今回は「血液毒」について詳しく勉強していこう。

前回解説した「神経毒」による「麻痺」とは違って、「血液に作用する毒」というのはあまりピンとこないやつもいるんじゃないか?

命にもかかわる恐ろしい血液毒の影響を化学に詳しいライターAyumiと一緒に解説していきます。

ライター/Ayumi

理系出身の元塾講師。わかるから面白い、面白いからもっと知りたくなるのが化学!まずは身近な例を使って楽しみながら考えさせることで、多くの生徒を志望校合格に導いた。

1.血液の役割

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前回解説した神経毒は「神経にダメージを与える」ことからその名がついていました。今回は「血液にダメージを与える毒」である「血液毒」について解説していきましょう。

その前にまずは体内での血液の役割についておさらいですよ。

1-1.赤血球

私たちの血が赤いのは血液中に赤血球が多く含まれるためです。これは酸素の運搬係として機能していましたね。赤血球中のヘモグロビンという成分は、酸素と結合しやすく、同時に酸素を放しやすいという性質をもっています。酸素を多く含む動脈血とそうではない静脈血には色の違いがあるのを知っていますか?これは酸素と結びついたヘモグロビンとそうではないヘモグロビンの色の差によって異なるのです。これにより肺では酸素と結合し、身体の隅々まで酸素を運び、各細胞・臓器への受け渡しが可能になったといえるでしょう。

1-2.白血球

白血球免疫に大きく関わる大切な成分です。ウイルスなどの敵が体内に侵入したとき、これらを攻撃し、防御するための仕事をしてくれています。白血病などで免疫力が低下し、感染症へのリスクが上がるのは、造血機能が損なわれることで白血球の数が減少することが要因の1つです。キメラに関する記事で骨髄移植に関して少し触れましたが、正常な血液をつくり出すことは生命維持にとって非常に重要なことだというのがわかりますね。

1-3.血小板

怪我をしたときにかさぶたができるのは血小板のおかげです。出血を伴う怪我をすると、血小板から血液を凝固させて止血するための指令が出されます。これによってかさぶたの主成分であるフィブリンという繊維賞のタンパク質がつくられ、これが赤血球や白血球をからめとることで固まりになって出血を止めるのです。いち早く傷口をふさぐことで出血を最小限に抑えるだけでなく、細菌の侵入を防ぐという役割もありますね。

1-4.血しょう

赤血球・白血球・血小板は血液に含まれる細胞成分であるのに対し、血しょう液体成分で血液中の約半分を占めています。血しょうの約9割は水ですが、タンパク質・脂質・糖分・ホルモンなどが溶け込んでいるものです。細胞成分及びこれらの溶け込んでいる物質の運搬係としての機能だけでなく、抗原抗体反応という免疫がはたらく場でもあります。怪我をしたときや治りかけの傷から染み出している透明な液は組織液といい、毛細血管から血しょうが染み出たものなんですよ。

\次のページで「2.血液毒の恐ろしさは2つ」を解説!/

2.血液毒の恐ろしさは2つ

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血液毒(別名:出血毒)は主にクサリヘビ科のヘビがもつ毒です。日本にもニホンマムシやガラガラヘビ、ハブなどが生息していて、いずれも毒をもつことで知られていますよね。その他にも世界には数多くの猛毒をもつヘビが存在しています。では、咬まれることでどのような症状を示すのでしょうか。

神経毒は神経系に影響を及ぼすことで麻痺などの症状を引き起こすものでした。麻痺も十分危険な症状ですが、血液毒にもまた違った恐さがあるのです。

2-1.血が固まる

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血液毒は血液を凝固させてしまうのが大きな特徴です。「血小板だって血液を凝固させるじゃん」と思いませんでしたか?確かに血小板も血液凝固因子をもっていますよね。しかしそれがはたらくのは怪我などで出血した場合であり、出血が止まればそのはたらきも一段落します。血液毒の恐ろしさは、血小板とは比較にならないほど強力な血液凝固のパワーなのです。ヘビの毒液たった一滴でヒトの血液をゼリー状に固めてしまうなんて信じられないでしょう。実際の実験映像をぜひその目で見てみてください。

ヘビに一度噛まれた程度では、当然全身の血液を固めてしまうほどの量の毒が体内に入ることはないでしょう。しかし血栓となることで血液で全身に運ばれ、各所の壊死を引き起こしてしまうのです。

2-2.出血が止まらない

血液毒は出血毒ともよばれていて、その名の通り出血が止まらなくなってしまうからです。「血を固める作用があるのになぜ?」と思った人もいるでしょう。理由は後ほど解説するとして、血が止まらないことによりどういった症状が出るのかを解説していきますね。

そもそも血液は身体の中心の太い血管から末端の毛細血管まで、酸素や栄養を運ぶために全身を巡っています。この血液が多量に失われることで、体内の循環が正常に機能しなくなってしまうのです。さらに悪いことに、血管系の細胞が破壊されることで、体内でも出血が起こっています。そんな状態では血圧降下や体内出血、各臓器の機能低下により命を落とすリスクは格段に上がってしまうことがわかるでしょう。

\次のページで「3.血液の凝固及び凝固阻害が起こるワケ」を解説!/

3.血液の凝固及び凝固阻害が起こるワケ

3.血液の凝固及び凝固阻害が起こるワケ

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血液毒とよばれる物質は血液凝固に関わる酵素プロトロンビンを活性化させるはたらきをもっています。この酵素が活性化することで血液凝固が急激に進み、血栓をつくり出してしまうのです。通常の血小板による止血にも重要な酵素ですが、過剰に作用することで人体にとっては悪影響となります。血液中にもともと含まれていた血液凝固因子が傷口とは関係のないところで血液を固める方向に作用してしまうと何が起こるでしょうか。

ヘビに刺された場所は傷口がふさがらず、出血し続けます。これは本来凝固させるべき傷口ではなく、別の部分で血液凝固因子が使われてしまっているためです。さらにタンパク質分解酵素の作用により、かさぶたに含まれるフィブリンが分解されてしまいます。これらの原因により、逆に傷口では傷が止まらなくなってしまうということですね。さらに血管系の細胞の破壊も起こるため、至る所で出血するも傷がふさがらないという悪い流れになってしまうのです。

3-1.毒ヘビに咬まれる イコール 死?

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安心してください。ヘビに咬まれたからといって全く治療法がないわけではありません。日本でもヘビに噛まれて重傷…という事故のニュースを耳にすることがありますが、「血清」を打つことで最悪の状況は回避できるのです。

血清は血しょうから血液凝固にかかわる因子を取り除いて精製したもので、毒の影響を無効化してくれるものと理解すればいいでしょう。毒素自体を壊すのではなく、毒素を覆い隠して無害にしてくれる効果があります。このように医療用に開発された抗毒血清がいつかあなたを助けてくれるかもしれませんね。

出血毒ともいわれるヘビの毒・血液毒

血液毒は血液循環にダメージを与えることからその名がついています。前回解説した神経毒同様、毒がどこに作用するかという分類の1つですね。この毒は主にクサリヘビ科の毒ヘビがもつもので、日本にもニホンマムシやガラガラヘビなどいくつかの種類が生息しているので注意が必要です。

毒の成分は血液の凝固に関わる酵素を活性化させます。これによって血液は凝固し、血栓となって全身を巡ることで臓器の壊死を引き起こすでしょう。さらに血管系の細胞の破壊が進みます。また、凝固因子を集中的に消費してしまうことで、傷口ではかえって血液が止まらなくなってしまうのです。そのため血液毒は出血毒ともいわれ、症状が進むと血圧低下・体内出血・腎機能障害・早期不全といった至る所で症状が現れて死に至る危険もあります。それを食い止める血清の存在についても知っておきたいですね。

" /> 毒の成分が血液に影響する「血液毒」を元塾講師がわかりやすく解説 – Study-Z
化学

毒の成分が血液に影響する「血液毒」を元塾講師がわかりやすく解説

今回は「血液毒」について詳しく勉強していこう。

前回解説した「神経毒」による「麻痺」とは違って、「血液に作用する毒」というのはあまりピンとこないやつもいるんじゃないか?

命にもかかわる恐ろしい血液毒の影響を化学に詳しいライターAyumiと一緒に解説していきます。

ライター/Ayumi

理系出身の元塾講師。わかるから面白い、面白いからもっと知りたくなるのが化学!まずは身近な例を使って楽しみながら考えさせることで、多くの生徒を志望校合格に導いた。

1.血液の役割

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前回解説した神経毒は「神経にダメージを与える」ことからその名がついていました。今回は「血液にダメージを与える毒」である「血液毒」について解説していきましょう。

その前にまずは体内での血液の役割についておさらいですよ。

1-1.赤血球

私たちの血が赤いのは血液中に赤血球が多く含まれるためです。これは酸素の運搬係として機能していましたね。赤血球中のヘモグロビンという成分は、酸素と結合しやすく、同時に酸素を放しやすいという性質をもっています。酸素を多く含む動脈血とそうではない静脈血には色の違いがあるのを知っていますか?これは酸素と結びついたヘモグロビンとそうではないヘモグロビンの色の差によって異なるのです。これにより肺では酸素と結合し、身体の隅々まで酸素を運び、各細胞・臓器への受け渡しが可能になったといえるでしょう。

1-2.白血球

白血球免疫に大きく関わる大切な成分です。ウイルスなどの敵が体内に侵入したとき、これらを攻撃し、防御するための仕事をしてくれています。白血病などで免疫力が低下し、感染症へのリスクが上がるのは、造血機能が損なわれることで白血球の数が減少することが要因の1つです。キメラに関する記事で骨髄移植に関して少し触れましたが、正常な血液をつくり出すことは生命維持にとって非常に重要なことだというのがわかりますね。

1-3.血小板

怪我をしたときにかさぶたができるのは血小板のおかげです。出血を伴う怪我をすると、血小板から血液を凝固させて止血するための指令が出されます。これによってかさぶたの主成分であるフィブリンという繊維賞のタンパク質がつくられ、これが赤血球や白血球をからめとることで固まりになって出血を止めるのです。いち早く傷口をふさぐことで出血を最小限に抑えるだけでなく、細菌の侵入を防ぐという役割もありますね。

1-4.血しょう

赤血球・白血球・血小板は血液に含まれる細胞成分であるのに対し、血しょう液体成分で血液中の約半分を占めています。血しょうの約9割は水ですが、タンパク質・脂質・糖分・ホルモンなどが溶け込んでいるものです。細胞成分及びこれらの溶け込んでいる物質の運搬係としての機能だけでなく、抗原抗体反応という免疫がはたらく場でもあります。怪我をしたときや治りかけの傷から染み出している透明な液は組織液といい、毛細血管から血しょうが染み出たものなんですよ。

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