今回はこの「浄土」がどういうところか、そして、この「浄土」へ往生しようと願う「浄土信仰」について歴史オタクのライターリリー・リリコと一緒に解説していきます。
ライター/リリー・リリコ
興味本意でとことん調べつくすおばちゃん。座右の銘は「何歳になっても知識欲は現役」。大学の卒業論文は源義経をテーマに執筆。平安時代は得意分野。
1.浄土はどこにあるの?
さて、今回のテーマとなる「浄土信仰」の「浄土」とは、いったいなんでしょうか?
冒頭で桜木先生がおっしゃったように、「浄土」はいわゆる「天国」のようなところです(天使は飛んでいませんが)。ただし、これは本当に簡単に言い表しただけにすぎません。キリスト教の「天国」と仏教の「浄土」は似ているようで、まったく違うのです。
今章は「浄土」についてわかりやすく説明していきましょう。
悲劇の王妃「韋提希」がみた浄土
仏教発祥の地はインドというのはご存知でしょうか?紀元前五世紀前後、北インドに生まれた「ガウタマ・シッダールダ(釈迦)」がブッダガヤの菩提樹の下で悟りを開き、悟りの内容を世の人々に広めたのが始まりでした。
「浄土」の話が書かれたのは「観無量寿経(観経)」という経典です。
「観無量寿経」によると、お釈迦様がまだ生きていたころに、インドのマガダ国の王子阿闍世(アジャータンシャトル)が王位を奪おうとして父王を捕えて餓死させるというクーデターが起こりました。王妃の「韋提希(ヴァイデーヒー)」は夫を救おうと手を尽くしますが、それが阿闍世の怒りを買って幽閉されてしまいます。幽閉された韋提希は、このとき郊外の霊鷲山山頂の僧院にいたお釈迦様に救いを求めて祈りました。すると、神通力で韋提希の祈りを知ったお釈迦様は、また神通力を使って韋提希の部屋に現れたのです。
韋提希はお釈迦様に「極楽世界の阿弥陀仏のもとに生まれたい」と願いました。そこでお釈迦様は極楽の様子や、阿弥陀仏や菩薩たちの姿、さらに、浄土に生まれるためのの十六種類の観法(瞑想法)「十六観」を説いたのです。
日本人の耳に馴染んだ「南無阿弥陀仏」の意味
韋提希のお話で「阿弥陀仏」という仏様が極楽世界にいるとわかりましたね。さて、この「阿弥陀(あみだ)」という言葉には聞き覚えがありませんか?
お坊さんの読経や、あるいは何か怖いことがあったときに「なむあみだぶつ~」と唱えているのを聞いたことがあると思います。これを漢字に直すと「南無阿弥陀仏」。「南無~」は「~に帰依(信仰)しています」という意味なので、この文言は「(私は)阿弥陀仏に帰依しています」となります。
日本人の耳に慣れた言葉ですが、では、この「阿弥陀仏」とはいったいどのような仏様なのでしょうか?
極楽浄土の阿弥陀仏
結論を先に言ってしまうと、阿弥陀仏はこの宇宙に存在する仏の中でも抜きんでた力を持ったすべての仏の先生です。当然、お釈迦様も阿弥陀仏の弟子でした。
阿弥陀仏が先生とされる由来は、阿弥陀仏が悟りを開く際に立てた48の本願にあります。それは「生きとし生けるものすべてを幸せにする」という内容で、お釈迦様をはじめ、他の仏には実現不可能なものだったのです。だから、これほどまで尊い誓願を成就させた阿弥陀仏がすべて仏の先生となったのでした。
そして、阿弥陀仏がいるのが「西方極楽浄土」なのです。
西の浄土があるなら、東の浄土はあるの?
ありますよ!
西の「阿弥陀如来」の「西方極楽浄土」に対して、東は「薬師如来」がいらっしゃる「東方浄瑠璃浄土」といいました。
薬師如来は12の大願を立て、すべての人々の病苦を救うとされています。病を治す薬を与える医薬の仏様ですから、現世利益信仰を集める珍しい仏様なのです。
また、浄土はこのふたつだけではありません。「弥勒菩薩の弥勒浄土(兜率天)」に「文殊浄土」、「観音浄土」といろいろとあります。
ただし、日本で「浄土」と言う場合、阿弥陀仏の西方極楽浄土をイメージすることが多いです。
浄土はどんなところ?
「浄土」は、仏教における煩悩やけがれのない、とても清浄で清涼な仏の世界(国)とされています。「西方極楽浄土」は遠い昔に阿弥陀仏が悟りを開いたあとにつくられ、人々を救うために阿弥陀仏は今もここで説法をしているのです。
浄土の大地は黄金で、七宝の池は「八功徳水」という清らかな水で満たされ、天からは華の雨とすてきな音楽が流れてきます。ここに住む人々も素晴らしく、不安も苦痛もありません。
「浄土信仰」では、人が亡くなると浄土へ行くとされていますが、臨終の際に阿弥陀仏や菩薩たちが金の雲に乗って迎えにあらわれます。これを「来迎」といいました。
浄土の環境はすべて、ここに迎えられた人々が修行するために阿弥陀仏が慮ったものです。邪魔するもののないところで、心安らかに悟りを開きなさい、ということですね。
余談ですが、清らかな「浄土」に対して、煩悩でけがれた現実の世界(現世)を「穢土」といいます。
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