今回は「神経毒」について詳しく勉強していこう。

これまでにもいくつか「毒」について解説してきたが、今回はまた違った視点での解説になるぞ。

自然界にもこの毒をもつ生き物は多い。化学に詳しいライターAyumiと一緒に解説していきます。

ライター/Ayumi

理系出身の元塾講師。わかるから面白い、面白いからもっと知りたくなるのが化学!まずは身近な例を使って楽しみながら考えさせることで、多くの生徒を志望校合格に導いた。

1.毒についておさらい

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まずは簡単に毒についておさらいしてみましょう。あなたが思い浮かべる毒はどれに分類されるのか考えてみるといいですね。

1-1.毒劇物と毒劇薬

まずは毒性の強度による分類です。医薬品で毒性が強ければ毒薬、医薬品以外の物質では毒物とされています。毒薬・毒物よりも毒性が弱いものは劇薬・劇物という分類でしたね。一般的に実験などで用いられる試薬や工場など製造現場で用いられるものに使われる分類というイメージが強いかもしれません。普段理科室で目にするボトルにはこれら分類を示すマークがついているのでぜひ見てみてくださいね。

1-2.自然毒と人工毒

授業で習うような毒物・毒薬は人工的に量産されたものと考えてください。トルエンやクロロホルム、農薬は人工毒にあたります。意外に思う人もいるかもしれませんが、食品添加物もこれに含まれるのを知っていましたか?長期的に摂取することで人体に悪影響を及ぼすことが判明したものも少なくありません。

一方できのこや魚介類、ヘビやフグといった動植物による毒は自然毒の代表です。植物由来または動物由来であれば自然毒と考えられるので分類は簡単でしょう。それに加え、サルモネラ菌やO-157のような微生物毒、水銀やヒ素といった鉱物毒も自然毒に含まれますよ。

\次のページで「2.症状による分類」を解説!/

2.症状による分類

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今回は毒がどのように症状として現れるのか、どこに作用するのかという視点で考えたときの分類の1つを解説します。

毒が体内に入ったとき、どのような症状が出るのかを考えてみましょう。

最悪の結果は「死」ですよね。それ以外には「痺れる」「腫れる」「痒くなる」「呼吸器疾患になる」などいろいろ挙げられます。痺れというのは毒による症状としては一般的でしょう。これは神経毒に分類される物質による症状です。

このようにどの器官に作用してなぜ症状として現れるのかを基準にした分類方法もあることを理解しておきたいですね。

3.麻痺を引き起こす神経毒

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神経毒による生体への影響で一般的なのは麻痺です。軽度で一時的な不調として治ってしまうものもあれば、病院での治療が必要となるもの、後遺症になってしまう場合まで様々でしょう。危険性の度合いは、摂取した物質の毒性の強さ、摂取量、摂取してからの時間といった要因によって異なります。いずれにしても何かしらの体調の変化を感じた場合、迅速な対応をとることが重要ですね。

それでは神経毒について詳しく見ていきましょう。

3-1.神経毒をもつ生き物

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神経毒は生体内で生成されるものよりも外因性毒素が知られています。誰もがよく知っているエタノールも実はこの神経毒の一種です。もちろん少量ではいわゆる酒酔いの状態になるだけですが、これも酩酊させ、正常な判断力を鈍らせる穏やかな神経毒症状といえます。少量でも長期的な飲酒によって神経細胞が破壊されていくことが報告されており、未成年の場合はとくにその影響が大きいことから、お酒は20歳からとなっているのです。

さて、動物由来の自然毒にも神経毒に分類されるものが多く存在します。その例をいくつか挙げてみましょう。

キングコブラやウミヘビなどコブラ科のヘビフグ、スズメバチやアシナガバチなどのハチサソリ、写真のセアカゴケグモ、毒矢に使われていたヤドクガエルがこれに含まれます。毒をもつ生き物としては有名ですよね。防御のために毒を体内で生成するもの餌由来の毒素が蓄積したものがいますが、小さな生き物でも人を殺してしまうくらいの強い毒をもっているのは驚きでしょう。

\次のページで「3-2.症状を引き起こす作用機序」を解説!/

3-2.症状を引き起こす作用機序

神経毒といわれる毒がなぜ「神経」に作用し、痺れという症状を引き起こすのか気になりますよね。それを解説する前に、まずは簡単に「イオンチャネル」について見ていきましょう。

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ヒトの体内にある細胞は、1つ1つが細胞膜という膜に覆われていますよね。この膜によって細胞が仕切られているのですが、実はその中には細胞と細胞をつなぐ門のような役割をもつタンパク質(チャネルタンパク質)が存在しています。これによって細胞同士が完全に仕切られているのではなく、必要な物質の受け渡しができるようになるのです。そしてこのチャネルによって受け渡しされるものの1つがイオンであり、その門をイオンチャネルといいます。

イオンは様々な生理現象及び生命活動に必要な物質です。つまり、イオンチャネルはイオンに関わるありとあらゆる生理現象や生命活動に影響を与え、神経伝達物質の放出、筋収縮、ホルモン分泌、感覚などを司ります。神経毒とよばれる物質は、このイオンチャネルを攻撃することによってそのはたらきを阻害してしまうのです。それによって麻痺という症状になります。

チャネルが正常にはたらかないことで各部位への信号が出なくなる、あるいは間違った指令が届くようになってしまうのです。これによって麻痺という身体機能に影響を与えるだけでなく、生命活動そのものに関わってくるのが神経毒の恐さといえるでしょう。

イオンチャネルのはたらきを阻害する神経毒

毒性の強度や症状の現れ方、自然毒か人工毒かという分類に加え、人体のどこに作用するかという視点で「神経毒」について解説しました。「毒によってどんな症状が出るか」と聞かれたとき、「痺れる」と答える人が多いでしょう。それがまさに神経毒による症状です。

人体にはイオンチャネルというタンパク質が存在しています。これはイオンの受け渡しに機能する細胞間をつなぐ門のような存在です。神経毒に分類される物質はこの門を攻撃し、その機能を阻害するはたらきをします。これによってイオンが関わる様々な生理現象及び生命活動に影響を与えるのです。

毒の恐ろしさを実感できたでしょうか。次回は「血液」に影響を与える「血液毒」について解説します。

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化学

麻痺を引き起こす恐い毒「神経毒」を元塾講師がわかりやすく解説

今回は「神経毒」について詳しく勉強していこう。

これまでにもいくつか「毒」について解説してきたが、今回はまた違った視点での解説になるぞ。

自然界にもこの毒をもつ生き物は多い。化学に詳しいライターAyumiと一緒に解説していきます。

ライター/Ayumi

理系出身の元塾講師。わかるから面白い、面白いからもっと知りたくなるのが化学!まずは身近な例を使って楽しみながら考えさせることで、多くの生徒を志望校合格に導いた。

1.毒についておさらい

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まずは簡単に毒についておさらいしてみましょう。あなたが思い浮かべる毒はどれに分類されるのか考えてみるといいですね。

1-1.毒劇物と毒劇薬

まずは毒性の強度による分類です。医薬品で毒性が強ければ毒薬、医薬品以外の物質では毒物とされています。毒薬・毒物よりも毒性が弱いものは劇薬・劇物という分類でしたね。一般的に実験などで用いられる試薬や工場など製造現場で用いられるものに使われる分類というイメージが強いかもしれません。普段理科室で目にするボトルにはこれら分類を示すマークがついているのでぜひ見てみてくださいね。

1-2.自然毒と人工毒

授業で習うような毒物・毒薬は人工的に量産されたものと考えてください。トルエンやクロロホルム、農薬は人工毒にあたります。意外に思う人もいるかもしれませんが、食品添加物もこれに含まれるのを知っていましたか?長期的に摂取することで人体に悪影響を及ぼすことが判明したものも少なくありません。

一方できのこや魚介類、ヘビやフグといった動植物による毒は自然毒の代表です。植物由来または動物由来であれば自然毒と考えられるので分類は簡単でしょう。それに加え、サルモネラ菌やO-157のような微生物毒、水銀やヒ素といった鉱物毒も自然毒に含まれますよ。

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