今回は、「気体分子運動論」について解説していきます。

「気体分子運動論」は、巨視的な視点で考えることが一般的である熱力学を、微視的な視点から考察しようとする学問分野です。この分野は、材料工学などで重要となる統計力学にもつながる分野です。熱力学や統計力学を学んでいるなら、「気体分子運動論」は必ず理解しておきたい。ぜひこの機会に、「気体分子運動論」について学んでくれ。

エネルギー工学、環境工学を専攻している理系学生ライターの通りすがりのぺんぎん船長と一緒に解説していきます。

ライター/通りすがりのペンギン船長

現役理系大学生。エネルギー工学、環境工学を専攻している。これらの学問への興味は人一倍強い。エネルギー問題を考える上で重要になる熱力学にも詳しい。

気体分子運動論とは?

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気体分子運動論は、巨視的な視点で考える熱力学を、古典力学を用いて微視的な視点から説明することを試みた学術分野です。この説明だけでは理解しずらいかと思いますので、風船を例に挙げて考えてみましょう。

巨視的な視点で考える熱力学では、風船の中にある気体の温度や圧力、風船に注入した空気の量、風船にかかる外力などを利用して物理学的な問題を考察します。このとき、風船の中にある気体を構成する1つ1つの分子がどのような挙動を示すのかを考える必要はありません空間的かつ時間的に平均化されたデータを使用します。

一方、気体分子運動論では、気体を構成する1つ1つの分子の挙動を考察の起点とし、物理学的な問題を解くのです。風船の例の場合であれば、風船の中にある気体分子がどのように風船に衝突しているのか気体分子の速度分布はどのようになっているのかといったことを考えます。このとき、気体分子の挙動は、古典力学に基づき分析するのが一般的です。

この記事では、例題を解説しながら、気体分子運動論についてより詳しく考えます。さらに、気体分子運動論を発展させることにより、どのような学問が誕生したかについても説明していきますね。

気体分子運動論を用いて内部エネルギーを求めよう!

気体分子運動論を用いて内部エネルギーを求めよう!

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では、早速問題を解いてみましょう!「図のように、一辺の長さがL(m)の立方体の容器に、温度がT(K)である単原子分子理想気体がn(mol)封入されている。このとき、気体分子1つあたりの平均運動エネルギーを求めよ。また、単原子分子理想気体の内部エネルギーも求めよ。ただし、ボルツマン定数をk(J/K)、気体定数をR(J/mol・K)とする。」という問題です。

1つの気体分子が壁面に与える力を考える

1つの気体分子が壁面に与える力を考える

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図で示したような座標軸を設定して考えます。まず、気体分子の中から任意で1つ分子を選び、その分子の速度ベクトルのx成分ををvx(m/s)としましょう。次に、選んだ分子が図中の赤色の壁面に完全弾性衝突したときの様子を考えます。このとき、分子のx軸方向の運動量変化は-mvx,-(mvx,)=-2mvx(kg・m/s)となりますよね。さらに、作用反作用の法則から、完全弾性衝突時に分子が赤色の壁面に与える力積は2mvx(N・s)となります。

この気体分子は完全弾性衝突後、壁面間を往復して、もう一度赤色の壁面に完全弾性衝突しますよね往復にかかる時間は2L/vx(s)と表すことができます。そこで、気体分子が赤色の壁面に与える力の時間平均をf(N)とすれば、f(N)×2L/vx(s)=2mvx(N・s)という式が得られるのです。したがって、f=mvx2/L(N)となります。これが、1つの気体分子が壁面に与える力になりますよ。

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気体分子が壁面に与える圧力を考える

気体分子が壁面に与える圧力を考える

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先ほど、1つの気体分子が壁面に与える力を求めました。この値に、実際に立方体の中に封入されている気体分子の個数を掛け算することで、壁面が受ける力の総和を求めることができます気体分子の個数は、アボガドロ定数NA(/mol)を用いて、n(mol)×NA(/mol)=nNAと表すことができますよね。

したがって、壁面が受ける力の総和をF(N)とすると、F=mv2/3L(N)×nNA=nNAmv2/3L(N)です。ここでは、(vx2の平均値)(m2/s2)=v2/3(m2/s2)を前提としてます。v2(m2/s2)は二乗平均速度です。

それでは、気体分子が壁面に与える圧力を考えてみましょう。圧力は、単位面積当たりにかかる力です。壁面の面積はL(m)×L(m)=L2(m2)ですから、気体分子が壁面に与える圧力をP(Pa)とすると、P=nNAmv2/3L(N)÷L2(m2)=nNAmv2/3L3(Pa)となります。さらに、L3(m3)は立方体の容器の体積V(m3)で置き換えられるので、P=nNAmv2/3V(Pa)となりますね。

平均運動エネルギーと内部エネルギーを求める

平均運動エネルギーと内部エネルギーを求める

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最後に、平均運動エネルギー内部エネルギーを求めますね。先ほど求めたP=nNAmv2/3Vという式は、PV=nNAmv2/3と変形できます。また、ここで扱っているのは理想気体なので、気体の状態方程式PV=nRTが成立しますよね。これらの2つの式を比較することにより、nRT=nNAmv2/3という式が得られるのです。

この式をさらに変形すると、mv2/2=3RT/2NAとなります。ここで、R/NAはボルツマン定数k(J/K)であることから、mv2/2=(3/2)kT(J)となりますね。これは、気体分子1つあたりの平均運動エネルギーに相当します。

次に、内部エネルギーを求めてみましょう。内部エネルギーは、立方体に封入された気体分子の運動エネルギーの総和です。ゆえに、内部エネルギーは3RT/2NA(J)×nNA=(3/2)nRT(J)であることがわかります。これで問題を解くことができました。

統計力学について

ここまで扱ってきた気体分子運動論では、気体分子について考察してきました。実は気体分子だけではなく、電子光子といった粒子も微視的な視点から考察しようという学問があります。それが統計力学です。統計力学では古典力学に加えて、確率分布の概念を取り入れて、気体電子光子などの挙動を考察します。さらには、量子力学という学問分野の知見も利用しますよ。

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気体分子運動論を学ぶ意義

気体分子運動論を学ぶと、熱力学についての理解が深まるでしょう。また、気体分子運動論の概念に慣れておくことで、統計力学の学習もスムーズに始めることができます。

ですから、気体分子運動論は、熱力学と統計力学の架け橋のような存在だと言うことができますよね。これから統計力学を学びたいという方は、ぜひ気体分子運動論について学んでみてください!

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熱力学物理理科統計力学・相対性理論

「気体分子運動論」はどんな理論?理系学生ライターがわかりやすく解説

今回は、「気体分子運動論」について解説していきます。

「気体分子運動論」は、巨視的な視点で考えることが一般的である熱力学を、微視的な視点から考察しようとする学問分野です。この分野は、材料工学などで重要となる統計力学にもつながる分野です。熱力学や統計力学を学んでいるなら、「気体分子運動論」は必ず理解しておきたい。ぜひこの機会に、「気体分子運動論」について学んでくれ。

エネルギー工学、環境工学を専攻している理系学生ライターの通りすがりのぺんぎん船長と一緒に解説していきます。

ライター/通りすがりのペンギン船長

現役理系大学生。エネルギー工学、環境工学を専攻している。これらの学問への興味は人一倍強い。エネルギー問題を考える上で重要になる熱力学にも詳しい。

気体分子運動論とは?

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気体分子運動論は、巨視的な視点で考える熱力学を、古典力学を用いて微視的な視点から説明することを試みた学術分野です。この説明だけでは理解しずらいかと思いますので、風船を例に挙げて考えてみましょう。

巨視的な視点で考える熱力学では、風船の中にある気体の温度や圧力、風船に注入した空気の量、風船にかかる外力などを利用して物理学的な問題を考察します。このとき、風船の中にある気体を構成する1つ1つの分子がどのような挙動を示すのかを考える必要はありません空間的かつ時間的に平均化されたデータを使用します。

一方、気体分子運動論では、気体を構成する1つ1つの分子の挙動を考察の起点とし、物理学的な問題を解くのです。風船の例の場合であれば、風船の中にある気体分子がどのように風船に衝突しているのか気体分子の速度分布はどのようになっているのかといったことを考えます。このとき、気体分子の挙動は、古典力学に基づき分析するのが一般的です。

この記事では、例題を解説しながら、気体分子運動論についてより詳しく考えます。さらに、気体分子運動論を発展させることにより、どのような学問が誕生したかについても説明していきますね。

気体分子運動論を用いて内部エネルギーを求めよう!

気体分子運動論を用いて内部エネルギーを求めよう!

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では、早速問題を解いてみましょう!「図のように、一辺の長さがL(m)の立方体の容器に、温度がT(K)である単原子分子理想気体がn(mol)封入されている。このとき、気体分子1つあたりの平均運動エネルギーを求めよ。また、単原子分子理想気体の内部エネルギーも求めよ。ただし、ボルツマン定数をk(J/K)、気体定数をR(J/mol・K)とする。」という問題です。

1つの気体分子が壁面に与える力を考える

1つの気体分子が壁面に与える力を考える

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図で示したような座標軸を設定して考えます。まず、気体分子の中から任意で1つ分子を選び、その分子の速度ベクトルのx成分ををvx(m/s)としましょう。次に、選んだ分子が図中の赤色の壁面に完全弾性衝突したときの様子を考えます。このとき、分子のx軸方向の運動量変化は-mvx,-(mvx,)=-2mvx(kg・m/s)となりますよね。さらに、作用反作用の法則から、完全弾性衝突時に分子が赤色の壁面に与える力積は2mvx(N・s)となります。

この気体分子は完全弾性衝突後、壁面間を往復して、もう一度赤色の壁面に完全弾性衝突しますよね往復にかかる時間は2L/vx(s)と表すことができます。そこで、気体分子が赤色の壁面に与える力の時間平均をf(N)とすれば、f(N)×2L/vx(s)=2mvx(N・s)という式が得られるのです。したがって、f=mvx2/L(N)となります。これが、1つの気体分子が壁面に与える力になりますよ。

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