日本に住んでいて台風を知らない人はいないと思う。多くの人は実際に体験したこともあるでしょう。台風とは科学的にはいったいどういう現象か学んでみよう。
今回は物理学科出身のライター・トオルさんと解説していきます。
ライター/トオル
物理学科出身のライター。広く科学一般に興味を持つ。初学者でも理解できる記事を目指している。
台風について
image by iStockphoto
台風とは熱帯低気圧の一種で北大西洋や南シナ海に存在し、低圧域内の最大風速が17m/s以上のものの事です。強風域や暴風域を持ち強い雨や風をともない、しばしば気象災害を引き起こします。他の地方でハリケーンやサイクロンとよばれるものも、基本的には同一の現象です。大型の台風ともなると強風域が半径800km以上にもなります。
強風域は平均風速が15m/sを超える領域のことであり、風に向かって歩くことが困難になったり、高速道路で運転するのが困難になるような範囲のことです。平均風速が25m/s以上になると暴風域となり、立つのが困難になったり街路樹が倒れたりするなど、外出するのが危険になります。
さらに、1時間に50mm以上の大雨が降るなど、人間にとっては非常に危険な自然現象である台風について学んでみましょう。
台風の構造
Jannev – 次の画像を基にした投稿者自身による作品: Hurricane profile graphic.gif NASA graphic., パブリック・ドメイン, リンクによる
まず台風の構造について簡単に見ておきましょう。台風の中心付近にある風や雲がほとんどない区域を台風の目と呼びます。この目のまわりに円筒形の領域に密集した、高度十数kmに達する背の高い積乱雲群があり、この円筒状の雲の全体が目の壁雲(アイウォール)と呼ばれるものです。
眼の壁雲の頂上からは、対流圏界面に沿って外側に吹き出す気流があり、この気流に沿って雲が広がっています。これぐらいの高度では、気温はマイナス数十度ですから、雲はすべて巻雲の仲間です。この巻雲は、上層の吹き出し雲と呼ばれています。台風周囲の地上付近には、目の中心めがけて吹き込む風があり、目の壁雲の下で風速が最大です。
この風に沿うように、積雲や雄大積雲、積乱雲の集団が存在します。これは列状に形成されえることから雲列ともよばれるようです。個々の雲の中には上昇気流がありますが、その周辺には雲のない場所もあり下降気流が存在しています。個々の雲は数km程度の広がりをもってますが、寿命は数十分程度です。その個々の雲が発生・発達・消滅を繰り返しています。
台風を囲んでいる個々の雲は数十分程度の寿命ですが、水平規模が数百kmにわたる雲の集団の全体では、寿命は数時間以上です。個々の雲に比べて、空間及び時間スケールが10倍程度も大きくなっています。これらの雲が組織化される仕組みは、成熟期の積乱雲から吹き出す下降気流が、台風に吹き込む湿った暖かい風とぶつかって次々と新たな積乱雲を発生させ続けるという仕組みです。
上記の画像は台風の雲と風の模式図になります。
台風はどこで発生するのか
Background image: NASA this version: Nilfanion – Created using User:jdorje/Tracks by Nilfanion on 2006-08-05. Background image from File:Whole_world_-_land_and_oceans.jpg (NASA). Tracking data for storms within the Atlantic and Eastern Pacific basins is taken from the National Hurricane Center and the Central Pacific Hurricane Center‘s Northeast and North Central Pacific hurricane database. The tracking data for storms within the Indian Ocean, the Northwest Pacific and the Southern Pacific is from the Joint Typhoon Warning Center. Tracking data for Cyclone Catarina in the South Atlantic was published in Gary Padgett’s April 2004 Monthly Tropical Cyclone Summary and was originally produced by Roger Edson of the University of Guam., パブリック・ドメイン, リンクによる
台風のもととなるのは、最初に触れたように熱帯で発生する熱帯低気圧です。熱帯低気圧は赤道気団という高温多湿の性質をもった単一の気団の中でできます。台風は、熱帯低気圧のうち北半球における太平洋西部にあり、中心付近の最大風速が17.2m/s(34ノット)以上のものの事です。気象学的に台風とまったく同じ性質をもつ現象は世界の各地にあり、それぞれの地域によって呼び名が異なります。
上記の画像は1985年から2005年に発生した熱帯低気圧の全経路です。経路の赤道に近い側が発生場所になりますので、図中の発生地域をみると、熱帯地方のみで発生していることがわかります。この図ではわかりませんが、日本における夏季には主に北半球で発生し、冬季にはには主に南半球で発生するというように、季節によって発生域が南北に移動するのが熱帯低気圧の特徴です。赤道を越えて台風が移動することはありません。
海水温と発生域の関係
Plumbago から en.wikipedia.org, CC 表示-継承 3.0, リンクによる
上記の画像は世界の年平均海面水温になります。海面水温とは海面に近い表面水温を表す言葉です。海面水温は、主に日射による加熱によって決まりますが、海流にともなう温度の異なる海水の輸送や、海面より下からの冷たい海水の湧き上がりの影響なども受けます。上記の図の温度の高い部分と、前節の台風の発生場所を比較するとよく対応しているようです。
海面水温の高い場所では、昼夜を問わず下層付近の空気は暖かく、しかも水蒸気を多く含んでいることが、台風の発生・発達に好都合になっています。下層が暖かく湿った大気は潜在的に不安定です。たとえまだ上昇気流が生じていなくても、下層の空気がなんらかのきっかけで上空に持ち上げられれば、すぐに水蒸気が凝結をはじめ、そのとき放出される潜熱のため周囲の大気より軽くなり、さらに自ら上昇する気流となります。
\次のページで「熱帯低気圧の発生」を解説!/