今回は「キメラ」について勉強していこう。

ゲームのキャラクターにも登場することのあるキメラ。スフィンクスや人魚、ペガサスもその一種です。ですが「キメラ」の意味を知っている奴は少ないんじゃないか?

キメラの個体が生まれるメカニズムや医学への応用についてライターAyumiと一緒に解説していきます。

ライター/Ayumi

理系出身の元塾講師。わかるから面白い、面白いからもっと知りたくなるのが化学!まずは身近な例を使って楽しみながら考えさせることで、多くの生徒を志望校合格に導いた。

1.キメラの語源

image by iStockphoto

「キメラ」ギリシャ神話に登場する空想の生物「キマイラ」が語源です。これはライオンの頭にヤギの胴体、毒ヘビの尻尾を持つとされ、怪物や悪魔として描かれています。ライオン、山羊、毒蛇それぞれの頭を持つとする説もあり、異質な存在に見えますね。

このように、異なる生物が掛け合わせた見た目の生き物は、ゲームなどのキャラクターとして登場することが多々あります。それらの例を次に挙げてみましょう。

1-1.よく知られているキメラ

スフィンクスやケンタウロス、人魚、ペガサスなどがよく知られていますよね。ちなみに…スフィンクスはライオンの胴体にヒトの頭、ケンタウロスは馬の胴体に首から上はヒト、人魚はヒトの下半身が魚になったもの、ペガサスは翼をもつ馬です。もちろん実際に存在する生き物ではありませんが、人魚の例のように「もしかしたら本当に存在するかも?!」と信じたくなるような夢のある魅力的な生き物だと思いませんか?

1-2.生物学上のキメラ

実際のところ、こういった動物の存在は否定されています。○○の体にヒトの顔をした人面○○と話題になることがありますが、たいていの場合、ただの奇形であることがほとんどです。

生物学上では「キメラ」はこう定義されています。

異なる遺伝子情報をもつ個体

動植物において、通常は親となる2つの異なる個体から遺伝子情報を1つずつ受け取り、それを1つの遺伝子情報として継いでいきますね。しかし何らかの理由によって体内に複数の遺伝子情報をもつ細胞が混ざってしまっている個体が存在します。それがキメラです。

\次のページで「2.動物におけるキメラ」を解説!/

2.動物におけるキメラ

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では体内に複数の遺伝子情報をもつ細胞が混ざってしまっている状態というのがどういった状態か、原因とともに見ていきましょう。遺伝子情報はキマイラやスフィンクスのように見た目に現れるものとそうでないものがあります。これから解説するのは後者です。

2-1.血液キメラ

2-1.血液キメラ

image by Study-Z編集部

アメリカでモデルとして活躍しているテイラー・ミュールという女性がいます。彼女は体の一部分に不思議なあざをもって生まれました。そしてそののち、彼女は2つのDNAをもつキメラであることが分かったのです。さらに体のあざは彼女の二卵性の双子の痕跡であるとわかりました。

そもそも双子には2種類あり、1つの受精卵が2つに分裂することによる一卵性双生児2つの受精卵が育つ二卵性双生児といわれます。前者は全く同じDNAをもつために外見は同じで基本的に同性です。一方で後者はそれぞれ外見が異なり男女の双子となる場合も多々あります。彼女の場合は後者、二卵性の双子だったのです。それが何らかの理由によって子宮内で双子が融合してしまい、2つの遺伝子をもつ彼女が生まれました。彼女はあざだけでなく、その他の身体的な特徴にももう1人の遺伝子が影響を与えているといいます。また、今や自分の一部であるにも関わらず、双子のDNAや細胞を異物として認識してしまい、免疫疾患などの健康にも問題を抱えているのです。

キメラであることがこれほど顕著に現れるのは稀なケースですが、キメラであることは血液検査や遺伝子検査の結果にも大きく影響を与えることがあります。両親と子供の血液型や遺伝子が一致しないことがどれだけ大きな問題になるかは想像に難くないでしょう。きっかけがなければ自分がキメラであることを知らずにいる人もいるかもしれませんね。

2-2.生殖系列キメラ

生殖系列キメラとは生殖系列(精巣と卵巣)が置き換えられたキメラのことです。鶏を例にして簡単に説明していきましょう。

動物は精子や卵子などの生殖細胞となる元の細胞である始原生殖細胞をもっています。これによって自分自身の遺伝子を精子や卵子を介して子孫に伝えることができるというわけですね。もし代々白い羽をもつ鶏同士を交配させた場合、その雛は白い羽をもつでしょう。

ここで、黒い羽をもつ鶏の始原生殖細胞という生殖細胞のもととなる細胞を白い羽に移植するとどうなるでしょうか。この鶏は自分自身の遺伝子情報をもつ細胞と移植された黒い羽の鶏の遺伝子情報をもつ細胞の2種類を有することになります。これが生殖系列(精巣と卵巣)が置き換えられたキメラです。同様のキメラ鶏を交配させた場合、通常は100%白い羽で生まれるはずの雛ですが、黒い羽の雛が多く生まれることでしょう。これは生殖細胞が別の個体のものと置き換わってしまった結果、自分自身とは異なる(移植元の個体の)遺伝子情報を子に伝えるようになってしまったことによるものです。

このような技術は家禽遺伝資源の保存や再生のために用いられています。

2-3.骨髄移植によるキメラ化

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医学の分野での例としては骨髄移植が挙げられます。骨髄移植は血液型ではなく、白血球の型によって合う合わないが決まるものです。患者に兄弟がいる場合、血液型同様両親から遺伝子情報を半分ずつ受け継ぐために適合確率は約25%となるものの、非血縁者間では数百から数万分の1の適合率だとされています。また、血をつくり出す造血幹細胞が存在するのが骨髄です。そのために移植後はドナー由来の造血幹細胞で血液がつくられるため、患者はドナーの血液型になります。つまり、患者がA型、ドナーがO型であっても白血球の型が合えば骨髄移植は可能であり、移植後の患者はA型からO型に変わるということです。患者自身の造血幹細胞で造られる血液とドナーの造血幹細胞で造られる血液型は異なることから、患者1人の体内に2人分の遺伝子情報をもつ細胞が存在することになるためこの患者もキメラと呼ばれています。

\次のページで「3.今後の医学への応用」を解説!/

3.今後の医学への応用

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血液キメラのように先天的なもの、すでに畜産や医療の場で技術として用いられているキメラはヒト×ヒト、鶏×鶏というような同じ生物種類の掛け合わせのものです。しかし現在、ヒトの臓器のもととなる細胞を動物に移植することでヒト×動物という遺伝子をもつキメラをつくるといった再生医療に関する実験が進められています。もし患者本人の細胞を動物に移植して臓器などを育てることができれば、臓器提供者が不要になり、移植後の拒絶反応も少なくなることでしょう。

一方で、見た目はヒトだが脳は鶏、見た目は鶏だが脳はヒトである生き物がいたとします。どちらがヒトであり、ヒトではないでしょうか。それとも両方ともヒト、またはヒトではないと考える人もいるかもしれません。このように、ヒトの臓器をもつ動物を生み出すことは倫理的な問題が伴います。再生医療の可能性を広げる研究ですが、こういった問題をクリアしてはじめて、現場で活かせるようになるのです。

医学の発展への期待!一方で倫理的な問題も…

キメラとは異なる遺伝子情報をもつ個体です。血液キメラのように先天的なキメラが存在する一方、骨髄移植等によって結果的にキメラとなる場合、畜産の分野で人工的にキメラをつくり出す場合もあります。しかしヒト×ヒトや動物×動物という同じ種類・種族の掛け合わせではなく、ヒト×動物という掛け合わせに関してはまだまだ倫理的な問題が山積みです。技術的な再生医療は進歩しても、倫理的な問題をクリアしていくのには時間がかかるでしょう。いずれにしても治療を必要とする患者の立場からすればキメラは希望の光になりそうですね。

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理科生物細胞・生殖・遺伝

異なる遺伝子情報をもつ「キメラ」とは?元塾講師がわかりやすく解説

今回は「キメラ」について勉強していこう。

ゲームのキャラクターにも登場することのあるキメラ。スフィンクスや人魚、ペガサスもその一種です。ですが「キメラ」の意味を知っている奴は少ないんじゃないか?

キメラの個体が生まれるメカニズムや医学への応用についてライターAyumiと一緒に解説していきます。

ライター/Ayumi

理系出身の元塾講師。わかるから面白い、面白いからもっと知りたくなるのが化学!まずは身近な例を使って楽しみながら考えさせることで、多くの生徒を志望校合格に導いた。

1.キメラの語源

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「キメラ」ギリシャ神話に登場する空想の生物「キマイラ」が語源です。これはライオンの頭にヤギの胴体、毒ヘビの尻尾を持つとされ、怪物や悪魔として描かれています。ライオン、山羊、毒蛇それぞれの頭を持つとする説もあり、異質な存在に見えますね。

このように、異なる生物が掛け合わせた見た目の生き物は、ゲームなどのキャラクターとして登場することが多々あります。それらの例を次に挙げてみましょう。

1-1.よく知られているキメラ

スフィンクスやケンタウロス、人魚、ペガサスなどがよく知られていますよね。ちなみに…スフィンクスはライオンの胴体にヒトの頭、ケンタウロスは馬の胴体に首から上はヒト、人魚はヒトの下半身が魚になったもの、ペガサスは翼をもつ馬です。もちろん実際に存在する生き物ではありませんが、人魚の例のように「もしかしたら本当に存在するかも?!」と信じたくなるような夢のある魅力的な生き物だと思いませんか?

1-2.生物学上のキメラ

実際のところ、こういった動物の存在は否定されています。○○の体にヒトの顔をした人面○○と話題になることがありますが、たいていの場合、ただの奇形であることがほとんどです。

生物学上では「キメラ」はこう定義されています。

異なる遺伝子情報をもつ個体

動植物において、通常は親となる2つの異なる個体から遺伝子情報を1つずつ受け取り、それを1つの遺伝子情報として継いでいきますね。しかし何らかの理由によって体内に複数の遺伝子情報をもつ細胞が混ざってしまっている個体が存在します。それがキメラです。

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