今回は生体防御の仕組みである、物理的防御と化学的防御について学んでいきたいと思う。

生体防御とは文字通り、生きている生物の体を守るために備わった防御機構のことをさす。高校生物基礎では多様な生体防御システムについて学ぶはずです。そのシステムの第一段階となっているのが、今回学習する物理的防御と化学的防御です。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

さまざまな生体防御

私たちの体では、日々さまざまな生体防御システムが機能しています。体外から侵入する細菌やウイルス、寄生虫などの病原体から体を守るためです。

体内に入ってしまった病原体を排除するしくみを免疫といいます。英語ではimmunityです。免疫のシステムは、自然免疫と獲得免疫の二種類に分けることができます。

自然免疫や獲得免疫はとても重要なのですが、それらの免疫システム以前に体を守っている仕組みがあることも忘れてはいけません。今回のテーマである物理的防御化学的防御です。

体内とは

物理的防御や化学的防御は、そもそも「体内に病原体を入れない」ために存在します。一度体内に病原体を侵入させてしまえば、それ以降は自然免疫や獲得免疫の出番です。

ここで、“体内”という言葉について少し確認しておきましょう。“体内”とは、皮膚や上皮組織に囲まれた内側のエリアを指します。

image by Study-Z編集部

筋肉や骨、血管や神経があるところは、もちろん“体内”です。一方、口の中(口腔)や気管、消化管内の空間というのは、“体内”ではなく“体外”と考えなくてはいけません。食べ物と一緒に細菌やウイルスが胃の中に入ってきたとしても、その時点ではまだ“体内”に侵入してはいないのです。

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物理的防御

物理的防御は、物理的なバリアによって病原体を侵入させない仕組みです。病原体から身を守るための第一防衛ラインといってもいいでしょう。

物理的防御の例

私たちの身体に備わる物理的防御の機構でとくにわかりやすいのが、体表を覆う皮膚。人間の皮膚の一番外側には角質層という層があります。これはケラチンや死んだ細胞からできており、体外からの異物の侵入も防いでくれているのです。

口の中や食堂などは粘膜でおおわれています。粘膜には角質層がありませんが、表面に分泌された粘液で病原体をからめとってしまうことで防御が可能です。

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また、気管支には繊毛(せんもう)という小さな毛状の構造があり、異物を運搬することができます。粘液に絡み取られたそれらの異物は繊毛の動きによってのどのあたりまで押し戻され、咳や痰、くしゃみによって体外に排出されるのです。

このようにして、呼吸によって吸い込まれた病原体やほこり、花粉などが肺にまで侵入するのを防いでいます。

物理的防御が突破されるとき

上記の物理的防御機構が突破されてしまうのはどのようなときでしょうか?

皮膚の場合は、切り傷や擦り傷、火傷などで角質層などが損傷してしまうときでしょう。病原体は傷口からどんどん侵入してしまう可能性があります。

傷口をしっかりと洗浄、消毒して絆創膏や包帯で覆うというのは、皮膚のバリアが破れてしまった部分を保護することにほかなりません。

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一方、粘膜や繊毛は比較的外傷を負いにくいように見えますが、こちらもダメージを負ってしまうことがよくあります。乾燥や寒さが大敵です。冬に風邪をひきやすいのは、粘膜や繊毛が弱ったり、減ってしまうことで防御がうまくいかなくなり、病原体の侵入が起きやすくなってしまうことによります。

また、インフルエンザなどにかかると目に見えて繊毛が減ってしまうなど、感染症にかかることでさらに粘膜や繊毛が弱くなってしまうこともあるんです。

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化学的防御

生物のもつ酵素や酸などを病原体と反応させることで弱らせ、侵入を防ぐ防御機構を化学的防御といいます。

化学的防御の例

物理的防御の項で皮膚をご紹介しましたが、実は皮膚の表面でも化学的防御がおきているんです。汗腺から分泌されるにはリゾチームという、細菌の細胞壁を壊すことができる酵素がふくまれています。溶菌酵素と呼ばれることもあるこのリゾチームに触れることで、ある程度の細菌は死んでしまうのです。

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リゾチームは唾液鼻水、なんと母乳の中にも含まれています。口や目、鼻からの細菌の侵入を防ぐのに有効であることは間違いないですね。抵抗力の弱い赤ちゃんにとっても大切であることはいうまでもありません。

また、皮膚の表面は弱酸性に保たれていますが、この弱酸性というのも細菌などが繁殖しにくい条件です。

食べ物などに付着しておなかの中に入った病原体は、胃液にさらされます。胃液に含まれる胃酸はpH=1ほどの強酸性であり、タンパク質を分解する液体です。多くの病原体はこの強い酸性によって死滅してしまいます。

化学的防御が突破されるとき

ここまでくると、病原体が体内に侵入するのがとても難しいことのように思えてくるのですが…やはり化学的防御もちょっとしたきっかけで機能しなくなってしまうことがあります。

たとえば、皆さんはドライマウスという言葉を聞いたことがありますか?口のなかが乾き気味になってしまうことです。病気や薬の副作用などで唾液の分泌が減ったり、無意識に口をあけっぱなしにすることで口内が乾燥します。

唾液にはリゾチームをはじめとする抗菌成分が含まれているので、口が乾くと細菌が繁殖しやすくなってしまうんです。虫歯や歯周病がドライマウスによって進行してしまいます。

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涙の分泌量が減って眼が乾きがちになるのがドライアイです。涙の分泌が減るなどして目が乾き、角膜が傷つきやすくなるほか、細菌が侵入しやすくなることで感染性角膜炎などが引き起こされやすくなります。こちらも、モニターを見る時間の長い現代人に増えている病気です。

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胃酸という強力な酸を突破する病原体も存在します。ピロリ菌は、自分のもつ酵素をつかってアルカリ性の物質を作り出し、胃液を中和することができる生物です。胃液中でも生き残り、胃炎や胃潰瘍を引き起こす原因となります。

物理的防御・化学的防御を突破されてしまったら…?

これだけの防御機構がそろっているにもかかわらず、病原体のなかには物理的防御・化学的防御を突破して体内に侵入するものが現れます。そうなると、今度は免疫系の出番です。自然免疫や獲得免疫が機能する免疫系のお話は、また別の記事で学習しましょう。引き続き、このサイトで勉強していきましょうね!

イラスト使用元:いらすとや

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理科環境と生物の反応生物

物理的防御・化学的防御とは?現役講師がサクッとわかりやすく解説!

今回は生体防御の仕組みである、物理的防御と化学的防御について学んでいきたいと思う。

生体防御とは文字通り、生きている生物の体を守るために備わった防御機構のことをさす。高校生物基礎では多様な生体防御システムについて学ぶはずです。そのシステムの第一段階となっているのが、今回学習する物理的防御と化学的防御です。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

さまざまな生体防御

私たちの体では、日々さまざまな生体防御システムが機能しています。体外から侵入する細菌やウイルス、寄生虫などの病原体から体を守るためです。

体内に入ってしまった病原体を排除するしくみを免疫といいます。英語ではimmunityです。免疫のシステムは、自然免疫と獲得免疫の二種類に分けることができます。

自然免疫や獲得免疫はとても重要なのですが、それらの免疫システム以前に体を守っている仕組みがあることも忘れてはいけません。今回のテーマである物理的防御化学的防御です。

体内とは

物理的防御や化学的防御は、そもそも「体内に病原体を入れない」ために存在します。一度体内に病原体を侵入させてしまえば、それ以降は自然免疫や獲得免疫の出番です。

ここで、“体内”という言葉について少し確認しておきましょう。“体内”とは、皮膚や上皮組織に囲まれた内側のエリアを指します。

image by Study-Z編集部

筋肉や骨、血管や神経があるところは、もちろん“体内”です。一方、口の中(口腔)や気管、消化管内の空間というのは、“体内”ではなく“体外”と考えなくてはいけません。食べ物と一緒に細菌やウイルスが胃の中に入ってきたとしても、その時点ではまだ“体内”に侵入してはいないのです。

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