この記事では「袖振り合うも多生の縁」について解説する。

端的に言えば袖振り合うも多生の縁の意味は「袖が触れ合うほどの些細なことも、前世からの縁によるもの」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

営業マネージャーとして勤務し、カナダでの留学を経てライターとして活動中のナガタナミキを呼んです。一緒に「袖振り合うも多生の縁」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/ナガタ ナミキ

外資企業の営業マネージャーとして勤務し、相手に伝わる会話表現やコーチングスキルについて学ぶ。カナダでの留学を経て、言葉の持つニュアンスや響きを大切にするライターとして現在活動中。

「袖振り合うも多生の縁」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「袖振り合うも多生の縁(そでふりあうもたしょうのえん)」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「袖振り合うも多生の縁」の意味は?

「袖振り合うも多生の縁」には、次のような意味があります。

道で人と袖を触れあうようなちょっとしたことでも、前世からの因縁によるものだ。袖すり合うも多生の縁。→多生の縁[補説]「多生」は、仏語で、何度も生まれ変わること。「他生の縁」とも書くが、「多少の縁」と書くのは誤り。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「袖振り合うも多生の縁」

みなさんは「袖振り合うも多生の縁」という慣用句を耳にしたことはありますか?

引用した辞書の意味にもありますが、「袖振り合うも多生の縁」とは道で他人と袖が触れ合うような些細な出来事は、実は偶然ではなく前世が関係しているという意味の慣用句です。着物の袖を振り合う(触れ合う)という、一見取るに足らない出来事が前世からの縁により成り立っているとは、何だかロマンチックな考えのようにも思えてきますね。

仏教においては前世が存在すると考えられ、「袖振り合うも多生の縁」もその教えに基づいて生まれた言葉です。また意味には「たとえ見知らぬ他人との間で生じたことがどんなに些細であっても大切にすべきである」というメッセージが含まれています。

「袖振り合うも多生の縁」には、異なる漢字・言葉に置き換えられた同義語が存在します。誤用しないよう確認しておきましょう(以下は正しい表記)。

・袖振り合うも他生(たしょう)の縁
・袖触れ合うも多生の縁
・袖擦り合うも多生の縁

「多少」と表記するのは誤りです。
※「他生」は正確には「前世・来世」という意味の仏教用語であり、「多生」(何度も生まれ変わること)とは異なります。間違いではありませんが、本来の意味を正しく伝えるには「多生」が適切です。

\次のページで「「袖振り合うも多生の縁」の語源は?」を解説!/

「袖振り合うも多生の縁」の語源は?

次に「袖振り合うも多生の縁」の語源についてです。仏教の考え方や用語の解説が加わりますので都度確認しながら見ていきましょう。

まず語源を知る上でキーワードとなるのは仏教用語である「多生」です。六道(ろくどう)を輪廻(りんね)することで何度も生まれ変わることを意味します。

「六道」
死後に向かう六つの世界のこと。生前の業(ごう)によって決められる(悪い行いをすれば地獄へ、良い行いをすれば平和な天へ、というように)。

「輪廻」
死後に無限に再生を繰り返すこと。人間の本質とは霊魂であり、生前の業によって定められた場所であるべき姿に生まれ変わる。再び人間になる場合もあれば、動物になる者もいる。

「業」
人間が生む善悪の行為のこと。また、その前世での行為により現世で受ける報いや結果のこと。自らの行いが自らに返ってくることを「自業自得(じごうじとく)」という。

つまり「多生」とは前世での行いが来世に影響を与えながら何度も生まれ変わることをいい、「多生の縁」とはその中で結ばれた「縁」のことを表すのです。また「縁」は「因縁(いんねん)」ともいわれます。

1.仏語。物事が生じる直接の力である因と、それを助ける間接の条件である縁。すべての物事はこの二つの働きによって起こると説く。
2.前世から定まった運命。宿命。「出会ったのも何かの因縁だろう」
3.以前からの関係。ゆかり。「父の代から因縁の深い土地」
4.物事の起こり。由来。理由。「いわれ因縁」「因縁話」
5.言いがかり。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「因縁

何度も生死を繰り返し、一つ一つの行いが未来・来世に影響を与えているという仏教の考えから、「袖振り合うも多生の縁」は全ての出会いや出来事は必然であるという意味を表すようになりました。

\次のページで「「袖振り合うも多生の縁」の使い方・例文」を解説!/

「袖振り合うも多生の縁」の使い方・例文

「袖振り合うも多生の縁」の使い方を例文を使って確認していきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

1.袖振り合うも多生の縁というが、彼女と知り合ったのも必然だったのかもしれない。

2.偶然隣の席になった転校生と初日から意気投合して仲良くなった。袖振り合うも多生の縁というが、ひょっとすると前世で既に知り合っていたのかもしれない。

3.
A「すみません、この建物に行きたいのですが道に迷ってしまって。ご存知ですか?」
B「それならすぐ近くですね。ご案内できますよ。」
A「ご親切にありがとうございます。」
B「とんでもないです。袖振り合うも多生の縁といいますし、お力になれて嬉しいです。」

「袖振り合う」の袖とは着物の袖のことです。着物を着ることが当時ほど日常的ではない現代では、まるで袖を触れ合わせるかのような「些細な関わり・出来事」に対して使うことができますよ。

例文1や2のように、驚くほど気が合ったり、運命ではないかと思うほどの出会いに対して「袖振り合うも多生の縁」だということができます。また例文3ではお互いに初対面での会話ですが、一方に感謝を示された際に「袖振り合うも多生の縁」であると伝えていますね。偶然に通りかかったことで生まれた会話や人助けも縁であり、その一瞬を大切に受け止める心情が含まれています。

「袖振り合うも多生の縁」の類義語は?違いは?

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それではここで「袖振り合うも多生の縁」の類義語を確認しましょう 。

「躓く石も緑の縁」

躓く石も縁の端(つまずくいしもえんのはし)」は、現世で石に躓くほどの些細な出来事は、前世での約束によって生じていることを表す慣用句です。

「一樹の陰一河の流れも他生の縁」

一樹の陰一河の流れも他生の縁(いちじゅのかげいちがのながれもたしょうのえん)」は、同じ流れから水を汲むほどの些細な人間関係にも前世の因縁が関係しているという慣用句です。

\次のページで「「袖振り合うも多生の縁」の英訳は?」を解説!/

「袖振り合うも多生の縁」の英訳は?

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最後に「袖振り合うも多生の縁」の英語表現を確認しましょう。

「Even a chance acquaintance is decreed by destiny.」

Even a chance acquaintance is decreed by destiny. は「偶然の出会いですら運命によって定められている」という意味の英語表現です。

「袖振り合うも多生の縁」にある「生まれ変わり」のニュアンスを destiny (運命)に言い換えています。acquaintance は名詞で「知人・偶然知り合った他人」を表し、be decreed は受動態で「命じられる・決定される」という意味合いです。

「袖振り合うも多生の縁」を使いこなそう

この記事では「袖振り合うも多生の縁」の意味・使い方・類語などを説明しました。

「袖振り合うも多生の縁」は前世での行いが現世にも影響を与えていること、だからこそ周りの人々の存在やあなたとの関係には意味があることを伝える慣用句でした。過去の行い全てに縛られる必要はありませんが、日常の些細な出来事に尊さを感じることや、これまで景色の一つだったすれ違う人々と自分が同じ時代を生きていることに意味を見出すことは、現代においてとても重要なことのように思います。全ての人と直接的に同じ深さで関わることはなくとも、困った時には互いに手を取り合えるような心持ちでいたいものです。

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国語言葉の意味

【慣用句】「袖振り合うも多生の縁」の意味や使い方は?例文や類語をWebライターがわかりやすく解説!

この記事では「袖振り合うも多生の縁」について解説する。

端的に言えば袖振り合うも多生の縁の意味は「袖が触れ合うほどの些細なことも、前世からの縁によるもの」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

営業マネージャーとして勤務し、カナダでの留学を経てライターとして活動中のナガタナミキを呼んです。一緒に「袖振り合うも多生の縁」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/ナガタ ナミキ

外資企業の営業マネージャーとして勤務し、相手に伝わる会話表現やコーチングスキルについて学ぶ。カナダでの留学を経て、言葉の持つニュアンスや響きを大切にするライターとして現在活動中。

「袖振り合うも多生の縁」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「袖振り合うも多生の縁(そでふりあうもたしょうのえん)」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「袖振り合うも多生の縁」の意味は?

「袖振り合うも多生の縁」には、次のような意味があります。

道で人と袖を触れあうようなちょっとしたことでも、前世からの因縁によるものだ。袖すり合うも多生の縁。→多生の縁[補説]「多生」は、仏語で、何度も生まれ変わること。「他生の縁」とも書くが、「多少の縁」と書くのは誤り。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「袖振り合うも多生の縁」

みなさんは「袖振り合うも多生の縁」という慣用句を耳にしたことはありますか?

引用した辞書の意味にもありますが、「袖振り合うも多生の縁」とは道で他人と袖が触れ合うような些細な出来事は、実は偶然ではなく前世が関係しているという意味の慣用句です。着物の袖を振り合う(触れ合う)という、一見取るに足らない出来事が前世からの縁により成り立っているとは、何だかロマンチックな考えのようにも思えてきますね。

仏教においては前世が存在すると考えられ、「袖振り合うも多生の縁」もその教えに基づいて生まれた言葉です。また意味には「たとえ見知らぬ他人との間で生じたことがどんなに些細であっても大切にすべきである」というメッセージが含まれています。

「袖振り合うも多生の縁」には、異なる漢字・言葉に置き換えられた同義語が存在します。誤用しないよう確認しておきましょう(以下は正しい表記)。

・袖振り合うも他生(たしょう)の縁
・袖触れ合うも多生の縁
・袖擦り合うも多生の縁

「多少」と表記するのは誤りです。
※「他生」は正確には「前世・来世」という意味の仏教用語であり、「多生」(何度も生まれ変わること)とは異なります。間違いではありませんが、本来の意味を正しく伝えるには「多生」が適切です。

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