この記事では「自然淘汰」について解説する。

端的に言えば、「自然淘汰」の意味は「時の流れとともに、自然と選び分けられていく」です。生物の進化を感じさせるなかなかロマンのある言葉です。ダーウィンの進化論と絡めながら理解を深めていくと、新しい発見があるかもしれないぞ。

小学校教諭として言葉の授業を何度もしてきた「こと」と一緒に、「自然淘汰」の意味や例文、類語・対義語などを見ていきます。

ライター/こと

元小学校教諭のwebライター。先生や子どもたちから「授業が分かりやすい!」との定評があった教育のプロだ。豊富な経験を活かし、どんな言葉も分かりやすく解説していく。

「自然淘汰」の意味と使い方

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では早速、「自然淘汰(しぜんとうた)」の意味と使い方を見ていきましょう。

「自然淘汰」の意味をまずは辞書で確認!

まずは「自然淘汰」の意味を辞書で確認します。

時の経過とともに、優良なものが生き残り、劣悪なものがひとりでに滅びていくこと。

出典:デジタル大辞泉(小学館)

「淘汰」には、「選び分けること」という意味があります。悪いものを捨てて、良いものを取るということです。環境や生態条件に適した強者が生き残り、適合できなかった弱者は自然に衰退する。時の流れとともに、自然と選び分けられていく様を表現している四字熟語ですね。

「自然淘汰」を使った例文を紹介

次に「自然淘汰」を使った例文を見てみましょう。

A:自然淘汰されないために、生物は環境の変化に対応して生き延びてきた。
B:最近の俗悪な雑誌は、自然淘汰される日も近いだろう。
C:この会社で実力のない者は自然淘汰され、解雇されてしまう。

どうでしょうか。どれも、自然と選び分けられていく様を表しています。Aのように生物に関することはイメージしやすいでしょう。しかし、BやCのように物や人に対しても「自然淘汰」という言葉を使うことができます。遥かなる進化の過程だけではなく、思いのほか日常の場面でも使えることが分かります。

ここで、夏目漱石の「修善寺日記」から用例をもう一つご紹介します。

自然淘汰に逆さからう療治。小児の撫育(ぶいく)より手がかかる。半白(はんぱく)の人果して此看護をうくる価値ありや。

出典:修善寺日記

「自然に逆らって治療することは、子どもを育てるよりも手がかかる。白髪が混じった人に果たしてその価値があるのか」というような意味です。「自然淘汰」という言葉に、何とも言えないもの悲しさを感じてしまいますね。

ダーウィンの進化論が「自然淘汰」の始まりか?

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さて、「自然淘汰」と聞くとチャールズ・ダーウィンを思い起こす人も多いでしょう。イギリスの自然科学者だったダーウィンが1859年に発表した進化論。これを自然淘汰説や自然選択説と呼びます。これが「自然淘汰」という言葉の本質であり、始まりと言えるでしょう。

ダーウィンの「種の起源」から探る「自然淘汰」

ダーウィンの進化論について、もう少し詳しく見てみましょう。現代の生物学における進化論は、ダーウィンの主著『種(しゅ)の起源』から始まりました。それは「全ての生物種は共通の祖先から、長い時間をかけて自然選択を通して進化した」というものです。厳しい自然環境が生物に無目的に起きる変異を選別し、進化に方向性を与えると主張しています。

生き残るのは「変化できる者」ではなく「運が良かった者」

ここで、興味深い視点があります。それは、生き残るのは「変化できる者」ではなく「運が良かった者」だということ。キリンの首が長いのは、高い所にある葉を食べるために変化したのではなく、たまたま他のキリンより首の長いキリンが高い所の葉を食べることができたので、生存競争に勝ち残ったということです。

近年出回っている自己啓発本は自然淘汰説を例に出して「変化に対応できる者」を求めますが、ダーウィンはそんなことは言っていません。本来生き残ったのは「たまたま環境に適していた者」なんですね。

「自然淘汰」の類語の四字熟語

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「自然淘汰」の類語を紹介します。順に、辞書で意味を確認していきましょう。

「弱肉強食」弱い者が強い者のえじきになる

まずは「弱肉強食(じゃくにくきょうしょく)」です。

\次のページで「「適者生存」環境に適応したものが生き残る」を解説!/

弱者が強者の犠牲になること。強い者が弱い者を餌食 (えじき) にして栄えること。

出典:デジタル大辞泉(小学館)

まさに、自然界の食う・食われるの関係を表わしていますよね。

「適者生存」環境に適応したものが生き残る

次に「適者生存(てきしゃせいぞん)」です。

生存競争で環境に最も適したものだけが生き残って子孫を残しうること。

出典:デジタル大辞泉(小学館)

「適者生存」はハーバート・スペンサーが1864年に『Principles of Biology』で発案した造語です。もちろんダーウィンの概念に影響を受けてのこと。先ほどの、生き残るのは「変化できる者」ではなく「運が良かった者」の考えに通じますよね。

「優勝劣敗」勝っているものが勝ち劣っているものが敗れる

「優勝劣敗(ゆうしょうれっぱい)」はどうでしょう。

力の強い者が勝ち残り、劣っている者が負けること。特に、生存競争で強者・適者が栄え弱者・不適応者が滅びること。

出典:デジタル大辞泉(小学館)

何をもって「優れている・劣っている」かは難しいところです。環境のみが知るといったところでしょうか。

「自然淘汰」の対義語が深い…

「自然淘汰」の対義語と言えば、「変化しない」「淘汰されない」という意味のものかと思うかもしれませんが、実は違います。

\次のページで「「人為淘汰」人工的に生物の品種改良を行う」を解説!/

「人為淘汰」人工的に生物の品種改良を行う

対義語は「人為淘汰(じんいとうた)」です。こちらも辞書で意味を見てみましょう。

動植物の個体群の中から人間の役に立つ形質をもつ個体を選んで交配し、その形質を一定の方向に変化させること。家畜や作物の品種改良に用いられる。人為選択。

出典:デジタル大辞泉(小学館)

「人為」とは「人の手・人のしわざ」です。生物は必ず変化していきます。それが、自然であるか人為であるかというだけ。しばしば変化を恐れる私たちですが「自然淘汰」の対義語からは「変化しないものなどない」という壮大なメッセージすら感じてしまいます。深すぎです…。

「自然淘汰」を英語で表現してみよう!

ダーウィンが進化論『種の起源』で唱えたnatural selectionの訳語が「自然淘汰」です。例文を紹介します。

Every creatures are evolving by the natural selection.
生物は自然淘汰によって進化を続ける。

He stated his belief that evolution occurred through natural selection.
彼は進化は自然淘汰によって起こるのだという信念を述べた。

そのまま「natural selection」と表現できるので、覚えやすいですね。

AI時代に「自然淘汰」されない人間とは?

AI時代に自然淘汰されないために、人間は「学び続けること・考え続けること」を止めてはいけないと思います。それと同時に、自分を環境に無理に合わせて苦しい思いをするのではなく、自分が今持っているものの中で環境に合う強みを見つけ生かしていく。この力こそが、今の時代に生き残れる人材であると言えるのではないでしょうか。AIに淘汰される時代は、もうすぐそこまで来ているかもしれません。自分を客観的にとらえ自らを生かす力を、これからますます身につけていきたいですね。

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国語言葉の意味

「自然淘汰」の意味はダーウィンの進化論そのもの?使い方や類語・対義語などを元小学校教諭がわかりやすく解説

この記事では「自然淘汰」について解説する。

端的に言えば、「自然淘汰」の意味は「時の流れとともに、自然と選び分けられていく」です。生物の進化を感じさせるなかなかロマンのある言葉です。ダーウィンの進化論と絡めながら理解を深めていくと、新しい発見があるかもしれないぞ。

小学校教諭として言葉の授業を何度もしてきた「こと」と一緒に、「自然淘汰」の意味や例文、類語・対義語などを見ていきます。

ライター/こと

元小学校教諭のwebライター。先生や子どもたちから「授業が分かりやすい!」との定評があった教育のプロだ。豊富な経験を活かし、どんな言葉も分かりやすく解説していく。

「自然淘汰」の意味と使い方

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では早速、「自然淘汰(しぜんとうた)」の意味と使い方を見ていきましょう。

「自然淘汰」の意味をまずは辞書で確認!

まずは「自然淘汰」の意味を辞書で確認します。

時の経過とともに、優良なものが生き残り、劣悪なものがひとりでに滅びていくこと。

出典:デジタル大辞泉(小学館)

「淘汰」には、「選び分けること」という意味があります。悪いものを捨てて、良いものを取るということです。環境や生態条件に適した強者が生き残り、適合できなかった弱者は自然に衰退する。時の流れとともに、自然と選び分けられていく様を表現している四字熟語ですね。

「自然淘汰」を使った例文を紹介

次に「自然淘汰」を使った例文を見てみましょう。

A:自然淘汰されないために、生物は環境の変化に対応して生き延びてきた。
B:最近の俗悪な雑誌は、自然淘汰される日も近いだろう。
C:この会社で実力のない者は自然淘汰され、解雇されてしまう。

どうでしょうか。どれも、自然と選び分けられていく様を表しています。Aのように生物に関することはイメージしやすいでしょう。しかし、BやCのように物や人に対しても「自然淘汰」という言葉を使うことができます。遥かなる進化の過程だけではなく、思いのほか日常の場面でも使えることが分かります。

ここで、夏目漱石の「修善寺日記」から用例をもう一つご紹介します。

自然淘汰に逆さからう療治。小児の撫育(ぶいく)より手がかかる。半白(はんぱく)の人果して此看護をうくる価値ありや。

出典:修善寺日記

「自然に逆らって治療することは、子どもを育てるよりも手がかかる。白髪が混じった人に果たしてその価値があるのか」というような意味です。「自然淘汰」という言葉に、何とも言えないもの悲しさを感じてしまいますね。

ダーウィンの進化論が「自然淘汰」の始まりか?

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さて、「自然淘汰」と聞くとチャールズ・ダーウィンを思い起こす人も多いでしょう。イギリスの自然科学者だったダーウィンが1859年に発表した進化論。これを自然淘汰説や自然選択説と呼びます。これが「自然淘汰」という言葉の本質であり、始まりと言えるでしょう。

ダーウィンの「種の起源」から探る「自然淘汰」

ダーウィンの進化論について、もう少し詳しく見てみましょう。現代の生物学における進化論は、ダーウィンの主著『種(しゅ)の起源』から始まりました。それは「全ての生物種は共通の祖先から、長い時間をかけて自然選択を通して進化した」というものです。厳しい自然環境が生物に無目的に起きる変異を選別し、進化に方向性を与えると主張しています。

生き残るのは「変化できる者」ではなく「運が良かった者」

ここで、興味深い視点があります。それは、生き残るのは「変化できる者」ではなく「運が良かった者」だということ。キリンの首が長いのは、高い所にある葉を食べるために変化したのではなく、たまたま他のキリンより首の長いキリンが高い所の葉を食べることができたので、生存競争に勝ち残ったということです。

近年出回っている自己啓発本は自然淘汰説を例に出して「変化に対応できる者」を求めますが、ダーウィンはそんなことは言っていません。本来生き残ったのは「たまたま環境に適していた者」なんですね。

「自然淘汰」の類語の四字熟語

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「自然淘汰」の類語を紹介します。順に、辞書で意味を確認していきましょう。

「弱肉強食」弱い者が強い者のえじきになる

まずは「弱肉強食(じゃくにくきょうしょく)」です。

\次のページで「「適者生存」環境に適応したものが生き残る」を解説!/

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