この記事では「生殺与奪(せいさつよだつ)」について解説する。

端的に言えば「生殺与奪」の意味は「思うがまま」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

現役塾講師で文系科目のスペシャリストである「すけろく」を呼んです。一緒に「生殺与奪」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/すけろく

現役文系講師として数多くの生徒を指導している。その豊富な経験を生かし、難解な問題を分かりやすく解説していく

#1 「生殺与奪」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「生殺与奪」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「生殺与奪」の意味は?

国語辞典を開いてみると、「生殺与奪」には次のような意味があります。

生かしたり殺したり、与えたり奪いとったりすること。どうしようと思うままであること。

出典:大辞林 第三版(三省堂)「生殺与奪」

「生殺与奪」とは、文字通り生かしたり殺したり、与えたり奪ったりすることです。しかし、これだけでは一体何が言いたいのかいまいち伝わってきにくいですよね。

そこで、ここに「~を自由に行える」という文言をプラスしてみてください。すると、一気に意味が分かりやすくなってきませんか?

人の命を自由に奪ったり人のものを勝手に奪ったりといった行為は、現代では当然許されるわけではありません。これは、当然もののたとえであり、それが自由にできるほど意のままに振舞える様子をこの四字熟語は表しているのです。

「生殺与奪」の出典・由来は?

次に「生殺与奪」の出典・由来を確認しておきましょう。この四字熟語は、古代中国の「荀子」という書物にある王制篇にその由来があります。

この書物の中で現れるのが、「貴賤、殺生與奪(こうだつ)は一なり」という記述です。「生殺」はひっくり返って「殺生」に、「与」は旧字体の「與」に置き換わっていますが、ここが由来であることは間違いありません。

このフレーズは全体で、人事や殺生、褒賞や懲罰といった権力も、もとをただせば一つ(=中国皇帝)であることを示しています。

\次のページで「「生殺与奪」の使い方・例文」を解説!/

「生殺与奪」の使い方・例文

「生殺与奪」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

生殺与奪の権を他人に握らせるなと言った剣士の迫力に何も言い返すことができず、彼はただうずくまって聞いているしかなかった。

16~18世紀に西ヨーロッパ諸国が近代国家へと移行する過程で、王は生殺与奪の権力を握るほど絶対的な存在であったとされる。

ウチは現社長が一代で興した会社で、そのワンマンぶりはまさに生殺与奪の権を一手に引き受けているといっても過言ではなかろう。

「生殺与奪」が表すのは、何といってもその絶対的な権力者ぶりです。したがって、この四字熟語を目にしたとき誰がどういった組織で権力・権限を握っているのかを押さえておくのがいいでしょう。

また、近年では稀ですが、文字通り「生き死に」の話をしているのか、それは例えでそのくらいの権力を持っているのかをきちんと区別しておくことも大切です。最初の例文では、セリフなのでどちらとも言えないところですが、「剣士」とあるので文字通りの「生死」の方だと考えておきます。

二つめの例文では、王が国家の全権力を握っている様子が分かるでしょう。こちらも、時代を考えれば文字通りの意味でも問題ないでしょう。最後の例文では、会社の社長が絶大な権力を持っていることがうかがえます。

この場合の「生殺」は文字通りのものではなく、人事権の話だととらえておきましょう。

#2 「生殺与奪」の類義語は?違いは?

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次に「生殺与奪」の類義語をご紹介しましょう。ここでは、代表的なものを二つほど見ていきます。

「活殺自在」

「活殺自在(かっさつじざい)」は、「生殺与奪」の類義語としてはいちばん分かりやすいのではないでしょうか。前半部の「活殺」は、まさに「活かすも殺すも」といった意味を表します。

後半部の「自在」は「自由自在」のことだととらえてもらって差し支えありません。これら二つを結び付ければ、「活かすも殺すも自由自在」=「そのくらい大きな権力がある」になるというわけです。

こちらの四字熟語も「生殺与奪」と同様に、「権」や「権力」という言葉と結びつきやすいということも申し添えておきます。

\次のページで「「梁冀跋扈」」を解説!/

「梁冀跋扈」

「梁冀跋扈(りょうきばっこ)」もまた、「生殺与奪」の類義語だといえるものです。この四字熟語はなかなか難しい漢字を使用していますね。

前半の「梁冀」は中国が漢と呼ばれていた時代に登場する人物です。そして、「跋扈」の方は「跋扈将軍」という彼に付けられた役職名から来ています。

時の幼帝に「跋扈」という役職名を与えられた梁冀は激怒し、帝を毒殺してしまったそうです。思い通りにならないのなら、皇帝でさえも亡き者にしてしまう。

そのぐらいの権力が全盛期の梁冀にはあったというわけですね。では、これらの類義語の用法を例文で確認しておきましょう。

我が商社は完全なる「タテ社会」で、上司は部下に対して活殺自在の権力を握っていると言い換えてもいいぐらいです。

こんな片田舎のメーカーでは、地方私立大の単なる学部卒の先輩が社長の姻戚だというだけで梁冀跋扈のごとく振舞っている。

#3 「生殺与奪」の対義語は?

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では、「生殺与奪」対義語にはどのようなものが考えられるのでしょうか。「生殺与奪」が思いのままに振舞えることを表すのなら、その対義語は思い通りにいかず苦労が続くことを表すはずです。

ここでは、そのような意味合いを持った四字熟語を二つご紹介します。

「千辛万苦」

「千辛万苦(せんしんばんく)」は、さまざまな苦しみや困難を意味する四字熟語です。「生殺与奪」の権を握っている者は、その強大な力を背景に悠然と歩を進めることができるでしょう。

しかしながら、そのような権力を持たない者は、ときにさまざまな苦労を経験します。そんな状況を表すのに「千辛万苦」はぴったりの四字熟語だといえるでしょう。

「悪戦苦闘」

「悪戦苦闘」もまた、「生殺与奪」の対義語ともいえる存在です。こちらの四字熟語は、困難な状況下で強大な敵と必死に戦っている様子を形容しえいます。

そんな様子は、まさに権力者のそれとは真逆のシチュエーションだといえるのではないでしょうか。では、これらの対義語を用いた例文も、ここでチェックしておきましょう。

米国や豪州に武者修行へと出かけたそのゴルフ選手は千辛万苦を乗り越え、つい先日祖国に凱旋した。

英語圏に住む者であっても、高度な専門用語を含む学術書の翻訳につねに悪戦苦闘を強いられるようだ。

\次のページで「「生殺与奪」の英訳は?」を解説!/

#4 「生殺与奪」の英訳は?

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最後に「生殺与奪」を英語で表現するとどうなるのか、一緒にみていきましょう。

「power of life and death」

「power of life and death」は、「生殺与奪」を忠実に英訳したもののひとつです。この表現を意訳すると「生かすも殺すも~しだい」となります。

つまり、そのくらいの強大な権力を有していることに他なりません。

「ultimate power」

「ultimate power」もまた、「生殺与奪」の英語訳として通用するもののひとつです。この表現に現れる「ultimate」とは、「最高の、究極の~」という意味を表します。

つまり、「ultimate power」全体では「究極の力」となるわけです。

「生殺与奪」を使いこなそう

この記事では「生殺与奪」の意味・使い方・類語などを説明しました。この四字熟語には、思いのままに振舞うと意味がありましたね。

相手の生き死にまでも左右してしまうほどの強大な権力は、使い方を一歩誤ればシビアな事態を招きかねません。生殺与奪の権を他人に握らせることなく、自分自身の意思と行動で道を切り拓いていきたいものです。

みなさんも、機会があればこの四字熟語をどんどん使ってみてくださいね。では、また次の機会にお会いいたしましょう。

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国語言葉の意味

【四字熟語】「生殺与奪」の意味や使い方は?例文や類語も含めて現役文系講師が詳しくわかりやすく解説!

この記事では「生殺与奪(せいさつよだつ)」について解説する。

端的に言えば「生殺与奪」の意味は「思うがまま」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

現役塾講師で文系科目のスペシャリストである「すけろく」を呼んです。一緒に「生殺与奪」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/すけろく

現役文系講師として数多くの生徒を指導している。その豊富な経験を生かし、難解な問題を分かりやすく解説していく

#1 「生殺与奪」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「生殺与奪」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「生殺与奪」の意味は?

国語辞典を開いてみると、「生殺与奪」には次のような意味があります。

生かしたり殺したり、与えたり奪いとったりすること。どうしようと思うままであること。

出典:大辞林 第三版(三省堂)「生殺与奪」

「生殺与奪」とは、文字通り生かしたり殺したり、与えたり奪ったりすることです。しかし、これだけでは一体何が言いたいのかいまいち伝わってきにくいですよね。

そこで、ここに「~を自由に行える」という文言をプラスしてみてください。すると、一気に意味が分かりやすくなってきませんか?

人の命を自由に奪ったり人のものを勝手に奪ったりといった行為は、現代では当然許されるわけではありません。これは、当然もののたとえであり、それが自由にできるほど意のままに振舞える様子をこの四字熟語は表しているのです。

「生殺与奪」の出典・由来は?

次に「生殺与奪」の出典・由来を確認しておきましょう。この四字熟語は、古代中国の「荀子」という書物にある王制篇にその由来があります。

この書物の中で現れるのが、「貴賤、殺生與奪(こうだつ)は一なり」という記述です。「生殺」はひっくり返って「殺生」に、「与」は旧字体の「與」に置き換わっていますが、ここが由来であることは間違いありません。

このフレーズは全体で、人事や殺生、褒賞や懲罰といった権力も、もとをただせば一つ(=中国皇帝)であることを示しています。

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