この記事では「悪戦苦闘」について解説する。

端的に言えば、悪戦苦闘の意味は「強敵を相手に苦しい戦いをする」ことですが、転じて「困難な状況で苦しみながら努力する」という意味もある。芥川龍之介や太宰治の短編にも出てくる言葉です。

日本放送作家協会会員でWebライターのユーリを呼んです。一緒に「悪戦苦闘」の意味や例文、類義語などを見ていきます。

ライター/ユーリ

日本放送作家協会会員。シナリオ、エッセイをたしなむWebライター。時代によって変化する言葉の面白さ、奥深さをやさしく解説する。

「悪戦苦闘」の意味・例文

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まずは、「悪戦苦闘」の意味を調べて、例文で使い方を見ていきましょう。

「悪戦苦闘」の意味

さっそく辞書で「悪戦苦闘」の意味をチェックしましょう。

① 強敵相手に苦しい戦いをすること。
② 転じて、困難な状況の中で、苦しみながら努力すること。

出典:精選版日本国語大辞典「悪戦苦闘」

「悪戦苦闘」「強敵を相手に苦しい戦いをする」ことです。転じて「困難な状況で、苦しみながら努力する」という意味になりました。

「悪戦苦闘」の例文

次に、「悪戦苦闘」の例文で使い方を見ていきましょう。

1.強敵である隣国にいきなり攻め込まれて悪戦苦闘が続いていたが、友好国の支援を受けて最近は攻勢に転じている。
2.情報サービス事業をはじめたい彼は、社内で協力者が少ないため悪戦苦闘していたが、社内起業のコンテストで社長の目にとまり、予算がつけられることになった。

最初の例文は、「強敵を相手に苦しい戦いをする」という意味の例文です。2番目の例文は、「困難な状況で、苦しみながら努力する」という意味で使っています。

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芥川龍之介や太宰治も使った「悪戦苦闘」

芥川龍之介や太宰治の短編小説にも「悪戦苦闘」という言葉は出てきますよ。

芥川龍之介の「悪戦苦闘」

以下は芥川龍之介の短編小説『蜜柑』の一節です。

あの霜焼けの手が硝子戸を擡(もた)げようとして悪戦苦闘する容子(ようす)を、まるでそれが永久に成功しない事でも祈るような冷酷な目で眺めてゐた。

出典:芥川龍之介『蜜柑』

『蜜柑』は芥川の実体験をもとに書かれた短編です。主人公が乗っている列車に、田舎者らしい少女が乗ってきます。三等の切符で二等に乗り込んできた少女を、疎ましく思う主人公。トンネルの中だというのに少女は列車の窓を開けようします。主人公は冷ややかに見ていますが、悪戦苦闘の末、窓は開けられるというシーンです。

黒いすすが入ってくるのに、少女はなぜ窓を開けようとしたのか。そして理由を知った主人公は……。続きはぜひ読んでみてください。

太宰治の「悪戦苦闘」

以下は太宰治の短編小説『男女同権』の一節です。

それまでの言語に絶した窮乏生活の悪戦苦闘にも疲れ果て、ついに秋風と共に単身都落ちというだらしない運命に立ちいたったのでございます。

出典:太宰治『男女同権』

かつて脚光を浴びたこともあるが今は田舎暮らしをしている老詩人が、「男女同権」という題で講演したときの速記録という体裁で書かれています。男尊女卑で虐げられていた女性の権利の話かと思いきや、「私は今まで女性というもののために、ひどいめにばかり逢って来たのでございます」と、ひたすら女性に虐げられてきた話ばかりを語りはじめて……という作品です。

戦後民主主義の流行思想であった男女同権を風刺した作品と評論されていますが、気になる方は続きを読んでみてください。文庫本にも収録されていますよ。

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「悪戦苦闘」の類義語

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次に、「悪戦苦闘」の類義語を見ていきましょう。

「苦心惨憺」:心をくだいて苦労する

「苦心」は「物事を成しとげようと苦労する」こと。「惨憺」は見慣れない字ですが、「さんたん」と読みます。「惨憺たる成績」のように「いたましく見るに忍びない」という意味もありますが、「心をくだき苦心する」という意味もありますよ。「苦心惨憺」(くさんさんたん)は「心をくだき、苦労して工夫をこらすこと」という意味です。

「千辛万苦」:骨折って苦労する

「千辛万苦( せんしんばんく)」「さまざまな苦労や難儀をする」「非常に骨折って苦労する」という意味です。「千辛万苦して、ついに成功をした」というように使います。

「苦戦」:苦しい戦い

「苦戦」「強敵を相手にして、不利な状況で苦労して戦う」ことですが、転じて「不利な状況を克服して、物事を成しとげるために努力する」という意味になりました。よく「苦戦を強いられる」という使い方をしますね。

「悪戦苦闘」の反対語

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次に、「悪戦苦闘」の反対語を見ていきましょう。

「善戦健闘」:力を尽くして戦う

「善戦」は「力を尽くして立派に戦う」こと。「健闘」は「がんばってよく戦う」こと。「善戦健闘(ぜんせんけんとう)」「力を尽くして一生懸命戦うこと」ですが、健闘したが敗れたという文脈で使われます。

逆に「悪戦苦闘」は苦しい戦いですが、「悪戦苦闘の末、勝利した」というように結果は良かったというニュアンスで使われることが多いようです。「悪戦苦闘」の「悪」と「苦」が、「善」と「健」に変わっているので、むしろ良い意味の言葉のように思われますが、実は「悪戦苦闘」とは結果が逆なのですよ。

「余裕綽々」:落ち着きはらっている

「余裕」は「ゆとりがある」という意味です。「綽綽」はあまり見かけない漢字ですね。「しゃくしゃく」と読みます。「あせらない様子」「落ち着いている様子」という意味です。「余裕綽々」「ゆったりとしてあせらない」こと、「落ちつきはらっている」という意味ですよ。

\次のページで「「楽勝」:楽に勝つ」を解説!/

「楽勝」:楽に勝つ

「楽勝」は「楽に勝つ」「苦戦せずに勝つ」という意味もありますが、「簡単に行えること」という意味もあります。

「悪戦苦闘」の英訳は?

次に、「悪戦苦闘」の英訳を見ていきましょう。

「a hard struggle」:悪戦苦闘

「hard」は「難しい」「苦しい」の意味で、「struggle」は「努力」「苦闘」の意味があります。a hard struggleは「悪戦苦闘」という意味です。a desperate struggleという表現もあります。「desperate」は、「死にものぐるいの」「必死の」という意味です。「デスパレ―トな妻たち」という海外ドラマが流行ったことがありましたね。

「a hard fight」:悪戦苦闘

「fight」は「戦い」の意味があります。a hard fightで「悪戦苦闘」という意味です。a tough fightという表現もあります。「to fight desperately」は「悪戦苦闘する」です。

芥川龍之介や太宰治も使った「悪戦苦闘」を使いこなそう!

この記事では、「悪戦苦闘」の意味や例文、類義語などを解説しました。

「悪戦苦闘」「強敵を相手に苦しい戦いをする」ことです。転じて「困難な状況で、苦しみながら努力する」という意味になりました。善戦健闘もむなしく敗れることも大事な経験ではありますが、悪戦苦闘しても最後には勝利を獲得してほしいと思います。

文豪も使った「悪戦苦闘」をぜひ使いこなしてくださいね。

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国語言葉の意味

芥川や太宰も使った!「悪戦苦闘」の意味・例文・類義語などを日本放送作家協会会員がわかりやすく解説

この記事では「悪戦苦闘」について解説する。

端的に言えば、悪戦苦闘の意味は「強敵を相手に苦しい戦いをする」ことですが、転じて「困難な状況で苦しみながら努力する」という意味もある。芥川龍之介や太宰治の短編にも出てくる言葉です。

日本放送作家協会会員でWebライターのユーリを呼んです。一緒に「悪戦苦闘」の意味や例文、類義語などを見ていきます。

ライター/ユーリ

日本放送作家協会会員。シナリオ、エッセイをたしなむWebライター。時代によって変化する言葉の面白さ、奥深さをやさしく解説する。

「悪戦苦闘」の意味・例文

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まずは、「悪戦苦闘」の意味を調べて、例文で使い方を見ていきましょう。

「悪戦苦闘」の意味

さっそく辞書で「悪戦苦闘」の意味をチェックしましょう。

① 強敵相手に苦しい戦いをすること。
② 転じて、困難な状況の中で、苦しみながら努力すること。

出典:精選版日本国語大辞典「悪戦苦闘」

「悪戦苦闘」「強敵を相手に苦しい戦いをする」ことです。転じて「困難な状況で、苦しみながら努力する」という意味になりました。

「悪戦苦闘」の例文

次に、「悪戦苦闘」の例文で使い方を見ていきましょう。

1.強敵である隣国にいきなり攻め込まれて悪戦苦闘が続いていたが、友好国の支援を受けて最近は攻勢に転じている。
2.情報サービス事業をはじめたい彼は、社内で協力者が少ないため悪戦苦闘していたが、社内起業のコンテストで社長の目にとまり、予算がつけられることになった。

最初の例文は、「強敵を相手に苦しい戦いをする」という意味の例文です。2番目の例文は、「困難な状況で、苦しみながら努力する」という意味で使っています。

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