世の中の回転するものの大半は「モータ」が使われている。モータを動かす原動力が「電磁力」という名前の力。「電流」と「磁界」の2つがそろって初めて発生する。

「電磁力」は直接観察できないし、向きや大きさもガチガチに定義されていてもはや覚えるしかないが、単なる丸暗記では面白くない。電磁力の定義は意味が分かると非常に面白く、丸暗記であっても楽しくなるぞ。理系ライターのR175と解説していく。

ライター/R175

関西のとある理系国立大出身。エンジニアの経験があり、身近な現象と理科の教科書の内容をむずびつけるのが趣味。教科書の内容をかみ砕いて説明していく。

1.回転の原動力

image by iStockphoto

自動化、自動化、自動化。何かと「自動化」が進む世の中。今まで人が運んでいたものをベルトコンベアで運ぶ。人が作業していたのをロボットに代替。「自動」で動く機械の仕組みは以下の通りです。

(1)何か動作したいタイミングで電気信号を送る。(2)電気信号を送って「モータ」を回転させる。(3)モーターの回転をいろんな動きに変換して機械を動作させる。自動化に「モータ」はつきものですね。そんなモータの回転力のもとになっているのが「電磁力」。

電磁力の発生要件

電磁力はどうやってうまれるのか。モータを動かすためには「電流」が必要ですね。これが1つ目。もう一つはモータを分解してよく観察しないとわかりませんが「磁界(磁場)」です。

モータの中には磁石が入っていて、「磁界」が作られています。そこに電流を流すことで「電磁力」が作用するのです。

2.電流と磁界

電流が流れている導体の周りに磁界ができますし、逆に磁界の周りに電流が発生。その向きは、右ねじの法則に従います。残念ながら、この向きは法則通りに暗記するしかありません。

なぜなら、電流、磁界の向き自体が法則に従うように定義されているため。例えば重力なら下向きに働くというのが直接観察できますが、電流や磁界は直接的には観察しづらいもの。とはいえ、確かに電流の周りには磁界が出来、磁界の周りには電流が流れるので、向きの定義は必要になってきます。

右ねじの法則

そこで、「えい、やぁ」で電流、磁界の向きの関係を決めました。せっかくなので、使い勝手のいいように定義しました。その結果が「右ねじの法則」に従う向きなのです。なぜそれが便利なのかについては後述します。

磁界の濃淡と電磁力

磁界の濃淡と電磁力

image by Study-Z編集部

さて、磁界があるところに置かれた導線に電流を流してみましょう。すると導線を中心に磁界が発生。ということはイラストの導線上側は導線周りに発生した磁界と干渉しあって磁界が薄くなり、逆に下側では濃くなるイメージ

力が働くとしたら、濃い→薄いに移動しそうですね。実際電磁力の働く向きは「磁界濃」→「磁界薄」(密度が高いから低い)方向に定義されています。

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3.フレミング左手の法則

タイトルで「暗記不要」とうたっておきながら、何だかんだ便利なため解説いたします。ただし、フレミング左手の法則暗記にとどまってしまうとイマイチ物理が面白くなくなってしまうから注意が必要。

電・磁・力=中指・人差し指・親指

電・磁・力=中指・人差し指・親指

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左手を準備してください。中指、人差し指、親指をイラストのようにお互い垂直になるように立てましょう。このときの中指、人差し指、親指の向きがそれぞれ、電流、磁界、電磁力の向き

後述のような理由から、こういう定義にするのが便利なようです。

なぜその向きに定義したのか

左手を使えば、電磁力の問題は完璧。でもここで終わってはもったいない。なぜ、電流、磁界、電磁力をフレミングの左手の法則のような向きに定義したのでしょうか。

それは、数学の定義にリンクしているからです。どうせ物理で定義を作るなら、数学のルールに則った方が便利。

4.ベクトル

4.ベクトル

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電磁力の向きの定義ベクトルが大きく関係しています。ベクトルとは、大きさと方向どちらも定義したいときに使う概念。大きさを矢印の長さで表現、向きを矢印の向きで表現。

例えば、大きさが1でまっすぐ上向きならイラストAのように表現。大きさ2で右向きの場合はBといった具合。

5.外積と右ねじ

5.外積と右ねじ

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上記の矢印同士の掛け算を定義するのが「外積」という概念。単に数字同士の掛け算のみならず、向きも一緒に定義しているのが特徴。

例えば、大きさが1で前向きの矢印Aと、大きさが2で右向きの矢印B掛け算(A x B)したらどんな矢印になるか。まず大きさですが、元の矢印同士が垂直なので元の矢印の大きさ同士を掛け算すればOK。1x2=2です。垂直ではない場合についてはここでは割愛します。

さて、問題は向き。A x Bの向きは、矢印Aを矢印Bの方に回転させた時に「右ねじ」が進む法の向きになります。ベクトル同士の掛け算(外積)では掛ける順番も大切。B x Aなら、矢印Bを矢印Aの方に回すので、そのときに「右ねじ」が進む方向はA x Bの時と反対になっちゃいます。以上これが外積(方向を持つモノ同士の掛け算)の概念。

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6.外積から読み解く「電磁力」

6.外積から読み解く「電磁力」

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電流、磁界をそれぞれ矢印で表してみましょう。電磁力の正体は「電流の矢印」と「磁界の矢印」の掛け算=外積です。電流の矢印を磁界の矢印に向かって回転させましょう。この回転によって右ねじが進む方向が「電磁力」の向き。「電磁力」の大きさは電流矢印長さ x 磁界矢印の長さ。

もちろん、電磁力の向きはフレミング左手の法則に一致。電磁力=電流と磁界の外積と理解しておけば、フレミング左手の法則の暗記は不要なのです。しかも、外積という概念は他の物理法則(フレミング右手の法則など)にも応用が利くのでおススメ。

公式で書くと、電磁力ベクトル=電流ベクトル x 磁界ベクトル

電流と磁界掛ける順番に注意

ただし、1つだけ注意点があります。掛ける順番です。電磁力=電流ベクトル x 磁界ベクトル。磁界ベクトル x 電流ベクトルとしてはいけません。向きが反対になってしまいます。

右ネジの応用でフレミングの法則をマスター

本記事では、電磁力=電流ベクトル x 磁界ベクトル(両者の外積)であることを述べました。電流ベクトルを磁界ベクトルの方に回転させたときに右ネジが進む方向が電磁力の向きでこれは「フレミング左手の法則」に合致。

このように「外積」を使って考えると、フレミング右手の法則など他の法則を覚える時にも応用でき非常に便利です。

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物理理科電磁気学・光学・天文学

フレミングの法則の暗記は不要「電磁力」の解釈を理系ライターがわかりやすく解説

世の中の回転するものの大半は「モータ」が使われている。モータを動かす原動力が「電磁力」という名前の力。「電流」と「磁界」の2つがそろって初めて発生する。

「電磁力」は直接観察できないし、向きや大きさもガチガチに定義されていてもはや覚えるしかないが、単なる丸暗記では面白くない。電磁力の定義は意味が分かると非常に面白く、丸暗記であっても楽しくなるぞ。理系ライターのR175と解説していく。

ライター/R175

関西のとある理系国立大出身。エンジニアの経験があり、身近な現象と理科の教科書の内容をむずびつけるのが趣味。教科書の内容をかみ砕いて説明していく。

1.回転の原動力

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自動化、自動化、自動化。何かと「自動化」が進む世の中。今まで人が運んでいたものをベルトコンベアで運ぶ。人が作業していたのをロボットに代替。「自動」で動く機械の仕組みは以下の通りです。

(1)何か動作したいタイミングで電気信号を送る。(2)電気信号を送って「モータ」を回転させる。(3)モーターの回転をいろんな動きに変換して機械を動作させる。自動化に「モータ」はつきものですね。そんなモータの回転力のもとになっているのが「電磁力」。

電磁力の発生要件

電磁力はどうやってうまれるのか。モータを動かすためには「電流」が必要ですね。これが1つ目。もう一つはモータを分解してよく観察しないとわかりませんが「磁界(磁場)」です。

モータの中には磁石が入っていて、「磁界」が作られています。そこに電流を流すことで「電磁力」が作用するのです。

2.電流と磁界

電流が流れている導体の周りに磁界ができますし、逆に磁界の周りに電流が発生。その向きは、右ねじの法則に従います。残念ながら、この向きは法則通りに暗記するしかありません。

なぜなら、電流、磁界の向き自体が法則に従うように定義されているため。例えば重力なら下向きに働くというのが直接観察できますが、電流や磁界は直接的には観察しづらいもの。とはいえ、確かに電流の周りには磁界が出来、磁界の周りには電流が流れるので、向きの定義は必要になってきます。

右ねじの法則

そこで、「えい、やぁ」で電流、磁界の向きの関係を決めました。せっかくなので、使い勝手のいいように定義しました。その結果が「右ねじの法則」に従う向きなのです。なぜそれが便利なのかについては後述します。

磁界の濃淡と電磁力

磁界の濃淡と電磁力

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さて、磁界があるところに置かれた導線に電流を流してみましょう。すると導線を中心に磁界が発生。ということはイラストの導線上側は導線周りに発生した磁界と干渉しあって磁界が薄くなり、逆に下側では濃くなるイメージ

力が働くとしたら、濃い→薄いに移動しそうですね。実際電磁力の働く向きは「磁界濃」→「磁界薄」(密度が高いから低い)方向に定義されています。

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