今回は「経口感染」というテーマをみていこう。

細菌やウイルスなどが体内に侵入することで引き起こされる感染症は今も昔も人類の大敵です。それぞれの感染症に対して、「どうやったら感染してしまうのか」という知識を持っておくことはとても意味のあることです。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

感染症と感染経路

私たちの身の回りには目に見えない細菌やウイルスが無数に存在しています。人体に害を及ぼさないようなものもある一方、致命的な悪影響をあたえ、重い感染症を引き起こす細菌やウイルスも少なくありません。

細菌やウイルスが体内に侵入・感染する過程のことを感染経路といいます。細菌やウイルスによって異なりますが、ここでは代表的な4つの感染経路を確認しておきましょう。

・経口感染

・接触感染

・飛沫感染

・空気感染

今回はこの4つのうち経口感染を中心にお話していきたいとおもいます。

経口感染

経口感染

image by Study-Z編集部

経口感染とは、細菌やウイルスに汚染されてしまった食べ物・飲み物を体内に入れてしまうことで感染が生じる経路です。「口にしたことで感染する」ということで、食中毒の主な感染経路といえるでしょう。

経口感染する可能性のある病気

それでは、経口感染が原因となる可能性のある代表的な感染症をみてみましょう。

\次のページで「A型肝炎」を解説!/

A型肝炎

A型肝炎ウイルスに感染することで引き起こされる病気がA型肝炎です。肝臓に急性の炎症が起き、吐き気や倦怠感、食欲不振などの症状が現れます。

image by iStockphoto

A型肝炎ウイルスが感染してしまっている魚介類などを食べることで、人の体内にもウイルスが侵入し、発症します。日本の場合は牡蠣の生食による感染がしばしばみられるそうです。

また、A型肝炎ウイルスに感染した患者の便には、同ウイルスが排泄されます。不衛生な環境で糞便中のウイルスが食品についたり、飲料水などに含まれてしまうことで、感染が広がることもあるのです。これをとくに糞口感染といいます。

腸チフス

細菌の一種であるチフス菌に感染することで生じる疾患が腸チフスです。熱や下痢、腹痛などの症状が現れ、重症化すると命にかかわることもあります。

こちらもやはり、A型肝炎のような糞口感染によって広がることが多いようです。すなわち、感染者の保有していたチフス菌が便に排出され、何らかの経路でそこに含まれた細菌が飲食物に付着。それを口にした人が感染します。

image by iStockphoto

近年の日本ではあまり見られない感染症ですが、海外との往来が盛んになった昨今は、衛生環境の悪い国に渡航した旅行者などがり患することが増えているんです。

潜伏期間が1~2週間あるので、海外で感染したのに気づかず、日本に帰ってきてから発症することもあります。

感染性胃腸炎

細菌やウイルスによって胃腸の炎症が引き起こされる感染性胃腸炎も、経口感染によって引き起こされがちな病気です。ノロウイルスやロタウイルスなど、原因となる細菌やウイルスは多岐にわたります。

\次のページで「そのほかの感染経路」を解説!/

原因となった細菌やウイルスによって、症状は微妙に異なります。

ノロウイルスが原因のものであれば、大人は吐き気や発熱、腹痛に加え下痢の症状が現れることが多いです。症状が現れるのは2~3日ほどであり、その後回復します。一方、ロタウイルスが原因で引き起こされるものでは、激しい嘔吐や高熱が現れ、長いと一週間ほど症状が続くんです。

image by iStockphoto

いずれも、健康な大人がり患した場合はそれほど心配いりませんが、体力の少ない子供や高齢者、体力の落ちている人がかかると重篤な状態に至ってしまうことがあります。

そのほかの感染経路

接触感染

接触感染は、細菌やウイルスの付着した物質に接触することで感染する経路です。手すりやドアノブ、便座、スイッチなど、多数の人物が触る可能性のある場所や、他者の手などにふれることがきっかけで、感染源が受け渡されてしまうことがあります。

より親密な間柄では性行為やキスなど、粘膜の直接的な接触によって感染が起きることも考えられますね。

接触感染によって引き起こされる感染症には、流行性角結膜炎やAIDSなどの性感染症などがあります。

さて、経口感染のところで紹介したノロウイルスやロタウイルスですが、接触感染によって伝播すると紹介されていることもあります。接触によってウイルスが手についた状態で食事をすることで、体内への侵入を許し感染してしまうため、接触感染とも経口感染とも言えてしまうのです。

飛沫感染

飛沫感染は、細菌やウイルスに感染した人が咳やくしゃみをすることでおきます。唾液の飛沫が周囲に飛び散り、近くにいた人がそれを吸い込んでしまうことで、細菌やウイルスに感染してしまう経路です。経口感染や接触感染と異なり、直接触れ合う機会がなくても感染してしまいます。

\次のページで「空気感染」を解説!/

飛散する粒子の大きさで異なりますが、おおむね直径5㎛(マイクロメートル)以上の大きな飛沫であれば1mほどといわれています。

咳やくしゃみが出るときはマスクを着用し、あまり人に近づかない方がいいですね。

空気感染

空気感染と飛沫感染はよく似ているので、違いをしっかり押さえましょう。

空気感染は、咳やくしゃみによって飛ばされた飛沫がすぐに落下せず、空気中をしばらく漂うことで、飛沫中に含まれる感染源がほかの人を感染させてしまう経路です。漂っているうちに飛沫に含まれていた水分が蒸発し、細菌やウイルスなどをふくんだ約5㎛以下の粒子になることで、かなりの距離を移動してします。

空気感染する感染症にははしかや結核、水ぼうそうなどがあげられます。病院で治療する際には専用の病棟が用意されたり、自宅で療養する際にもなるべく部屋を分けるなどの配慮が必要です。

image by iStockphoto

2020年初めから世界を騒がせている新型コロナウイルス感染症では、エアロゾル感染という言葉がしばしばニュースで取り上げられました。

エアロゾルとは飛沫感染を起こすものよりも小さめの飛沫のことを指しますが、完全に水分が蒸発するところまではいかず、限られた状況である程度の距離しか移動できません。飛沫感染と空気感染の中間的な存在と考えるのがよいでしょう。ただし、この用語は専門用語としては認められていません。

その他

以上の代表的な4つの感染経路のほかにも、細菌やウイルスの感染経路は存在します。感染源の含まれた血液が体に入ってしまうことで起きる血液感染や、感染症にかかった妊婦から生まれた子が感染している母子感染などです。

感染経路を知って感染症を予防する!

感染症は、目に見えない細菌やウイルスが引き起こす病気。だからこそ、感染しうる行動をコントロールして対策するしかないのです。病気の感染経路を知ることは、感染症の予防に大きな力を発揮します。

感染症の基礎知識をつけ、いざというときに備えましょう!

" /> 感染症から身を守ろう!感染経路の一つ「経口感染」を現役講師がわかりやすく解説! – Study-Z
理科環境と生物の反応生物

感染症から身を守ろう!感染経路の一つ「経口感染」を現役講師がわかりやすく解説!

今回は「経口感染」というテーマをみていこう。

細菌やウイルスなどが体内に侵入することで引き起こされる感染症は今も昔も人類の大敵です。それぞれの感染症に対して、「どうやったら感染してしまうのか」という知識を持っておくことはとても意味のあることです。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

感染症と感染経路

私たちの身の回りには目に見えない細菌やウイルスが無数に存在しています。人体に害を及ぼさないようなものもある一方、致命的な悪影響をあたえ、重い感染症を引き起こす細菌やウイルスも少なくありません。

細菌やウイルスが体内に侵入・感染する過程のことを感染経路といいます。細菌やウイルスによって異なりますが、ここでは代表的な4つの感染経路を確認しておきましょう。

・経口感染

・接触感染

・飛沫感染

・空気感染

今回はこの4つのうち経口感染を中心にお話していきたいとおもいます。

経口感染

経口感染

image by Study-Z編集部

経口感染とは、細菌やウイルスに汚染されてしまった食べ物・飲み物を体内に入れてしまうことで感染が生じる経路です。「口にしたことで感染する」ということで、食中毒の主な感染経路といえるでしょう。

経口感染する可能性のある病気

それでは、経口感染が原因となる可能性のある代表的な感染症をみてみましょう。

\次のページで「A型肝炎」を解説!/

次のページを読む
1 2 3 4
Share: