方がキャッチした時の衝撃が大きい理由の1つは重さ(他にも理由はありますが)。同じ速度でキャッチしても、重いほど衝撃が大きいです。

他にも、重いバスケットボールは軽いドッチボールより衝撃が大きいですね

3.球速と衝撃

ボールの速さ。こちらはモロ衝撃に関係しそうですね。キャッチボールを始める時まずはグローブをつけず、ゆっくり投げて素手でキャッチすることがあります。時速20km程度のふんわりボールなら硬式球でも素手で取れますね。

しかし、打球や送球をキャッチするにはグローブが必要に。またピッチャーからの投球を受ける捕手はキャッチャーミットという更に頑丈なグローブが必要に。同じボールであっても速度が大きいほど衝撃も大きくなるということです。

4.運動エネルギー

4.運動エネルギー

image by Study-Z編集部

2項と3項より、衝撃は重さと速度に関係しそうだと予想されますね。実際に、衝撃を表す指標に運動量エネルギーいうものがあります。動いてる物体を静止させた時に発生するエネルギー、つまり衝撃の大きさを表すもの。単位は熱と同じJ(ジュール)。ボールをキャッチしたら手が熱くなりますね。ボールの持っていた運動エネルギーはほぼ熱に変わると考えましょう。

運動エネルギーの定義は1/2 x 質量 x 速度の2乗(イラスト参照)。重さが2倍になっても運動エネルギーは2倍。しかし速度が2倍になると運動エネルギーは4倍に。ボールの重さより速度の方が衝撃への影響が強いわけですね。

ここでいうvはキャッチする前後の速度差キャッチする直前の速度はグラブとボールの相対速度で、キャッチした後はボールが止まっているので0です。さて、相対速度とはどういうものか?実はこれこそがボールを上手くキャッチするコツに効いてきます。

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