今回のテーマは、刑事ドラマのタイトルにもなっている「絶対零度」。絶対零度=摂氏-273.15℃であり物体の温度がそれ以上下がることはない。気になるのはなぜ-273℃が下限なのか?というところ。

この記事ではまず「温度」の概念からおさらいし、「なぜ温度の下限=絶対零度が存在するか」を理系ライターのR175と共に明らかにしていきます。

ライター/R175

関西のとある理系国立大出身。エンジニアの経験があり、身近な現象と理科の教科書の内容をむずびつけるのが趣味。教科書の内容をかみ砕いて説明していく。

1.温度の下限

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世の中で一番冷たい物は何だと思いますか?アイスクリームは冷凍庫で保管していますが、せいぜい-20℃程度。冬の北海道は場所によれば-30℃程度には到達。さらに、地球上の観測史上最低気温が-90℃程度。皮膚科でイボを焼いたり、理科の実験で瞬間冷却したりする時に使う「液体窒素」が-200℃程度。世の中探し回ればそれなりに低温の物がありますが、実は「それ以上冷やすことが出来ない」温度が存在します(絶対零度)。

「絶対零度」という刑事ドラマがありますが、その由来は「コールドケース」という別の話に似ているので「コールド」をイメージした「絶対零度」にした、または未解決事件を「凍りついた事件」と見立てて「絶対零度」というネーミングにしたという説もあります。

物理で言う「絶対零度」も、「冷たい(=あらゆる物から熱を奪う)」、未解決事件のごとく「凍り付いて何も動きがない」というイメージです。

2.温度の定義

2.温度の定義

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熱い冷たいといった温度の定義は物体を構成する分子の「運動エネルギー」。要するに動きが激しい物ほど熱い、動いてない物ほど冷たいということ。

物体を拡大してみましょう。全ての物体は何らかの分子の組み合わせで構成されています。温度に関係するのは、物体そのものの動きではなく、この小さな分子の運動エネルギー。たとえ物体そのものは停止していても、それを構成する分子は少なからず動いています。止まっていることはありません。仮に全ての分子が止まっていたら、それこそ「絶対零度」の状態になるのです。

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3.運動エネルギーと熱

3.運動エネルギーと熱

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動いてる物と止まっている物の違いは?いくつかの分子という小さな粒がある空間に集まっているとき、分子が動いている場合と動いていない場合の大きな違いは何でしょうか?

それは、「ぶつかるかぶつからないか」の違い。いくら混んでいようと全ての分子が動いていなければ衝突は起きません。しかし、動き回っていると頻繁に衝突してしまいますね。衝突すると、そこで衝撃(熱やエネルギー)が発生

仮に、ぶつかった後完全に止まって運動ゼロになってしまった場合に発生するエネルギーを運動エネルギーとしています。詳しい導出過程は省きますが、運動エネルギーは質量mに比例、速度vの2乗に比例し、1/2mv^2です。

運動が激しい(速度が速い)ほど、衝撃した時の衝撃(エネルギー)も大きい。つまり発生する熱も多く「熱い」ということが分かりますね。

4.物体内部での衝突

4.物体内部での衝突

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2項では自由な状態の分子、いわば「気体」分子の運動エネルギーを想定していましたが、この考え方は気体だけではなく液体や固体でも適用できます。

液体や固体は分子と分子がつながっている状態。分子1個1個は自由にはなれませんが、限られた範囲で動くことは出来ます。つながった状態で分子が動けば隣の分子に衝突。衝突すればが発生し、それが温度変化をもたらしますね。

巨視的に(大きなスケールで)見ると物体は静止していても、物体を構成する分子は運動(振動)を続けており、熱を発生しているのです。気体同様、分子の運動が激しいほど隣同士の衝突も激しく熱がたくさん発生し、温度が高い状態に。

5.運動エネルギーと温度の関係式

理想気体限定にはなりますが、分子の運動エネルギーと温度の関係を導く式が存在します。

運動エネルギーの平均=3/2・ボルツマン定数・絶対温度

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摂氏温度と絶対温度

普段よく使う温度℃は摂氏温度と呼ばれ、水が凍る温度を0℃、沸騰する温度を100℃と定義しています。「水の状態」基準に温度を決めているのが特徴。0℃は水が凍るくらい冷たく、100℃は水が沸騰するくらい熱い温度と言うように直感的にイメージしやすい温度指標と言えます。

一方、絶対温度K(ケルビン)とは分子の運動エネルギーを基準に定めた温度。運動エネルギーがゼロなら0K、運動エネルギーが2倍になれば絶対温度も2倍になるという定義です。上述の運動エネルギーとの関係式で登場するのは絶対温度の方ですね。

摂氏温度と絶対温度の換算

摂氏温度、絶対温度の変換は実は単純で、摂氏温度+273.15=絶対温度となるように定義されています。ポイントは摂氏温度も絶対温度も1℃の間隔が同じということ。摂氏温度で1℃高くなれば絶対温度もぴったし1K高くなります。

上述のように基準の違いからゼロ点こそズレていますが1℃と1Kの間隔は同じなので単純に足算引算で変換可能。摂氏0℃は273.15Kですが、これは数字の見かけ上は「0」℃であっても分子の運動エネルギーはゼロではないことを示すもの。

6.絶対零度

6.絶対零度

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ここに至るまで幾度かネタばれが混ざりましたが、絶対零度とは「分子の運動エネルギーがゼロ」の状態ガチガチに凍っているに近いイメージ。絶対温度が分子の運動エネルギーをベースに決めた温度で、それが0Kということは=運動エネルギーがゼロ。水が凍る0℃より-273.15℃低い温度です。

温度の下限

そもそも温度とは分子の運動エネルギーをベースに定義したもの。運動エネルギーが大きければ大きいほど温度は高い。小さければ小さいほど温度も低いのですが、運動エネルギーは0より小さくなることはありません。よって運動エネルギー0の時の温度が定義され得る限りの一番低い温度となります。

絶対零度と未解決事件

理科でいう絶対零度は、ドラマ「絶対零度」の由来となった「完全犯罪」に近いイメージかもしれません。分子運動が全くない、何の動きもないのが理科現象の絶対零度。進展が期待出来ない迷宮入り事件の表現にはぴったりかもしれませんね。

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簡単にわかる「絶対零度」が存在する理由!なぜ-273℃以下の温度はないの?理系ライターがわかりやすく解説

今回のテーマは、刑事ドラマのタイトルにもなっている「絶対零度」。絶対零度=摂氏-273.15℃であり物体の温度がそれ以上下がることはない。気になるのはなぜ-273℃が下限なのか?というところ。

この記事ではまず「温度」の概念からおさらいし、「なぜ温度の下限=絶対零度が存在するか」を理系ライターのR175と共に明らかにしていきます。

ライター/R175

関西のとある理系国立大出身。エンジニアの経験があり、身近な現象と理科の教科書の内容をむずびつけるのが趣味。教科書の内容をかみ砕いて説明していく。

1.温度の下限

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世の中で一番冷たい物は何だと思いますか?アイスクリームは冷凍庫で保管していますが、せいぜい-20℃程度。冬の北海道は場所によれば-30℃程度には到達。さらに、地球上の観測史上最低気温が-90℃程度。皮膚科でイボを焼いたり、理科の実験で瞬間冷却したりする時に使う「液体窒素」が-200℃程度。世の中探し回ればそれなりに低温の物がありますが、実は「それ以上冷やすことが出来ない」温度が存在します(絶対零度)。

「絶対零度」という刑事ドラマがありますが、その由来は「コールドケース」という別の話に似ているので「コールド」をイメージした「絶対零度」にした、または未解決事件を「凍りついた事件」と見立てて「絶対零度」というネーミングにしたという説もあります。

物理で言う「絶対零度」も、「冷たい(=あらゆる物から熱を奪う)」、未解決事件のごとく「凍り付いて何も動きがない」というイメージです。

2.温度の定義

2.温度の定義

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熱い冷たいといった温度の定義は物体を構成する分子の「運動エネルギー」。要するに動きが激しい物ほど熱い、動いてない物ほど冷たいということ。

物体を拡大してみましょう。全ての物体は何らかの分子の組み合わせで構成されています。温度に関係するのは、物体そのものの動きではなく、この小さな分子の運動エネルギー。たとえ物体そのものは停止していても、それを構成する分子は少なからず動いています。止まっていることはありません。仮に全ての分子が止まっていたら、それこそ「絶対零度」の状態になるのです。

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