今回は大気の力学と気圧について解説していきます。

普通に生活していると気づかないが、我々は常に空気の塊の底で生活している。その空気の塊を大気という。気象の基礎である大気の力学と気圧について学んでみよう。

今回は物理学科出身のライター・トオルさんと解説していきます。

ライター/トオル

物理学科出身のライター。広く科学一般に興味を持つ。初学者でも理解できる記事を目指している。

大気の力学と気圧について

image by iStockphoto

大気とは惑星や衛星の重力の影響によって、それらの周囲に捕らえられている気体のことです。この記事では大気といえば地球大気のことを意味していると考えてください。気圧とは、その大気の重さによる圧力のことです。大気の運動ももちろん物理法則に従っているので、大気の運動を理解するには物理法則も理解しなければなりません。

今回は大気の運動を発生させる基本的な力学について学んでみましょう。そこでは気圧が重要な役割を果たしていることがわかるはずです。

気圧について

気圧について

image by Study-Z編集部

気圧は空気の重さによる圧力のことですから、上空に行くと気圧は低くなります。高度による気圧の減少率は力の鉛直方向のつり合いを考えれば求めることができますので、さっそくやってみましょう。上記の画像のように、底面の面積を1とした大気の柱の高さzとz+dzの間の空理塊を考えます。ここでdは微分記号のdであり微小量であると考えてください。

空気塊の体積は底面積が1で高さがdzですのでdz、空気塊の密度をρとすると、この空気塊の質量は体積×密度ですのでρdzになります。ここでgを重力加速度すると、力は質量×加速ですので、この空気塊が重力により受ける力は下向きρgdzです。gの値は地球上では約9.8メートル毎秒毎秒になります。

この空気塊が静止しているとすると、空気塊の下面から受ける圧力pが上面からから受ける圧力p+dpより大きく、重力と釣り合っていなければなりません。それを模式的に表したのが上の図です。したがって、力の釣り合いから-dp=ρgdzとなります。整理すると気圧減少率は

                                             dp/dz=-ρg

となり、この関係が静水圧平衡または静力学平衡と呼ばれるのもです。この関係式は大気が静止している場合だけでなく、大気が運動している場合でも、水平方向の運動が鉛直方向の運動よりかなり大きな場合にはよい近似となります。

鉛直方向の気圧変化

鉛直方向の気圧変化

image by Study-Z編集部

先の静水圧力平衡の式をz=0である地上から無限大まで積分したものが地上の気圧です。つまり地上の気圧は大気柱の空気の全質量が地表を押す力となります。地表面での標準気圧である1気圧は101325Paもしくは1013.25hPaです。Paは圧力の単位でありパスカルと読みます。hPaはヘクトパスカルと読み、1hPa=100Paの関係です。ちなみに1気圧は水深10mの圧力にほぼ等しくなります。

また式中にある密度ρは大気の状態方程式によって気圧pと気温Tに関係づけられ、その式が上記の画像の左上のp=ρRTです。ここでRは大気の気体定数で、地球大気では287J/Kkgになります。ここでJはジュールというエネルギーの単位、Kはケルビン温度です。地球の大気は窒素分子、酸素分子、アルゴンなどの混合気体であり、高度110kmくらいまでは混合比率が一定のためRも同じ値になります。

静水圧力平衡の式のρに代入すると二番目の式である

                                                                                  dp/p=-gdz/RT=-dz/H

となり、ここでHはRT/gでスケールハイトと呼ばれるものです。一般にHは気温の関数ですので、気温の鉛直分布がわかればこの式により気圧の鉛直分布がわかります。気温が一定とすれば式は簡単に積分でき、結果は三番目の式である

                    p=p0e^(-z/H)

です。ここでp0は地上での気圧であり、eは自然対数の底と呼ばれる定数であり約2.72になります。この式から気圧は高度とともに指数関数的に減少することがわかるでしょう。同様にすれば密度も指数関数的に減少するのがわかります。上記画像の右がこの式のグラフです。高度約16kmで気圧は約10分の1になっていることが分かります。

水平方向の運動

水平方向の運動

image by Study-Z編集部

次は水平方向の運動を考えてみましょう。密度ρの単位体積の空気塊に力Fが加わると速度Vが変化するため、運動方程式はそのまま

                      ρdV/dt=F

となります。水平方向に働く主な力は水平気圧傾度力とコリオリ力です。コリオリ力は地球が自転しているため発生する見かけの力になります。コリオリ力は、大規模な大気や海洋の運動を理解するためには必須の概念です。

地球の自転速度Ωは約10万分の7.3rad/sになります。radはラジアンという角度の単位で180度が約3.14ラジアンになり、sは秒です。赤道上での速度は地球の半径Rを6300kmとすると、V=RΩにより465m/sとなります。上記画像の左の図は、角速度Ωで回転している地球を北極方向から眺めた図です。上記の赤矢印のように、運動する物体は地球上から見ると進行方向に対して右向きの力を受けているように見えます。

単位質量当たりのコリオリ力は地球の緯度をφとすると

                                                             F=ρ2ΩsinφV=ρfV

です。ここでf=2Ωsinφであり、fはコリオリ因子と呼ばれるものになります。先ほども言ったように、大気にコリオリ力以外で働くのは、高圧側から低圧側に働く水平気圧傾度力です。よって、東西方向の速度u(x方向)、南北方向の速度をv(y方向)とした単位質量当たりの運動方程式は、上記画像の右下の二つの方程式になります。

\次のページで「地衡風バランス」を解説!/

地衡風バランス

地衡風バランス

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赤道付近以外の地域では、地表から約1km以上の上空大気中では気圧傾度力とコリオリ力がほぼ釣り合った状態です。これを地衡風平衡といい、二つの力がバランスした風は地衡風と呼ばれます。前章の式より、地衡風を(u,v)で表したのが上記画像の一番上の式です。北半球で南北に気圧傾度があり、北の気圧が低い場合、地衡風は西から東に向かって吹き、西風となります。

これが上記画像の左下の図です。この図のように、北半球では西風の進行方向の左向きに働く気圧傾度力と、進行方向の右向きに働くコリオリ力が釣り合った流れになります。また東西に気圧傾度があり、西が低いと南風です。つまり、地衡風は等圧線に平衡に高圧部を右に見る方向に吹きます。低気圧周りでは反時計回り、高気圧の周りでは時計回りです。南半球では逆になります。

地表付近では地表面摩擦による力が風向きと反対方向に働き、風が減速されるようです。コリオリ力は風速に比例するので、コリオリ力よりも気圧傾度力の方が大きくなり、風は低圧側に向かい、摩擦力は高圧側向き成分を持つようになります。結果、気圧傾度力、コリオリ力、摩擦力の三つが釣り合った状態になり、それを表したのが上記画像の右下の図です。このバランスのため。地上付近では低気圧のまわりを反時計回りに螺旋状に中心に向かう風となり、空気は中心に収束するようになります。

数値予報

現在は研究だけでなく天気予報でも、物理方程式に直接観測データを入力し、スーパーコンピューターで数値計算をして予報するのが一般的なようです。昔もそうだったのかもしれませんが、現在気象を勉強しようとする人は基礎物理学をしっかり学ばなければなりません。気象学と物理学の境界はもともと曖昧なものだったのでしょう。自然現象は人間の学問分類に忖度してくれませんので致し方ありません。

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地学大気・海洋理科

気象の基礎である大気の力学と「気圧」を理系ライターが丁寧にわかりやすく解説

今回は大気の力学と気圧について解説していきます。

普通に生活していると気づかないが、我々は常に空気の塊の底で生活している。その空気の塊を大気という。気象の基礎である大気の力学と気圧について学んでみよう。

今回は物理学科出身のライター・トオルさんと解説していきます。

ライター/トオル

物理学科出身のライター。広く科学一般に興味を持つ。初学者でも理解できる記事を目指している。

大気の力学と気圧について

image by iStockphoto

大気とは惑星や衛星の重力の影響によって、それらの周囲に捕らえられている気体のことです。この記事では大気といえば地球大気のことを意味していると考えてください。気圧とは、その大気の重さによる圧力のことです。大気の運動ももちろん物理法則に従っているので、大気の運動を理解するには物理法則も理解しなければなりません。

今回は大気の運動を発生させる基本的な力学について学んでみましょう。そこでは気圧が重要な役割を果たしていることがわかるはずです。

気圧について

気圧について

image by Study-Z編集部

気圧は空気の重さによる圧力のことですから、上空に行くと気圧は低くなります。高度による気圧の減少率は力の鉛直方向のつり合いを考えれば求めることができますので、さっそくやってみましょう。上記の画像のように、底面の面積を1とした大気の柱の高さzとz+dzの間の空理塊を考えます。ここでdは微分記号のdであり微小量であると考えてください。

空気塊の体積は底面積が1で高さがdzですのでdz、空気塊の密度をρとすると、この空気塊の質量は体積×密度ですのでρdzになります。ここでgを重力加速度すると、力は質量×加速ですので、この空気塊が重力により受ける力は下向きρgdzです。gの値は地球上では約9.8メートル毎秒毎秒になります。

この空気塊が静止しているとすると、空気塊の下面から受ける圧力pが上面からから受ける圧力p+dpより大きく、重力と釣り合っていなければなりません。それを模式的に表したのが上の図です。したがって、力の釣り合いから-dp=ρgdzとなります。整理すると気圧減少率は

                                             dp/dz=-ρg

となり、この関係が静水圧平衡または静力学平衡と呼ばれるのもです。この関係式は大気が静止している場合だけでなく、大気が運動している場合でも、水平方向の運動が鉛直方向の運動よりかなり大きな場合にはよい近似となります。

鉛直方向の気圧変化

鉛直方向の気圧変化

image by Study-Z編集部

先の静水圧力平衡の式をz=0である地上から無限大まで積分したものが地上の気圧です。つまり地上の気圧は大気柱の空気の全質量が地表を押す力となります。地表面での標準気圧である1気圧は101325Paもしくは1013.25hPaです。Paは圧力の単位でありパスカルと読みます。hPaはヘクトパスカルと読み、1hPa=100Paの関係です。ちなみに1気圧は水深10mの圧力にほぼ等しくなります。

また式中にある密度ρは大気の状態方程式によって気圧pと気温Tに関係づけられ、その式が上記の画像の左上のp=ρRTです。ここでRは大気の気体定数で、地球大気では287J/Kkgになります。ここでJはジュールというエネルギーの単位、Kはケルビン温度です。地球の大気は窒素分子、酸素分子、アルゴンなどの混合気体であり、高度110kmくらいまでは混合比率が一定のためRも同じ値になります。

静水圧力平衡の式のρに代入すると二番目の式である

                                                                                  dp/p=-gdz/RT=-dz/H

となり、ここでHはRT/gでスケールハイトと呼ばれるものです。一般にHは気温の関数ですので、気温の鉛直分布がわかればこの式により気圧の鉛直分布がわかります。気温が一定とすれば式は簡単に積分でき、結果は三番目の式である

                    p=p0e^(-z/H)

です。ここでp0は地上での気圧であり、eは自然対数の底と呼ばれる定数であり約2.72になります。この式から気圧は高度とともに指数関数的に減少することがわかるでしょう。同様にすれば密度も指数関数的に減少するのがわかります。上記画像の右がこの式のグラフです。高度約16kmで気圧は約10分の1になっていることが分かります。

水平方向の運動

水平方向の運動

image by Study-Z編集部

次は水平方向の運動を考えてみましょう。密度ρの単位体積の空気塊に力Fが加わると速度Vが変化するため、運動方程式はそのまま

                      ρdV/dt=F

となります。水平方向に働く主な力は水平気圧傾度力とコリオリ力です。コリオリ力は地球が自転しているため発生する見かけの力になります。コリオリ力は、大規模な大気や海洋の運動を理解するためには必須の概念です。

地球の自転速度Ωは約10万分の7.3rad/sになります。radはラジアンという角度の単位で180度が約3.14ラジアンになり、sは秒です。赤道上での速度は地球の半径Rを6300kmとすると、V=RΩにより465m/sとなります。上記画像の左の図は、角速度Ωで回転している地球を北極方向から眺めた図です。上記の赤矢印のように、運動する物体は地球上から見ると進行方向に対して右向きの力を受けているように見えます。

単位質量当たりのコリオリ力は地球の緯度をφとすると

                                                             F=ρ2ΩsinφV=ρfV

です。ここでf=2Ωsinφであり、fはコリオリ因子と呼ばれるものになります。先ほども言ったように、大気にコリオリ力以外で働くのは、高圧側から低圧側に働く水平気圧傾度力です。よって、東西方向の速度u(x方向)、南北方向の速度をv(y方向)とした単位質量当たりの運動方程式は、上記画像の右下の二つの方程式になります。

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