この記事では「物議を醸す」について解説する。

端的に言えば物議を醸すの意味は「議論を引き起こす」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

営業マネージャーとして勤務し、カナダでの留学を経てライターとして活動中のナガタナミキを呼んです。一緒に「物議を醸す」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/ナガタ ナミキ

外資企業の営業マネージャーとして勤務し、相手に伝わる会話表現やコーチングスキルについて学ぶ。カナダでの留学を経て、言葉の持つニュアンスや響きを大切にするライターとして現在活動中。

「物議を醸す」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「物議を醸す(ぶつぎをかもす)」の意味や語源・使い方を確認していきましょう。

「物議を醸す」の意味は?

「物議を醸す」には、次のような意味があります。

世間の論議を引き起こす。「大臣の発言が―・す」

[補説]文化庁が発表した平成23年度「国語に関する世論調査」では、「世間の人々の議論を引き起こすこと」を表現するとき、本来の言い方とされる「物議を醸す」を使う人が58.0パーセント、本来の言い方ではない「物議を呼ぶ」を使う人が21.7パーセントという結果が出ている。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「物議を醸す」

「物議を醸す」は社会・世の中の論議を引き落とすことを表す慣用句です。

「論議」とは問題について意見をたたかわせること、述べ合うこと。「議論」と非常に似ているのですが、「論議」には互いが意見を述べ、その問題・物事の理非(正しいかどうか)を明らかにするために論じ合うという意味合いがあります。(「論議を醸す」は誤用ですので注意しましょう。)

たとえば会社に新しい社長が就任し、これまでの働き方やルールなどが大幅に変更されたとしましょう。売上の為に人員整理が行われたり、社員の評価基準も見直されるかもしれません。変化が必ずしも悪ではありませんが、極端な発言や大幅な改革は社会(世間)に多かれ少なかれ戸惑いを生むものです。「これで良いのか、前のやり方が良かったのではないか」などの反対意見もあがるでしょう。このように人々の心に論議の種がまかれることを「物議を醸す」といいます。

一般的に「物議を醸す」は個人に対してというよりも、集団(会社や学校単位のグループから社会全体まで)に向けて使われる言葉です。社会問題や大きな事件などは人々の不安や批判、疑問をあぶり出します。あるいはSNSなどで人気のインフルエンサーが発した一言がきっかけとなることもあるでしょう。

\次のページで「「物議を醸す」の語源は?」を解説!/

「物議を醸す」の語源は?

次に「物議を醸す」の語源について、名詞「物議」と動詞「醸す」に分けて確認していきましょう。

みなさんは「物議」の意味を知っていますか?「物議」とは世間で行われる論争や批評、噂のことです。世間ときくとどこか他人事のように感じるかもしれませんが、私たちにとっての世間とは活動や交際を行う社会的範囲をいいます。つまり他者と関わりをもつ世間という範囲の中で「物議」は生まれるということです。

そして「醸す」とは、ある雰囲気や状態をその場に生み出すことをいいます。実は「醸す」は「噛む」が由来であるといわれており、そこには酒造りの歴史が関係しているのでご紹介しますね。現在の酒の原型とされる口噛み酒は、人の口内で米を噛み、唾液に含まれる酵素で発酵を促進して作られていました。噛んだ後には吐き出され、容器に保存されたといいます。衝撃的な作り方ではありますが、この噛む・吐き出すという酒造りのプロセスから、「醸す」は「生み出す」「作り出す」という意味を表すようになりました。

上記の語源から、「物議を醸す」とは世間に論争や批評などを生み出すという意味で現在用いられています。

「物議を醸す」の使い方・例文

「物議を醸す」の使い方を例文を使って確認していきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

1.上司は休日返上で働いていたが過労で体調を崩し、その無理な働き方が社内で物議を醸した。

2.女性タレントの過去の写真が流出して物議を醸している。

3.とある新聞記事の内容が人種差別にあたるのではないかと物議を醸した。

例文のようにネガティブな印象を与える場面で使われることも少なくありません。「物議を醸す」ということは、その出来事や言動が正しいかどうかを世間に考えさせるほどの状態であると覚えておきましょう。

ちなみに物議を「醸し出す」とは言いません。「醸し出す」単体としては文法的に問題ないのですが、慣用句としては「物議を醸す」が正解です。

「物議を醸す」の類義語は?違いは?

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それではここで「物議を醸す」の類義語を確認しましょう。

\次のページで「「議論を呼ぶ」」を解説!/

「議論を呼ぶ」

「議論を呼ぶ」は「物議を醸す」同様、世間に論争を呼び起こすという意味合いで使われます。時折「論議を呼ぶ」ともいわれますが、こちらも間違いではありません。

「議論を引き起こす」「議論を巻き起こす」

「議論を引き起こす(巻き起こす)」は「議論を呼ぶ」同様に世間に論争を引き起こす(巻き起こす)ことを表す慣用表現です。

以下に簡単に「引き起こす」「巻き起こす」の意味をご紹介します。

「引き起こす」
新たな事態を生み出す・発生させる

「呼び起こす」
忘れていることを思い出させる・呼び覚ます

※「議論を〜」で慣用句として実際に使われる際にはあまり差はありませんが、微妙な意味の違いを覚えておくと良いでしょう。

「物議を醸す」との違いは、より能動的に論議を生み出そうとしている意思が見える点でしょう。

「一石を投じる」

「一石を投じる(いっせきをとうじる)」は、物事や状態に対して反響を呼ぶような問題を投げかけることをいいます。いわば問題提起であり、慣用句としては「波紋を投げる」と言い換えることも可能です。

「物議を醸す」と類似する点は反響(反応)を呼ぶことですね。ただし、反響を呼ぶ・注目を集めることを意図的に行う点においては「物議を醸す」と異なるので注意が必要です。「一石を投じる」ことは賛成・反対意見が生まれることも覚悟の上であり、そこで敢えて問題を訴えていることがポイントですよ。

「物議を醸す」の英訳は?

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最後に「物議を醸す」の英語表現を確認しましょう。

\次のページで「「create a sensation」」を解説!/

「create a sensation」

create a sensation は「物議を醸す」に近い意味を表す英訳の一つで、「社会や世の中をあっと言わせる・驚かせるほどの事柄を生み出す」というニュアンスです。

create は動詞で「創り出す・生み出す・引き起こす」という意味があります。また、sensation は名詞で「物議・大騒ぎ」のことですが、物事の善悪は関係ありません。

「arouse criticism」

arouse criticism は「批判や批評を引き起こす」という意味の英語表現です。

arouse は動詞で「人の感情や関心、反応などを引き起こす」動作を表します。一方、名詞 criticism は「批判や非難、批評文」のことをいい、「物議を醸す」の「物議」と類似していることがわかりますね。

「controversial」

controversial は形容詞で「議論を呼ぶ、論争の余地がある」様子を表します。「物議を醸す」と非常に近い意味合いで、特に問題をめぐってそれが正義かどうかを言い争うような状態です。

a controversial art
物議を醸すアート作品

This is a controversial issue.
これは物議を醸す(論争の的となる)問題だ。

He gave rise to a public controversy(※).
彼は世間の物議を醸した。
※controversyは名詞形

「物議を醸す」を使いこなそう

この記事では「物議を醸す」の意味・使い方・類語などを説明しました。

政治家や芸能人などの意見が「物議を醸す」対象となることが多いのは、影響力が大きくより多くの人に届きやすいからなのかもしれません。勿論それだけでなく、私たちの身近な世間、たとえば職場や学校などの集団生活においても賛否両論の議題は発生するでしょう。

大切なのは、なぜ人々がその問題に対して声をあげているのかを知ることだと筆者は考えます。「物議を醸す」ということは、それだけ社会が興味をもっているトピックであるはずです。その出来事の本質を知ると、毎日の世界の動向やニュースの見え方が変わってくるのかもしれません。

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国語言葉の意味

【慣用句】「物議を醸す」の意味や使い方は?例文や類語をWebライターがわかりやすく解説!

この記事では「物議を醸す」について解説する。

端的に言えば物議を醸すの意味は「議論を引き起こす」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

営業マネージャーとして勤務し、カナダでの留学を経てライターとして活動中のナガタナミキを呼んです。一緒に「物議を醸す」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/ナガタ ナミキ

外資企業の営業マネージャーとして勤務し、相手に伝わる会話表現やコーチングスキルについて学ぶ。カナダでの留学を経て、言葉の持つニュアンスや響きを大切にするライターとして現在活動中。

「物議を醸す」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「物議を醸す(ぶつぎをかもす)」の意味や語源・使い方を確認していきましょう。

「物議を醸す」の意味は?

「物議を醸す」には、次のような意味があります。

世間の論議を引き起こす。「大臣の発言が―・す」

[補説]文化庁が発表した平成23年度「国語に関する世論調査」では、「世間の人々の議論を引き起こすこと」を表現するとき、本来の言い方とされる「物議を醸す」を使う人が58.0パーセント、本来の言い方ではない「物議を呼ぶ」を使う人が21.7パーセントという結果が出ている。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「物議を醸す」

「物議を醸す」は社会・世の中の論議を引き落とすことを表す慣用句です。

「論議」とは問題について意見をたたかわせること、述べ合うこと。「議論」と非常に似ているのですが、「論議」には互いが意見を述べ、その問題・物事の理非(正しいかどうか)を明らかにするために論じ合うという意味合いがあります。(「論議を醸す」は誤用ですので注意しましょう。)

たとえば会社に新しい社長が就任し、これまでの働き方やルールなどが大幅に変更されたとしましょう。売上の為に人員整理が行われたり、社員の評価基準も見直されるかもしれません。変化が必ずしも悪ではありませんが、極端な発言や大幅な改革は社会(世間)に多かれ少なかれ戸惑いを生むものです。「これで良いのか、前のやり方が良かったのではないか」などの反対意見もあがるでしょう。このように人々の心に論議の種がまかれることを「物議を醸す」といいます。

一般的に「物議を醸す」は個人に対してというよりも、集団(会社や学校単位のグループから社会全体まで)に向けて使われる言葉です。社会問題や大きな事件などは人々の不安や批判、疑問をあぶり出します。あるいはSNSなどで人気のインフルエンサーが発した一言がきっかけとなることもあるでしょう。

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