今回はラムスデン現象について学んでみよう。

ほとんどの人は、この「ラムスデン現象」という言葉を聞いてもピンとこないでしょうが…ラムスデン現象はとても身近なところで観察できる現象なんです。具体例も合わせて紹介してもらうぞ。

大学で生物学を学び、現在は生物兼化学講師として活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

ラムスデン現象とは?

ラムスデン現象とは、タンパク質や脂質の含まれた液体を加熱する際、その表面に膜ができる現象のことを指します。

皆さんは鍋に牛乳をそそぎ、火にかけて温めるという経験をしたことはあるでしょうか?牛乳が沸騰しないようゆっくりと温めると、表面に白い膜ができてきますよね。それこそ、まさにラムスデン現象なのです。

名前の由来

image by iStockphoto

ラムスデン現象という呼び名は、この現象を記録した科学者であるウォルター・ラムスデン(Walter Ramsden、1868-1947)の名前からとられています。

ラムスデンはイギリスでタンパク質やエマルジョン(乳濁液)の研究をしていた人物です。1903年にこの現象を発見しました。

一方、海外ではラムスデン現象のことをピッカリングエマルジョン(Pickering emulsion)とよんでいるのですが、これも科学者の名前からとられた言葉です。

ラムスデンと同じくイギリス出身の研究者であるパーシバル・スペンサー・ウムフレヴィル・ピッカリング(Percival Spencer Umfreville Pickering)。彼はラムスデンの見つけた現象についての研究をおこない、論文として発表した最初の人物なのです。1907年のことでした。

ラムスデン現象の仕組み

それでは、ラムスデン現象のしくみについて考えてみましょう。

牛乳を鍋で温めてラムスデン現象が観察されるとき=膜ができるときをイメージしてみてください。薄い膜は牛乳の表面のみに現れ、鍋の底や牛乳内部にできることはありません。このことから、ラムスデン現象は温められた牛乳が空気と接触している面で生じる現象だと考えることができます。

液体を温めたときに何が起こるのか…そう、蒸発です。

牛乳中には水分に加え、脂質(乳脂肪)やタンパク質、糖質、ミネラルなどがとけています。これらの成分のうち、水分が牛乳表面で蒸発。タンパク質や脂質などの濃度が高い状態になります。そして、加熱を続けると熱によってタンパク質(とくにβ-ラクトグロブリン)が変性し、脂肪や糖類などと一緒にかたまりを作ってしまうのです。

image by Study-Z編集部

このかたまりが牛乳の表面に広がった状態が、おなじみの”牛乳の膜”だということになります。

\次のページで「ラムスデン現象の例」を解説!/

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ところで、インターネットで情報を探すと「牛乳を加熱したときにできる膜は食べても大丈夫なのか?」というような疑問を目にします。もちろん、食べても大丈夫です。

前述のとおり、この膜は牛乳中のタンパク質や脂質が固まったもの。むしろ、普通に牛乳を飲むよりも栄養分がギュッと凝縮している物質だといえるでしょう。

ラムスデン現象の例

牛乳以外にも、皆さんの知っている食品でラムスデン現象を見ることができます。ずばり、湯葉(ゆば)です!

湯葉は豆乳を加熱したときに、ラムスデン現象によってできる膜を菜箸などでとりあげたもの。こちらもやはり、タンパク質などが主成分となります。植物性たんぱく質を効率的に摂取することができる栄養豊富な食品として、精進料理などではおなじみですね。

ラムスデン現象を抑えるには?

自信をもって「牛乳の膜は栄養がある」とご紹介しましたが…実際のところ、この膜が苦手だという方も少なくないでしょう。牛乳を温めるときに膜をつくらせない、ラムスデン現象を起こさせないようにするにはどうしたらいいのでしょうか?

ここまでこの記事を読んでくださったあなたならば、解決法を推測することができるはず。ラムスデン現象は「牛乳表面の水分の蒸発」と「濃度の変化」によって引き起こされるのですから、これを抑えればいいのです。

かき回しつづける

温めている牛乳表面に濃度のかたよりができないよう、加熱中は牛乳をゆすったり、かき回すようにしてみましょう。拡販することで牛乳中のタンパク質や脂質を均等に分布させます。

強めの火で加熱する

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弱い火で時間をかけて温めるほど、牛乳の表面からはどんどんと水分の蒸発が起きてしまいます。ゆっくり加熱するよりも、やや強めの火でなるべく時間をかけずに温めた方が、膜ができにくいといわれているんです。

ただし、牛乳の焦げには十分注意しましょう。牛乳中には前述のようにタンパク質や糖質、脂質などの成分がたくさん存在しています。肉を焼けば焦げるように、牛乳も強い火にかれば焦げてしまいますよ。

加熱の際には木べらなどを使い、鍋の底を滑らせるようにしてしっかりとまぜてあげましょう。なべ底で牛乳が焦げてしまうのを防ぐことができます。

\次のページで「電子レンジをつかう」を解説!/

電子レンジをつかう

食品だけでなく、飲み物などの液体も加熱することができる電子レンジ。牛乳の加熱にも、もちろん使用できます。

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電子レンジはマイクロ波によって液体中の水分子を振動させることで加熱します。鍋で加熱する時と違い、液体全体を一気に温めることができるため、牛乳の膜ができにくいんです。

さらに、牛乳を2回に分けて温めると、より膜ができにくくなるといわれています。温め大量の半分くらいの牛乳を先に少し温め、一度取り出して残りの半分を加え、さらに電子レンジで加熱するのだそうです。途中で牛乳を追加するときに撹拌されるのですね。

ただし、この方法にも注意事項があります。牛乳などの液体を電子レンジで加熱する際、やりすぎてしまうと突沸がおき、牛乳がレンジ中に飛び散ってしまう恐れがあるのです。突沸はいわば小さな水蒸気爆発。とても危なく、あわててやけどなどをしてしまいかねません。

電子レンジでの牛乳の温めは、様子を見ながら少しずつ行うのがよいでしょう。

身近に潜む化学を感じて!

身近な現象である「牛乳の膜」には、ラムスデン現象という素敵な名前と、化学的な仕組みが隠れているんですね。

昔から言われていることですが、なかなか眠ることができないようなときには、ホットミルクを飲むのがオススメです。胃をあたためてくれるのに加え、牛乳中に含まれるトリプトファンやメラトニンという成分が、質の良い眠りに導いてくれると考えられています。

勉強しすぎて目がさえてしまっているとき、ぜひ一杯のホットミルクをためしてみましょう。その際には、ぜひラムスデン現象のことも思い出してみてください。

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化学物質の状態・構成・変化理科

牛乳に白い膜?「ラムスデン現象」って何?現役講師がわかりやすく解説

今回はラムスデン現象について学んでみよう。

ほとんどの人は、この「ラムスデン現象」という言葉を聞いてもピンとこないでしょうが…ラムスデン現象はとても身近なところで観察できる現象なんです。具体例も合わせて紹介してもらうぞ。

大学で生物学を学び、現在は生物兼化学講師として活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

ラムスデン現象とは?

ラムスデン現象とは、タンパク質や脂質の含まれた液体を加熱する際、その表面に膜ができる現象のことを指します。

皆さんは鍋に牛乳をそそぎ、火にかけて温めるという経験をしたことはあるでしょうか?牛乳が沸騰しないようゆっくりと温めると、表面に白い膜ができてきますよね。それこそ、まさにラムスデン現象なのです。

名前の由来

image by iStockphoto

ラムスデン現象という呼び名は、この現象を記録した科学者であるウォルター・ラムスデン(Walter Ramsden、1868-1947)の名前からとられています。

ラムスデンはイギリスでタンパク質やエマルジョン(乳濁液)の研究をしていた人物です。1903年にこの現象を発見しました。

一方、海外ではラムスデン現象のことをピッカリングエマルジョン(Pickering emulsion)とよんでいるのですが、これも科学者の名前からとられた言葉です。

ラムスデンと同じくイギリス出身の研究者であるパーシバル・スペンサー・ウムフレヴィル・ピッカリング(Percival Spencer Umfreville Pickering)。彼はラムスデンの見つけた現象についての研究をおこない、論文として発表した最初の人物なのです。1907年のことでした。

ラムスデン現象の仕組み

それでは、ラムスデン現象のしくみについて考えてみましょう。

牛乳を鍋で温めてラムスデン現象が観察されるとき=膜ができるときをイメージしてみてください。薄い膜は牛乳の表面のみに現れ、鍋の底や牛乳内部にできることはありません。このことから、ラムスデン現象は温められた牛乳が空気と接触している面で生じる現象だと考えることができます。

液体を温めたときに何が起こるのか…そう、蒸発です。

牛乳中には水分に加え、脂質(乳脂肪)やタンパク質、糖質、ミネラルなどがとけています。これらの成分のうち、水分が牛乳表面で蒸発。タンパク質や脂質などの濃度が高い状態になります。そして、加熱を続けると熱によってタンパク質(とくにβ-ラクトグロブリン)が変性し、脂肪や糖類などと一緒にかたまりを作ってしまうのです。

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このかたまりが牛乳の表面に広がった状態が、おなじみの”牛乳の膜”だということになります。

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