今回はラグランジュ力学について解説していきます。

ラグランジュ力学は、基本的にはニュートン力学と同じものでありますがより抽象的になっている。この記事はニュートン力学をまったく知らない人には難しいかもしれない。ニュートン力学の基礎を学んだ後に見てほしい。

今回は物理学科出身のライター・トオルさんと解説していきます。

ライター/トオル

物理学科出身のライター。広く科学一般に興味を持つ。初学者でも理解できる記事を目指している。

ラグランジュ力学について

image by iStockphoto

力学は大きく分けて三つの形式があり、それはニュートンの形式、ラグランジュの形式、ハミルトンの形式です。すべて力学現象を扱っているのですが表現方法が少し違います。今回紹介するラグランジュ力学はラグランジュの形式で書かれた力学です。それぞれの形式にはそれぞれの利点があるのですが、簡単に言えばラグランジュの形式とハミルトンの形式は、ニュートンの形式に比べより抽象的になります。

なので一般的に力学を学ぶ場合はニュートンの形式から勉強することになっていますし、歴史的にも最初にニュートンの形式が開発されました。ニュートンの形式を研究していくなかで、ラグランジュの形式やハミルトンの形式が開発されていきます。ニュートンの形式に比べより抽象的なラングランジュの形式は、最初は少し戸惑うかもしれませんが、抽象的であるために理論的分析に向いていたり応用範囲が広いのが特徴です。

ニュートンの運動方程式

ニュートンの運動方程式

image by Study-Z編集部

まずはニュートンの運動方程式を復習しながら、表記法について確認していきましょう。ニュートンの運動方程式は質量掛ける位置の時間での2回微分が、加えられた力に等しいというものです。よって、質量mの質点に力Fが加わったときのニュートンの運動方程式を、三次元直交座標の場合を書くと一番上の左の三つの方程式になります。いちいち三つも書くのが面倒なので、この三つをまとめて右の一番上の式のように書きましょう。

力がポテンシャルVのみによって決定するとすると、左の二番目の式のような関係になり、これを保存力といいます。この式も三つ書くのが面倒なので、運動方程式と同様に右のような簡略表記にしておきましょう。力が保存力の場合、ニュートンの運動方程式は左の一番下の式となります。表記方法の意味は上と同じです。

運動量と全エネルギー

運動量と全エネルギー

image by Study-Z編集部

先ほどのニュートンの運動方程式が成り立つ場合、上記画像の一番上の式のような質点の運動エネルギーが定義できます。ただし、この二乗は上記のようにベクトルのドット積での二乗であり、省略せずに書くと上記の二番目の式のようにすべての項の和となることを覚えておいてください。三番目の式のように、この運動量とポテンシャルの和を取ると全エネルギーEとなります。

つづいてこのEを時間で微分してみましょう。そうすると上から四番目の式のようになり、それを整理したのが一番下の式です。xの右上の白丸がついているのは時間で1階微分しているという意味であり、それぞれの積はドット積になっているとに注意してくだい。最後の式を見ると、{}の中にニュートンの運動方程式を代入するとゼロになることがわかります。

この式の意味は力がポテンシャルのみによって決まる場合、全エネルギーの時間微分はゼロ、つまり時間によらず常に一定であるという意味です。したがって、力が保存力の場合は全エネルギーは保存するというよく知られた結果を意味しています。

ラグランジュ方程式

ラグランジュ方程式

image by Study-Z編集部

ここでラグラジアンと呼ばれるLを導入しましょう。これは上記画像の一番上の式のように、運動エネルギーからポテンシャルを引いたものになります。次にそれぞれの位置変数とその時間微分を独立変数とみなして、このLをそれぞれの位置変数で微分してみましょう。すると運動エネルギーには位置変数の時間微分しか含まれていませんので、二番目の式のようにポテンシャルを位置変数で微分したものにマイナスをつけたものがでてきます。

次にLを位置変数の時間微分したもので微分すると出てくのが、三番目の式のように運動エネルギーを普通に微分したものです。これを参考にして、四番目の式の左辺のようなものを計算しますと右辺が出てきます。これにニュートンの運動方程式を代入するとゼロです。よって一番下の式が得られます。これがラグランジュの運動方程式と呼ばれものです。これまでの議論から明らかなように、ニュートンの運動方程式とラグランジュの運動方程式は基本的には同じものであるのがわかります。

\次のページで「一般化座標」を解説!/

一般化座標

一般化座標

image by Study-Z編集部

なぜこんなことをするのか初めは戸惑いますが、ラグランジュの方程式にはそのままの形でどの座標系でも適用できるという驚くべき性質があります。それもそのはずで、もともとニュートンの運動方程式をどの座標系にでも適用できるようにするためにラグランジュの方程式が考え出されたそうです。そこでラグランジュ方程式ではxの代わりにqを使います。これは一般化座標と呼ばれ、意味はどの座標系でも適用できるという意味です。

直交座標と極座標について、このことを確認しておきましょう。簡単のためにポテンシャルはゼロとしておきます。まず直交座標系ではL=T-Vよりラグラジアンは上記画像の左の二番目の式です。それぞれxとyについてラグランジュ方程式を立てます。それがxにつていは三番目の式、yについて四番目の式です。最終的にニュートンの運動方程式がでてきています。

曲座標については上記右の列をみてください。ラグラジアンは右一番上の式です。極座標での運動エネルギーはこのような形になります。直交座標と同様、rについてのラグラジュ方程式が二番目、θについてのラグランジュ方程式が三番目です。出てくるのは結局のところニュートンの運動方程式なのですが、座標についてのあれやこれやを考えずに、まったく機械的にニュートンの運動方程式にたどりつけます。

最小作用の原理

最小作用の原理

image by Study-Z編集部

最後にラグランジュ方程式の意味について考えてみましょう。まずラグラジアンLをqとqの時間微分の関数とします。それをt1からt2まで時間で積分したものが作用積分Iです。なぜ作用と呼ぶのかついては特に拘らなくていいと思います。次に、t1とt2でqの値は同じだが、それ以外の時刻ではqと無限小だけ違うq'というものを考え、それを作用積分したものをI'としましょう。

q'とqの無限小の差をδqとします。δqは変分と呼ばれるものです。そうするとq'とqとの関係は上記画像の一番上の三番目の式になります。そこでI’とIの差を考えると、でてくるのが上記画像二番目の式です。ここで二次以上の無限小を無視すると上から三番目の式に変形できます。四番目の式は三番目の式の第二項を部分積分したものです。この式の最後の項はゼロになります。

なぜなら、定義よりq'とqはt1とt2で同じ値を取るからです。式で表すと下から二番目の式になります。I'とIの差が常にゼロであるためには、一番下の式がゼロでなければなりません。そして、この式はラグランジュ方程式とまったく同じです。つまりラグランジュ方程式はI'とIの差をゼロにする式であることがわかります。

この意味は右の図のようにqをちょっとだけずらしても、作用積分の値が変わらないということです。つまり、作用積分が極値になる条件がラグランジュ方程式であると言えます。これは最小作用の原理と呼ばれるものです。

ニュートン力学を超えて

ラグランジュ力学は最終的にはニュートン力学と同じ式がでてくるわけですが、このラグランジュ力学の形式を使っておけば、そのまま相対性理論や量子力学にスムーズに移行できます。

ニュートン力学の形式は相対性理論や量子力学との相性が悪く、そのままでは非常に複雑になってしまうようです。それに比べラグランジュ力学の形式はそのまま適用できるため、作用などという概念も非常に有効で一般的な概念になっています。

一般にラグランジュ力学やハミルトン力学は解析力学という分野で学べますが、ニュートン力学を超えてより広く物理学を学びたいという人は、ラグランジュ力学やハミルトン力学を必ず学ばなければなりません。

" /> ニュートン力学をより抽象的にした「ラグランジュ力学」を理系ライターがそのエッセンスをわかりやすく解説 – Study-Z
物理物理学・力学理科

ニュートン力学をより抽象的にした「ラグランジュ力学」を理系ライターがそのエッセンスをわかりやすく解説

今回はラグランジュ力学について解説していきます。

ラグランジュ力学は、基本的にはニュートン力学と同じものでありますがより抽象的になっている。この記事はニュートン力学をまったく知らない人には難しいかもしれない。ニュートン力学の基礎を学んだ後に見てほしい。

今回は物理学科出身のライター・トオルさんと解説していきます。

ライター/トオル

物理学科出身のライター。広く科学一般に興味を持つ。初学者でも理解できる記事を目指している。

ラグランジュ力学について

image by iStockphoto

力学は大きく分けて三つの形式があり、それはニュートンの形式、ラグランジュの形式、ハミルトンの形式です。すべて力学現象を扱っているのですが表現方法が少し違います。今回紹介するラグランジュ力学はラグランジュの形式で書かれた力学です。それぞれの形式にはそれぞれの利点があるのですが、簡単に言えばラグランジュの形式とハミルトンの形式は、ニュートンの形式に比べより抽象的になります。

なので一般的に力学を学ぶ場合はニュートンの形式から勉強することになっていますし、歴史的にも最初にニュートンの形式が開発されました。ニュートンの形式を研究していくなかで、ラグランジュの形式やハミルトンの形式が開発されていきます。ニュートンの形式に比べより抽象的なラングランジュの形式は、最初は少し戸惑うかもしれませんが、抽象的であるために理論的分析に向いていたり応用範囲が広いのが特徴です。

ニュートンの運動方程式

ニュートンの運動方程式

image by Study-Z編集部

まずはニュートンの運動方程式を復習しながら、表記法について確認していきましょう。ニュートンの運動方程式は質量掛ける位置の時間での2回微分が、加えられた力に等しいというものです。よって、質量mの質点に力Fが加わったときのニュートンの運動方程式を、三次元直交座標の場合を書くと一番上の左の三つの方程式になります。いちいち三つも書くのが面倒なので、この三つをまとめて右の一番上の式のように書きましょう。

力がポテンシャルVのみによって決定するとすると、左の二番目の式のような関係になり、これを保存力といいます。この式も三つ書くのが面倒なので、運動方程式と同様に右のような簡略表記にしておきましょう。力が保存力の場合、ニュートンの運動方程式は左の一番下の式となります。表記方法の意味は上と同じです。

運動量と全エネルギー

運動量と全エネルギー

image by Study-Z編集部

先ほどのニュートンの運動方程式が成り立つ場合、上記画像の一番上の式のような質点の運動エネルギーが定義できます。ただし、この二乗は上記のようにベクトルのドット積での二乗であり、省略せずに書くと上記の二番目の式のようにすべての項の和となることを覚えておいてください。三番目の式のように、この運動量とポテンシャルの和を取ると全エネルギーEとなります。

つづいてこのEを時間で微分してみましょう。そうすると上から四番目の式のようになり、それを整理したのが一番下の式です。xの右上の白丸がついているのは時間で1階微分しているという意味であり、それぞれの積はドット積になっているとに注意してくだい。最後の式を見ると、{}の中にニュートンの運動方程式を代入するとゼロになることがわかります。

この式の意味は力がポテンシャルのみによって決まる場合、全エネルギーの時間微分はゼロ、つまり時間によらず常に一定であるという意味です。したがって、力が保存力の場合は全エネルギーは保存するというよく知られた結果を意味しています。

ラグランジュ方程式

ラグランジュ方程式

image by Study-Z編集部

ここでラグラジアンと呼ばれるLを導入しましょう。これは上記画像の一番上の式のように、運動エネルギーからポテンシャルを引いたものになります。次にそれぞれの位置変数とその時間微分を独立変数とみなして、このLをそれぞれの位置変数で微分してみましょう。すると運動エネルギーには位置変数の時間微分しか含まれていませんので、二番目の式のようにポテンシャルを位置変数で微分したものにマイナスをつけたものがでてきます。

次にLを位置変数の時間微分したもので微分すると出てくのが、三番目の式のように運動エネルギーを普通に微分したものです。これを参考にして、四番目の式の左辺のようなものを計算しますと右辺が出てきます。これにニュートンの運動方程式を代入するとゼロです。よって一番下の式が得られます。これがラグランジュの運動方程式と呼ばれものです。これまでの議論から明らかなように、ニュートンの運動方程式とラグランジュの運動方程式は基本的には同じものであるのがわかります。

\次のページで「一般化座標」を解説!/

次のページを読む
1 2
Share: