この記事では「引導(いんどう)を渡す」という慣用句について解説する。

端的に言えば「引導を渡す」の意味は「あきらめさせる」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

現役塾講師で文系科目のスペシャリストである「すけろく」を呼んです。一緒に「引導を渡す」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/すけろく

現役文系講師として数多くの生徒を指導している。その豊富な経験を生かし、難解な問題を分かりやすく解説していく。

#1 「引導を渡す」の意味や使い方のまとめ

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それでは早速「引導を渡す」の意味や使い方を見ていきましょう。

「引導を渡す」の意味は?

「引導を渡す」には、次のような意味があります。

1.葬儀の時、僧が死者に迷いを去り悟りを開くよう説き聞かせる。
2.最終的な宣告をしてあきらめさせる。

出典:大辞林 第三版(三省堂)「引導を渡す」

「引導を渡す」にある「引導」とは、葬儀の際に僧侶が故人に対して悟りの境地に入れるように経文や法語を唱えることをいいます。すると、この場合の渡す相手は当然「故人」以外には考えられません。

つまり、亡くなった人が無事にあの世へ旅立てるようにしてあげるというわけです。このことが転じて、二つめの意味にあるように相手があきらめてくれるような言動をとることも「引導を渡す」というようになりました。

葬儀中のどの部分を「引導」とするかは、宗派によっても異なるそうです。

「引導を渡す」の由来は?

次に「引導を渡す」の由来を確認しておきましょう。「引導を渡す」の「引導」は、仏教用語です。

本来は「衆生(しゅじょう)」=「生きとし生けるものたち」を仏道に導き引き入れることを意味していました。その後、それが転じて現在用いられているような意味合いでも用いられるようになったようです。

\次のページで「「引導を渡す」の使い方・例文」を解説!/

「引導を渡す」の使い方・例文

「引導を渡す」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。…などと文章を始めてください。

葬儀は粛々と執り行われ、現在はすでに道士が死者に対して引導を渡しているところまできている。

その若手ボクサーがKO勝ちを収めたことが、結果として例のロートルボクサーに引導を渡したかたちとなった。

こんなところで引導を渡されてなるものかと、AI棋士を相手に驚異の粘りを見せる××八段であった。

「引導を渡す」という言葉を見聞きした際には、それが本来の意味で使われているのか派生した意味で使われているのかを見極める必要があります。たとえば、上で紹介した例文の場合はどうでしょうか。

初めの例文では「葬儀」という文字が見えますので、本来の僧が死者に説き聞かせるという意味で使われていることが分かります。一方、残りの二つの例文では派生した方の意味で用いられていることが分かるはずです。

そこには僧もいなければ、死者も存在しません。こちらの場合、大切なのは「死」に相当するものが何かをきちんと押さえておくことでしょう。

二つめの例文では、ボクサーの「死」=「引退」だと考えることができます。最後の例文には「棋士」の文字が見えますので、「死」=「敗北」や「引退」だと類推できるのではないでしょうか。

#2 「引導を渡す」の類義語は?違いは?

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ところで、「引導を渡す」の類義語にはどのようなものが考えられるのでしょうか。

「息の根を止める」

「息の根を止める」は、多くの人がどこかで一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。この慣用句には、主に二つの意味があります。

ひとつは、文字通り殺すという意味合いです。もうひとつは、再起できないほど徹底的に打ち負かすという意味があります。

「引導を渡す」との違いは、言葉で相手に悟らせるのではなく、直接的な行動に出ているという点です。この表現を使う際には、十分に注意を払った方がよいでしょう。

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「死刑宣告をする」

「死刑宣告をする」も、「引導を渡す」の類義語といっても差し支えないでしょう。こちらは、もちろん文字通りの「死刑宣告」をするのではなく、相手にとって死にも等しいほど重大な何かを告げるものです。

それは、自分の命に匹敵する何かを奪われるか維持できなくなることを意味します。たとえば、サッカー選手ならばサッカーを続けられなくなるとか、芸術家ならば絵が描けなくなるといった類のものです。

ここできっちり息の根を止めておかないと、反乱分子たちがまたいつ復活することやら。

東京都心への交通手段を奪われることは、我々にすれば死刑宣告をされたに等しいものである。

#3 「引導を渡す」の対義語は?

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では、「引導を渡す」対義語にはどのようなものが考えられるのでしょうか。この慣用句は、第一線にいる人や団体を引退・退職・廃業に追い込む際に用いることも多いことから、今回はこの逆を考えてみます。

つまり、第一線で活躍したり、昇進を果たすといった意味合いを持つものです。

「白羽の矢が立つ」

「白羽の矢が立つ」の本来的な意味は、犠牲者として選ばれるというものです。しかしながら、現代では単に集団の中から特別に選ばれるという意味合いでしばしば使われます。

それも、良い意味で選ばれる場合に用いられることも少なくありません。

「栄達をとげる」

「栄達(えいたつ)をとげる」もまた、「引導を渡す」の対義語ともいえます。この慣用表現にあらわれる「栄達」とは立身出世をすることです。

「引導を渡す」が、相手を引退・退職に追い込むことならば、組織に残り昇進を果たすことはまさに好対照の内容だといってもいいのではないでしょうか。

諸々の理由でA君が退社したことで、次期プロジェクトリーダーとして君に白羽の矢が立ったというわけだ。

入社以来、紆余曲折がありましたが、ここまで栄達をとげられたのは諸先輩方のおかげだと感謝しております。

\次のページで「「引導を渡す」の英訳は?」を解説!/

#4 「引導を渡す」の英訳は?

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では、最後に「引導を渡す」の英語表現についてもみていくことにしましょう。

「put a fork into」

「put a fork into」は、「引導を渡す」の英語訳として通用するものです。この英語表現は、フォークを〇〇に突き刺すと直訳することができます。

どうしてフォークを突き刺すことが「引導を渡す」ことに結びつくのでしょうか。それは、食材にフォークを刺して料理の仕上がり具合を確かめた(料理が終了したのを確かめた)ことに由来します。

なるほど、日本でも大根に菜箸を刺して火の通り具合を確かめたりしますもんね。それと似たようなシーンを思い浮かべると納得です。

「give someone the final word」

「give someone the final word」もまた、「引導を渡す」の類義語として用いることができます。こちらの直訳は、〇〇に最後の言葉を投げかけるです。

先ほどの「put a fork into」に比べれば、かなり直接的な表現だといえるのではないでしょうか。

「引導を渡す」を使いこなそう

この記事では「引導を渡す」の意味・使い方・類語などを説明しました。この言葉の表す意味は、「あきらめさせる」「終わりであることを告げる」でしたね。

いつまでも古い世代の人間だけで組織が固められていると、なかなか革新的なアイデアが生まれにくくなるものです。こういうときには、組織の若返りを図らなければなりません。

そういうときに「引導を渡す」役目を担うのは、少々気が引けるものです。しかし、いつかは誰かが引き受けなければなりませんよね。

みなさんもこの言葉を使う機会があったら、臆さずに使ってみてください。

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国語言葉の意味

【慣用句】「引導を渡す」の意味や使い方は?例文や類語も含めて現役文系講師が詳しくわかりやすく解説!

この記事では「引導(いんどう)を渡す」という慣用句について解説する。

端的に言えば「引導を渡す」の意味は「あきらめさせる」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

現役塾講師で文系科目のスペシャリストである「すけろく」を呼んです。一緒に「引導を渡す」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/すけろく

現役文系講師として数多くの生徒を指導している。その豊富な経験を生かし、難解な問題を分かりやすく解説していく。

#1 「引導を渡す」の意味や使い方のまとめ

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それでは早速「引導を渡す」の意味や使い方を見ていきましょう。

「引導を渡す」の意味は?

「引導を渡す」には、次のような意味があります。

1.葬儀の時、僧が死者に迷いを去り悟りを開くよう説き聞かせる。
2.最終的な宣告をしてあきらめさせる。

出典:大辞林 第三版(三省堂)「引導を渡す」

「引導を渡す」にある「引導」とは、葬儀の際に僧侶が故人に対して悟りの境地に入れるように経文や法語を唱えることをいいます。すると、この場合の渡す相手は当然「故人」以外には考えられません。

つまり、亡くなった人が無事にあの世へ旅立てるようにしてあげるというわけです。このことが転じて、二つめの意味にあるように相手があきらめてくれるような言動をとることも「引導を渡す」というようになりました。

葬儀中のどの部分を「引導」とするかは、宗派によっても異なるそうです。

「引導を渡す」の由来は?

次に「引導を渡す」の由来を確認しておきましょう。「引導を渡す」の「引導」は、仏教用語です。

本来は「衆生(しゅじょう)」=「生きとし生けるものたち」を仏道に導き引き入れることを意味していました。その後、それが転じて現在用いられているような意味合いでも用いられるようになったようです。

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